秘伝賜ります

紫南

文字の大きさ
256 / 463
第六章 秘伝と知己の集い

256 良い先生達です

しおりを挟む
校長室に、各学年の代表の教師達が集まった。

「あ、あの。はじめまして。幸花さんの担任の三輪と申します。今回は、無理なお願いを聞いていただき、ありがとうございますっ」

それは、一年生の担任らしい、元気な女の先生だった。年は三十頃だろうか。新任という感じではないように思える。

次に、同じ年頃の女性が立ち上がって挨拶をする。

「音楽を担当しています。杉です。すみません。父兄の方の手をお借りすることになるなんて……」

彼女は申し訳なさそうに、何度も頭を下げる。それに苦笑しながら、高耶は答えた。

「いえ。高耶と申します。可能な限り、協力させていただきます」
「はい!  お願いします!」
「ありがとうございます……」

細かい打ち合わせに入る。それぞれの学年で楽譜を渡された。

「低学年は短いですが、曲数が多いのです。あと、高学年の方は、かなり難しくて……」

音楽教師の杉は、ずっと申し訳なさそうだ。そして、他の学年の教師達も苦笑する。

「我々は曲の難度など分かりませんから、演目を決めてから、まずいことに気付きました」
「いやあ、それに何より、今時はピアノを習っている子どもも少ないようで、いざピアノが弾ける人はと聞いたらほとんど手が上がらなくて」
「一年で辞めたという子が多いようです。ドレミだけ何とか読めるという程度で辞めたみたいですね」

学芸会は二年に一度。よって、二年前はピアノを出来ていたという子に声をかけたら、もうやってないから出来ないという回答が来てびっくりしたらしい。

時島先生の教え子で、校長とも顔見知りということを知られていることもあり、教師達は和やかに話を続ける。

たまに全くの部外者である俊哉が口を挟んでも問題に思う者はいない。

「なんか、音楽教室も、月謝がすげえ高くなったとか聞いたし、習わせるのも考えるよな~。今は、習い事が色々あるし」
「そうなんだよ。前は、そろばん、習字、ピアノってセットだったのにね」
「私の頃でもそうでしたよ。今は、ダンスとか、スポーツ系ですよね」
「それもすぐに辞めるし? 子ども達が何かを達成するっていう感覚も掴まないまま、次に行ってる感じがあるよ。反応悪い時多いし」
「それは、先生がたまに親父ギャグを打っ込むからでしょ」
「ははっ。それ言う?」

教師達も仲の良い学校のようだ。以前は湯木だけが不和を招いていたというのは、後で聞く。

「できれば、今回のピアノを弾いてくれる子達だけは、きちんと本番を迎えて、達成感を味わってほしいよね。もちろん、他の生徒達も、本番の緊張感を味わって、きちんと満足できるものにしてほしいね……」
「せめて学校では、そういうものも教えられる場所でありたいよ」

ここの教師達は、子ども達のことをよく考えてくれる良い人達のようだ。こういう人達の力にはなりたいと思う。

「でしたら、せっかくですし、もう一度、生徒達に聞いてみてくれませんか? 遠慮している子もいると思うんです。それこそ、去年までやっていたけど、という子や、やりたいけど自分では弾けないかもと思っている子が」

そう提案した理由は、もちろん、子ども達のことを考える先生達に触発されてということもあるが、未だ少し不安定なここの土地神に、守護する子ども達によって演奏されるものを聞かせたいと思ったからだ。

これに杉が反応する。

「あっ、確かにそうです。それに、最近のピアノ教室では、月に一回とか二回の所もあるらしくて……それであまり自分の力も把握できていない子もいるんじゃないかと」

他の習い事との兼ね合いを考えれば良いのかもしれないが、練習時間も少なくなるし、曲の進みも遅くなり、途中でもう次の曲ということもあるようだ。

メリハリがつかないから、成長速度も遅くなるし、実力も充分に発揮されない。

「発表会があると、難しい曲でも頑張れたりしますから、案外出来る子はまだいると思います。もちろん、体調が当日悪くなったりもするでしょうから、録音は行って、よければ少し、曲も簡単にしましょう」
「えっ、お兄さん、編曲も出来るんですか!? 音大生?」

なぜか、杉がすごく驚いていた。

「いえ、普通の大学生ですよ。ピアノは……ご存じでしょうか……もう亡くなられましたが、ピアニストの霧矢賢さんに、数年ですが師事していました」
「えっ、霧矢賢って、霧矢修さんのお父様のっ。私、霧矢修さんの大ファンなんです!」
「そうでしたか」

彼女は、ピアノ専攻ではないらしく、専ら、ピアノは聴く方だったようだ。

「私、専攻はクラリネットなんです……楽器の楽譜をピアノ用に移調とかはできるんですけど……簡単にするとか、編曲まではできなくて……」

そういう考えも頭になかったようだ。ここで、校長の那津が得意げに笑った。

「うふふ。彼はすごいんですよ。学校の校歌をクラッシック風にアレンジして弾いたり、素敵に弾いてくれたことがあるんです」
「校歌を……聞いてみたいです……」
「では、機会がありましたら」
「はいっ」

一週間後に、再び一部の子ども達も交えて顔を合わせるということになり、この日は解散した。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
今年もよろしくお願いします!
しおりを挟む
感想 675

あなたにおすすめの小説

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

救世の結界師マールちゃん~無能だと廃棄されましたが、敵国で傭兵のおっさん達に餌付けされてるので、今さら必要と言われても戻りません~

ぽんぽこ@3/28新作発売!!
ファンタジー
「ウチの子、可愛いうえに最強すぎるんだが――!?」 魔の森の隣、辺境伯家。 そこで八歳のメイド・マールは、食事も与えられず“要らない人間”として扱われていた。 ――そしてある日ついに、毒と魔獣の禁忌領域《魔の森》へ捨てられてしまう。 「ここ……どこ?」 現れた魔獣に襲われかけたその瞬間。 救いに現れたのは――敵国の”イケオジ”傭兵隊だった。 「ほら、食え」 「……いいの?」 焚き火のそばで差し出された“温かいお粥”は、マールに初めての「安心」と「ごはん」を教えてくれた。 行き場を失った幼女は、強面のおじさん傭兵たちに餌付けされ、守られ、少しずつ笑えるようになる―― そんなシナリオだったはずなのに。 旅の途中、マールは無意識に結界を張り、猛毒の果実を「安全な食べ物」に変えてしまう。 「これもおいしいよ、おじさん!食べて食べて!」 「ウチの子は天才か!?」 ただ食べたいだけ。 だけどその力は、国境も常識もくつがえす。 これは、捨てられた欠食幼女が、敵国でお腹いっぱい幸せになりながら、秘められた力で世界を巻き込んでいく物語。 ※若干の百合風味を含みます。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

義務ですもの。

あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。

処理中です...