聖人様は自重せずに人生を楽しみます!◀︎ですので、拝まないでもらえます?

紫南

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第二章

064 どのような効果が?

迷宮がこの辺境伯領で発見されてから五年。この世界では迷宮資源がほぼ利用されることなどなかった。

入り口付近の魔光石でさえ、中途半端な利用法で無駄にされ、時折、知らず瘴気に耐性のある者が、迷宮に入って決死の思いで持ち出してくる禍物まがものは、呪われた珍しい物としてそれなりの値段で売られるが、それだけ。

キリアルートは、それらを正しく使えるようにし、迷宮も攻略した上で、それらから出来たお金によって、領地の土壌から農法まで指導、変えていった。

「こんにちは。店主。今日も倉庫の方、見させてもらいますね」
「おや。キリア様。いらっしゃいませ。どうぞお好きにご覧ください」

持ち込まれた禍物の浄化だけして、用途などの鑑定は後回しにし、保管されている倉庫に向かう。

「ありがとう。ぼく達に気にせず、お店の準備頑張ってね」
「はい。失礼いたします」

一週間に一度ほど、キリアルートが訪れる店の一つが、この領内唯一の禍物屋。迷宮から出た禍物だけを取り扱う店だ。正しく、今までと違うのは、全ての商品が浄化済みであることだ。

元は魔導具屋店主だった壮年の男性が、高い浄化能力を持っていることに、キリアルートは目を付けた。その能力を教会の司教であるレモアに使えるように指導してもらい、潰れそうだった魔導具屋から、迷宮から出る禍物だけを取り扱う店に変えてもらったのだ。元々、魔導具屋をやれるだけの鑑定眼も持っていたため、正確に商品の用途も分かる。

彼に戦闘能力があれば、自身で迷宮に潜り、商品を手に入れられるのにと悔しがっていたこともあった。しかし、今現在も禍物をきちんと浄化し、正しく鑑定できるのは彼だけ。よって、唯一の店として最近は他領からもお客が押し寄せてくる。未だライバル店はなく、自身で迷宮に行きたいなどと考えられる余裕さえなくなっていた。

そのため、キリアルートは午前中が休店する週二日の内の一日の午前中に、店頭に並ぶ前の商品を店の奥で見させてもらっていた。

「あ、コレ、モク婆さまに良さそう」
「メガネですか? どのような効果が?」

今日はユウリと二人、ユウリは少し身を屈め、キリアルートが持ったメガネを見る。金の細いチェーンが付いており、縁は翠色で細めの円形。女性に人気がありそうなオシャレな一品だ。

「失せ物探しの魔導具だよ。タンスの裏でも中でも、物置きの奥でも屋根裏でも、探している物が見える。確か、透けて物が光って見えるらしいよ」
「っ! そ、それは……他にはありませんか? 私も是非欲しいのですが……」

薬師モクバは年齢のこともあり、よく探し物をするらしい。

『ヘタをすると、探し物をしているだけで一日が終わってしまうよ』

そう言っていたのを覚えていた。確かに、そんな相談を前世でも今世でも、老年の人たちによくされたなと思い出す。それの解決法の一つがコレだ。前の世界でも、呪われ物にこうしたものがあった。

呪われ物とは、この世界での禍物のこと。有り難いのは、一度出た迷宮からは、同じ物が出る。だから、特色ある呪われ物が出る迷宮は人気があった。

「今なくても出てくるはずだけど……あ、店主」
「何かございましたか?」
「うん。この失せ物探しのメガネは他にない?」
「そちらですか……いえ、まだ一点しか……失せ物探しのメガネですか……かなり需要がありそうですね……」
「そうだね。あっ、こっちは探し人の羅針盤!」

大きめの台座ごとで一点の羅針盤。

「ほおっ! 探せるのですか? 人が?」
「うん。方向だけだけどね。大きいから個人に売るより……うん。教会に売ってくれない? 入ったら全部。先ずは大陸中の教会に行き渡らせよう」
「なるほど……これで法外な商売をやられても困りますしね……そのメガネも、少し数が揃うまで出さないことにします」
「そうだね。助かるよ」

こうした調整も利くのは有り難い。

「先ずはレモアの所に羅針盤を置いて……気持ち程度のお布施は良いけど、基本お金を取らないように規則に入れないと……」
「メモしておきますね」
「お願い」

ユウリがすかさずメモを取る。このメモも禍物だ。紙が絶対になくならないのに不思議と嵩張らない。そして、検索も可能。電子のメモパッドのようなものだ。

特殊なのは、燃えないし濡れないこと。更には本人認証した者にしか開けないしどこかに置き去りにしても、念じて呼べば手元に飛んでくる。便利過ぎて呪われた物に見えてくるから不思議だ。まさに禍物らしい一品だった。

因みに、本人が亡くなると、白紙のないただの書き古したノートになる。人によってとんでもなく分厚いものになり、その人の人生を物語るものだと言われている。

普段から破棄したいページは破れば燃えるように消える仕様で、それなりの値段も付くが、現在、ある程度の数も出ており、人気商品の一つだ。日記帳にとプレゼントも好まれる。この利用法も前世では当たり前だったため、キリアルートが見つけていた。

「キリア様がいらっしゃると、いち早く有用な物が分かって助かります。販売方法や問題になりそうな物も判断してくださいますし」

店主からすれば、有り難いものなのだろう。キリアルートも欲しい物がいち早く手に入るので助かっている。

「あはは。商売の邪魔してるみたいだけど」
「そんなことはございませんよ。こちらの羅針盤につきましては、すぐに商業契約書を作成させていただきます。教会との契約は……」
「今丁度? 丁度かな? 教皇がうちに来てるから、いつでもいいよ? 今呼ぼうか?」
「っ、教皇様が……さようですか。いえ、さすがに呼び付けるのは……」

教皇が家にいるというのは、中々衝撃がある。

「大丈夫だよ。多分、今頃は市場の辺りをぶらついているはずだから」
「そう……なのですか……では、可能でしたらご足労願っても?」
「うん。書類今から用意してもらうことになるけど」
「すぐに!」

スタッフは十分いるので、今店主が抜けても問題はないだろう。

キリアルートが伝言魔法を使い、教皇を呼び付け、契約を済ませたのは、それから二十分後だった。

「さてと、じゃあユウリ。職人街に寄って帰ろう。今日はピザパーティだって言ってたよ。生ハムとチーズがいい感じに出来たんだって」
「まあっ。楽しみですわね。教皇様用のワインを一つ購入してからでも?」
「仕方ないね。ビルス達の分もいいよ? 頑張ってくれてるみたいだし」

ビルスは二日に一度迷宮に潜り、この五年、異変がないか確認している。セルティによって飛躍的に剣術が向上し、迷宮攻略でもセルティやユウリと共に中心となって活躍した。現在、教会が勇者と認める唯一の者である。とはいえ、大々的には宣伝していないので、未だに冴えない男だ。真の剣聖であるセルティが側に居ると、どうしても控えめになってしまう。

「ありがとうございます。安いのを探しますわ」
「ふふふっ。現役勇者に安酒かあ。面白くていいね!」

その日、召喚された元聖女と元勇者は、イタリアン系なパスタやピザに感動し、陥落した。不貞腐れたようで、不満いっぱいの様子だった二人は従順になり、別人のように明るくなっていく。

教皇も安心して名残惜しげに帰っていった。

そして、一週間後。領主達が帰ってきた。






**********
読んでくださりありがとうございます◎

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