秘伝賜ります

紫南

文字の大きさ
195 / 463
第五章 秘伝と天使と悪魔

195 頭が痛いです

しおりを挟む
一気に集まった視線に思考を止めていると、カシャカシャと写真を撮られる音が耳に届いて慌てる。

「っ……優希、移動しようか」
「はい。お兄さま」
「……」

笑顔や仕草がどことなくいつもとは違う。そう。まるで瑶迦のように感じてしまう。恐らく、参考にしたお嬢様像が瑶迦なのだろう。

あれはお姫様だろうと、訳の分からない言い訳が即座に頭に流れた。

「こっちだよ」

蓮次郎の機嫌が一気に悪くなったように感じた。それを彼の背中から確認しながら、人除けの術をかけ始める。

本来は、見られていては発動しない術とされているが、高耶の場合は力の調整が出来るため、暗示レベルで効いてくる。

次第に視線は散っていき、一階を下りる頃には、視線から感じる圧迫感は消えていた。

「はあ……」
「ふふふ。高耶くんはやっぱりすごいねえ。あの状態から人除けの術を使えるなんてさ」

先ほどの不機嫌な雰囲気はどこへやら。蓮次郎はにこやかに振り向いてきた。

「力の調整が難しいですが、慣れればなんとか。最初の頃は気を付けないと、その場から消えたように見えますので」
「やったの?」
「ヒーロー大好きな、遊んでいる子ども達に協力してもらったんです」
「子ども? それ、一般の?」
「ええ。公園で」
「っ、ふはっ。なにそれっ。高耶くんって大胆なことするねえ」

夕方、母親が夜まで帰ってこない子ども達が公園に居ることは多い。そこで、遊び相手に入れてもらって、力の調整を勉強したのだ。

「中学の頃ですから、小学校の子たちと遊んでも不思議じゃないというのを利用しました。かくれんぼとか、『お兄ちゃんは瞬間移動できるんだぞ』とか言って」
「うわあ。高耶くん、それないわ~。普通考えないわ。それも修行とか?」
「まあ、そうですね。調整できて損はないからと。はじめたきっかけは、鍵っ子達に遊んでくれって絡まれたからですけど」
「っ、絡まれたのっ? 子どもに? ははっ。あ~、高耶くんって断れないから」
「……自分でもそう思います……」

頼まれたら基本、断れない性格だ。

はじめの子は、転んで怪我をして、手当てをしてあげた子だった。家に帰っても親がいないと、泣きそうになっていた子に、まだ調整が上手く出来ずにいたため『瞬間移動』として見せたのがきっかけだ。

何度も何度もせがまれた末に『これ、修行になるんじゃね?』という考えに至った高耶だ。

単なる『修行バカ』だった。

「けど、助かったよ。あれは不快だったからね。あの『私は今、非日常の中に居る!』っていう優越感? 浸ってる感じの目がね。昔から不快でたまらないんだよ」
「…….分かります」

それを感じると同時に思ってしまうのだ。


『信じなかったくせに!』


視えないものだと、信じないくせに、それが視えた、触れた時にあっさり掌を返してくる者がいる。自分は特別なのだという優越感と共に、自分は今、他の者が感じられない世界に居るのだと悦に浸る。

そんなすぐに態度を変える者が、高耶達は苦手だ。次に何をするか分からないからとも言える。おかしな行動に移る者も出るからだ。

「ふふ。彼らがそうでないことを祈るよ。君に傷付いて欲しくはないからね」
「……きちんと切り替えは出来るつもりですが」
「うん。だから心配。君はいい子過ぎるからね」

心配してもらっていることは、最近よく理解している。けれど、痛みに慣れてしまった高耶には、どれが心配されることなのか、もうよくわからないのだ。

そんな高耶の心情を蓮次郎は横目で読み取ったらしい。

「充雪殿がいらしても、やはり君は一人だった。君は幼い頃から誰の比護も受けずに努力してきた。それは素晴らしいことだけどね。でもだからこそ、心配でならないんだよ。いつか、私たちの元からも去ってしまうんじゃないかってね……」
「っ……」
「ふふ。考えたことあったでしょ」
「……何度か……狙われることも多かったので……」
「そう……」

妖からも、本家からも狙われていた。早くに珀豪と契約できたことで、そこから式も増やし、守れるようにはなった。けれど、それでも不安はあった。

「それでも、俺には母を一人に出来なかった……傍に居ないことで手遅れになることも、子どもだからと守られるだけになることも許せなかった……臆病だったのでしょうね……」

握る優希の小さな手に力を入れないように、心を鎮める。過去に囚われないように。

「だから、もしも母が再婚を望んだなら……その相手に任せられたなら、離れようと思っていました。本家に呼ばれたと嘘をついてでも」
「私たちには通じないけど、まあ、親御さんには通じたかもね」
「ええ……でも、未だに離れられずに居ます。それどころか、母は俺の力も受け入れてくれました。少し後悔してもいるんです。話したことを。父になってくれた人はとてもいい人で、その人となら、母は笑っていられる。それがわかるから、今でも迷います……傍に居て良いのかどうか……」

何を言っているのだろうと自問しながら、長年溜め続けた言葉は、スルスルと口から吐き出されていた。

蓮次郎は高耶に嘘はつかない。それを理解しているから、甘えてしまっている。

「今日、その妹さんやお友達を見る前にその話を聞いていたら、問答無用で養子にでもしていたんですけどねえ」
「っ……」
「妹さんは君が大好きだって、全身から発してるし、そっちのお友達からは、高耶くんを拐おうとする誘拐犯でも見るような目で見られるし」
「……俊哉?」

蓮次郎が目で示した『お友達』は俊哉だった。目を向けると、ふんと鼻を鳴らす。

「だってよお。どう見たって、高耶をたらし込もうとしてるようにしか見えねえんだもんよ。何より、その人に連れてかれたら、高耶と会えなくなりそうだし」
「いや、そんなことは……」
「すごい! 正解だよ。だって、高耶くんを一般人の目に晒すとか、イラつくしね」
「ほら見ろ! 高耶! アレは飴玉くれてもついて行っちゃいかん種類の人だぞ!」
「いやだなあ。飴玉ごときで釣ろうなんて思わないよ。お家も使用人も用意してあげるからね? 私のことはお父様と呼んでくれる?」
「高耶! 絶対ダメだからな! なんなら俺が兄弟になるから! あ、俺が兄貴な」

ここまできて、高耶は近付いてきた俊哉の額をペチンと良い音をさせて弾いた。

「気持ち悪いわ!」
「え、俺だけ!? この場合、そっちの若作りなおっさんも同罪だろっ」
「立場が違うわ!」
「あ、そっか。俺の方が気安いってことだな。ふふん。どうだおっさん。まいったか」
「確かに妬けますねえ」
「どんどん妬け」
「おい。こら、俊哉。お前、ちょっと黙れ」
「え~。なんで?」

高耶はもう頭を抱えていた。

だって、この時気付いたのだ。女子達がヒソヒソしている。その会話を珀豪が拾って念話で教えてくれた。


『うそうそっ。なに。これ、ちょっとそういうこと?』
『どうしよう……っ、トキメクわ。これが噂に聞くBでLな関係ってやつ!? キュンってした!』
『おっさんと同級生の取り合い……レベル高いよっ。どうする? 智世~、これはもう片足突っ込んじゃう?』
『そ、そっちの世界に? ちょっ、ちょっと覚悟がまだ……』


扉を開いてしまったらしい。いや、まだ覗いているだけか。

「はあ……」
「お兄さま? おつかれですか?」
「う、ん。優希、それいつまで……」
「ずっとです。わたし、めざめました」
「……そうか……」

キリッとされた。こっちも頭痛いと、高耶はまた大きくため息をついた。本題に入る前にこれでいいのかと目的地に着くまで自問を続けることになる。

*********
読んでくださりありがとうございます◎
しおりを挟む
感想 675

あなたにおすすめの小説

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

救世の結界師マールちゃん~無能だと廃棄されましたが、敵国で傭兵のおっさん達に餌付けされてるので、今さら必要と言われても戻りません~

ぽんぽこ@3/28新作発売!!
ファンタジー
「ウチの子、可愛いうえに最強すぎるんだが――!?」 魔の森の隣、辺境伯家。 そこで八歳のメイド・マールは、食事も与えられず“要らない人間”として扱われていた。 ――そしてある日ついに、毒と魔獣の禁忌領域《魔の森》へ捨てられてしまう。 「ここ……どこ?」 現れた魔獣に襲われかけたその瞬間。 救いに現れたのは――敵国の”イケオジ”傭兵隊だった。 「ほら、食え」 「……いいの?」 焚き火のそばで差し出された“温かいお粥”は、マールに初めての「安心」と「ごはん」を教えてくれた。 行き場を失った幼女は、強面のおじさん傭兵たちに餌付けされ、守られ、少しずつ笑えるようになる―― そんなシナリオだったはずなのに。 旅の途中、マールは無意識に結界を張り、猛毒の果実を「安全な食べ物」に変えてしまう。 「これもおいしいよ、おじさん!食べて食べて!」 「ウチの子は天才か!?」 ただ食べたいだけ。 だけどその力は、国境も常識もくつがえす。 これは、捨てられた欠食幼女が、敵国でお腹いっぱい幸せになりながら、秘められた力で世界を巻き込んでいく物語。 ※若干の百合風味を含みます。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

義務ですもの。

あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。

処理中です...