秘伝賜ります

紫南

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第七章 秘伝と任されたもの

363 物の気持ちが分かる人?

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今回は仕方ないと諦め、高耶は房田社長に確認する。

「珍しいですね。常に使うものでもないのに」
「っ、ああ、そうなんだよっ。場所が良いんかなあ」

中々そこまでの物と出会えることは少ない。だから、房田社長も、思わず口にしてしまったのだろう。

少し気まずそうに、那津達を見る房田社長に、高耶は伝えておく。

「ここにいる人たちは、俺の本職の事も知ってるから大丈夫ですよ」
「そうなのかっ。はあ~、良かった。本番前に不審者認定受ける所だった……」
「気を付けてください」
「すまんです」

こちらの業界を知らない人たちの前で、付喪神だなんだと話せば、せっかくの交友関係を失くしかねない。

特に学校なんかは、守るべき子ども達がいるのだ。少しでも不審がられたら致命的だ。

そんなこともあり得たと分かっている那津は笑っていた。

「ふふふっ。よほど珍しい事ですのね?」
「あ~、はい。ただ古いだけでは、付喪神にはならないんで、何より、まだまだそうなる条件ってのも不明らしくて」
「そうなんですの? けど、お分かりになったのでしょう?」
「ええ。その……なんとなく感じるんで」

房田社長は、後ろ頭を掻きながら苦笑いを浮かべる。そんな彼に、高耶も苦笑した。

「房田さんは、内包している霊力はそれなりにあるのに、自分の意思で使えないのでしたか」

高耶は、父将也と似ているなと思っていた。

「そうそう。視えるだけ。祓うことが出来ない半端者だよ」
「まあっ。もしかして、こちらの業界の家系ですの?」
「ええ……本家の人間なのにって、その空気が嫌で家から飛び出したクチですわ」
「そんな……」

那津が気の毒そうに口元に手をやって房田を見上げる。しかし、房田社長にとっては、既に乗り越えた過去だ。

「いやいや、気にせんでください。力がなくとも、努力すれば家業にも貢献できたはずなんです。それをやらなかったんですから、自業自得ですよ」

使えないからと即刻追い出すような家系は、今の時代にはそれほどない。多くの家で、血も能力も薄まっている現状では、寧ろ知識を継承する事に重きを置くようになっていた。不意に先祖返りも有り得るのだ。その時のためにと一族一丸となっているところも多い。

房田社長の所もそうだった。早くに考え方を切り替えた家だそうだ。ただし、そう言った家は、協力しない者を、不和を呼ぶといって家から離すことがある。

一丸となってやろうとしているのに、そこにやる気のない者が居るのは迷惑だ。

更には、考え方を切り替えたとは言っても、古い考えの者はいる。そんな人たちから送られる空気に耐えられなくなり、房田社長は家を飛び出したらしい。

「飛び出したお陰でこの仕事に出会えましたしね。最初は……俺のようにあの業界に居づらくなった若いのを拾ってやってたんですが、いつの間にか結構な大所帯になっちまって」
「人が好いんですよ、房田社長は」
「はははっ。寂しかっただけだと思ってんだけどなあ。その……寂しさってのかな……その感じを付喪神に感じてな……」
「付喪神蒐集家って、裏で有名になってますよ?」
「いやあ~、そんなつもりなかったんだけどなあ。社員達も最近は拾ってくるようになっちまって……」
「そんな犬猫みたいな感覚なんですの?」

そういう感覚なのだろう。

そこで、時島が口を開いた。

「最近は、断捨離とか終活とかで古い物はすぐに消えてしまうのでは?」
「そうなんですよ。祖父や祖母の形見とか、あまり最近は気にしませんし、一族代々というのも……」 
「お金に換えたがりますからね」
「うん。高耶、はっきり言うよな……」
「少し前に同窓会があって、そこで同年の者達の考え方を学びまして」

含まずに表にはっきり出すのが、高耶の年代には多いらしいと知ったことで、実践していたというわけだ。しかし、高耶を知る者達は、受け入れられないらしい。

「そういうのは、お前らしくないから無理してやらんでいいと思うぞ……」
「なるほど……」

うんうんと那津や時島、修までもがしっかり頷いていたので、高耶は考え直すことにした。

「まあ、その……なんで、確かに付喪神となりそうなものは減ってはいますよ。だから、そんなやつに出会えると嬉しくなります。付喪神は、愛されたもの、人が想いを残すものというのが分かっている条件の一つですから」
「そう考えると、素敵ですわね」
「ええ。なので、あの音響設備は、大事にしてください。いくつか、使い方が分かり辛い所があったので、簡単に分かりやすいマニュアルを用意してお渡ししますよ」
「よろしいの?」
「もちろん。使い方が分からないというのは、使う者にストレスを与えますからね。傍にあってほしくない感情なんで」

それを苦に思わないほど、房田社長は付喪神を大事に思っているようだ。

「音響機器って、説明書を読んでもよく分からないのも多いですもんね」
「そうそう。自分が必要とする機能だけ覚えてれば良いから、良いのを買ってもそれの機能の半分も使えてないかも」
「ありますね」

そんな高耶と修の会話に、時島も頷いていた。こうした機器を操作するのは、男性が多い。女性に頼られてやってみるが、全部を理解できているわけではないのだ。

「ははっ。まあ、それでも良いんですよ。作った者にとっては、全部の機能を余す事なく使って欲しいかもしれませんが、物にとっては、大事に長く使ってもらえた方が良いんで」
「「「なるほど……」」」
「さすがです……」

ここまで物に理解がある人も珍しいなと感心する一同だった。そして、リハーサルが始まる。







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読んでくださりありがとうございます◎
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