秘伝賜ります

紫南

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第六章 秘伝と知己の集い

314 人として……

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藤が消えてしまったと女将が目に涙を滲ませる。落ち着くまで少し時間がかかりそうだ。

武雄や他の者達も、今は呆然としてしまっている。待った方が良いだろう。

そこで、伊調が高耶に声をかける。

「御当主。こちらの準備は整いました」

神楽部隊の者達が、向こうで扉が繋がるのを今か今かと待っているらしい。

「そうでした……では、繋げます。そちらの扉で良かったですよね」
「ええ……その、体調は問題ありませんか?」

伊調や神楽部隊の女性が心配そうに問いかける。連絡を取っている間にも、藤の話を聞いていたのだろう。

当然、あのお説教もだ。

「あ~……問題ありません」
「「早めに休んでください」」
「……分かりました……」

信用されなかった。

扉として指定されたのは、以前はタオルなどを置いておく場所だったようだが新しく戸棚が用意されており、使わなくなった納戸だということだ。

何に使うかは説明出来ていないが、使っても良いというのは、女将に確認済み。ならば問題ないと、高耶はそこを繋いだ。

そして、向こう側へ声を掛ける。

「お待たせしました」
「ああっ、御当主っ。ありがとうございます!」
「うわあっ、久しぶりだあっ」
「懐かしいっ。いつも使ってた離れの別館ですよねっ」

ワラワラと神楽部隊の者達が出てくる。

総勢で四十人ほど。いつもより多い。これに気付いて確認すると、今のメンバーではなく、引退した者も混ざっていた。

年配の彼らは、高耶が世話になり出す前のメンバーだ。よって、高耶に頭を下げる。

「これは、秘伝の御当主。以前は大変失礼いたしました……」
「え、あ、いえ……」

突然どうしたのかと驚く高耶に、年配の者達は落ち込んだ様子で苦笑していた。

「御当主と関わったことで出来上がった楽譜を拝見いたしました……とても素晴らしく、土地が喜んでいるのが分かりました……意固地になって、あなたを突き放しましたこと、深く反省しております。どうか、これからも助言いただけますと幸いでございます」

そうして、年配の者達は高耶の前に集まり、深く深く頭を下げた。慌てたのは高耶だ。

確かに、彼らにはかつて『こちらの領分に手を出すな』とか『若造が口を挟むな』などなど、珀豪達が飛び出して来そうな事を言われた。

だが実際、勝手に手を出した高耶が悪いというのもある。相談もなしに、こうしてもらえたらと結果楽譜だけ渡されれば、苦労して音を聴き取ろうとする彼らには面白くないだろう。

高耶のやり方は、彼らが苦労しながらする手順も何もない。

丁寧に計算問題を公式に当てはめていくつもの工程をこなして答えを出す彼らに対し、高耶は問題を見ていきなり答えを出すようなもの。

それは面白くなくて当然だ。それも、それを専門にやってきた者達だ。プライドだって傷付いただろう。

「っ、いえ。無作法をしたのはこちらですので……」
「我々にとってはそうでも、神には関係のないこと。ノイズもなく、綺麗に答えを出される御当主の音が良いに決まっています。我々は、自分達のプライドとお役目を天秤に掛けた愚か者です……それを理解するのに、何年も掛かってしまいました」

彼らは、高耶と協力する伊調達の考え方に賛同できなかった。だから、引退する年も近いからという理由を付けて現役を退いたようだ。

高耶は自分の行いのせいで、そんな大事になっているとは知らなかった。だが、高耶が謝る前に、彼らは微笑んでいた。

「御当主が悪いのではありません。それに、この年になってようやく理解した我々は、もう一度真摯に神と向き合おうと思えました。ですので……」

彼らは嬉しそうに笑う。そして、決意を口にした。

「死ぬまで現役で頑張らせていただきます。これからは、我々もよろしくお願いいたします」
「っ、え……あ、はい。こちらこそ、お願いいたします」

高耶の方はまだ戸惑っているが、頭を下げ合って、落ち着いた。

そうした状況の中で、伊調達は先ほどここで起きた事を報告し合っていた。

「ですので、御当主には早めに休んで頂かなくてはいけません。こちらで、ある程度女将達との話を付けてしまいましょう。時間はありますしね」
「でも驚きましたわ。御当主が母親に叱られているみたいで、とても微笑ましくも見えましたが」
「そうですねえ。それはもう、御当主も人だったと安心しました」
「ええ。本当に」
「……」

聞こえてしまった高耶は、恥ずかしさと困惑を混ぜた表情を見せる。

これに気付き、伊調が手招いた。

「ああ、ほら御当主。こちらにお座りくださいな。無理をしてはいけませんよ。人ですものねえ。体調も悪くなります」
「……あの……伊調さん。私はずっと人です……」

至極当然のことを言ったのだが、伊調は珍しく可笑しそうに、声を上げて笑った。

「はははっ。そんなご冗談を。前よりも神気は感じられなくなりましたが、その指輪。そのような神器を身に付けて平気でいる方がただの人とは私は認めませんよ?」

なんだか、伊調の目には力があった。否定できませんよねという言外の力だ。なので、高耶も正直に話す。

「……神器……ですか……? 確かに、土地神に神気を抑えるようにと頂いたのですが……」
「っ、やはり! と言いますか、神気も気のせいではなかったと……」

くわっと目を見開き、次に何事か考えるように目を細める。

「なるほど……ああ、ご安心ください。御当主が神になられましたら、我が一族でもしっかりお祀りさせていただきます」
「っ、どうしてそんな話に……」
「ならない訳がございませんでしょう? 充雪様の例もございますし。期待しております!」

他の神楽部隊の者達にまでキラキラとした期待する目で見られ、高耶は返事をするしかなかった。

「……はい……」

そこでようやく、女将達も話を再開できる準備が整ったようで、武雄達も揃ってこちらを見つめていた。







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