秘伝賜ります

紫南

文字の大きさ
417 / 463
第七章 秘伝と任されたもの

417 ちょっとしたもの

しおりを挟む
秀一やその取り巻きというか、本家筋の者達がここに来たのは、きちんと将也に頭を下げるためというのが一番の理由だったようだ。

勇一がそれを見届けていた。将也が充雪と二人で訓練を眺めていたのはそうして呼ばれたからだった。

将也は性格的にもあっさりしているため、頭を下げられ、本気で反省している様子が見られたことで、許したようだ。その前に充雪からの厳しい稽古で死にそうになっているのも見ていたため、既に溜飲は下がりきっていた。そんな様子を、高耶は離れて見ているだけだった。

休憩の時間になり、勇一が高耶に問いかけた。

「当主は……父達を許せるのですか……父親を殺されたのに……」
「……そうだな。確かに、俺は父親を奪われた。その怒りは俺のものではある。けど……俺が一番許せなかったのは、ガキだった俺だ。守れると驕った……守れなかった俺だ。もちろん、あいつらを一発殴ってやりたいとは思ってたけどな」
「……」

確かに、少し前までは憎かった。色々と邪魔をしてくるのも鬱陶しくて、腹が立っていたのも本当だ。

「怨み続けるって、結構大変なんだよ。けど……時ってのは人にとっては最高の恩恵だ。憎しみでもなんでも、薄れていくし、人は楽な方に流れたがる。だから、ずっと怨み続ける辛さからも逃げたくなるものだ」

母、美咲は事故だったということで、悲しみは持っていても、怨みを抱くことはなかった。だから、母親にも本当はただの事故ではなく、半分は仕組まれたものだということは言わなかった。よって、高耶は憎しみを外に出すことはできなかったというのもある。

「俺たちは、霊とも関わる。そうすると、恨みを持ち続けているものにも会う。それが幸いするというか……ああはなりたくないって思うとな……」
「あ……」

醜く、憎しみ続ける怨霊を相手にしていると、虚しくなってくるのだ。

「思ったことないか? 『忘れれば良いのに』って。『ここに居たって変わらないのに』ってさ」
「……思います。恨むなんて、時間の無駄だろうって……そう、説得したりします……」
「な? それがあるとさ。本気で怒って良いのは父さんだけど、その父さんもあんな怨霊みたいにはしたくない。なってほしくない。そう思うとさ……バカらしくなった」
「……」

一発殴りたいと言う気持ちは残っていた。それは、気持ち的なものだ。ケジメというか、区切りをつけたいと思っているからだと自覚していた。

「父さんが怨霊になってないのは分かってた。なら、父さんは別に怒ってないだろう。本人がまあ良いと思ってるなら仕方ない。恨むような問題は本人達が死んだらお終い。それを後世に引き摺るのはただの言い掛かりで、暇人のすることだ」
「……」

これは、術者として怨霊と対峙する者だからこそ、出来る心の整理だろう。死んだ人が恨んでいたかどうかなんて、普通の人は分からない。確実に分からないなら勝手な推測でしかないだろう。けれど、高耶達のような術者は知ることができる。その違いは大きい。

「そう、俺は結論付けた。もちろん、この場合の加害者には、生きてる内に猛省して欲しいけどな。間接的に、結果的に死んだのであって、自分で手を汚してないから罪の意識は持ちにくいかもだけど、まあそこはチクチクとじわじわと? 後ろから突つき続けてやってもいいかなとは思うけどな」
「……や、やっても良いと思います……」
「うん。まあ、被害者家族としてはやっておきたい。死ぬまでな。こっちに恨みが来ない程度を見極めてだけど」
「大事なことですね……」

勇一としては父親に対してなので少し複雑だが、これが高耶の本心かなとも思えたので、嬉しくも思っていた。

「だろ? 復讐の連鎖とか巻き込まれる方は迷惑極まりないからな。だからちょっとバレないように呪いの試し打ちをしてるんだよ」
「…………え?」
「大丈夫だ。小さいやつだから。呪詛まではいかないから返しもない。ちょっと不幸というか、不運になるだけのやつ。本家の書庫から出てきてさあ」
「……あの書庫から……」

勇一は、ちょっとニヤケそうになる。思い出すのは書庫の奥にある付喪神達の楽園だ。口元を押さえてニヤケるのを防ぐ勇一の隣りで、高耶は構わず続けていた。

「最初は、吹き虫の退治目的だからと言って、いじめられる側にならないといけない子ども達がかわいそうだなと思ったからなんだがな」
「……はあ……」

統二の学校に顔を出すようになって、そうしたことを高耶は思っていた。やはり、クラスに一人は馴染めない子が居るようなのだ。それを見て、音一族の者達や連盟所属の者達を不憫に思った。

学生時代は、きっと一番楽しい時期のはずだ。そして、生涯の友人を見つけられる機会でもある。大人になってからでは、本当に友達と言える者に出会える機会は少なくなる。

口にはしないが、それが高耶にとっては俊哉だ。きっと長く付き合える貴重な友人になるだろう。意図的にとはいえ、そんな友人を作る輪に入れないのだ。ただでさえ、理解されないことも多い業界にそれ以降も身を置く事になる。少しは楽しんで欲しいと思うのは、人生の先輩としてのものだった。

「それで、その心が少しでも軽くなるなら、これくらいのは練習にもなるし良いんじゃないかと」

その試し撃ちを秀一や、本家の関係の者にしていたということだ。

「……ど、どんなものなのでしょうか……」
「物の角に手や足をぶつけやすくなるとか」
「……あ……」

勇一は、秀一を見て思い当たる。

「ささくれができやすくなるとか」
「……なっ……てました……」

地味に痛がっていたのを見たらしい。

「あと、やたらと小銭を落とすとか」
「……確かに、ばら撒いていた気が……」

レジ前でやられると少し迷惑だ。できれば自販機の前にして欲しい。

「髭が伸びやすくなるってのもあったな」
「……ああ……」

しきりに首を傾げながら、朝、昼、晩と剃っていた気がすると、勇一は目を泳がせた。

「あとは……」
「まだあるんですか!?」
「いや。やろうと思ってやめたのも多くてさ。ほら、甘い物が感じなくなるとかだと、病気を疑うだろ?」
「それはそうですね」
「そこまで行ったらダメだろ? 医者に迷惑がかかる」
「あ、はい……」
「あくまでも他人に迷惑をかけない程度がいいからさ。声が高いのしか出なくなるとかも医者行くだろ」
「……はい……」
「それだとダメなんだよな~」
「……医者に行かせるのを思い留まらせますので、お好きなように……」
「あ~、じゃあ、気になるの今度試す時に言うわ」
「お願いします……」

勇一は切実に今、その呪いの本の内容が気になっていた。

「そんなのがウチの書庫に……」
「誰の趣味だろうな」
「はい……」

誰が仕入れたのだろうかと勇一は思わずにはいられなかった。もちろん、高耶も不思議に思っている。







**********
読んでくださりありがとうございます◎

しおりを挟む
感想 675

あなたにおすすめの小説

レベル1のフリはやめた。貸した力を全回収

ソラ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ち、ソラ。 彼はレベル1の無能として蔑まれ、魔王討伐を目前に「お前のようなゴミはいらない」と追放を言い渡される。 だが、傲慢な勇者たちは知らなかった。 自分たちが人間最高峰の力を維持できていたのは、すべてソラの規格外のステータスを『借りていた』からだということを。 「……わかった。貸していた力、すべて返してもらうよ」 契約解除。返還されたレベルは9999。 一瞬にして力を失い、ただの凡人へと転落しパニックに陥る勇者たち。 対するソラは、星を砕くほどの万能感を取り戻しながらも、淡々と宿を去る。 静かな隠居を望むソラだったが、路地裏で「才能なし」と虐げられていた少女ミィナを助けたことで、運命が変わり始める。 「借金の利息として、君を最強にしてあげよう」 これは、世界そのものにステータスを貸し付けていた最強の『貸与者』が、不条理な世界を再定義していく物語。 (本作品はAIを活用して構成・執筆しています)

【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません

との
恋愛
第17回恋愛大賞、12位ありがとうございました。そして、奨励賞まで⋯⋯応援してくださった方々皆様に心からの感謝を🤗 「貴様とは婚約破棄だ!」⋯⋯な〜んて、聞き飽きたぁぁ! あちこちでよく見かける『使い古された感のある婚約破棄』騒動が、目の前ではじまったけど、勘違いも甚だしい王子に笑いが止まらない。 断罪劇? いや、珍喜劇だね。 魔力持ちが産まれなくて危機感を募らせた王国から、多くの魔法士が産まれ続ける聖王国にお願いレターが届いて⋯⋯。 留学生として王国にやって来た『婚約者候補』チームのリーダーをしているのは、私ロクサーナ・バーラム。 私はただの引率者で、本当の任務は別だからね。婚約者でも候補でもないのに、珍喜劇の中心人物になってるのは何で? 治癒魔法の使える女性を婚約者にしたい? 隣にいるレベッカはささくれを治せればラッキーな治癒魔法しか使えないけど良いのかな? 聖女に聖女見習い、魔法士に魔法士見習い。私達は国内だけでなく、魔法で外貨も稼いでいる⋯⋯国でも稼ぎ頭の集団です。 我が国で言う聖女って職種だからね、清廉潔白、献身⋯⋯いやいや、ないわ〜。だって魔物の討伐とか行くし? 殺るし? 面倒事はお断りして、さっさと帰るぞぉぉ。 訳あって、『期間限定銭ゲバ聖女⋯⋯ちょくちょく戦闘狂』やってます。いつもそばにいる子達をモフモフ出来るまで頑張りま〜す。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結まで予約投稿済み R15は念の為・・

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

わたしにしか懐かない龍神の子供(?)を拾いました~可愛いんで育てたいと思います

あきた
ファンタジー
明治大正風味のファンタジー恋愛もの。 化物みたいな能力を持ったせいでいじめられていたキイロは、強引に知らない家へ嫁入りすることに。 所が嫁入り先は火事だし、なんか子供を拾ってしまうしで、友人宅へ一旦避難。 親もいなさそうだし子供は私が育てようかな、どうせすぐに離縁されるだろうし。 そう呑気に考えていたキイロ、ところが嫁ぎ先の夫はキイロが行方不明で発狂寸前。 実は夫になる『薄氷の君』と呼ばれる銀髪の軍人、やんごとなき御家柄のしかも軍でも出世頭。 おまけに超美形。その彼はキイロに夢中。どうやら過去になにかあったようなのだが。 そしてその彼は、怒ったらとんでもない存在になってしまって。 ※タイトルはそのうち変更するかもしれません※ ※お気に入り登録お願いします!※

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...