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第一章 秘伝のお仕事
008 本家直系
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高耶は会合の開かれるその夜。父母が帰ってきてから、今日は遅くなるからと断って出かけた。
実父は分家の人間で、会合に出たことはない。高耶が陰陽武道を修めたのは、十二歳の時。実父が亡くなったのは十歳の時だ。本来ならばどれだけ早く修得したとしても、二十歳を超える。
これだけ早い修得を可能としたのは、間違いなく実父が亡くなったことが大きい。一日でも早く、周りに認められる実力を付けようと必死になっていった。もちろん、高耶自身の素質も関係する。飲み込みも早かった。
陰陽術よりも武道が好きだった父。だから、こちらの世界との接触はほとんどなかった。
会合を知ったのは、当然だが、高耶に憑いている充雪からの情報だった。実力がついたのならば経験を積むためにも協力すべきだと教えられたのだ。
結果、協力者を得られ、充雪から教えられた技を役に立てることができるようになった。
しかし、困ったことも起きた。それが本家と分家の問題だ。
「おい、いいかげん我らに力を返せ! この盗っ人がっ」
「……」
これがその時から言われ続けている言葉だ。完全な言いがかりだった。
《まったく、同じことしか言えんのか。ほれ、ほれっ、俺を見てみろっ。文句があるなら俺に言え》
本家から来たのは、直系の親子三人だ。ここは会合の行われる屋敷。扉による移動でしか中に入れない特殊な家屋で、実質、陰陽術を使える者にしか来ることができない。
この三人は陰陽術を使える。会合を行う『幻幽会』にも登録された、正式な陰陽師だ。しかし、それは力を持つ陰陽師達の中の一人というもので、正式な代表としての資格は持っていない。
その資格の一つが先祖である男……秘伝充雪が見え、声が聞こえるかどうかだった。
「はぁ……」
「何とか言ったらどうだっ」
《このクソガキ! 俺を無視するとはいい度胸だっ》
「おい、落ち着け」
「なんだとっ!」
「いや、お前じゃなく……」
「お前だと! 分家筋の分際で、口の利き方を考えろ!!」
「はぁ……」
ため息しか出ない。先ほどからキャンキャンと喚き散らしているのは高耶と同い年の従兄弟、勇一だ。その後ろで腕を組み黙って睨みつけているのが秘伝家の現当主を名乗っている秀一。勇一の父親だ。
充雪と共にいる高耶が本来、正式な当主なのだが、彼らは本家の血こそが重要だと言ってそれを強引に跳ね除け続けていた。
神経質そうな顔が親子で良く似ている。そして、少しばかり離れた場所で無関係を装っているのが、もう一人の従兄弟の統二。高耶の三つ下だ。彼は父と兄に振り回されているだけで、特に当主がどうの、直系がどうのというのを気にしていない。
会合は代表だけで集まるものと、情報交換のための、それ以外の者との集まりとで分けられている。だから、ここまで彼らが来ることには問題はない。
だが、迷惑は考えて欲しい。ここは特殊な屋敷で、外に音が漏れないからどれだけ騒いでも問題ないのだが、中にいる分には聞こえるので同業者への配慮はすべきだ。
「相変わらず煩いですね」
「何だとっ……っ、さ、榊様っ……」
勇一が顔色を変える。声をかけてきたのは榊源龍という三十になろうかという男性だ。彼の家は陰陽師の家系としてはかなり古い部類に入る。力も相当強い。血筋と実力が重視される陰陽師の業界ではトップクラスに入る人物だ。
「高耶くん、行きますよ。上の方々も、先ほどいらっしゃいましたから、もう始まります」
「あ、はい」
源龍に背を押されるようにして三人から離れていく。これで今回はもう会うことはないだろう。
《信じられん。なぜああなってしまうのか》
充雪が腕を組んで唸りながら首を傾げる。
「ははっ、まぁ、まぁ、充雪殿。今の本家直系というのはあんなものですよ。特に高耶くんのような分家筋に持っていかれた場合はね」
源龍はその高い能力によって充雪の姿を見ることができる。声もしっかりと聞こえていた。代表になれる者達ほどの力量があれば、充雪を見る事など容易いのだ。
それさえできないのに喚く本家の者たちは、自分たちの無能ぶりを喧伝しているようなものだった。
《しかしだなぁ。あれも俺の血を引いているんだぞ? あれほどの分からず屋は……はっ、これが世に聞く突然変異というやつか!》
「性格に突然変異は適用されせんよ。取り巻く環境、周りの考え、教育方針、その何万通りという選択によって性格とは作り上げられていくものですからね」
《むぅ……難しいな》
本当に難しい問題だ。どのみち、もう出来上がってしまっているものを変える事は至難の技だ。諦める方が妥当かもしれない。
無理やり結論を出しながら、高耶は代表の会合へと向かった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
実父は分家の人間で、会合に出たことはない。高耶が陰陽武道を修めたのは、十二歳の時。実父が亡くなったのは十歳の時だ。本来ならばどれだけ早く修得したとしても、二十歳を超える。
これだけ早い修得を可能としたのは、間違いなく実父が亡くなったことが大きい。一日でも早く、周りに認められる実力を付けようと必死になっていった。もちろん、高耶自身の素質も関係する。飲み込みも早かった。
陰陽術よりも武道が好きだった父。だから、こちらの世界との接触はほとんどなかった。
会合を知ったのは、当然だが、高耶に憑いている充雪からの情報だった。実力がついたのならば経験を積むためにも協力すべきだと教えられたのだ。
結果、協力者を得られ、充雪から教えられた技を役に立てることができるようになった。
しかし、困ったことも起きた。それが本家と分家の問題だ。
「おい、いいかげん我らに力を返せ! この盗っ人がっ」
「……」
これがその時から言われ続けている言葉だ。完全な言いがかりだった。
《まったく、同じことしか言えんのか。ほれ、ほれっ、俺を見てみろっ。文句があるなら俺に言え》
本家から来たのは、直系の親子三人だ。ここは会合の行われる屋敷。扉による移動でしか中に入れない特殊な家屋で、実質、陰陽術を使える者にしか来ることができない。
この三人は陰陽術を使える。会合を行う『幻幽会』にも登録された、正式な陰陽師だ。しかし、それは力を持つ陰陽師達の中の一人というもので、正式な代表としての資格は持っていない。
その資格の一つが先祖である男……秘伝充雪が見え、声が聞こえるかどうかだった。
「はぁ……」
「何とか言ったらどうだっ」
《このクソガキ! 俺を無視するとはいい度胸だっ》
「おい、落ち着け」
「なんだとっ!」
「いや、お前じゃなく……」
「お前だと! 分家筋の分際で、口の利き方を考えろ!!」
「はぁ……」
ため息しか出ない。先ほどからキャンキャンと喚き散らしているのは高耶と同い年の従兄弟、勇一だ。その後ろで腕を組み黙って睨みつけているのが秘伝家の現当主を名乗っている秀一。勇一の父親だ。
充雪と共にいる高耶が本来、正式な当主なのだが、彼らは本家の血こそが重要だと言ってそれを強引に跳ね除け続けていた。
神経質そうな顔が親子で良く似ている。そして、少しばかり離れた場所で無関係を装っているのが、もう一人の従兄弟の統二。高耶の三つ下だ。彼は父と兄に振り回されているだけで、特に当主がどうの、直系がどうのというのを気にしていない。
会合は代表だけで集まるものと、情報交換のための、それ以外の者との集まりとで分けられている。だから、ここまで彼らが来ることには問題はない。
だが、迷惑は考えて欲しい。ここは特殊な屋敷で、外に音が漏れないからどれだけ騒いでも問題ないのだが、中にいる分には聞こえるので同業者への配慮はすべきだ。
「相変わらず煩いですね」
「何だとっ……っ、さ、榊様っ……」
勇一が顔色を変える。声をかけてきたのは榊源龍という三十になろうかという男性だ。彼の家は陰陽師の家系としてはかなり古い部類に入る。力も相当強い。血筋と実力が重視される陰陽師の業界ではトップクラスに入る人物だ。
「高耶くん、行きますよ。上の方々も、先ほどいらっしゃいましたから、もう始まります」
「あ、はい」
源龍に背を押されるようにして三人から離れていく。これで今回はもう会うことはないだろう。
《信じられん。なぜああなってしまうのか》
充雪が腕を組んで唸りながら首を傾げる。
「ははっ、まぁ、まぁ、充雪殿。今の本家直系というのはあんなものですよ。特に高耶くんのような分家筋に持っていかれた場合はね」
源龍はその高い能力によって充雪の姿を見ることができる。声もしっかりと聞こえていた。代表になれる者達ほどの力量があれば、充雪を見る事など容易いのだ。
それさえできないのに喚く本家の者たちは、自分たちの無能ぶりを喧伝しているようなものだった。
《しかしだなぁ。あれも俺の血を引いているんだぞ? あれほどの分からず屋は……はっ、これが世に聞く突然変異というやつか!》
「性格に突然変異は適用されせんよ。取り巻く環境、周りの考え、教育方針、その何万通りという選択によって性格とは作り上げられていくものですからね」
《むぅ……難しいな》
本当に難しい問題だ。どのみち、もう出来上がってしまっているものを変える事は至難の技だ。諦める方が妥当かもしれない。
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