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本編
027 普通に可愛い!
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寄り道もして三日後、セイグラル領に着いたアルティナとオリエルは、銀狼と別れて町に入った。
「すごい……ヒトがいっぱい……」
「これ……市場? いい匂いもする……っ」
「お腹すいたよね~。お魚食べる? あの辺のは脂も少ないから、二人も食べられると思うよ?」
「っ、た、たべたいっ……」
「ミランっ」
「うっ……ごめんなさい……」
兄のセランがすかさず止めていた。遠慮して居るのだろう。
「ん? 別に良いよ? ほら、昨日野盗をシメたじゃない? だからそのお金あるしね。オリーも食べる?」
「ああ。俺が買って来る」
「いいよ。私が行った方がおまけしてくれるし」
「いや、だがティナっ……一緒に行こう」
「ん~」
この三日でアルティナはオリエルをオリーと呼び、オリエルはティナとお互いを呼ぶようになった。
何のことはない。道中に出会う物取りや野盗達を狩るのに、二人で協力して事に当たった折、呼び方の問題になり、呼びやすいものを当てたというわけだ。
「銀狼さんが言ったの本当だったね……」
「うん。いっしょにたたかって、わかりあうって……」
二人の仲は急速に近づいていた。とはいえ、男女のそれかと言われれば、絶対に違うと答えられるものだ。しかし、二人にはこれが丁度良かった。
「「どっちも【脳筋】……」」
銀狼からの入れ知恵だが、二人の兄弟は納得していた。
ちなみに、セランとミランは、オリエルの愛馬であるクイルに乗って移動している。賢いクイルは、人通りの多いこの場でも、邪魔にならないようにやったりとオリエルやアルティナを追っていた。セランとミランが誘導したりする必要はない。
「でもアレ……普通にほほえましいやつだ……」
「なんかいいかんじ……」
串に刺さったやたらと長く細い焼き魚を二人で一本ずつ持って半分こはこうするのだとアルティナが教え、オリエルが目を丸くしながら実践していた。
屋台の端に、串を半分に折るための棒があるのだ。そして、アルティナが可愛らしく笑って二つになったのをオリエルに自慢げに見せている。それをオリエルが笑って頷いていた。
「……お嬢がデートしてる……っだと!?」
「お嬢が普通に微笑ましいことしてるっ!?」
「なんだアレ!? 普通に可愛い!」
周りがやたらとざわついていた。
「……珍しいのかな……」
そのセランの声を聞いた近くにいる女性が快活に笑った。
「あんたら、ティナ嬢ちゃんに保護された口かい? あの子はねえ。見た目が良いのに、女の子らしいことが出来ない残念な子だって、ここらじゃ有名なんだよ」
「「ざんねんな子……」」
「そうそう。ほら、ああして笑っていれば、どんな男だってコロっと騙されるって言うのに、いつもなら、あの魚の串焼き、丸ごと齧り付いてるんだよ」
「っ、え……」
「まるごと……っ、あのヘビみたいなのを……」
「あははっ。ここらじゃ、アレは最高に美味いんだけどねえ。見た目がねっ。あの顔、凶悪だろ?」
「「すごく」」
「ウミヘビって言ってね。手を出せば噛み付いてくるやつさ。けど、焼いたのはその辺のヘビや魚より美味いってね。まあ、美味くてもそのまますぐにかぶり付くのは、あまりいないけどねえ」
見た目がとにかく、その辺のヘビより凶暴そうで、顔だけ大きいため、更に見た目が悪い。
そして、今まさかアルティナが齧り付いていた。それにオリエルが目を丸くし、ごくりと唾をのむと、同じように齧り付いて、美味しさに更に目を丸くしていた。
その美味しさに同意し、笑い合う二人の様は、間違いなく良い雰囲気だった。
「デートだ……」
「あれはデートだ……」
「はっはっはっ。いいねえっ。ウチのお嬢さんが普通にデートしているように見えるとはねえっ」
「「……」」
いつもはどうなんだろうかとセランとミランは目だけを合わせ、その疑問を胸にしまった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「すごい……ヒトがいっぱい……」
「これ……市場? いい匂いもする……っ」
「お腹すいたよね~。お魚食べる? あの辺のは脂も少ないから、二人も食べられると思うよ?」
「っ、た、たべたいっ……」
「ミランっ」
「うっ……ごめんなさい……」
兄のセランがすかさず止めていた。遠慮して居るのだろう。
「ん? 別に良いよ? ほら、昨日野盗をシメたじゃない? だからそのお金あるしね。オリーも食べる?」
「ああ。俺が買って来る」
「いいよ。私が行った方がおまけしてくれるし」
「いや、だがティナっ……一緒に行こう」
「ん~」
この三日でアルティナはオリエルをオリーと呼び、オリエルはティナとお互いを呼ぶようになった。
何のことはない。道中に出会う物取りや野盗達を狩るのに、二人で協力して事に当たった折、呼び方の問題になり、呼びやすいものを当てたというわけだ。
「銀狼さんが言ったの本当だったね……」
「うん。いっしょにたたかって、わかりあうって……」
二人の仲は急速に近づいていた。とはいえ、男女のそれかと言われれば、絶対に違うと答えられるものだ。しかし、二人にはこれが丁度良かった。
「「どっちも【脳筋】……」」
銀狼からの入れ知恵だが、二人の兄弟は納得していた。
ちなみに、セランとミランは、オリエルの愛馬であるクイルに乗って移動している。賢いクイルは、人通りの多いこの場でも、邪魔にならないようにやったりとオリエルやアルティナを追っていた。セランとミランが誘導したりする必要はない。
「でもアレ……普通にほほえましいやつだ……」
「なんかいいかんじ……」
串に刺さったやたらと長く細い焼き魚を二人で一本ずつ持って半分こはこうするのだとアルティナが教え、オリエルが目を丸くしながら実践していた。
屋台の端に、串を半分に折るための棒があるのだ。そして、アルティナが可愛らしく笑って二つになったのをオリエルに自慢げに見せている。それをオリエルが笑って頷いていた。
「……お嬢がデートしてる……っだと!?」
「お嬢が普通に微笑ましいことしてるっ!?」
「なんだアレ!? 普通に可愛い!」
周りがやたらとざわついていた。
「……珍しいのかな……」
そのセランの声を聞いた近くにいる女性が快活に笑った。
「あんたら、ティナ嬢ちゃんに保護された口かい? あの子はねえ。見た目が良いのに、女の子らしいことが出来ない残念な子だって、ここらじゃ有名なんだよ」
「「ざんねんな子……」」
「そうそう。ほら、ああして笑っていれば、どんな男だってコロっと騙されるって言うのに、いつもなら、あの魚の串焼き、丸ごと齧り付いてるんだよ」
「っ、え……」
「まるごと……っ、あのヘビみたいなのを……」
「あははっ。ここらじゃ、アレは最高に美味いんだけどねえ。見た目がねっ。あの顔、凶悪だろ?」
「「すごく」」
「ウミヘビって言ってね。手を出せば噛み付いてくるやつさ。けど、焼いたのはその辺のヘビや魚より美味いってね。まあ、美味くてもそのまますぐにかぶり付くのは、あまりいないけどねえ」
見た目がとにかく、その辺のヘビより凶暴そうで、顔だけ大きいため、更に見た目が悪い。
そして、今まさかアルティナが齧り付いていた。それにオリエルが目を丸くし、ごくりと唾をのむと、同じように齧り付いて、美味しさに更に目を丸くしていた。
その美味しさに同意し、笑い合う二人の様は、間違いなく良い雰囲気だった。
「デートだ……」
「あれはデートだ……」
「はっはっはっ。いいねえっ。ウチのお嬢さんが普通にデートしているように見えるとはねえっ」
「「……」」
いつもはどうなんだろうかとセランとミランは目だけを合わせ、その疑問を胸にしまった。
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