秘伝賜ります

紫南

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第六章 秘伝と知己の集い

304 オタクは努力の人

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高耶は、俊哉、彰彦、それと、片瀬満かたせみつる新田嶺にったれいの四人と共に、散策に出かけた。

「先ずはあっち。山の方。ちゃんとした遊歩道があるんだってさ。行ってみようぜっ」

俊哉は、幹事の一人となったこともあり、この辺りのことはそれなりに調べてあるらしい。

「頂上まで行けるのか?」
「昼飯までに帰って来られるよな?」
「ふっ。こんな事もあろうかと、靴を別で持って来て正解だったな」

満と嶺が旅館の裏から登れるようになっている山を見てどこまで行けるか、どれくらいで行けるかを想像する。

彰彦は、抜かりなく登山靴を履いていた。更には、小さめのリュックも背負っている。高耶達他四人は、本当に散歩ということで、手荷物などない。だから、それを見て高耶は感心する。

「彰彦……よく持って来たな……荷物になるだろうに……」
「当たり前さ。いつ異世界への扉が開くか分からないだろう? 転移は突然なんだぞ?」
「……そうか……備えるのは大事だよな」
「ふっ。分かってるじゃないか」
「……ああ……」

悪いやつではないし、害もないし、これも個性だ。何より、いつでも真面目に、全力な彰彦を否定しようとは思えない。

こうして、彰彦は周りにもオタクとして受け入れられている。憎めないキャラだ。

いじめられてもポジティブに『ふっ。これは宿命さ』と返してしまうのだ。誰もいじめなくなるというものだ。

「頂上まで三十分くらいだってさ。頂上の所に休憩所の茶屋もあるって聞いた」
「へえ。茶屋ってどんな?」
「団子あるか?」

満と嶺が、少しワクワクする様子で俊哉に詰め寄る。これに、俊哉がニヤリと自信満々に答える。

「期待していいぜっ。絵に描いたような茶屋があるって有名だからなっ」
「「へえっ」」

それは高耶も大いに興味が湧いた。それを俊哉も狙っていたのかもしれない。

「な? 高耶。楽しい散歩になりそうだろ?」
「そうだな」
「っ、よし! そんじゃ、出発!」
「「おおっ」」
「うむ」
「ああ」

先頭を俊哉。その後ろに満と嶺、最後に高耶と彰彦と並び、ゆったりと散歩が始まった。

きちんと整備された道は、登山道と言うには緩やかで確かに遊歩道と言った方が正しいものだった。

「いいなあ、ここ。朝ジョギングとかする人いそう」
「あ~、俺もやりてえとか思うけど、結局出来ねえタイプなんだよな~」
「わかるっ。やりたいって思っても、実際やるってまでいかないんだよなっ」
「やりたいのと、やれるのは別だもんなあ」

うんうんと満と嶺は頷き合う。

これを聞いていた先頭に居る俊哉が、振り返って笑う。

「なんだよお前ら。中学ん時は、バリバリのサッカー野郎だったろ」
「いやあ、年取ったよなっ」
「もう無理っ。よくあんなに動いたよ」
「中学生ってすげえよな」
「それ思う」

今ではほとんど運動なんて呼べるものをしないらしいというのが、今ので分かった。

そして、思い出したように満が振り返り、彰彦に声を掛ける。

「そういや、彰彦も同じ部活だったじゃん。なんでお前、漫研行かなかったんだ?」
「それそれ。俺も聞きたかったんだよ。ちょい描いてただろ? 普通に絵上手くて引いたもん」

あの頃は聞けなかったというのはあるようだ。いかにもオタクだった彰彦は、なぜか漫画研究部ではなく、バリバリの運動部のサッカー部に入っていた。

絵も休み時間には描いているのを見ているし、なぜと思った者は多かったようだ。ただ、言えなかったのにも理由がある。

「けど、彰彦って、レギュラーだったもんな」
「俺らより上手くてさ……あの頃、ギャップがすげえって、女子の中でも言われてたよな」

そう。彰彦は、サッカーがとても上手かった。一年の終わりには、既にレギュラーになる実力だ。今のように、外でサッカークラブに入っているから部活ではサッカー部で試合に出られないということもなく、そもそも、クラブに入っている者もいなかった。それでもダントツで上手かったのだ。

「ふっ。野球もサッカーも、テニスも陸上も……全て幼い頃からの努力の賜物さ」
「……お前、そんな努力してたのか……」
「え、野球も? テニス? ちょっと待て、お前まさか……」

全員、彰彦を疑いの目で見る。そこに、高耶が暴露した。

「彰彦……確かにお前の努力は認めるが、漫画と同じこと出来るように、俺に色々聞いてきたの覚えてるからな? 今思うと、結構大変だった……」
「ふっ。だから一緒に極めようと言ったではないか」
「俺も何度も言っただろ。こっちにも都合ってのがあるんだよ……まあ、面白くはあったけどな」

まだ当主になる前だったが、子どもの頃から、当たり前のように稽古、稽古と頑張っていた高耶は、たまに彰彦の突拍子のない『これをやってみたい』というリクエストを、遊び半分、武術の応用にも活かせるかと思いながら、出来るように考えていた。

これが、統二達など、年下の子に教えるという事に生かされたのかもしれない。稽古の方法を考えたりする楽しさに目覚め、更に武術にのめり込んで行った原因だろう。

俊哉が、これにショックを受ける。

「え……高耶……何してんの? 俺より、彰彦と遊んでたのかよ!」
「……遊んでねえから……稽古の延長だ。こうじゃね? って教えて、あとは放置だったし。それで出来るようになる彰彦もおかしかったが……」
「ふっ。熱意は誰にも負けないさ」
「ああ、すごいわ、お前」
「っ!! 高耶が……っ、高耶が褒めてるっ」

これが一番ショックだったらしい。それから、俊哉は肩を落としながらも、黙って先を歩きだした。

「……」
「……」

満と嶺が目配せ合い、両側から俊哉の肩を叩き、先へ進んだ。

高耶は周りから情報を収集するのに忙しくなり、彰彦はあの草は食べられるとか、あれは傷に良いとか、自分で何かを始めていたので、一行はそのまま進んだ。

そして、予定通り約三十分後、頂上に到着。そこには、確かに絵に描いたような茶屋があった。

景色より先に一服をということになり、その茶屋に向かったのだが、高耶は何かを感じ取った。

「……っ」

正確には、その茶屋の裏。そこから更に奥。木々が生い茂る向こうに、特殊な結界の気配を感じたのだ。







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