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第一章
057 あれは天才だよね
キリアルートは、シェルマを含めた子ども達を連れて白の邸宅に転移した。
領主邸にある部屋の作業スペースの端に、転移石を設置してあるのだ。迷宮の特定の階層に見られる転移石とほぼ同じもので、キリアルートの手作りだ。ただし、迷宮のものは指定範囲が広く、最大、三十人まで一度に転移できるらしいが、キリアルートが作ったのは、精々十人までだ。
とはいえ、転移などという芸当が出来る者など、歴史上の偉人で数人しかいないという世界では、画期的過ぎるものだ。
領主邸の者達には、何かあったら伝言を飛ばすか、その転移石で邸まで来てくれと言い置いている。
想定よりも白の邸宅にやって来た子ども達は多く、シェルマ達はとても役に立ってくれた。
「素直に聞いて来るとは思っていなかったんだけど、これは予想外……」
「どうやら、ほぼ全ての子ども達が来たようです。教会や孤児院ではなく、この屋敷にというのが良かったのでしょう。この界隈では、幽霊屋敷との異名もありましたのでなあ。ほっほっほっ」
「……あ、うん……本当に幽霊いるしねえ……」
「ほっほっほっ」
ベンノールトは、よく笑うようになった。笑って誤魔化す技を知ったとも言う。
「しかし、さすがにこの老ぼれだけでは厳しかったので、助かりました」
「めちゃくちゃ分身出して笑ってたのはどこの執事かな?」
「ほっほっほっ。最初は泣かれましたが、大人気でしたなあ。素晴らしい技を教えていただきましたこと、感謝いたします」
「うん……いくら闇属性と水属性持ちでも、十人とか無理なんだけどね? 化け物レベルだから」
「ほっほっほっ。化け物も幽霊も、人にとっては同じ部類では? それと、最高記録は三十人です!」
「えっ!?」
「ほっほっほっ」
「……」
笑い事ではない。化け物を超えたなら、もう神業だろう。
闇属性だけでは、分身したとしても見た目が黒い人型の何かでしかないが、水属性が加わることで、見た目を術者の望む姿に変えられるという魔法だった。その適性と熟練度がベンノールトは最高位らしい。
聖光霊としての力が、生前のものに上乗せされるため、伝説の魔法使い並みの力を手にしていたのもそれらを可能にした原因だろう。
「はあ……まあ、助かってるからいいよ。無理はしないようにね」
「もちろんでございます」
「それで? コールの方は大丈夫そうかな?」
コールとは、新たに仲間に引き入れ、聖光霊になった料理人の霊だ。
「はい。あの大きな鍋に感動しながら、張り切っておりますよ」
「そう……あと少ししたらこっちも出来上がるから、届けてもらおうかな」
「そのように手配いたします」
キリアルートは作業部屋へと向かい、そこで急ぎ作るものを揃え、三十分後、厨房に来ていた。
「コール。できたかな?」
「あっ! 坊ちゃん! はい! ご注文のお粥スープはご用意できてます!」
「よし。なら教会の方へは届けてくれる? 森の方には、別の人が来るから」
「はい! そちらが食器類です。一箱に百ずつ入ってます」
「うん。あ、来たね」
「失礼致します!」
入って来たのは、ガララムが率いる部隊だ。食事の用意を取りに来てもらった。
ビルスに戦場となっている森に転移石を設置してもらったのだ。結界で守られた安全地帯を作るための準備だ。これにより、この屋敷と戦場を繋いでいる。
「あれ? ビルスは?」
「ビルスはユウリお嬢さんのお目付け役として残してきました」
「護衛じゃなく、お目付け役ね……ユウリ、役に立ってる?」
「それはもうっ! 怪我人はすぐに治療していただけますし! 弓の腕がその辺の弓兵よりも上なのですが!?」
「ああ。うん。あれは天才だよね」
ユウリは、剣も使える。ビルスと共に、セルティに教えてもらっていたのだが、ビルスよりも素質があるらしい。だが、一番は弓の腕だった。ヴァルター達と森歩きをする中で練習したのだが、これが面白いくらいに当たる。
「確か、ユウリお嬢さんの亡くなった母上は、猟師の家系だったと話していたのを妻が聞いたことがあると言っておりました」
「へえ。じゃあ、その血が出たんだね」
「そうですなあ。父親であるラルクが、震えておりました」
「震えてたのはアレですよ! ラルクさん、結婚を許してもらうのに挨拶に行って、その時に親父さんに弓で脅されたって。それ思い出したんじゃないっすかね」
「そんなことあったんだ。あははっ。それはゾッとするかもね」
「「「「「確かにっ」」」」」
トラウマになっていそうだ。その上に、その結婚相手は亡くなってしまっている。そんな怖いご両親に、きちんと報告出来ているか怪しいものだ。
「色々とそのラルクさんには聞きたいことあるし、無事に帰ってきてもらわないとね」
「はい! それにしても……空間庫の魔法をお教えいただいていて、本当に助かりました!」
「便利でしょう? まあ、悪いことに使うことも出来るから、対策は必要だけど、それはマジックバッグも同じだしね」
「はい。なんでも使いようですから、それは仕方ありませんよ」
「うん。じゃあ、こっちが食器類。傭兵の方と合わせて八百もあればいいから、八箱ね。大鍋も八つお願いね」
「「「「「はいっ!」」」」」
彼らには食事を運んでもらう。
「傭兵の方に五と騎士達に三ね。それと、これをビルスとユウリに渡して。設置の仕方を知ってるから」
「これは?」
キリアルートの足下に空間庫から出て来たのは、丸い青い石が乗った石の台座がついたもの。それが箱に幾つか入っている。少し重さもあった。
「結界石。食事くらいゆっくり摂りたいでしょう? それに、明日の朝までかかるだろうからね。仮眠も安心して取ってもらえるように、安全地帯を作れる。これで頑張って」
「おおっ、そんなものがっ」
「まあね。夕食と夜食も用意するから、また取りに来て。出来たらさっきみたいに伝言魔法を飛ばすね」
「「「「「了解しました!!」」」」」
そうして時間は過ぎて行った。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
来年もよろしくお願いします!
領主邸にある部屋の作業スペースの端に、転移石を設置してあるのだ。迷宮の特定の階層に見られる転移石とほぼ同じもので、キリアルートの手作りだ。ただし、迷宮のものは指定範囲が広く、最大、三十人まで一度に転移できるらしいが、キリアルートが作ったのは、精々十人までだ。
とはいえ、転移などという芸当が出来る者など、歴史上の偉人で数人しかいないという世界では、画期的過ぎるものだ。
領主邸の者達には、何かあったら伝言を飛ばすか、その転移石で邸まで来てくれと言い置いている。
想定よりも白の邸宅にやって来た子ども達は多く、シェルマ達はとても役に立ってくれた。
「素直に聞いて来るとは思っていなかったんだけど、これは予想外……」
「どうやら、ほぼ全ての子ども達が来たようです。教会や孤児院ではなく、この屋敷にというのが良かったのでしょう。この界隈では、幽霊屋敷との異名もありましたのでなあ。ほっほっほっ」
「……あ、うん……本当に幽霊いるしねえ……」
「ほっほっほっ」
ベンノールトは、よく笑うようになった。笑って誤魔化す技を知ったとも言う。
「しかし、さすがにこの老ぼれだけでは厳しかったので、助かりました」
「めちゃくちゃ分身出して笑ってたのはどこの執事かな?」
「ほっほっほっ。最初は泣かれましたが、大人気でしたなあ。素晴らしい技を教えていただきましたこと、感謝いたします」
「うん……いくら闇属性と水属性持ちでも、十人とか無理なんだけどね? 化け物レベルだから」
「ほっほっほっ。化け物も幽霊も、人にとっては同じ部類では? それと、最高記録は三十人です!」
「えっ!?」
「ほっほっほっ」
「……」
笑い事ではない。化け物を超えたなら、もう神業だろう。
闇属性だけでは、分身したとしても見た目が黒い人型の何かでしかないが、水属性が加わることで、見た目を術者の望む姿に変えられるという魔法だった。その適性と熟練度がベンノールトは最高位らしい。
聖光霊としての力が、生前のものに上乗せされるため、伝説の魔法使い並みの力を手にしていたのもそれらを可能にした原因だろう。
「はあ……まあ、助かってるからいいよ。無理はしないようにね」
「もちろんでございます」
「それで? コールの方は大丈夫そうかな?」
コールとは、新たに仲間に引き入れ、聖光霊になった料理人の霊だ。
「はい。あの大きな鍋に感動しながら、張り切っておりますよ」
「そう……あと少ししたらこっちも出来上がるから、届けてもらおうかな」
「そのように手配いたします」
キリアルートは作業部屋へと向かい、そこで急ぎ作るものを揃え、三十分後、厨房に来ていた。
「コール。できたかな?」
「あっ! 坊ちゃん! はい! ご注文のお粥スープはご用意できてます!」
「よし。なら教会の方へは届けてくれる? 森の方には、別の人が来るから」
「はい! そちらが食器類です。一箱に百ずつ入ってます」
「うん。あ、来たね」
「失礼致します!」
入って来たのは、ガララムが率いる部隊だ。食事の用意を取りに来てもらった。
ビルスに戦場となっている森に転移石を設置してもらったのだ。結界で守られた安全地帯を作るための準備だ。これにより、この屋敷と戦場を繋いでいる。
「あれ? ビルスは?」
「ビルスはユウリお嬢さんのお目付け役として残してきました」
「護衛じゃなく、お目付け役ね……ユウリ、役に立ってる?」
「それはもうっ! 怪我人はすぐに治療していただけますし! 弓の腕がその辺の弓兵よりも上なのですが!?」
「ああ。うん。あれは天才だよね」
ユウリは、剣も使える。ビルスと共に、セルティに教えてもらっていたのだが、ビルスよりも素質があるらしい。だが、一番は弓の腕だった。ヴァルター達と森歩きをする中で練習したのだが、これが面白いくらいに当たる。
「確か、ユウリお嬢さんの亡くなった母上は、猟師の家系だったと話していたのを妻が聞いたことがあると言っておりました」
「へえ。じゃあ、その血が出たんだね」
「そうですなあ。父親であるラルクが、震えておりました」
「震えてたのはアレですよ! ラルクさん、結婚を許してもらうのに挨拶に行って、その時に親父さんに弓で脅されたって。それ思い出したんじゃないっすかね」
「そんなことあったんだ。あははっ。それはゾッとするかもね」
「「「「「確かにっ」」」」」
トラウマになっていそうだ。その上に、その結婚相手は亡くなってしまっている。そんな怖いご両親に、きちんと報告出来ているか怪しいものだ。
「色々とそのラルクさんには聞きたいことあるし、無事に帰ってきてもらわないとね」
「はい! それにしても……空間庫の魔法をお教えいただいていて、本当に助かりました!」
「便利でしょう? まあ、悪いことに使うことも出来るから、対策は必要だけど、それはマジックバッグも同じだしね」
「はい。なんでも使いようですから、それは仕方ありませんよ」
「うん。じゃあ、こっちが食器類。傭兵の方と合わせて八百もあればいいから、八箱ね。大鍋も八つお願いね」
「「「「「はいっ!」」」」」
彼らには食事を運んでもらう。
「傭兵の方に五と騎士達に三ね。それと、これをビルスとユウリに渡して。設置の仕方を知ってるから」
「これは?」
キリアルートの足下に空間庫から出て来たのは、丸い青い石が乗った石の台座がついたもの。それが箱に幾つか入っている。少し重さもあった。
「結界石。食事くらいゆっくり摂りたいでしょう? それに、明日の朝までかかるだろうからね。仮眠も安心して取ってもらえるように、安全地帯を作れる。これで頑張って」
「おおっ、そんなものがっ」
「まあね。夕食と夜食も用意するから、また取りに来て。出来たらさっきみたいに伝言魔法を飛ばすね」
「「「「「了解しました!!」」」」」
そうして時間は過ぎて行った。
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