377 / 460
第七章 秘伝と任されたもの
377 やはり隠せないようです
しおりを挟む
すぐに部屋に通されたが、中々相手は現れなかった。既に三十分ほど待っている。
「ごめんね。高耶君。時間は間違っていないはずなんだけど」
「いえ。休みの日ですし、参拝客も多い日なのでしょうから」
「まあ、程よく居たな。年末年始にどれだけ来るかは知らねえけど」
達喜は苛つくことなく、のんびりと暇潰しがてら、この場所の音を聴き取り、楽譜に起こす練習をする律音の様子を見ていた。神楽部隊のやっていることを目の前で見られるというのは、珍しいことで、飽きずに時折話しかけては見ていた。
勇一もその傍で不思議そうにその作業を見ている。特に待たされて苛立つ様子は見られない。
伊調や付き人の女性も、寧ろのんびりと高耶と話す時間が出来たと喜んでいるようだ。
「そういえば先日、優希さんの学芸会で、霧矢さんと特別演奏をされたとか。録画したものを今度、姫様に観せていただく約束をしました。子ども達の演劇もとても素晴らしかったとお聞きしましたよ。是非そちらも観せていただこうと思っております」
伊調も瑤迦の所にはよく行くようになったらしい。そこで、学芸会のことも聞いたのだ。そこで、優希達とも顔を合わせることがあり、今では実の孫のように可愛がってくれている。
「ありがとうございます。優希も喜びます」
映像を編集したものを流したことで、DVDにしてもらえるのではないかと、あの後すぐに教師達に保護者達がお願いしていた。ほぼ全ての保護者から学芸会の映像が欲しいと言われたようだ。その場で房田音響の社員達がOKを出していた。
昨日、早速その注文を取る紙を優希が持ち帰って来ていた。学校の近所の人たちからも、是非一枚欲しいと言われているらしく、急遽の注文書は町内会の方にも配られた。今日辺り、回覧板が回っているだろう。
「ほほっ。土地神様も満足されたものだったとか。楽しみです。そうそう、霧矢さんの演奏会に御当主も友情出演されるとお聞きしました」
「ええ。修さんの父親の賢さんとその友人のヴァイオリニストの方の作った最後の曲を発表することになっていまして。その曲だけのつもりだったのですが、連弾も是非と」
「それは楽しみなことです。是非演奏会に行かせていただきます」
「ありがとうございます」
クリスマス前にある冬の霧矢修のコンサート。いつもは、海外でだったが、今回は日本でだ。海外でのファンも多いということで、三日間の公演を予定している。
修のコンサートは、やっても二日だったのだが、今回は高耶が参加する。これにより、一日増えたのだ。しかし、これを高耶は知らなかった。
「御当主のファンが予想よりも多いそうで、チケットの争奪戦があるのではないかと、霧矢さんが心配していましたよ」
「え? そんなことは……」
「あり得るねえ。だって、高耶君のバイト先、同伴者の人数制限あるんでしょう?」
「……よく知ってますね……」
雛柏教授に、バイトの話はあまりしていないはずだった。しかし、彼の横の繋がりはすごいものがある。
「そりゃあね。知り合いが通い詰めてるんだよ。その人達がね。外でコンサートでもやったら、家族全員連れてくるのにって言ってたんだ。だから、今の高耶君のバイト先に来る人たちの家族や知り合い、今までの同伴者の家族とかも来ると思えば、普通にホール埋まると思うよ?」
「……そこまでは……」
「間違いないって。だから三日なんだよ」
「え……」
その通りだった。
そんな話をしていると、ようやく相手がやって来た。
「遅くなり申し訳ない」
そう言った年配の男性は、本当に申し訳なさそうに頭を下げたが、それに付いて来た四十代と三十前半頃の二人の男性は悪びれた様子はなかった。寧ろ、その目には警戒と侮蔑が見て取れる。
達喜が代表としてその前に座った。
「時間を作っていただき感謝する。幻幽会、首領の一人、夢咲家当主の夢咲達喜だ」
「っ、夢咲……っ、これはっ、お初にお目にかかります。この神社の宮司、宝泉孝己と申します」
四十代の男が息子で、宮司の補佐的な位置にある権宮司。その補佐に当る禰宜が三十前半頃の男性だった。
一番上の三役が出て来た形だ。
「時間も惜しいでしょう。早速話を聞かせていただきたい」
何気に達喜は嫌味をと思って言ったのだが、それよりも、相手には気になることがあったらしい。
「はい……その……その前に……そちらの御方は、どちらかの神子様でしょうか。その……神気が感じられるのですが……」
「ん? ああ、高耶のことか」
「……」
全員の視線が高耶に向いた。不本意ですと顔に書いてあった他の二人も、高耶に目を留めて目を丸くしている。
「高耶……お前、神気抑えれるようになったんじゃねえのかよ……」
「すみません……」
達喜に呆れた顔をされた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「ごめんね。高耶君。時間は間違っていないはずなんだけど」
「いえ。休みの日ですし、参拝客も多い日なのでしょうから」
「まあ、程よく居たな。年末年始にどれだけ来るかは知らねえけど」
達喜は苛つくことなく、のんびりと暇潰しがてら、この場所の音を聴き取り、楽譜に起こす練習をする律音の様子を見ていた。神楽部隊のやっていることを目の前で見られるというのは、珍しいことで、飽きずに時折話しかけては見ていた。
勇一もその傍で不思議そうにその作業を見ている。特に待たされて苛立つ様子は見られない。
伊調や付き人の女性も、寧ろのんびりと高耶と話す時間が出来たと喜んでいるようだ。
「そういえば先日、優希さんの学芸会で、霧矢さんと特別演奏をされたとか。録画したものを今度、姫様に観せていただく約束をしました。子ども達の演劇もとても素晴らしかったとお聞きしましたよ。是非そちらも観せていただこうと思っております」
伊調も瑤迦の所にはよく行くようになったらしい。そこで、学芸会のことも聞いたのだ。そこで、優希達とも顔を合わせることがあり、今では実の孫のように可愛がってくれている。
「ありがとうございます。優希も喜びます」
映像を編集したものを流したことで、DVDにしてもらえるのではないかと、あの後すぐに教師達に保護者達がお願いしていた。ほぼ全ての保護者から学芸会の映像が欲しいと言われたようだ。その場で房田音響の社員達がOKを出していた。
昨日、早速その注文を取る紙を優希が持ち帰って来ていた。学校の近所の人たちからも、是非一枚欲しいと言われているらしく、急遽の注文書は町内会の方にも配られた。今日辺り、回覧板が回っているだろう。
「ほほっ。土地神様も満足されたものだったとか。楽しみです。そうそう、霧矢さんの演奏会に御当主も友情出演されるとお聞きしました」
「ええ。修さんの父親の賢さんとその友人のヴァイオリニストの方の作った最後の曲を発表することになっていまして。その曲だけのつもりだったのですが、連弾も是非と」
「それは楽しみなことです。是非演奏会に行かせていただきます」
「ありがとうございます」
クリスマス前にある冬の霧矢修のコンサート。いつもは、海外でだったが、今回は日本でだ。海外でのファンも多いということで、三日間の公演を予定している。
修のコンサートは、やっても二日だったのだが、今回は高耶が参加する。これにより、一日増えたのだ。しかし、これを高耶は知らなかった。
「御当主のファンが予想よりも多いそうで、チケットの争奪戦があるのではないかと、霧矢さんが心配していましたよ」
「え? そんなことは……」
「あり得るねえ。だって、高耶君のバイト先、同伴者の人数制限あるんでしょう?」
「……よく知ってますね……」
雛柏教授に、バイトの話はあまりしていないはずだった。しかし、彼の横の繋がりはすごいものがある。
「そりゃあね。知り合いが通い詰めてるんだよ。その人達がね。外でコンサートでもやったら、家族全員連れてくるのにって言ってたんだ。だから、今の高耶君のバイト先に来る人たちの家族や知り合い、今までの同伴者の家族とかも来ると思えば、普通にホール埋まると思うよ?」
「……そこまでは……」
「間違いないって。だから三日なんだよ」
「え……」
その通りだった。
そんな話をしていると、ようやく相手がやって来た。
「遅くなり申し訳ない」
そう言った年配の男性は、本当に申し訳なさそうに頭を下げたが、それに付いて来た四十代と三十前半頃の二人の男性は悪びれた様子はなかった。寧ろ、その目には警戒と侮蔑が見て取れる。
達喜が代表としてその前に座った。
「時間を作っていただき感謝する。幻幽会、首領の一人、夢咲家当主の夢咲達喜だ」
「っ、夢咲……っ、これはっ、お初にお目にかかります。この神社の宮司、宝泉孝己と申します」
四十代の男が息子で、宮司の補佐的な位置にある権宮司。その補佐に当る禰宜が三十前半頃の男性だった。
一番上の三役が出て来た形だ。
「時間も惜しいでしょう。早速話を聞かせていただきたい」
何気に達喜は嫌味をと思って言ったのだが、それよりも、相手には気になることがあったらしい。
「はい……その……その前に……そちらの御方は、どちらかの神子様でしょうか。その……神気が感じられるのですが……」
「ん? ああ、高耶のことか」
「……」
全員の視線が高耶に向いた。不本意ですと顔に書いてあった他の二人も、高耶に目を留めて目を丸くしている。
「高耶……お前、神気抑えれるようになったんじゃねえのかよ……」
「すみません……」
達喜に呆れた顔をされた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
634
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
テーラーボーイ 神様からもらった裁縫ギフト
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はアレク
両親は村を守る為に死んでしまった
一人になった僕は幼馴染のシーナの家に引き取られて今に至る
シーナの両親はとてもいい人で強かったんだ。僕の両親と一緒に村を守ってくれたらしい
すくすくと育った僕とシーナは成人、15歳になり、神様からギフトをもらうこととなった。
神様、フェイブルファイア様は僕の両親のした事に感謝していて、僕にだけ特別なギフトを用意してくれたんだってさ。
そのギフトが裁縫ギフト、色々な職業の良い所を服や装飾品につけられるんだってさ。何だか楽しそう。
【完結】勇者の息子
つくも茄子
ファンタジー
勇者一行によって滅ぼされた魔王。
勇者は王女であり聖女である女性と結婚し、王様になった。
他の勇者パーティーのメンバー達もまた、勇者の治める国で要職につき、世界は平和な時代が訪れたのである。
そんな誰もが知る勇者の物語。
御伽噺にはじかれた一人の女性がいたことを知る者は、ほとんどいない。
月日は流れ、最年少で最高ランク(S級)の冒険者が誕生した。
彼の名前はグレイ。
グレイは幼い頃から実父の話を母親から子守唄代わりに聞かされてきた。
「秘密よ、秘密――――」
母が何度も語る秘密の話。
何故、父の話が秘密なのか。
それは長じるにつれ、グレイは理解していく。
自分の父親が誰なのかを。
秘密にする必要が何なのかを。
グレイは父親に似ていた。
それが全ての答えだった。
魔王は滅びても残党の魔獣達はいる。
主を失ったからか、それとも魔王という楔を失ったからか。
魔獣達は勢力を伸ばし始めた。
繁殖力もあり、倒しても倒しても次々に現れる。
各国は魔獣退治に頭を悩ませた。
魔王ほど強力でなくとも数が多すぎた。そのうえ、魔獣は賢い。群れを形成、奇襲をかけようとするほどになった。
皮肉にも魔王という存在がいたゆえに、魔獣は大人しくしていたともいえた。
世界は再び窮地に立たされていた。
勇者一行は魔王討伐以降、全盛期の力は失われていた。
しかも勇者は数年前から病床に臥している。
今や、魔獣退治の英雄は冒険者だった。
そんな時だ。
勇者の国が極秘でとある人物を探しているという。
噂では「勇者の子供(隠し子)」だという。
勇者の子供の存在は国家機密。だから極秘捜査というのは当然だった。
もともと勇者は平民出身。
魔王を退治する以前に恋人がいても不思議ではない。
何故、今頃になってそんな捜査が行われているのか。
それには理由があった。
魔獣は勇者の国を集中的に襲っているからだ。
勇者の子供に魔獣退治をさせようという魂胆だろう。
極秘捜査も不自然ではなかった。
もっともその極秘捜査はうまくいっていない。
本物が名乗り出ることはない。
【短編】子猫をもふもふしませんか?〜転生したら、子猫でした。私が国を救う!
碧井 汐桜香
ファンタジー
子猫の私は、おかあさんと兄弟たちと“かいぬし”に怯えながら、過ごしている。ところが、「柄が悪い」という理由で捨てられ、絶体絶命の大ピンチ。そんなときに、陛下と呼ばれる人間たちに助けられた。連れていかれた先は、王城だった!?
「伝わって! よく見てこれ! 後ろから攻められたら終わるでしょ!?」前世の知識を使って、私は国を救う。
そんなとき、“かいぬし”が猫グッズを売りにきた。絶対に許さないにゃ!
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
レイブン領の面倒姫
庭にハニワ
ファンタジー
兄の学院卒業にかこつけて、初めて王都に行きました。
初対面の人に、いきなり婚約破棄されました。
私はまだ婚約などしていないのですが、ね。
あなた方、いったい何なんですか?
初投稿です。
ヨロシクお願い致します~。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる