秘伝賜ります

紫南

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第八章 秘伝と隠されたもの

457 決断には勇気がいる

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待ち合わせ場所は、商業施設が立ち並ぶ中にある喫茶店だった。

「お~、パソコン仕事してる人がいっぱい! なんか大人になった気分になるなっ!」
「煩いぞ~、俊哉」
「ここで興奮すんなよ。仕事の邪魔になる」
「いいのではないか? 静かに仕事がしたければ、そもそも、こんな所ではなくネットカフェにでも行くだろう」
「……」

呼び出されたのは高耶だけではなく、俊哉もおり、更には槇の友人である片瀬満かたせみつる新田嶺にったれい、そして、オタク道を貫いている小野田彰彦おのだあきひこが呼ばれたようだ。

新幹線も停まる駅が近いせいもあり、パソコン仕事をする人々が点在する喫茶店に入っていく。

席について、俊哉は早速メニューを開く。

個人のお客が多いことを見越してか、ほとんどが四人がけか二人がけだ。四人がけのテーブルが二つ、低い壁で覆われている所をとった。

席は俊哉と高耶で一つのテーブルをとる。槇が用があるのは、高耶なので、後の三人が隣のテーブルだ。

「やべぇ! 絵に描いたようなメロンソーダがあるっ!」
「「それはやべえなっ」」
「……」

満や嶺も、喫茶店に来ることが稀なのだろう。正確にはメロンソーダフロートに目は釘付けだった。

「高耶は?」

どうやら、迷いなく三人はメロンソーダを頼むらしい。

「コーヒーでい……」
「やっぱ、高耶もこれにしろよっ。飲んだことないだろっ」
「まあ……」

確かに、実際に頼んだことはないなと返事をする。

「蓮次郎のおっちゃん達とかと喫茶店行くのねえの? あのおっちゃんならコレ頼みそう」
「喫茶店は……源龍さんとか、あとは打ち合わせだな。蓮次郎さんには、ほとんどレストランだ」
「あ~……ならやっぱコーヒーか紅茶になりそうだな。よし! 彰彦は?」
「同じでいい」
「オッケー! 店員さんっ。メロンソーダフロート五つ……っ、あっ、六つ!」

そこにやって来た槇の数も入れたようだ。

「槇も、メロンソーダフロートでいい?」
「ああ」
「じゃあ、六個お願いしま~す」

店員さんは楽しそうに微笑んで注文を受けてくれた。男ばかり六人がメロンソーダフロート。微笑ましく見えたようだ。

「槇、こっち」
「ああ。遅れて悪い」
「いやいや。仕事だったんだろ? 気楽な学生とは違うじゃん」
「そうそう。気にすんなって」
「現場、この近くだったんだ? 警備だっけ」
「今日は代理。代理になってるかは分からないけどな」

子どもの頃は、自信に満ち溢れているように見えた餓鬼大将だが、今は落ち着いた青年だ。

「代わりが居てくれるだけで助かるんだぜ? 俺んとこのバイト先なんて、シフト変更するのに苦労するもん。人員がギリだから、絶対皺寄せくるし」
「有給取れって言われても、取れねえんだよな~。もう、有給はいいから人件費ケチんのやめろってえの」
「うむ。そこがおかしな所だな。だから上は現状を見れていないと不満が出るのだ」
「「それな~」」

そんな話をしているうちに、メロンソーダが届いた。それを突きながら話を始める。

「で? 槇、家探しに協力ってのはなに?」

満が問いかける。

今日集まったのは、相談に乗って欲しいというものだった。

「ああ……いや、蔦枝に相談しようとしたら、俊哉がお前らも呼べって言うから……」
「満達も、もう事情知ってるし、お前のこと心配してたし、なら一緒にって思うじゃん?」
「そう……なのか」
「まあな」
「お前、メール素っ気ないしさ」
「……悪い……」
「「いいって」」

どうやら、槇は俊哉に高耶の予定などを聞いていたらしい。そんな俊哉は、満達とも連絡を普段から取っており、槇を心配している彼らのことも考えて、今回合流させたということのようだ。

ちなみに彰彦は、高耶の方に会いたかった人だ。また天使なんかを見たいらしい。俊哉はそれは口にしなかった。

「それで? 妹ちゃんが戻って来て住める家を探してるんだっけ? おばさん達は納得したのか?」
「ああ……父さん母さんも、今の職場は辞めるって言ってる。自分たちが動けなくなってからじゃ遅いからって……」
「それがあるな……」

いくら、子どもの方の時間は止まっているから、心の準備ができるまで待てるとはいっても、こちらの時間は過ぎていく。親である彼らが、年老いてしまえば、時が止まっていた子どもにも酷かもしれない。別れもそれだけ早まってしまうのだから。

「うむ。体は子ども、頭脳は大人ということにはならないからな。止まっていた時間は無かったことと同じとなれば、年老いた両親に再会した時の子どもの心情とは……どうなるか分からん」

彰彦のオタクとしての想像力豊かな所は、こうした時に役立つ。

「高耶。こういう場合、実際どうなんだ?」

嶺が甘いアイスを口に入れるのを準備しながら、渋い顔で問いかけた。

「最後まで納得もできず、中々決断が出来ずにいて、最期に一目だけと寝たきりになってから頼まれることもある。まあ、良い結果にはならない」

半狂乱になることも多い。

「だから毎年、連盟の方から確認できた家族には手紙を送るんだ。決断はできたかと問うものを」
「え? あんま手をかけねえって言ってたじゃん」
「一応、担当部署はあるんだよ。そこには、かつて神隠しにあった人や、その家族も所属してる。俺たちも報告は上げるんだ。ただ、ここに居るなと分かっても、名前や顔は助け出してみないと分からない」

見えるわけではなく、感じるだけだ。よって、引っ張り出してみないと誰なのか分からないのだ。

「日本の行方不明者数は年間でも何万人といる。特定するのは難しいんだ」
「それは……手をかけらんねえな」
「ああ。だから、分かった者だけは、なんとかな。けど、槇の家族みたいに、きちんと納得してくれる人はそういない。俺らを怪しい宗教団体とか、詐欺師だって思うらしくて」

『お宅の行方不明の方がここに』と言われて信じる者などいないだろう。どれだけほんの小さな可能性にも縋ろうと思っていても、受け入れられない。

「俺も……蔦枝にきちんと説明受けなかったら、無理だった……」
「そういうものだろう。だから、悲惨な状態の再会になっても、仕方ないと思ってるところがある。結局は、その神隠しに合った者は異質なものだ。受け入れられなくても仕方がないと思ってる。もちろん、こっちで面倒を見るようにはしてるから、放り出すようなことにはならないけどな」

年を取っていないのだ。存在を否定されたり、信じられないからと家族に拒否された人を、連盟が見捨てることはない。

「もしかして、そうやって受け入れられなかった人とかが、その部署に?」
「ああ。中には、直接出向いて自分の体験談を聞かせて、なんとかしようとしている人もいるんだが……」
「うわあ~……それ、心折れそう……」
「トラウマになりそう……」

彼らは、追体験しているような状態になっている。家族に捨てられたという心の傷は、そうそう癒えることはない。

「それなんだよ……今回のことで現状を確認したんだが……あの部署も見直しが必要かもしれない、メンタルがやばそうで……」
「高耶……これ以上仕事増やすなよ?」
「……」
「お~い」
「……仕方ないだろ……」
「あ~あ。どっかに放り投げる先見つけんとな~」
「……」

高耶は、うんと頷くしかなかった。






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読んでくださりありがとうございます◎



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