聖人様は自重せずに人生を楽しみます!◀︎ですので、拝まないでもらえます?

紫南

文字の大きさ
55 / 70
第一章

055 避難……

領主達、騎士団が再び出撃していった。傭兵達も召集されたということで、住民達も只事ではないと感じている。

そんな住民達の混乱を知って、領城に残された夫人達がキリアルートの部屋にやって来ていた。

キリアルートは、今回の対処が終わった後の迷宮探索の準備をしようとしていた所だったのだが、中断することになった。

「このままでは、防衛をしている傭兵の方々にも良くないかと……」

家令が弱ったように言えば、アティレイ夫人も顔をしっかりと上げて主張した。

「こういう時に、どうすれば良いのかわからなくて……」
「え……そうなんですか?」
「っ、ええ……」

さすがに、こうした緊急時の動きくらいは考えられると思っていたのだが、本当にわからないらしいと知り、キリアルートは唖然とした。

「なら、まだ避難は……」
「っ、はい……申し訳ありません……」
「避難……」

まさかの考えてもみなかったようだ。

「あ~……まあ、ぼくもここに残りましたしね……大したことにはならないと思いましたか……」
「はい……」
「……ごめんなさい……」

キリアルートも避難など、住民達についてのことには口を出さなかった。それは、領主が指示していくだろう、又は残った者達がと思っていたのだが、どうやら違ったようだ。出撃を見送ってのんびりとキリアルートが部屋に戻っていったため、危機感も感じなかったのだろう。

「そうですか……わかりました。とりあえず、説明についてはこちらでなんとかしましょう。ただ、西側の住民達は早急にこの領城に集めてください。城の東側にある訓練場に入れましょう。町に行って、近くに迷宮が発見されたこと。万が一を考えて城に避難をするように呼びかけてください」
「わ、わかったわ」
「あっ、あれを使ってください」
「それは……?」

家令と夫人が揃って不思議そうに見るのは、キリアルートが指差した場所、入り口付近に置かれている木箱には、奇妙な形のものが綺麗に入れられている。

「ハンドメガホンです。怒鳴らなくても声を拡張してくれる魔導具です」
「魔導具!?」
「声を!?」

キリアルートも今回の時の万が一のためにと避難誘導に必要なものは幾つか用意してあった。暗くなった時用の光る誘導棒も作ってある。

「まだ五つしかないのですが……リュイ。使い方を教えてやって。一緒に避難を呼びかけてきて。誘導棒の箱も一応持っていってね」
「わかりました」

リュイにも空間庫を扱えるようになってもらっている。問題なく持って行ける。

「すぐに! 人を集めます」
「わ、私は……っ」

家令は部屋を飛び出していく。リュイがそれに続いて出ていった。

取り残された夫人が不安そうにする。どうやら指示をしなければ本当にどうすればいいのかわからないようだ。

「この後、全領民に向けて説明します。そうですね……シェルマ殿」
「っ!! あ、ごめん……」

夫人がどうしたのかと気になったのだろう。部屋の入り口まで来ていたシェルマに声をかける。

「いえ。丁度良かった。シェルマ殿に説明をお願いします。夫人はその間、避難してきた人たちの対応をお願いします。領主様達の方は、丸一日はかかるので、安全が確認される二、三日はここで避難生活を送ることになります。食事や寝床など用意しなくてはならないことは沢山ありますよね」
「っ、昔、お母様が……やってみます!」
「年配の使用人の方達に相談してみるといいですよ。ここは辺境です。迷宮の事がなくても、それなりにこういった経験はあるはずです」
「わかりました!」

ようやく夫人も顔付きを変えて出ていった。

「さて。シェルマ殿。状況はどこまで把握していますか?」
「え、あ……近くに迷宮があって、大放出があったこと。それによって、森の魔獣達が混乱して……」
「ええ。そうです。それを民達に説明しましょう。それらの対応に領主達や傭兵達が出ているから安心するようにと。あとは、避難についてもこちらで原稿を用意しますから」
「わ、私はそれを読めばいいのか? 事情を知っている君が言った方が……」
「次期領主であるシェルマ殿が説明することに意味があるんですよ」
「……分かった」

シェルマも覚悟が決まったらしい。

「それじゃあ、リーツ。原稿、頼めるかな」
「はい。東側の避難はどうされますか?」

既に原稿を書き始めていたようだ。察しが良い。文官や家令としても働けそうだった。そのように鍛えたのはキリアルートやベンノールトだ。

「不安なら、教会から傭兵ギルドの辺りまでは、教会の守りが強く効いているし、その範囲内に。子ども連れはぼくの屋敷でもいいけど」
「承知しました」
「原稿が出来たらシェルマ殿に読み込んでもらって……今から十五分後に物見台に行こうか」
「はい」
「わ、わかった。その、見ていても?」
「ええ。説明いたしますね」
「お願いする」

リーツの隣に向かい、シェルマが原稿を覗き込む。緊張気味なことに気付きながら、リーツは椅子を勧めていた。

「その間にぼくは……コレを一つでも完成させないとね。あ、サリー。そこに居るお子様達の面倒、見ててくれる?」
「っ! フレシア! レイニア!?」

シェルマが振り向いて二人を見つけ、声をあげる。二人はもじもじと気まずそうに出て来た。

「お、お兄さま……」
「ぼ、ぼくたち……」
「部屋に居ろと言われただろう」
「「っ……」」
「まあ、まあ、シェルマ殿。城の者達がほとんど出払っているのです。仕方ありませんよ。動き回られては迷惑ですし」

子ども達を気にかけていられる者は今居ないだろう。

キリアルートの手のひらに、青い光の玉ができる。伝言魔法を発動させ、声を吹きこんだ。

「【キリアルートです。フレシア様とレイニア様はこちらで保護いたします。避難住民への対応に注力ください】……転送、アティレイ夫人へ」

青い玉がフワリと浮き上がり、シュンッと廊下の方へと軌跡を少し残して消えた。

「すごいっ」
「なにそれっ」
「伝言魔法です。やってみますか?」
「できるの!?」
「ぼくたちにもできる!?」
「サリー。教えてやってください。ただし、送るのは二人かサリーの間だけで。夫人達に迷惑をかけてはいけません。約束してください」
「するわ! やくそくする!」
「やくそくしたら、おしえてくれる?」
「ええ。サリーお願いしますね」
「はい。では、お二人とも。こちらへどうぞ」
「「うん!」」

サリーは作業部屋の方へ二人を案内していった。

「「わぁぁぁっ! どこからだしたの!?」」

どうやら、絨毯でも出したのだろう。魔法を一から教えるなら、魔素を感じられる地面、地に近い場所に腰を下ろした方が良いと最初に教えたのはキリアルートだ。そうして、サリー達に魔法を教えたのだから、同じようにするはずだ。

「あの……二人に魔法を教えてくれるのか?」
「ええ。伝言魔法は生活……いえ、家事魔法に毛が生えたようなものなので、そう難しくもないですよ。それに、二人は既に七歳。魔法で火種を作ることの危険性も水を作り出せる有り難さも知るべき年齢ですからね。何より、集中して物事を覚えることは早く訓練するに限ります」
「そう……なんだ……」
「……もしや、シェルマ殿はまだ本格的に魔法を習っていないのですか?」
「っ、ああ……剣の訓練はあるのだが……」
「なるほど。お父上とも相談してみてはいかがですか? 領主様には、後継者のための計画があるかもしれませんから」
「そうだな……うん。聞いてみる」

これでシェルマも今の目の前の問題に集中できるようだ。





**********
読んでくださりありがとうございます◎



感想 107

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

本の虫な転生赤ちゃんは血塗りの宰相の義愛娘~本の世界に入れる『ひみちゅのちから』でピンチの帝国を救ったら、冷酷パパに溺愛されてます

青空あかな
ファンタジー
ブラック企業に勤める本の虫でアラサーOLの星花は、突然水に突き落とされた衝撃を感じる。 藻掻くうちに、自分はなぜか赤ちゃんになっていることを理解する。 溺死寸前の彼女を助けたのは、冷徹な手腕により周囲から「血塗りの宰相」と恐れられるアイザック・リヴィエール公爵だった。 その後、熱に浮かされながら見た夢で前世を思い出し、星花は異世界の赤ちゃんに転生したことを自覚する。 目覚めた彼女は周囲の会話から、赤ちゃんの自分を川に落としたのは実の両親だと知って、強いショックを受けた。 前世の両親もいわゆる毒親であり、今世では「親」に愛されたかったと……。 リヴィエール公爵家の屋敷に連れて行かれると、星花にはとても貴重な聖属性の魔力があるとわかった。 アイザックに星花は「ステラ」と名付けられ彼の屋敷で暮らすようになる。 当のアイザックとはほとんど会わない塩対応だが、屋敷の善良な人たちに温かく育てられる。 そんなある日、精霊と冒険する絵本を読んだステラはその世界に入り込み、実際に精霊と冒険した。 ステラには「本の世界に入り込み、その本の知識や内容を実際に体験したように習得できる特別な力」があったのだ。 彼女はその力を使って、隣国との条約締結に関する通訳不在問題や皇帝陛下の病気を治す薬草探索など、様々な問題を解決する。 やがて、アイザックは最初は煩わしかったはずのステラの活躍と愛らしさを目の当たりにし、彼女を「娘として」大切に思うようになる。 これは赤ちゃんに転生した本好きアラサーの社畜OLが、前世の知識と本好きの力を活かして活躍した結果、冷徹な義父から溺愛される話である。

「お前がいると息が詰まる」と追放された令嬢——翌週から公爵家の予定が全て狂った

歩人
ファンタジー
クラリッサは公爵家の日程管理を一手に担う令嬢。前世の社畜経験を活かし、行事計画、来客対応、予算管理まで完璧にこなしていた。 だが婚約者ヴィクトルは言った。「お前がいると息が詰まる。もっと華やかな女がいい」 追放されたクラリッサが去った翌週、公爵家の予定が全て狂い始める。 舞踏会の招待状は届かず、外交晩餐会の料理は手配されず、決算書類は行方不明。 一方クラリッサは、若き領主の元で「定時退社」という夢を叶えていた。 「もう、残業はしません」

(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。 「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」 私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・ 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。

空港清掃員58歳、転生先の王宮でも床を磨いたら双子に懐かれ、国王に溺愛される

木風
恋愛
羽田空港で十五年、黙々と床を磨いてきた清掃員・田中幸子(58)は事故死し、没落寸前の子爵令嬢エルシアとして転生する。 婚約破棄の末に家を追われた彼女が選んだのは、王宮の清掃員――前世の技で空気まで変わるほど磨き上げていく仕事だった。 やがて母を亡くした双子王子王女に懐かれ、荒れた執務室の主である喪中の国王とも距離が縮まり……。 「泣くなら俺の胸で」――床も心も磨き直す、清掃令嬢の溺愛成り上がり。

家族に忘れられていた第五王子は愛され生活を送る

りーさん
ファンタジー
 アズール王国の王宮には、多くの王子や王女が住んでいる蒼星宮という宮がある。  その宮にはとある噂が広まっていた。併設されている図書館に子どもの幽霊が現れると。  そんなある日、図書館に出入りしていた第一王子は子どものような人影を見かける。  その時、父である国王にすら忘れられ、存在を知られていなかった第五王子の才覚が露になっていく。

「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ

猫枕
恋愛
家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。 当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。 それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。 そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。 美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。 「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」 『・・・・オメエの嫁だよ』 執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?

【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった

凛蓮月@騎士の夫〜発売中です
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】  竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。  竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。  だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。 ──ある日、スオウに番が現れるまでは。 全8話。 ※他サイトで同時公開しています。 ※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。