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本編
030 忌々しいだろう?
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この国の王家やそれに連なる者には、月と太陽の神の加護があると言われていた。
月の加護は銀の色を、太陽の加護は金の色を与えると言う。しかし、その色を持つ者が必ずしも生まれるわけではない。
「っ、第一王子殿下……っ」
オリエルは王宮にある肖像画の面影を持つレイノートを見てすぐにわかった。
「やはり分かるか」
「……はい……っ」
「まったく、忌々しいことだ」
「っ!!」
レイノートは髪を掻き上げて吐き捨てるように言う。
「知っているかい? 加護は試練とセットなんだ」
「はあ……?」
「これが王家の持つべき色だと言って、憧れるようだが、実際は苦難の人生を歩むという印でしかない」
「……どういう……」
銀の髪も金の瞳も美しい。王家にしか出ない唯一無二と思えば、憧れるのも無理はないはずだ。しかし、実際にその色を持って生まれてきた者からすれば迷惑でしかないらしい。
「背負うものが大きいほど、その試練は大きくなり、乗り越えれば特大の加護が受けられる。それは、その者が背負うもの、関係者にも分け与えられるんだ。意味がわかるかい?」
「……国を背負う方が大きな試練を乗り越えて加護を受ければ……国に加護の恩恵が与えられる……?」
「その通りっ!」
「っ……」
だからこそ、試練を乗り越えて王となったその色を持つ者の治世は後世でも讃えられるものになっていた。
「そのせいでこの色を一つでも持った者が王や女王になるべきだと思われている。どうだい? 忌々しいだろう?」
「……当事者でしたら堪ったものではないなと……」
「そうだろうっ」
うんうんとレイノートは腕を組んでうなずく。そして嬉しそうに笑った。
「わかってくれて嬉しいよ。全く許し難い。公爵令嬢であった母も銀の髪を持っていた。だが、試練を乗り越えられず、儚くなってしまった……それを知ってから、ふざけるなと思ってね。暗殺されるどさくさに紛れてこうして王家から逃げ出したんだよ」
「……」
オリエルは何と言っていいのか分からなかった。とはいえ、レイノートは受け答えを期待していない。更に続ける。
「まあ、死に掛けはしたがな。そこで、リスティアと出会ってね」
リスティアとは、このセイグラルの跡取り娘。レイノートの妻だ。
「彼女に惚れ込んで今ここにいると言うわけだ。リスティアのお陰で試練さえ裸足で逃げ出したようで、今は平穏に暮らしているよ」
「……そうなのですか……お、王宮に戻られる気は……」
「ないね。だが、あの女をいつまでも置いておく気はない。だからと言って、私が試練を乗り越えて与えられる加護が、気に入らん奴らに与えられるのは許せん。だから決めたのだよ」
「っ……」
レイノートはいっそ凄絶に笑ってみせる。美しい顔だからこそ、その笑みはとても怖かった。
「王家の者としてではなく、リスティアの夫として試練を受ければ、受けられる加護はリスティアと可愛い子ども達、それとここの気のいい領民達だけのものになるだろう?」
「……国に、気に入らない方が……」
「貴族の半分くらいはクズじゃないか。あいつらにほんの少しでも良い思いなどさせたくはない」
「……なるほど……」
「駆逐した後ならいいがね」
「……」
無理だとわかっていて言っている。
「そこで、だ。協力してくれないか」
「……私でよろしければ……」
そう言うしかオリエルにはできなかった。
「なに。難しいことではない。あの子を好いてくれているようだし、もう立派な身内だ。ちょっと手伝うくらいさ」
「はい……」
「君は騎士団の長だし、やる事は変わらないと思ってくれて良い。お父上にも頼みたい。ゴミとなったクズ貴族をブタ箱に放り込んでくれ」
「……それだけ……ですか?」
もっと大変なことを求められると思ったのだが、拍子抜けだ。ゴミでクズとは、相当嫌いなのも分かる。
「うむ。いやあ、あの子も良い人を選んでくれた。国の騎士が犯罪者を捕らえることは自然なことだ。我々が独自でやると角が立つからねえ」
「……それは……はい。お任せください。寧ろやらせていただきたい」
「そうか。よかった。では、詳しい話を詰めよう」
「はい!」
アルティナには断られた部分だ。だからこそ、役に立てると知って、オリエルのやる気は最高潮に達していた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
月の加護は銀の色を、太陽の加護は金の色を与えると言う。しかし、その色を持つ者が必ずしも生まれるわけではない。
「っ、第一王子殿下……っ」
オリエルは王宮にある肖像画の面影を持つレイノートを見てすぐにわかった。
「やはり分かるか」
「……はい……っ」
「まったく、忌々しいことだ」
「っ!!」
レイノートは髪を掻き上げて吐き捨てるように言う。
「知っているかい? 加護は試練とセットなんだ」
「はあ……?」
「これが王家の持つべき色だと言って、憧れるようだが、実際は苦難の人生を歩むという印でしかない」
「……どういう……」
銀の髪も金の瞳も美しい。王家にしか出ない唯一無二と思えば、憧れるのも無理はないはずだ。しかし、実際にその色を持って生まれてきた者からすれば迷惑でしかないらしい。
「背負うものが大きいほど、その試練は大きくなり、乗り越えれば特大の加護が受けられる。それは、その者が背負うもの、関係者にも分け与えられるんだ。意味がわかるかい?」
「……国を背負う方が大きな試練を乗り越えて加護を受ければ……国に加護の恩恵が与えられる……?」
「その通りっ!」
「っ……」
だからこそ、試練を乗り越えて王となったその色を持つ者の治世は後世でも讃えられるものになっていた。
「そのせいでこの色を一つでも持った者が王や女王になるべきだと思われている。どうだい? 忌々しいだろう?」
「……当事者でしたら堪ったものではないなと……」
「そうだろうっ」
うんうんとレイノートは腕を組んでうなずく。そして嬉しそうに笑った。
「わかってくれて嬉しいよ。全く許し難い。公爵令嬢であった母も銀の髪を持っていた。だが、試練を乗り越えられず、儚くなってしまった……それを知ってから、ふざけるなと思ってね。暗殺されるどさくさに紛れてこうして王家から逃げ出したんだよ」
「……」
オリエルは何と言っていいのか分からなかった。とはいえ、レイノートは受け答えを期待していない。更に続ける。
「まあ、死に掛けはしたがな。そこで、リスティアと出会ってね」
リスティアとは、このセイグラルの跡取り娘。レイノートの妻だ。
「彼女に惚れ込んで今ここにいると言うわけだ。リスティアのお陰で試練さえ裸足で逃げ出したようで、今は平穏に暮らしているよ」
「……そうなのですか……お、王宮に戻られる気は……」
「ないね。だが、あの女をいつまでも置いておく気はない。だからと言って、私が試練を乗り越えて与えられる加護が、気に入らん奴らに与えられるのは許せん。だから決めたのだよ」
「っ……」
レイノートはいっそ凄絶に笑ってみせる。美しい顔だからこそ、その笑みはとても怖かった。
「王家の者としてではなく、リスティアの夫として試練を受ければ、受けられる加護はリスティアと可愛い子ども達、それとここの気のいい領民達だけのものになるだろう?」
「……国に、気に入らない方が……」
「貴族の半分くらいはクズじゃないか。あいつらにほんの少しでも良い思いなどさせたくはない」
「……なるほど……」
「駆逐した後ならいいがね」
「……」
無理だとわかっていて言っている。
「そこで、だ。協力してくれないか」
「……私でよろしければ……」
そう言うしかオリエルにはできなかった。
「なに。難しいことではない。あの子を好いてくれているようだし、もう立派な身内だ。ちょっと手伝うくらいさ」
「はい……」
「君は騎士団の長だし、やる事は変わらないと思ってくれて良い。お父上にも頼みたい。ゴミとなったクズ貴族をブタ箱に放り込んでくれ」
「……それだけ……ですか?」
もっと大変なことを求められると思ったのだが、拍子抜けだ。ゴミでクズとは、相当嫌いなのも分かる。
「うむ。いやあ、あの子も良い人を選んでくれた。国の騎士が犯罪者を捕らえることは自然なことだ。我々が独自でやると角が立つからねえ」
「……それは……はい。お任せください。寧ろやらせていただきたい」
「そうか。よかった。では、詳しい話を詰めよう」
「はい!」
アルティナには断られた部分だ。だからこそ、役に立てると知って、オリエルのやる気は最高潮に達していた。
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