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第七章 秘伝と任されたもの
413 お手上げです
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土地神の問題は、文化祭の前にやるべきだとの判断は、首領達も同意していた。そして、今日の会合で結論が出る。
伊調が頷きながら告げた。
「わたくしも確認して参りましたが、やはり、楽の奉納前にはやるべきでしょう」
今回の会合には、首領だけでなく、伊調や清掃部隊の代表なども参加していた。関係者である律音もだ。
「この子も、楽譜の作成に苦戦しているようですからね」
律音は、音をまとめるのに、だいぶん苦戦しているようだった。一応は上がった楽譜だが、どうしても違和感があり、完成にはまだ時間がかかりそうなのだ。
「未熟で申し訳ありません……」
少し泣きそうになっているのは悔しいからだろう。これに高耶が口を挟んだ。どうも、律音が誤解しているように感じたからだ。
「かなりくぐもって聞こえますからね。楽譜を見ましたが、大枠を捉えられただけでもよくやっているなと思います」
「っ……」
「そうですねえ。あれだけ音が濁っていては、難しいのも当たり前です。良い機会です。一族の者にも聞かせようと思います」
「……え……」
「律音はよくやれてる」
「そうですねえ」
「あ、ありがとう、ございますっ」
伊調は仕事に厳しい。だから律音は、聞き取れていないことを責められると思ったようだ。しかし、伊調も、自分が出来ないことを他人に押し付けるような理不尽をする人ではない。
「そうなると……どこから手をつければいいかなあ」
「ほんになあ。似たような前例もあらへんし……」
蓮次郎も焔泉も頭を抱える。困ったというのが正直な所だ。
「大抵、土地神の力を借りれば何とかなるもんだったが……その土地神が怒り狂ってる。そこに鬼も出るとなると……マジでお手上げだぜ」
「夢で視たんやろ? どないやったん?」
達喜に夢で視たことを聞く焔泉。夢咲の力は夢で未来を視ること。一族の者は、不意に意図せずにいろんな未来を視る。しかし、達喜ならば狙った場所、望んだ者の未来を視ることも可能だ。それも条件まで付けて確認できるので、何パターンか同じ場所の未来を視られるらしい。かなり精神は削るため、よほどの時でないとやらないと言ってはいた。今回は緊急事態だ。
「……いや、だから怒り狂った土地神に、一帯の土地が呪われてヤバかった。一番怒った時は、隣りの土地まで巻き込んで、えらいことに……」
少し顔色が悪くなった。
「それほどですか……」
その顔を見て、伊調が目を丸くしていた。悲惨な未来など視て精神を病む者が夢咲家では数人出る。それに耐えることも修行の一つ。
そんなことにも耐えて来たはずの達喜が顔色を変えるくらいヤバいのだと察せられる。
「ああ。鬼の相手は高耶ができるんだが、俺らじゃ土地神を抑えきれんのだ」
「せやったら、こっちで鬼の方を相手したらどうや?」
「術がほぼ効かんようだったな。橘の結界も壊れまくってたぞ。それで逃げられて終わりだ」
「逃げられるのは困りますねえ」
「夜も眠れんくなるぞ」
「橘の結界も壊すようなやつから身を守るんは無理やろ……」
凶暴な猛獣を野に放つのと変わりない。
「確か、鬼は人を憎んでおるのだったかな」
九童篤久が確認する。目を開けることはないが、こちらを視ているのは感じていた。
「そのようです」
「ならば、野放しにする事は間違ってもすべきではない。夢咲の。我ら全員でも無理か」
今一度の確認だ。これに、達喜は難しい顔をしていた。
「一匹……一体? じゃねえんだよ。俺が視えたのは、三体。だが、それだけじゃなく、あの場に取り込んでいた妖とかがグチャグチャと居てな……まあ、なんだ。手一杯になるんだよ」
「私も視て来ましたが、確かにかなり取り込まれているのは感じましたわ。あの辺りに、常に寄せて吸い込むように……まるで、食虫植物ですわ」
浮岸睦美が暗い顔でそう告げた。
「食虫植物とはまた……やはり見てくるかな」
そう言うのは鐘堂虎徹だ。神楽部隊の上役でもある。
「虎徹さんは、神職の方々との交流で忙しいでしょう」
時刃桂花にそう言われて、虎徹は拗ねたようにそっぽを向く。
「あれらはもうええやろ。ったく、視えるようになった途端に話がしたいだなんだと、連絡して来おって」
「虎徹さん……大人になりましょう」
「ふんっ。二言目には、高耶に会いたいと、ウザくてかなわん!」
「ああ……」
「それは……」
「仕方あるまい」
「知らん! アイツらなんてもう知らんわ!」
完全に拗ねているようだ。虎徹は、神楽部隊のためにもと、神職の家系の伝手を使って、今までも渡りをつけていた。少しでも理解してもらうことが、神にとっても良い結果になる。それを信じてやってきた。
だが、長年、それが身を結ぶことはなかったのだ。視えない者と視える者との間には、本当に越え難いものがあるのだから。それを理解しながらも、努力してきた虎徹からすれば『ふざけんじゃねえ!』と言いたくもなる状況だった。
「すみません……」
高耶が謝りたくなるのも仕方がない。これに、虎徹はバツが悪そうな顔で答える。
「お前ぇは悪くねえよ。寧ろ、ようやく次に進める。まあ、あっさり掌返ししやがったアイツらは気に入らんけどなっ」
「はい……ですが、あちらとの窓口になっていただけるのはありがたいです」
「っ……おう。任せとけっ」
「はい」
機嫌は直ったようだ。
「こういうのが、御当主のすごいところですねえ」
「高耶君って、本当に……」
「もうね。年上キラーなのは、おじいちゃんとおばあちゃんがアレな時点でわかってるんだけどねえ」
「まんまとなあ。ウチも人の事は言えへんけど」
「小遣いやりたくなるじじいの気持ちが分かるぜ」
「「「「「あー」」」」」
妙な同感を得る一同など知らず、高耶は虎徹と神職の者達の見学についての話を検討していた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
伊調が頷きながら告げた。
「わたくしも確認して参りましたが、やはり、楽の奉納前にはやるべきでしょう」
今回の会合には、首領だけでなく、伊調や清掃部隊の代表なども参加していた。関係者である律音もだ。
「この子も、楽譜の作成に苦戦しているようですからね」
律音は、音をまとめるのに、だいぶん苦戦しているようだった。一応は上がった楽譜だが、どうしても違和感があり、完成にはまだ時間がかかりそうなのだ。
「未熟で申し訳ありません……」
少し泣きそうになっているのは悔しいからだろう。これに高耶が口を挟んだ。どうも、律音が誤解しているように感じたからだ。
「かなりくぐもって聞こえますからね。楽譜を見ましたが、大枠を捉えられただけでもよくやっているなと思います」
「っ……」
「そうですねえ。あれだけ音が濁っていては、難しいのも当たり前です。良い機会です。一族の者にも聞かせようと思います」
「……え……」
「律音はよくやれてる」
「そうですねえ」
「あ、ありがとう、ございますっ」
伊調は仕事に厳しい。だから律音は、聞き取れていないことを責められると思ったようだ。しかし、伊調も、自分が出来ないことを他人に押し付けるような理不尽をする人ではない。
「そうなると……どこから手をつければいいかなあ」
「ほんになあ。似たような前例もあらへんし……」
蓮次郎も焔泉も頭を抱える。困ったというのが正直な所だ。
「大抵、土地神の力を借りれば何とかなるもんだったが……その土地神が怒り狂ってる。そこに鬼も出るとなると……マジでお手上げだぜ」
「夢で視たんやろ? どないやったん?」
達喜に夢で視たことを聞く焔泉。夢咲の力は夢で未来を視ること。一族の者は、不意に意図せずにいろんな未来を視る。しかし、達喜ならば狙った場所、望んだ者の未来を視ることも可能だ。それも条件まで付けて確認できるので、何パターンか同じ場所の未来を視られるらしい。かなり精神は削るため、よほどの時でないとやらないと言ってはいた。今回は緊急事態だ。
「……いや、だから怒り狂った土地神に、一帯の土地が呪われてヤバかった。一番怒った時は、隣りの土地まで巻き込んで、えらいことに……」
少し顔色が悪くなった。
「それほどですか……」
その顔を見て、伊調が目を丸くしていた。悲惨な未来など視て精神を病む者が夢咲家では数人出る。それに耐えることも修行の一つ。
そんなことにも耐えて来たはずの達喜が顔色を変えるくらいヤバいのだと察せられる。
「ああ。鬼の相手は高耶ができるんだが、俺らじゃ土地神を抑えきれんのだ」
「せやったら、こっちで鬼の方を相手したらどうや?」
「術がほぼ効かんようだったな。橘の結界も壊れまくってたぞ。それで逃げられて終わりだ」
「逃げられるのは困りますねえ」
「夜も眠れんくなるぞ」
「橘の結界も壊すようなやつから身を守るんは無理やろ……」
凶暴な猛獣を野に放つのと変わりない。
「確か、鬼は人を憎んでおるのだったかな」
九童篤久が確認する。目を開けることはないが、こちらを視ているのは感じていた。
「そのようです」
「ならば、野放しにする事は間違ってもすべきではない。夢咲の。我ら全員でも無理か」
今一度の確認だ。これに、達喜は難しい顔をしていた。
「一匹……一体? じゃねえんだよ。俺が視えたのは、三体。だが、それだけじゃなく、あの場に取り込んでいた妖とかがグチャグチャと居てな……まあ、なんだ。手一杯になるんだよ」
「私も視て来ましたが、確かにかなり取り込まれているのは感じましたわ。あの辺りに、常に寄せて吸い込むように……まるで、食虫植物ですわ」
浮岸睦美が暗い顔でそう告げた。
「食虫植物とはまた……やはり見てくるかな」
そう言うのは鐘堂虎徹だ。神楽部隊の上役でもある。
「虎徹さんは、神職の方々との交流で忙しいでしょう」
時刃桂花にそう言われて、虎徹は拗ねたようにそっぽを向く。
「あれらはもうええやろ。ったく、視えるようになった途端に話がしたいだなんだと、連絡して来おって」
「虎徹さん……大人になりましょう」
「ふんっ。二言目には、高耶に会いたいと、ウザくてかなわん!」
「ああ……」
「それは……」
「仕方あるまい」
「知らん! アイツらなんてもう知らんわ!」
完全に拗ねているようだ。虎徹は、神楽部隊のためにもと、神職の家系の伝手を使って、今までも渡りをつけていた。少しでも理解してもらうことが、神にとっても良い結果になる。それを信じてやってきた。
だが、長年、それが身を結ぶことはなかったのだ。視えない者と視える者との間には、本当に越え難いものがあるのだから。それを理解しながらも、努力してきた虎徹からすれば『ふざけんじゃねえ!』と言いたくもなる状況だった。
「すみません……」
高耶が謝りたくなるのも仕方がない。これに、虎徹はバツが悪そうな顔で答える。
「お前ぇは悪くねえよ。寧ろ、ようやく次に進める。まあ、あっさり掌返ししやがったアイツらは気に入らんけどなっ」
「はい……ですが、あちらとの窓口になっていただけるのはありがたいです」
「っ……おう。任せとけっ」
「はい」
機嫌は直ったようだ。
「こういうのが、御当主のすごいところですねえ」
「高耶君って、本当に……」
「もうね。年上キラーなのは、おじいちゃんとおばあちゃんがアレな時点でわかってるんだけどねえ」
「まんまとなあ。ウチも人の事は言えへんけど」
「小遣いやりたくなるじじいの気持ちが分かるぜ」
「「「「「あー」」」」」
妙な同感を得る一同など知らず、高耶は虎徹と神職の者達の見学についての話を検討していた。
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