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第七章 秘伝と任されたもの
417 ちょっとしたもの
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秀一やその取り巻きというか、本家筋の者達がここに来たのは、きちんと将也に頭を下げるためというのが一番の理由だったようだ。
勇一がそれを見届けていた。将也が充雪と二人で訓練を眺めていたのはそうして呼ばれたからだった。
将也は性格的にもあっさりしているため、頭を下げられ、本気で反省している様子が見られたことで、許したようだ。その前に充雪からの厳しい稽古で死にそうになっているのも見ていたため、既に溜飲は下がりきっていた。そんな様子を、高耶は離れて見ているだけだった。
休憩の時間になり、勇一が高耶に問いかけた。
「当主は……父達を許せるのですか……父親を殺されたのに……」
「……そうだな。確かに、俺は父親を奪われた。その怒りは俺のものではある。けど……俺が一番許せなかったのは、ガキだった俺だ。守れると驕った……守れなかった俺だ。もちろん、あいつらを一発殴ってやりたいとは思ってたけどな」
「……」
確かに、少し前までは憎かった。色々と邪魔をしてくるのも鬱陶しくて、腹が立っていたのも本当だ。
「怨み続けるって、結構大変なんだよ。けど……時ってのは人にとっては最高の恩恵だ。憎しみでもなんでも、薄れていくし、人は楽な方に流れたがる。だから、ずっと怨み続ける辛さからも逃げたくなるものだ」
母、美咲は事故だったということで、悲しみは持っていても、怨みを抱くことはなかった。だから、母親にも本当はただの事故ではなく、半分は仕組まれたものだということは言わなかった。よって、高耶は憎しみを外に出すことはできなかったというのもある。
「俺たちは、霊とも関わる。そうすると、恨みを持ち続けているものにも会う。それが幸いするというか……ああはなりたくないって思うとな……」
「あ……」
醜く、憎しみ続ける怨霊を相手にしていると、虚しくなってくるのだ。
「思ったことないか? 『忘れれば良いのに』って。『ここに居たって変わらないのに』ってさ」
「……思います。恨むなんて、時間の無駄だろうって……そう、説得したりします……」
「な? それがあるとさ。本気で怒って良いのは父さんだけど、その父さんもあんな怨霊みたいにはしたくない。なってほしくない。そう思うとさ……バカらしくなった」
「……」
一発殴りたいと言う気持ちは残っていた。それは、気持ち的なものだ。ケジメというか、区切りをつけたいと思っているからだと自覚していた。
「父さんが怨霊になってないのは分かってた。なら、父さんは別に怒ってないだろう。本人がまあ良いと思ってるなら仕方ない。恨むような問題は本人達が死んだらお終い。それを後世に引き摺るのはただの言い掛かりで、暇人のすることだ」
「……」
これは、術者として怨霊と対峙する者だからこそ、出来る心の整理だろう。死んだ人が恨んでいたかどうかなんて、普通の人は分からない。確実に分からないなら勝手な推測でしかないだろう。けれど、高耶達のような術者は知ることができる。その違いは大きい。
「そう、俺は結論付けた。もちろん、この場合の加害者には、生きてる内に猛省して欲しいけどな。間接的に、結果的に死んだのであって、自分で手を汚してないから罪の意識は持ちにくいかもだけど、まあそこはチクチクとじわじわと? 後ろから突つき続けてやってもいいかなとは思うけどな」
「……や、やっても良いと思います……」
「うん。まあ、被害者家族としてはやっておきたい。死ぬまでな。こっちに恨みが来ない程度を見極めてだけど」
「大事なことですね……」
勇一としては父親に対してなので少し複雑だが、これが高耶の本心かなとも思えたので、嬉しくも思っていた。
「だろ? 復讐の連鎖とか巻き込まれる方は迷惑極まりないからな。だからちょっとバレないように呪いの試し打ちをしてるんだよ」
「…………え?」
「大丈夫だ。小さいやつだから。呪詛まではいかないから返しもない。ちょっと不幸というか、不運になるだけのやつ。本家の書庫から出てきてさあ」
「……あの書庫から……」
勇一は、ちょっとニヤケそうになる。思い出すのは書庫の奥にある付喪神達の楽園だ。口元を押さえてニヤケるのを防ぐ勇一の隣りで、高耶は構わず続けていた。
「最初は、吹き虫の退治目的だからと言って、いじめられる側にならないといけない子ども達がかわいそうだなと思ったからなんだがな」
「……はあ……」
統二の学校に顔を出すようになって、そうしたことを高耶は思っていた。やはり、クラスに一人は馴染めない子が居るようなのだ。それを見て、音一族の者達や連盟所属の者達を不憫に思った。
学生時代は、きっと一番楽しい時期のはずだ。そして、生涯の友人を見つけられる機会でもある。大人になってからでは、本当に友達と言える者に出会える機会は少なくなる。
口にはしないが、それが高耶にとっては俊哉だ。きっと長く付き合える貴重な友人になるだろう。意図的にとはいえ、そんな友人を作る輪に入れないのだ。ただでさえ、理解されないことも多い業界にそれ以降も身を置く事になる。少しは楽しんで欲しいと思うのは、人生の先輩としてのものだった。
「それで、その心が少しでも軽くなるなら、これくらいのは練習にもなるし良いんじゃないかと」
その試し撃ちを秀一や、本家の関係の者にしていたということだ。
「……ど、どんなものなのでしょうか……」
「物の角に手や足をぶつけやすくなるとか」
「……あ……」
勇一は、秀一を見て思い当たる。
「ささくれができやすくなるとか」
「……なっ……てました……」
地味に痛がっていたのを見たらしい。
「あと、やたらと小銭を落とすとか」
「……確かに、ばら撒いていた気が……」
レジ前でやられると少し迷惑だ。できれば自販機の前にして欲しい。
「髭が伸びやすくなるってのもあったな」
「……ああ……」
しきりに首を傾げながら、朝、昼、晩と剃っていた気がすると、勇一は目を泳がせた。
「あとは……」
「まだあるんですか!?」
「いや。やろうと思ってやめたのも多くてさ。ほら、甘い物が感じなくなるとかだと、病気を疑うだろ?」
「それはそうですね」
「そこまで行ったらダメだろ? 医者に迷惑がかかる」
「あ、はい……」
「あくまでも他人に迷惑をかけない程度がいいからさ。声が高いのしか出なくなるとかも医者行くだろ」
「……はい……」
「それだとダメなんだよな~」
「……医者に行かせるのを思い留まらせますので、お好きなように……」
「あ~、じゃあ、気になるの今度試す時に言うわ」
「お願いします……」
勇一は切実に今、その呪いの本の内容が気になっていた。
「そんなのがウチの書庫に……」
「誰の趣味だろうな」
「はい……」
誰が仕入れたのだろうかと勇一は思わずにはいられなかった。もちろん、高耶も不思議に思っている。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
勇一がそれを見届けていた。将也が充雪と二人で訓練を眺めていたのはそうして呼ばれたからだった。
将也は性格的にもあっさりしているため、頭を下げられ、本気で反省している様子が見られたことで、許したようだ。その前に充雪からの厳しい稽古で死にそうになっているのも見ていたため、既に溜飲は下がりきっていた。そんな様子を、高耶は離れて見ているだけだった。
休憩の時間になり、勇一が高耶に問いかけた。
「当主は……父達を許せるのですか……父親を殺されたのに……」
「……そうだな。確かに、俺は父親を奪われた。その怒りは俺のものではある。けど……俺が一番許せなかったのは、ガキだった俺だ。守れると驕った……守れなかった俺だ。もちろん、あいつらを一発殴ってやりたいとは思ってたけどな」
「……」
確かに、少し前までは憎かった。色々と邪魔をしてくるのも鬱陶しくて、腹が立っていたのも本当だ。
「怨み続けるって、結構大変なんだよ。けど……時ってのは人にとっては最高の恩恵だ。憎しみでもなんでも、薄れていくし、人は楽な方に流れたがる。だから、ずっと怨み続ける辛さからも逃げたくなるものだ」
母、美咲は事故だったということで、悲しみは持っていても、怨みを抱くことはなかった。だから、母親にも本当はただの事故ではなく、半分は仕組まれたものだということは言わなかった。よって、高耶は憎しみを外に出すことはできなかったというのもある。
「俺たちは、霊とも関わる。そうすると、恨みを持ち続けているものにも会う。それが幸いするというか……ああはなりたくないって思うとな……」
「あ……」
醜く、憎しみ続ける怨霊を相手にしていると、虚しくなってくるのだ。
「思ったことないか? 『忘れれば良いのに』って。『ここに居たって変わらないのに』ってさ」
「……思います。恨むなんて、時間の無駄だろうって……そう、説得したりします……」
「な? それがあるとさ。本気で怒って良いのは父さんだけど、その父さんもあんな怨霊みたいにはしたくない。なってほしくない。そう思うとさ……バカらしくなった」
「……」
一発殴りたいと言う気持ちは残っていた。それは、気持ち的なものだ。ケジメというか、区切りをつけたいと思っているからだと自覚していた。
「父さんが怨霊になってないのは分かってた。なら、父さんは別に怒ってないだろう。本人がまあ良いと思ってるなら仕方ない。恨むような問題は本人達が死んだらお終い。それを後世に引き摺るのはただの言い掛かりで、暇人のすることだ」
「……」
これは、術者として怨霊と対峙する者だからこそ、出来る心の整理だろう。死んだ人が恨んでいたかどうかなんて、普通の人は分からない。確実に分からないなら勝手な推測でしかないだろう。けれど、高耶達のような術者は知ることができる。その違いは大きい。
「そう、俺は結論付けた。もちろん、この場合の加害者には、生きてる内に猛省して欲しいけどな。間接的に、結果的に死んだのであって、自分で手を汚してないから罪の意識は持ちにくいかもだけど、まあそこはチクチクとじわじわと? 後ろから突つき続けてやってもいいかなとは思うけどな」
「……や、やっても良いと思います……」
「うん。まあ、被害者家族としてはやっておきたい。死ぬまでな。こっちに恨みが来ない程度を見極めてだけど」
「大事なことですね……」
勇一としては父親に対してなので少し複雑だが、これが高耶の本心かなとも思えたので、嬉しくも思っていた。
「だろ? 復讐の連鎖とか巻き込まれる方は迷惑極まりないからな。だからちょっとバレないように呪いの試し打ちをしてるんだよ」
「…………え?」
「大丈夫だ。小さいやつだから。呪詛まではいかないから返しもない。ちょっと不幸というか、不運になるだけのやつ。本家の書庫から出てきてさあ」
「……あの書庫から……」
勇一は、ちょっとニヤケそうになる。思い出すのは書庫の奥にある付喪神達の楽園だ。口元を押さえてニヤケるのを防ぐ勇一の隣りで、高耶は構わず続けていた。
「最初は、吹き虫の退治目的だからと言って、いじめられる側にならないといけない子ども達がかわいそうだなと思ったからなんだがな」
「……はあ……」
統二の学校に顔を出すようになって、そうしたことを高耶は思っていた。やはり、クラスに一人は馴染めない子が居るようなのだ。それを見て、音一族の者達や連盟所属の者達を不憫に思った。
学生時代は、きっと一番楽しい時期のはずだ。そして、生涯の友人を見つけられる機会でもある。大人になってからでは、本当に友達と言える者に出会える機会は少なくなる。
口にはしないが、それが高耶にとっては俊哉だ。きっと長く付き合える貴重な友人になるだろう。意図的にとはいえ、そんな友人を作る輪に入れないのだ。ただでさえ、理解されないことも多い業界にそれ以降も身を置く事になる。少しは楽しんで欲しいと思うのは、人生の先輩としてのものだった。
「それで、その心が少しでも軽くなるなら、これくらいのは練習にもなるし良いんじゃないかと」
その試し撃ちを秀一や、本家の関係の者にしていたということだ。
「……ど、どんなものなのでしょうか……」
「物の角に手や足をぶつけやすくなるとか」
「……あ……」
勇一は、秀一を見て思い当たる。
「ささくれができやすくなるとか」
「……なっ……てました……」
地味に痛がっていたのを見たらしい。
「あと、やたらと小銭を落とすとか」
「……確かに、ばら撒いていた気が……」
レジ前でやられると少し迷惑だ。できれば自販機の前にして欲しい。
「髭が伸びやすくなるってのもあったな」
「……ああ……」
しきりに首を傾げながら、朝、昼、晩と剃っていた気がすると、勇一は目を泳がせた。
「あとは……」
「まだあるんですか!?」
「いや。やろうと思ってやめたのも多くてさ。ほら、甘い物が感じなくなるとかだと、病気を疑うだろ?」
「それはそうですね」
「そこまで行ったらダメだろ? 医者に迷惑がかかる」
「あ、はい……」
「あくまでも他人に迷惑をかけない程度がいいからさ。声が高いのしか出なくなるとかも医者行くだろ」
「……はい……」
「それだとダメなんだよな~」
「……医者に行かせるのを思い留まらせますので、お好きなように……」
「あ~、じゃあ、気になるの今度試す時に言うわ」
「お願いします……」
勇一は切実に今、その呪いの本の内容が気になっていた。
「そんなのがウチの書庫に……」
「誰の趣味だろうな」
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誰が仕入れたのだろうかと勇一は思わずにはいられなかった。もちろん、高耶も不思議に思っている。
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