聖人様は自重せずに人生を楽しみます!◀︎ですので、拝まないでもらえます?

紫南

文字の大きさ
56 / 70
第一章

056 はじめましょうか

キリアルートとリーツ、それとシェルマは、物見台にやってきた。

「すぐに用意するね」
「これは?」
「これはマイク。領都内に設置してある拡声機に伝達して広く放送できるものなんだ」
「領都内に?」
「うん。そろそろ迷宮も危ないと思っていたからね。緊急用の連絡法を考えてたんだ。事後承諾になっちゃうけど、領主に売り込もうと思って」
「売り込むって……」
「生活費は稼ぎたかったからね。それと、ユウリを僕専属で雇い直したいから」
「それって……」

シェルマは、キリアルートがここを正式に出て行こうとしているということに気付いた。

「っ、ごめん!」
「ん? え? やりたくなくなりました?」
「あ、いや……これは……やるよ。けど……君は、ここから出て行こうと……」
「ああ……まあ、そうですね。私が領主の子ではないのは証明できましたけど、どこの子なのかは話せませんし、それは夫人にも負担でしょう」
「そんなことっ」
「そんなことあるんですよ。夫に話してもらえないことがあるというのは、妻にとっては不安です。割り切っている関係ならば良いですが、ぼくの事を疑っていたこともありますからね。夫人は割り切れないでしょう」
「っ……でも……それは……」

言葉に詰まってしまったシェルマをチラリと見ながらも、キリアルートはマイクをセットし、起動実験をする。

『あ~、あ~、マイクテスト。これより、領城からのお知らせをお伝えします』

これに、シェルマは今やることに意識を向け直す。

「シェルマ殿。よろしいですか? ここにスイッチがあるので、赤いランプがついたら、これに向かって話してください。終わったらもう一度このスイッチを押してランプが消えるのを確認してくださいね」
「っ、わかった」
「では、お願いします」
「うん」

表情を引き締めて、シェルマはスイッチを押して口を開いた。


◆◆◆


西側の領民達は、ハンドメガホンを持って避難誘導する者達の指示に従い、領城へと向かい始めていた。

「万が一の時のため、領城への避難を! 最小限の荷物で移動するように!」
「子ども達と手を繋いで、慌てないで!」

そんな混乱の最中、声が聞こえてきた。

『領民のみなさん。私はシェルマ・セルティアです。現在、領主である父が率いる騎士団と、傭兵の皆さんとで、迷宮放出の対処に当たっています』

これを聞こうと、領民達は声をひそめる。

『迷宮は、西側の森の奥で発見されています。よって、西側地区に住まわれている住民のみなさんは、終息まで領城への避難を速やかに行ってください。食料や寝床に関する問題は、城で対応します。荷物は手に持てる貴重品のみにとどめ、素早く行動してください』

何も持つなと言っても聞かないだろう。しかし、鍵もない家が多いため、お金などの貴重品は、隠していたりする。火事場泥棒のように、こうした時に家に盗みに入る者も多い。よって、手に持てるだけと指定した。

『東側の住民で不安な方は教会へ。教会には現在、司教様がおられます。魔獣避けの加護が正しく働いているため、万が一の時でも安心できます』

これを聞いて、東側の住民達もそろそろと動きだす。

『次に、路地などで寝泊まりをしている者達に伝えます。大人達はなるべく傭兵ギルドよりも東側に移動を。教会の加護範囲に入ります。子ども達。あなた方は、東地区にある白の邸宅に向かってください。そこで保護します。繰り返します……』

そうして、二度目の放送が終わる頃には、領民達は迷いなく行動していた。

因みに、異世界から聖女や勇者を召喚していた関係で、方角についての知識は伝わっており、この辺境伯領都でも西地区、東地区というのは浸透している。子ども達は危ない森のあるのが西、他領に続く比較的安全な森があるのが東と覚えるのが常識らしい。そこからなんとなく大人が西地区、東地区と言っているのを覚えていくため、五才の子でもなんとなく分かる。命に関わるかもしれないものなのだ。覚えるのも早い。

お陰で人の流れはすぐに決まったようだ。

「よさそうですね。お疲れさまでした」
「うん……っ」

この物見台から、人の流れがよく見える。シェルマはやり切ったような顔をしていた。

そして、度々砂煙りが立ち上る森の方に目を向ける。あそこに、領主達がいるはずだ。

「まだまだ掛かりますよ」
「うん……あと、私は何ができるかな……」
「そうですね……大人はみな忙しそうですし……シェルマ殿がよければ、ぼくの屋敷で子ども達の相手をお願いできますか?」
「君の……屋敷?」
「ええ。白の邸宅と言ったでしょう?」
「あっ、うん。それが?」
「ぼくの屋敷です。やり手とはいえ、家令一人では厳しいかもしれないので、弟妹様達も一緒に。ぼくの作業はあちらでもできますし、伝達魔法で連絡も取れますので」

何より、ここよりも安全だ。使用人の子ども達も、大人達がバタついている今、居場所が無くなっている者もいるだろう。指示を細かく出している余裕がない時には、邪魔になる。

それよりは、子ども達が集まりだしているキリアルートの屋敷でその子ども達の世話を手伝ってもらった方がいい。この領城で生まれた使用人の子ども達は、孤児院のようにまとめて面倒を見ている。だから、ある程度の年の子は、自分より下の子の面倒を見るのがうまかった。

「分かった。なら……行ける者は、君の部屋に集まるけど、いい?」
「いいですよ。転移で移動しますから」
「なら、母上に伝えてくる!」
「ええ。リーツ。一緒に行って執事長にも説明をお願いします」
「分かりました。参りましょう。シェルマ様」
「はい」

そうして、誰もが一丸となって対応することになった。

「さてと、ぼくは……終わってからが勝負ですね」

キリアルートは、この世界初の迷宮攻略を成すつもりなのだ。

それが例えこの辺境の地に多くの目を集め、キリアルートの正体を探ろうとする者が現れることになったとしても、止める気はなかった。

「はじめましょうか。この世界の攻略を」

そう宣言するキリアルートを、神達が嬉しそうに見つめてくれているのを感じていた。





**********
読んでくださりありがとうございます◎


感想 107

あなたにおすすめの小説

「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした

しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」 十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。 会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。 魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。 ※小説家になろう様にも投稿しています※

畑の隣にダンジョンが生えたので、農家兼ダンチューバーになることにした件について〜隠れ最強の元エリート、今日も野菜を育てながら配信中〜

グリゴリ
ファンタジー
 木嶋蒼、35歳。表向きは田舎で農業を始めて1年目の、どこにでもいる素朴な農家だ。しかし実態は、内閣直轄の超エリート組織・ダンジョン対策庁において「特総(特別総括官)」という非公開の最高職を務める、日本最高峰の実力者である。その事実を知る者は内閣総理大臣を含む極少数のみ。家族でさえ、蒼が対策庁を早々に退庁したと信じて疑わない。  SSSランクのテイムスキルと攻撃スキル、SSランクの支援スキルと農業スキルを18歳時に鑑定され、誰もが「化け物」と称えたその実力を、蒼は今日も畑仕事に注ぎ込んでいる。農作物の品質は驚異的に高く、毎日の収穫が静かな喜びだ。少し抜けているところはあるが、それもご愛嬌——と思っていた矢先、農業開始から1年が経ったある朝、異変が起きた。  祖父母の旧宅に隣接する納屋の床に、漆黒に金の縁取りをしたゲートリングが突如出現したのだ。通常の探索者には認識すらできないそれは、蒼だけが見えるシークレットプライベートダンジョン——後に「蒼天の根」と呼ばれることになる、全100階層の特異空間だった。  恐る恐る潜ったダンジョンの第1層で、蒼は虹色に輝くベビースライム「ソル」と出会い、即座に従魔として契約。さらに探索を進める中でベビードラゴンの「ルナ」、神狼種のベビーシルバーウルフ「クロ」を仲間に加えていく。そしてダンジョン初潜入の最中、蒼の体内に「究極進化システム」が覚醒する。ダンジョン内の素材をエボリューションポイント・ショップポイント・現金へと変換し、自身や従魔、親しい者を際限なく強化・進化させるこのシステムは、ガチャ機能・ショップ機能・タスク機能まで備えた、あまりにもチートじみた代物だった。  蒼は決める。「せっかくだから配信もしよう」と。農家兼ダンチューバーという前代未聞のスタイルで探索者ライセンスを取得し、「農家のダンジョン攻略配信」を開始した彼の動画はじわじわと注目を集め始める。  そんな中、隣のダンジョンの取材にやってきたのが、C級探索者ライセンスを持つ美人記者兼ダンチューバー・藤宮詩織だった。国際探索者協会の超エリート一家に生まれながら自らの道を切り開いてきた彼女は、蒼の「農家なのになぜかとても強い」という矛盾に鋭い鑑定眼を向ける。  隠れ最強の農家配信者と、本質を見抜く美人記者。チート級の従魔たちが賑やかに囲む日常の中で、二人の距離は少しずつ縮まっていく。ダンジョン攻略・農業・配信・ガチャ・そして予期せぬ大事件——波乱と笑いと感動が交錯する、最強農家の新米配信者ライフが、今幕を開ける。

「お前がいると息が詰まる」と追放された令嬢——翌週から公爵家の予定が全て狂った

歩人
ファンタジー
クラリッサは公爵家の日程管理を一手に担う令嬢。前世の社畜経験を活かし、行事計画、来客対応、予算管理まで完璧にこなしていた。 だが婚約者ヴィクトルは言った。「お前がいると息が詰まる。もっと華やかな女がいい」 追放されたクラリッサが去った翌週、公爵家の予定が全て狂い始める。 舞踏会の招待状は届かず、外交晩餐会の料理は手配されず、決算書類は行方不明。 一方クラリッサは、若き領主の元で「定時退社」という夢を叶えていた。 「もう、残業はしません」

「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった

歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。 だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」 追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。 一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。 誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。 「その言葉は、もう翻訳できません」

空港清掃員58歳、転生先の王宮でも床を磨いたら双子に懐かれ、国王に溺愛される

木風
恋愛
羽田空港で十五年、黙々と床を磨いてきた清掃員・田中幸子(58)は事故死し、没落寸前の子爵令嬢エルシアとして転生する。 婚約破棄の末に家を追われた彼女が選んだのは、王宮の清掃員――前世の技で空気まで変わるほど磨き上げていく仕事だった。 やがて母を亡くした双子王子王女に懐かれ、荒れた執務室の主である喪中の国王とも距離が縮まり……。 「泣くなら俺の胸で」――床も心も磨き直す、清掃令嬢の溺愛成り上がり。

「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ

猫枕
恋愛
家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。 当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。 それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。 そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。 美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。 「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」 『・・・・オメエの嫁だよ』 執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?

社畜おっさん、異世界で子育てはじめました~拾った娘が可愛すぎるので、世界一のパパを目指します~

空月そらら
ファンタジー
A級パーティー『輝きの剣』で、支援魔法と裏方の雑用を一人で完璧にこなしていたガルド(38歳)は、ある日突然、理不尽な追放を宣告される。 前世は過労死した孤独な社畜。 異世界に転生しても報われない日々に絶望し、雨の降る裏路地を彷徨っていたガルドは、そこでボロボロの布にくるまって震えるメリアと出会う。 「おねがいでしゅ……たしゅけて……」 小さな手にすがりつかれた瞬間、ガルドは決意した。 ――今日から俺が、この子のパパになる。絶対に守り抜いてみせる、と。 冒険者としての栄光などもういらない。 ガルドは愛娘との温かい生活を手に入れるため、長年隠し続けていた『規格外の支援魔法』と『チート級の生活魔法』を惜しげもなく解放する! すべては、世界一可愛い娘の笑顔のために。 一方その頃、ガルドという「完璧な生命線」を失ったパーティーは、格下のダンジョンで罠にかかり、まともな野営すらできずにあっさりと崩壊の危機を迎えていたが……。 「パパのシチュー、せかいでいっちばんおいちい!」 「そうかそうか、いっぱい食べろよ」 そんなことはつゆ知らず。 不遇だった最強のおっさんは、今日も愛娘を全力で甘やかし、幸せなスローライフを満喫中!

ざまぁされるための努力とかしたくない

こうやさい
ファンタジー
 ある日あたしは自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生している事に気付いた。  けどなんか環境違いすぎるんだけど?  例のごとく深く考えないで下さい。ゲーム転生系で前世の記憶が戻った理由自体が強制力とかってあんまなくね? って思いつきから書いただけなので。けど知らないだけであるんだろうな。  作中で「身近な物で代用できますよってその身近がすでにないじゃん的な~」とありますが『俺の知識チートが始まらない』の方が書いたのは後です。これから連想して書きました。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。  恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。  中古でもノーパソ買えるだけの値段するやんと思っただろうけど、ノーパソの場合は妥協しての機種だけど、BlackBerryは使ってみたかった機種なので(後で「こんなの使えない」とぶん投げる可能性はあるにしろ)。それに電話機は壊れなくても後二年も経たないうちに強制的に買い換え決まってたので、最低限の覚悟はしてたわけで……もうちょっと壊れるのが遅かったらそれに手をつけてた可能性はあるけど。それにタブレットの調子も最近悪いのでガラケー買ってそっちも別に買い換える可能性を考えると、妥協ノーパソより有意義かなと。妥協して惰性で使い続けるの苦痛だからね。  ……ちなみにパソの調子ですが……なんか無意識に「もう嫌だ」とエンドレスでつぶやいてたらしいくらいの速度です。これだって10動くっていわれてるの買ってハードディスクとか取り替えてもらったりしたんだけどなぁ。