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第二章
054 企みといえます
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2019. 4. 30
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樟嬰に連れられてやって来た叉獅をはじめて見た時。朶輝はどこから連れてきたのかと心底驚いた。
「こやつが将軍だ。人を率いる力もある。当然、技量も大したものだ。この領の元将軍よりも恐らく頭二つ分は上だ。どうだ?」
どうだと言われても、朶輝には判断できない。とはいえ、彼が強者であることだけはヒシヒシと感じていた。周りにいる精霊達がとても安定したのを感じたのだから。
それは、安心感からだ。この場所が安全なのだと精霊達が感じている。
「私に否やはありません。樟嬰殿が見初められたのでしたら、構いません」
そうして、契約書を差し出したのだが、叉獅は受け取ろうとしない。不思議に思って見上げると、朶輝の方を見つめていた。
「なにか?」
「……いいのか? どこの誰とも知れん俺が、いくら彼女の推薦があるとはいえ……」
樟嬰へと目を向ける叉獅。その意味に気付いて朶輝は答える。
「彼女の目は確かです。この領内で、最も力のある用心棒を雇っている場所をご存知ですか?」
「あ……花街の月下楼……?」
「そうです。その用心棒達も、樟嬰殿の指導を受けています。そんな彼女が選んだのです。誰よりも信用できると思いませんか?」
「……」
きっと彼は樟嬰の実力を知っている。これは、彼女の目というより、こちらを信用できるかどうかを試しているのだ。
「私は樟嬰殿を信頼しております。どうかお受けいただきたい。領官である私ではなく、樟嬰殿を信じていただければと思います」
「……俺が領官が嫌いだって聞いたのか?」
「いえ。寧ろ、好きな方の方が珍しいかと」
朶輝はあっけらかんと言う。それに、叉獅は思わず声を上げた。
「はははっ。なるほどっ。確かに好きな奴のが珍しいわっ」
朶輝は叉獅が気持ちの良い正直なところのある青年であると知った。それはとても好ましく映る。
「けど、あんたも嫌いじゃねえ。領官にしては珍しい奴だな」
「そう言っていただけると誇らしい気持ちになります。アレらと一緒にされたくありませんから」
「っ、くくっ、気に入ったぜ! 好きに使ってくれ。これからよろしく頼む。俺は叉獅だ」
「私は朶輝と申します。お力添え感謝します」
二人ともいい笑顔で手を握り合う。樟嬰も良かったと頷いた。
「将軍には補佐が二人つくことになるのですが、副将軍の二人の任命も一任します」
「いいのか? それだと、俺の都合の良い扱いやすい奴を任命するかもしれん。そうなれば……」
「軍部が独立し、反対する勢力や領城を落とすことになりかねないとでも?」
将軍の独断で動かせるような軍は危険だ。その危険性を叉獅は理解していた。
「あなたは分かっておられるようですからね。そうはならないでしょう。何より、今のこの領の状態では、軍議などもありません。軍の方で勝手に決めて勝手に出撃してくださって結構です。ただし、報告書だけは後でもいいので上げてくださいね」
「……そんなんでいいのかよ……」
それでは本当に独立してしまっている。
「寧ろそれが良いんです」
そうして朶輝は樟嬰へ視線を向けた。
「そうですよね」
「そういうことだ。バカ共を捕縛するにも捕縛できるものがいないのが現状でな。兵は必要だった」
不正の証拠は上がってきているし、いつでも捕縛できる態勢が整いつつある。しかし、捕縛できる兵がいない。だからこそ怖いものはないと好き勝手やっている状況なのだ。
「上になびかないやつが好ましい。何かあった時に、民の側に立てる者が必要だ。そこで見つけたのがお前達ということだ」
上が崩れても、民を守れる者。民のために戦える者が必要だった。腐りきった体制を崩すとしても、その下にいる民達にまで被害が出てはいけないのだから。
「できればお前たちで領軍のイメージを良くしてくれ。それも早急に。そうすれば、上は口を出せなくなる。民たちに支持されるようになった軍を潰したとなれば、反発は必至。だから、手を出せなくなるようになってほしい」
「……なるほど……わかった。任せてくれ」
「お願いします。あなたの働きがこの領の命運を分けると言ってもいい。任せます」
「大役だな。いいぜ。面白くなりそうだっ」
ここに、領の変革が始まった。
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読んでくださりありがとうございます◎
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樟嬰に連れられてやって来た叉獅をはじめて見た時。朶輝はどこから連れてきたのかと心底驚いた。
「こやつが将軍だ。人を率いる力もある。当然、技量も大したものだ。この領の元将軍よりも恐らく頭二つ分は上だ。どうだ?」
どうだと言われても、朶輝には判断できない。とはいえ、彼が強者であることだけはヒシヒシと感じていた。周りにいる精霊達がとても安定したのを感じたのだから。
それは、安心感からだ。この場所が安全なのだと精霊達が感じている。
「私に否やはありません。樟嬰殿が見初められたのでしたら、構いません」
そうして、契約書を差し出したのだが、叉獅は受け取ろうとしない。不思議に思って見上げると、朶輝の方を見つめていた。
「なにか?」
「……いいのか? どこの誰とも知れん俺が、いくら彼女の推薦があるとはいえ……」
樟嬰へと目を向ける叉獅。その意味に気付いて朶輝は答える。
「彼女の目は確かです。この領内で、最も力のある用心棒を雇っている場所をご存知ですか?」
「あ……花街の月下楼……?」
「そうです。その用心棒達も、樟嬰殿の指導を受けています。そんな彼女が選んだのです。誰よりも信用できると思いませんか?」
「……」
きっと彼は樟嬰の実力を知っている。これは、彼女の目というより、こちらを信用できるかどうかを試しているのだ。
「私は樟嬰殿を信頼しております。どうかお受けいただきたい。領官である私ではなく、樟嬰殿を信じていただければと思います」
「……俺が領官が嫌いだって聞いたのか?」
「いえ。寧ろ、好きな方の方が珍しいかと」
朶輝はあっけらかんと言う。それに、叉獅は思わず声を上げた。
「はははっ。なるほどっ。確かに好きな奴のが珍しいわっ」
朶輝は叉獅が気持ちの良い正直なところのある青年であると知った。それはとても好ましく映る。
「けど、あんたも嫌いじゃねえ。領官にしては珍しい奴だな」
「そう言っていただけると誇らしい気持ちになります。アレらと一緒にされたくありませんから」
「っ、くくっ、気に入ったぜ! 好きに使ってくれ。これからよろしく頼む。俺は叉獅だ」
「私は朶輝と申します。お力添え感謝します」
二人ともいい笑顔で手を握り合う。樟嬰も良かったと頷いた。
「将軍には補佐が二人つくことになるのですが、副将軍の二人の任命も一任します」
「いいのか? それだと、俺の都合の良い扱いやすい奴を任命するかもしれん。そうなれば……」
「軍部が独立し、反対する勢力や領城を落とすことになりかねないとでも?」
将軍の独断で動かせるような軍は危険だ。その危険性を叉獅は理解していた。
「あなたは分かっておられるようですからね。そうはならないでしょう。何より、今のこの領の状態では、軍議などもありません。軍の方で勝手に決めて勝手に出撃してくださって結構です。ただし、報告書だけは後でもいいので上げてくださいね」
「……そんなんでいいのかよ……」
それでは本当に独立してしまっている。
「寧ろそれが良いんです」
そうして朶輝は樟嬰へ視線を向けた。
「そうですよね」
「そういうことだ。バカ共を捕縛するにも捕縛できるものがいないのが現状でな。兵は必要だった」
不正の証拠は上がってきているし、いつでも捕縛できる態勢が整いつつある。しかし、捕縛できる兵がいない。だからこそ怖いものはないと好き勝手やっている状況なのだ。
「上になびかないやつが好ましい。何かあった時に、民の側に立てる者が必要だ。そこで見つけたのがお前達ということだ」
上が崩れても、民を守れる者。民のために戦える者が必要だった。腐りきった体制を崩すとしても、その下にいる民達にまで被害が出てはいけないのだから。
「できればお前たちで領軍のイメージを良くしてくれ。それも早急に。そうすれば、上は口を出せなくなる。民たちに支持されるようになった軍を潰したとなれば、反発は必至。だから、手を出せなくなるようになってほしい」
「……なるほど……わかった。任せてくれ」
「お願いします。あなたの働きがこの領の命運を分けると言ってもいい。任せます」
「大役だな。いいぜ。面白くなりそうだっ」
ここに、領の変革が始まった。
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