そんなに儚く見えますか?

紫南

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本編

031 神様って怖い

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しっかりとお説教をくらったアルティナは、緊張するオリエルを迎えた夕食後、屋敷の裏にある塔の一番上で、その時を待っていた。

そこにオリエルが、兄であるアルセルに連れられて塔を登って来た。

「兄様? なんで来たの?」
「ティナがいないって、オリエル君が探してたからね~」
「っ、アルセル殿っ」
「ふっふっふっ。この妹に夜這いをかけようなんて、すごいよね~」
「っ、そっ、そんなことしません!!」
「え~。だって、こんな夜更けにぃ。婚約者とはいえ、部屋に行くなんて~」
「ちっ、違いますっ。け、気配がっ、気配がなかったのでっ。それに、ティナは夜によく出かけるとお義父上から聞いたのでっ……その……」

オリエルとしては、気になっただけというわけだ。もちろん、出かけるならば一緒にとも思っていたようだ。

「まあ、そういうことにしておくよ」
「っ……うぅ……」

揶揄われているのは分かるのだが、こうした扱いが初めてのオリエルには、どう対処すれば良いのか分からなかった。

「で? ティナはどうしたの? いつも見てる方とは違うねえ」

船の航路は大体決まっている。この見晴らしが良い場所から海を見る方角はいつも同じだ。しかし、今回は反対側に近い方角をアルティナは見ていた。

「こっち、漁船くらいしか昼間も見ないし、警戒してなかったんだけど、侯爵領で見つけた資料に、航路図があったんだよね~」
「へえ。侯爵領ね……」
「……それは、あの子ども達の居た?」

オリエルも目を凝らす。アルティナはオリエルやアルセルの方には目を向けず、ずっと一方向を見ていた。

「うん。資料の中に、おかしな絵があった……コレ」

アルセルが受け取ると、それをオリエルと見る。

「うん? なにこれ……筒じゃないか……先が尖っているし……これは、スクリュー? が付いている? まさか……っ、船?」
「ちょっと前に、行商人に聞いたことがあって……短時間だけど、海を潜れる船があるって」
「「……はあ!?」」
「ここからでも、あの辺の入江が見えないんだよ。だから気になって……」

数分だけ。それも数人しか乗れないが、水の中を進むことができる特殊な船が、隣国で開発されたと聞いたことがあったのだ。

「それ、もしあったとしても、見えないよ? あ、いや……ティナの目なら……」
「うん。たぶん、見える」
「水の中の船を……ここからですか?」

オリエルが信じられないという顔をしているようだ。これに、アルセルが答えようと口を開く。しかし、最初に出たのは確認だった。

「婚約は決定なんだよね?」
「っ、もちろんです! こちらからは、絶対に破棄しません!」
「そう。ならいいかな。ティナの目はね。神の加護を受けたものなんだよ」
「神の……それは、お義父上と同じ? ですが、ティナの瞳は青です」
「父上より強いよ。で、ほら、ここからティナの目を見てごらんよ」

アルティナの目を見ると、その瞳は銀に淡く光っていたのだ。

「っ、え?」
「ティナは月の加護が強くてね。特に夜目が利く。それと、夜は感覚も鋭くなるし、本気でティナが夜陰に隠れたら、誰も見つけられない。銀に光る髪と瞳を持っているのに、それさえ見えなくなる不思議使用」
「……」
「夜の海なんて、普通黒にしか見えないけど、ティナには、泳いでいる魚も見えてるみたいでね」
「そんなことが……」
「うん。更にすごいのが、その目、指揮下に入った者達に貸せるんだよ」
「……はい?」
「ふふっ。ティナ~。やってみて」
「もう~……わかった」

すぐに変化はあった。

「っ、え!?」
「これこれ。昼間みたいに眩しくないけど、なんでか見えるっていうね。謎過ぎて、神様って怖い」
「確かにこれは……少し怖くなりますね……」

明るいのではなく、不思議と視えるのだ。屋根の色まではっきりと分かる。不思議体験をオリエルとアルセルが怖々としながらも楽しんでいると、アルティナは目的とするものを視界に捉えた。

「いた!」
「ん~……本当だ……居るね」
「っ、あれがっ」

隣国が発明した潜水艦だ。それが、人があまり入らない入江に入って行った。

「間違いない。形状も」
「そう……じゃあ、押さえよう」
「うん」

塔からすぐに入江に続く道があるのだ。アルティナは少しも躊躇うことなく、高く伸びた大きな木に窓から飛び移り、その木の枝を登って、崖の上に。これにアルセルも続いた。動揺して動けずにいたオリエルに、崖の上に登ったアルセルが手招く。

「え!?」
「ほらほら。こんなの軽くこなさないと。ティナに置いていかれるよ?」
「っ、行きます!」

そして、入江へと向かった。







**********
読んでくださりありがとうございます◎



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