秘伝賜ります

紫南

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第三章 秘伝の弟子

094 校歌って大事です

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2019. 2. 13

**********

「高耶、この学校の校歌知ってんの? あ、妹ちゃんから聞いてる?」

いそいそと自分で高耶の側まで椅子を持って行って楽しそうにする優希を見て、俊哉が勝手に納得する。彼ら三人は後方の席に座った。

「いや? あ、でもそうか。優希が珀豪に聞いてもらってたのは聞いた。歌のテストあったんだろう?」
「うんっ。ハクちゃんに、いみおしえてもらったの。そうしたらぜんぶおぼえられたよっ」
「校歌の歌詞は小さい子には難しいものねえ」

意味も分からず覚えるのはとても難しい。だが、それでも小さい子には何度も歌って覚えてもらうしかないのだ。

校歌は行事で歌うことが多い。だから、一年生は音楽の時間に先ず何度も歌うことになる。学校によっては歌のテストとして使うらしい。

特に校歌は昔から引き継いできた歌だ。言い回しが古かったりと、高学年になっても意味が分からないまま歌っている場合がある。

「そういや……俺も小学校の時の校歌で『幾世にたなびく雲』ってやつが最後まで意味分からんかったな。『雲』って言葉さえ、あったことに卒業アルバムに載ってる歌詞を見て気付いたし」
「ははっ、なるほど。旋律によっては区切る所が言葉とは違うからな。だが和泉、体育館の前の所に校歌の歌詞が掲げてなかったか?」
「え、マジ?」

楽譜を見ても、歌詞はひらがなで書いてあるのが普通だ。音符の下に並べられているのだから。そのため、意味も分からずひらがなで覚えてしまう。意識しなければ、卒業するまでそのままだろう。

「確かに、校歌が全文書かれてあったな。ただ、かなり達筆だったんで、俊哉に読めたとは思えません」
「そうだったか。それは仕方ないな」
「なに? 俺、読めないの納得されてんの?」
「そういえば、この学校のもそうだわ。あれは確かに小さい子は読めないわよねえ」
「いや、俺、小さい子? ずっと? 六年までちゃんといたけど?」

教科書のように、楷書で書かれていたならばまだ読めただろうが、高耶の記憶ではそれは行書になっていた。

所々混ざるひらがなも、流れるような『かな文字』に近かった気がする。高耶はそういった文字の古い書物などを見て育ったので、辛うじて読めていたが、小学生の子ども達が読むには少し難しかったかもしれない。

ちょっとバカにされている俊哉は放っておいて、高耶は頭の中でこの場で見た校歌を楽譜に直していた。

「おにいちゃん、ひけるの?」
「そうだな。一度弾くから合ってるか確認してくれるか?」
「うん!」

優希は頼られたことが嬉しいのか、目を輝かせていた。

高耶は本来の伴奏と歌の旋律部分を混ぜて演奏を始めた。

教師によっては、生徒がわかりやすいように旋律も混ぜて弾くのだが、本来ある楽譜は完全に伴奏でしかないようだった。

映像として楽譜まで見えればよかったのだが、さすがにピアノを弾きながら精度の高い過去の情景を見ることはできない。

とはいえ、上手く織り交ぜて弾けたようだ。優希が拍手してくれた。

「すごぉいっ。あってたっ」
「そうか。なら、少し集中するから校長先生達の方に行っててくれるか? それで、誰か入ってきても動いちゃダメだぞ」

手首を回したり指をストレッチしながらそんな事を頼むと、優希が不思議そうに首を傾げた。

「だれかくるの?」
「このピアノの音が嫌だって思う人が来るかもしれないんだ。だから、危ないからあっちに行っててくれ」

危ないと聞いて、優希が不安そうにする。それに気付いて、校長が近付いてきた。

「鍵を掛けてはダメなの?」
「音の流れを作るので、扉は開けておく必要があるんです。俊哉、そこの窓も一つ開けてくれ」
「おお」

音とは振動だ。それを伝えるのに風を使い、空気の流れを使う。これによって、校内だけでなく、この土地神の守護範囲全てに行き渡らせるのだ。

音楽室が上階にあるのは都合が良い。常日頃からここから流れる音は、遠くまでは音として聞こえなくても響いていく。土地神の力もそれに乗せやすい。

「それにしても、なんで校歌なんだ?」

窓を開けた俊哉が心底不思議そうに尋ねた。

「校歌ってのは、ほとんど変えたりしないものだろう? 変えたとしても、全く雰囲気が違うものには中々ならないんだ。土地神が望む音によって作られるようになっているからな」

これは神楽と同じだ。その土地に響きやすい音。力を乗せやすい音が校歌には入るようになっている。神がそう働きかけるのだ。

「そういえば、この学校の七不思議で音楽室関係のものは何がありますか?」

唐突な高耶の質問に面食らいながらも、これには時島が答えた。

「確か、後ろにある絵の一つが笑って見えるとかいうやつだったはずだが?」

音楽室の後ろの壁には、有名な作曲家の絵が並んで飾られていた。

ベートーベン、バッハ、シューベルト、ショパン、モーツァルト。その中の絵の一つに高耶は目を向けた。

「なるほど」

一人頷く高耶に、俊哉が不満そうに訴えてくる。

「なんだよ、高耶。コックリさんだけじゃなくて、七不思議まで関係あんの?」
「音ってのは力を乗せやすいって言ったろ? だから、音楽室は大抵どこの学校でも七不思議の一つに入る。土地神の力が一番干渉している場所だからな」

勝手に鳴るピアノだとか、絵が動くだとか、止まらないメトロノームだとか色々と音楽室には七不思議が生まれやすい。

それは、土地神が音を使って力を浸透させているからだ。妖の仕業ではなく、神の力が込められた結果、この場所で起きる現象だったりする。

「その変化が起きる物には、特に神の力が蓄積されていたり、通り道として使われているんだ。あの絵は一番音を反射する位置にあるんだろう。それで神の力がかなり蓄積されているから、空間が歪んで笑って見えた時があったんだろう」
「へえ……なら、なんか使えんの?」
「力が蓄えられてるんだから、それを使えば神の負担も減るだろう?」

そう言って、高耶は再びピアノを鳴らした。徐々にアレンジを加えながら、それでも元の曲を崩さない程度に。

「すごいわ……クラシックバージョンね……」
「なんかカッケェ……」
「すごいな……」
「うわぁ……」

遠くに響き渡るように音の数を増やし、音域を調整する。その間にも高耶は浄化の力を薄く、薄く広げていく。

急激に浄化はしない。そうすれば、妖に取り憑かれてしまった者達の痛みも少なくて済む。痛みもなく祓うには、大きく育ってしまった妖達の力を少しずつ削ぎ、小さくしていく必要がある。

だから慎重に、時間はかかるが少しずつその力を削いでいくのだ。

高耶が強く感じるのは、おそらく湯木の凝隷虫だけ。今の力の注ぎ方ならば、痛みを感じるほど影響を受けているのは彼だけだろう。

常盤が心配していた数人の子ども達にはほどんど感じない。完全に浄化とはならないだろうが、大きな影響を受けない程度には弱体化できるはずだ。

そうして、数分が経った頃。教室に湯木がのそりと現れた。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
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