45 / 477
第一章 秘伝のお仕事
045 こちらにお願いを
2018. 4. 4
**********
山から下り、次に向かったのは清雅家だ。神楽部隊の報告によれば、泉一郎も、救急車で運ばれた花代という女性も戻ってきているらしい。
階段を上り、門をくぐると、縁側でお茶を飲んでいる泉一郎と目が合った。
「高耶君!」
「こんにちは。お加減はいかがですか?」
「ああ。花代も少し眠そうだが、もうなんともないよ」
「それは良かった」
泉一郎の義理の娘で、麻衣子の母である花代は、鬼渡によって血を抜かれていた。鬼の復活には、女の血を使うらしい。もう少し高耶の処置が遅ければ、脳への影響もあっただろう。危なかった。
しかし、病院で輸血も受け、状態は安定したという。その前に陰陽術を使ったのだ。高耶が術を施したことで、体の細胞が活性化されていた。お陰で一日もせずに戻って来られたということだ。
高耶の声を聞き、麻衣子と花代、それと昨日見た青年が家の奥からやってきた。
「まぁまぁ。いらっしゃい。昨日はありがとう。助けてくれたと聞きました」
花代が丁寧に頭を下げる。
「いえ。ご無事で良かった。あまり無理はなさらないでくださいね」
「はい。あ、お茶をお淹れしますね」
「お構いなく」
すぐに奥へと消えてしまった花代。動きから見れば、本当に何ともないようだ。
血を抜かれたと言っても、吸血鬼のような首に歯を立てるような状況ではない。恐らく、手を当てたくらいだろう。怖い思いをしなかった分、回復は早い。
次に話しかけてきたのは、青年の方だった。
「あの……清雅優一郎といいます。母と祖父、妹を助けてくださりありがとうございました」
真面目そうな青年だ。けれど、勉強ばかりではなく、普段から体も動かしているのだろう。背が高く、引き締まった体をしていた。
「祖父から話を聞きました……秘伝の方だと」
「すまんなぁ。高耶君。若いのにこやつらは頭が固くてな」
「ここでのことは終わりましたので、構いませんよ」
麻衣子から鬼渡の女に高耶の情報が漏れるのを防ぎたかっただけだ。鬼とも決着が着いた今、隠す必要はない。
「武術に関わる家の者なら、秘伝家の話は知っています。はっきり言って、昨日まではただの迷信だと思っていましたが……」
迷信と言われても仕方がないと高耶も思っている。秘伝家自体があるかどうか怪しいと思うはずだ。
全ての秘術、秘伝を解き明かし、修めた一族など信じられるわけがない。実際、全てを修めたのは当主一人だけなのだから、一族という時点で違うのだが、そこは言わないでおく。
「当然の認識ですよ」
高耶も笑って許す。これに、優一郎は苦笑を返した。
「あのようなものを見せられて、迷信などとは思えなくなりました。祖父を襲う黒い影も、母を倒して笑っていた少女と、その場からかき消えた妹を見たんですから……」
表情を力無い笑みへと変えた優一郎は、肩を落とし、座り込んだ。
「本当に、助けていただいたこと、感謝しております」
綺麗に正座した優一郎はそのまま額を床に付けていた。
「本当に良いんですよ。こちらとしても、事態を想定できなかったのですから」
そう話していると花代がお茶を持って戻ってくる。
「優一郎、高耶さんも困っていますから。さぁ、お茶をどうぞ」
「ありがとうございます」
「お饅頭もね」
「嬉しいです。すみません、また手ぶらできてしまって」
仕事のついでに寄ったとはいえ、こうしてお茶を出されることも想定していなかったとはいえない。手土産の一つも用意しておくんだったと後悔する。
「いえいえ。来てくださるだけで。それと……なんだか後ろにキラキラしたものが見えるのですけど?」
「そうだ、ずっと気になっていたんだが」
どうやら、花代と泉一郎には見えるようだ。
「ああ。見えるのですね。その、少々頼みごとをと思いまして……お前達」
高耶の後ろ。それも足元だ。そこに、声をかけると、真っ白な仔犬が二匹現れる。
「ほぉっ」
「まぁっ。可愛いっ」
「どこから……」
「っ!?」
泉一郎は感心したように。花代は飛び上がるように喜び、優一郎とここまで口を一切開かない麻衣子が驚きに目を見張る。
「……高耶君。まさか……狛犬かい?」
泉一郎には、二匹から溢れる神気を感じられたのだろう。
「ええ、そうです。山神から預かってきました」
昔、山神の神社にも神使としての狛犬がいた。しかし、鬼の封印に集中するために力を使い、次第に力を供給できなくなり、消えてしまったという。新たに神使をと思ってはいたようだが、鬼の反撃によって山神の隙を見て神木を燃やされてしまった。
そこでまた力を削られ、神楽は消え、神使にまで手が回らなかったのだ。
「山神はまだ本調子ではありませんが、いつまでも神使不在では土地も安定しませんので、こうして生まれたばかりの神使をこちらで育てていただけないかと」
「い、いや、それは神社の方が良いのでは?」
泉一郎が言うのも、もっともだが、少し離して別口で育てる方が効率が良いのだ。
「あちらで育てるとなると、結局は山神の力を使うことになります。なので、あまり離れ過ぎず、近過ぎない別の場所でという事でこちらを推薦させていただきました」
笑って押し切る気満々の高耶だ。
《くぅ~ん》
《くぅ?》
「「「「っ!?」」」」
こくんと小さな首を傾げてお座りをする仔犬達は、無駄に可愛らしい。悩殺完了だ。
**********
山から下り、次に向かったのは清雅家だ。神楽部隊の報告によれば、泉一郎も、救急車で運ばれた花代という女性も戻ってきているらしい。
階段を上り、門をくぐると、縁側でお茶を飲んでいる泉一郎と目が合った。
「高耶君!」
「こんにちは。お加減はいかがですか?」
「ああ。花代も少し眠そうだが、もうなんともないよ」
「それは良かった」
泉一郎の義理の娘で、麻衣子の母である花代は、鬼渡によって血を抜かれていた。鬼の復活には、女の血を使うらしい。もう少し高耶の処置が遅ければ、脳への影響もあっただろう。危なかった。
しかし、病院で輸血も受け、状態は安定したという。その前に陰陽術を使ったのだ。高耶が術を施したことで、体の細胞が活性化されていた。お陰で一日もせずに戻って来られたということだ。
高耶の声を聞き、麻衣子と花代、それと昨日見た青年が家の奥からやってきた。
「まぁまぁ。いらっしゃい。昨日はありがとう。助けてくれたと聞きました」
花代が丁寧に頭を下げる。
「いえ。ご無事で良かった。あまり無理はなさらないでくださいね」
「はい。あ、お茶をお淹れしますね」
「お構いなく」
すぐに奥へと消えてしまった花代。動きから見れば、本当に何ともないようだ。
血を抜かれたと言っても、吸血鬼のような首に歯を立てるような状況ではない。恐らく、手を当てたくらいだろう。怖い思いをしなかった分、回復は早い。
次に話しかけてきたのは、青年の方だった。
「あの……清雅優一郎といいます。母と祖父、妹を助けてくださりありがとうございました」
真面目そうな青年だ。けれど、勉強ばかりではなく、普段から体も動かしているのだろう。背が高く、引き締まった体をしていた。
「祖父から話を聞きました……秘伝の方だと」
「すまんなぁ。高耶君。若いのにこやつらは頭が固くてな」
「ここでのことは終わりましたので、構いませんよ」
麻衣子から鬼渡の女に高耶の情報が漏れるのを防ぎたかっただけだ。鬼とも決着が着いた今、隠す必要はない。
「武術に関わる家の者なら、秘伝家の話は知っています。はっきり言って、昨日まではただの迷信だと思っていましたが……」
迷信と言われても仕方がないと高耶も思っている。秘伝家自体があるかどうか怪しいと思うはずだ。
全ての秘術、秘伝を解き明かし、修めた一族など信じられるわけがない。実際、全てを修めたのは当主一人だけなのだから、一族という時点で違うのだが、そこは言わないでおく。
「当然の認識ですよ」
高耶も笑って許す。これに、優一郎は苦笑を返した。
「あのようなものを見せられて、迷信などとは思えなくなりました。祖父を襲う黒い影も、母を倒して笑っていた少女と、その場からかき消えた妹を見たんですから……」
表情を力無い笑みへと変えた優一郎は、肩を落とし、座り込んだ。
「本当に、助けていただいたこと、感謝しております」
綺麗に正座した優一郎はそのまま額を床に付けていた。
「本当に良いんですよ。こちらとしても、事態を想定できなかったのですから」
そう話していると花代がお茶を持って戻ってくる。
「優一郎、高耶さんも困っていますから。さぁ、お茶をどうぞ」
「ありがとうございます」
「お饅頭もね」
「嬉しいです。すみません、また手ぶらできてしまって」
仕事のついでに寄ったとはいえ、こうしてお茶を出されることも想定していなかったとはいえない。手土産の一つも用意しておくんだったと後悔する。
「いえいえ。来てくださるだけで。それと……なんだか後ろにキラキラしたものが見えるのですけど?」
「そうだ、ずっと気になっていたんだが」
どうやら、花代と泉一郎には見えるようだ。
「ああ。見えるのですね。その、少々頼みごとをと思いまして……お前達」
高耶の後ろ。それも足元だ。そこに、声をかけると、真っ白な仔犬が二匹現れる。
「ほぉっ」
「まぁっ。可愛いっ」
「どこから……」
「っ!?」
泉一郎は感心したように。花代は飛び上がるように喜び、優一郎とここまで口を一切開かない麻衣子が驚きに目を見張る。
「……高耶君。まさか……狛犬かい?」
泉一郎には、二匹から溢れる神気を感じられたのだろう。
「ええ、そうです。山神から預かってきました」
昔、山神の神社にも神使としての狛犬がいた。しかし、鬼の封印に集中するために力を使い、次第に力を供給できなくなり、消えてしまったという。新たに神使をと思ってはいたようだが、鬼の反撃によって山神の隙を見て神木を燃やされてしまった。
そこでまた力を削られ、神楽は消え、神使にまで手が回らなかったのだ。
「山神はまだ本調子ではありませんが、いつまでも神使不在では土地も安定しませんので、こうして生まれたばかりの神使をこちらで育てていただけないかと」
「い、いや、それは神社の方が良いのでは?」
泉一郎が言うのも、もっともだが、少し離して別口で育てる方が効率が良いのだ。
「あちらで育てるとなると、結局は山神の力を使うことになります。なので、あまり離れ過ぎず、近過ぎない別の場所でという事でこちらを推薦させていただきました」
笑って押し切る気満々の高耶だ。
《くぅ~ん》
《くぅ?》
「「「「っ!?」」」」
こくんと小さな首を傾げてお座りをする仔犬達は、無駄に可愛らしい。悩殺完了だ。
あなたにおすすめの小説
聖力を奪われたので、まぁいいかと力を上げたら文字通り弾け跳んだ話
ラララキヲ
ファンタジー
私は先代聖女様に見つけられて聖女になった。その時から村から出て王都の教会で暮らしている。
聖女は代々王族と縁付く決まりがあり、歴代で初となる『平民』の聖女の私ですら王族の婚約者にされてしまった。そのことに一番反対したのは婚約者に選ばれた第二王子様。
そしてそんな私の元に同じ村出身で『自称私の親友』と言い張る女が押しかけて来た。
なんだか周りが面倒臭いけど、何を言われようとも『私が聖女なのは変わらない』ので問題ないです。
◇テンプレ聖女モノ。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇なろうにも上げる予定です。
うちのパーティーのリーダーが勇者一行の仲間だと神託が下ったらしい
東稔 雨紗霧
ファンタジー
とある冒険者パーティーのリーダーが神託により勇者一行に指名された。
明日から居なくなる彼を祝ってパーティーメンバー達は送別会を開く事にした。
【完結済】25年目の厄災
紫
恋愛
生まれてこの方、ずっと陽もささない地下牢に繋がれて、魔力を吸い出されている。どうやら生まれながらの罪人らしいが、自分に罪の記憶はない。
だが、明日……25歳の誕生日の朝には斬首されるのだそうだ。もう何もかもに疲れ果てた彼女に届いたのは……
25周年記念に、サクッと思い付きで書いた短編なので、これまで以上に拙いものですが、お暇潰しにでも読んで頂けたら嬉しいです。
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。
※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。
※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。
※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。
※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。
※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。
※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。
幼馴染パーティーから追放された冒険者~所持していたユニークスキルは限界突破でした~レベル1から始まる成り上がりストーリー
すもも太郎
ファンタジー
この世界は個人ごとにレベルの上限が決まっていて、それが本人の資質として死ぬまで変えられません。(伝説の勇者でレベル65)
主人公テイジンは能力を封印されて生まれた。それはレベルキャップ1という特大のハンデだったが、それ故に幼馴染パーティーとの冒険によって莫大な経験値を積み上げる事が出来ていた。(ギャップボーナス最大化状態)
しかし、レベルは1から一切上がらないまま、免許の更新期限が過ぎてギルドを首になり絶望する。
命を投げ出す決意で訪れた死と再生の洞窟でテイジンの封印が解け、ユニークスキル”限界突破”を手にする。その後、自分の力を知らず知らずに発揮していき、周囲を驚かせながらも一人旅をつづけようとするが‥‥
※1話1500文字くらいで書いております
転生したら魔王の乳母だったので、全力で育児をします!
氷桜 零
ファンタジー
日本のブラック企業で過労死した主人公・ミリア。
気がつけば、魔族として異世界転生していた。
魔王城にて、災害級のギャン泣きベビーである生後3ヶ月の魔王ルシエルと遭遇。
保育士経験を活かして抱っこした瞬間、暴走魔力が静まり、全魔族が驚愕。
即座に「魔王の乳母」に任命され、育児を全面的に任されることに!?
神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>
ラララキヲ
ファンタジー
フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。
それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。
彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。
そしてフライアルド聖国の歴史は動く。
『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……
神「プンスコ(`3´)」
!!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!!
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇ちょっと【恋愛】もあるよ!
◇なろうにも上げてます。
解雇されたけど実は優秀だったという、よくあるお話。
シグマ
ファンタジー
突如、所属している冒険者パーティー[ゴバスト]を解雇されたサポーターのマルコ。しかし普通のサポート職以上の働きをしていたマルコが離脱した後のパーティーは凋落の一途を辿る。そしてその影響はギルドにまでおよび……
いわゆる追放物の短編作品です。
起承転結にまとめることを意識しましたが、上手く『ざまぁ』出来たか分かりません。どちらかと言えば、『覆水盆に返らず』の方がしっくりくるかも……
サクッと読んで頂ければ幸いです。
※思っていた以上の方に読んで頂けたので、感謝を込めて当初の予定を越える文量で後日談を追記しました。ただ大団円で終わってますので、『ざまぁ』を求めている人は見ない方が良いかもしれません。