異世界『魔術師』の孫〜婚約者のためなら国一つ消しても良いと思ってます(本音)〜

紫南

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第四章 再びの勇者召喚

041 夢でしかないから

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理修が蔦に覆われた領主の屋敷から出て来た時、門の前にはミヤ爺こと雅と、孫娘の綾愛が待ち構えていた。

「二人とも、仕事は終わったの?」
「おう。そんで理修。これは、どうなってるんだ?」

雅が屋敷の惨状を見て顔を顰める。

「うわぁ~……蔦が生きてるみたい……え、あれって中に人がいないっ?」
「ハーピーがあまりにもしつこいから、原因を調べてみたんだよ」

話している雅と理修から離れ、綾愛は蔦の繭に近付いていく。

「あぁっ、やっぱし!おぉ~い。生きてる?」

理修は、アイテムボックスから領主の屋敷で見つけた石を取り出して雅に見せた。

「原因は、コレだと思う」
「ほぅ……石と言うより、何かの卵か?」

その間にも綾愛はケラケラ笑っていた。

「ふぉぉ、生きてるっぽ~い。動けないの?」

雅は身を屈めて理修の手にある卵をマジマジと見つめる。

「確かに、何らかの波動を感じるな。なら、コレを返せば……?」
「うん。ここへの襲撃はなくなると思う」
「ぶははっ、蔦人間!マジ新種っ!」
「「………」」

少し離れた場所から聞こえたバカ笑いに、雅は、落ち着きのない孫だと溜め息を一つ。そして、理修は無言で杖に魔力を込め、小さな火の球を綾愛に向けて放った。

「ふアッちぃっ!熱ッ、あ、あぁ!燃えてるっ!燃えちゃう!死んじゃうよぉぉぉ!」

咄嗟に避けた綾愛に代わり、蔦に火の球が当たったようだ。水分を充分に含んでいるとはいえ、魔術の火は消えにくく、燃えやすかった。

「あ、あ、れっ【烈風閃】!……ふぅ……アブナイ……危ないよ、理修っ!って理修、どこ行くのっ?」
「この街を救ってくる」
「えっ!理修がっ?どこの理修がっ?」
「……ミヤ爺。そこの孫娘の墓は何処に作ればいいのかな?」
「いや、まぁ、待て。落ち着け?俺よか先に墓に入れる気ないからな?」

苛ついた理修を、何とか宥めようとする雅。だがあいにく、綾愛はそんな空気を読める子ではなかった。

「聞き間違いだよね? 理修が自主的に誰かを救うなんて。それも他人を!そんな事あり得ないって!」

もうダメだと、両手で顔を覆った雅。その後ろで青筋を立てる理修。そして、空気を読めない綾愛の言葉は続く。

「理修ならハーピーを殲滅した方が早いもんね。そんで一緒に街ごと消すとか?あははっ、あり得るぅ」
「……ミヤ爺。この際、骨を残さなければ良いと思わない……?」
「あ~……綾愛……一人になんなよ?」
「え?なんで?」
「「………」」

どこまでもマイペースな綾愛だ。

雅と綾愛に領主と街を任せ、理修は一人で街から離れた森へとやって来ていた。

理修の気配に怯え、森で生きる動物や魔獣さえも息を潜める中を構わず進む。しばらくすると、突然空気が変わったように感じられた。

「結界……領域に入ったか……」

それに気付いた時、進む先で目の前に阻むように茂っていた枝が意思を持ったように道を空ける。

開けた視界のその先にあったのは、美しい湖と光が舞う広場。幻想的な場所だった。

理修は、木々の間でこちらを窺うハーピー達に気付きながら、湖の中心へと向かうべく、光る水の上を歩く。

湖の中心には、小さな島があり、その中心に大きな木が森を覆うように枝を広げていた。その木の根元。そこに石の台座があった。

理修は、持って来た石をその台座に乗せる。すると石が瞬きはじめ、光となって弾けた。

《ありがとうございました》

中から現れたのは、透き通った羽を背に持つ美しい女性。

「ちっさ……」

そう、その女性は、コーヒーカップに入るくらいの大きさ。妖精と呼べるモノだった。

《助けていただき、感謝いたします》
「別に。気に入らない領主だったし、ハーピーが煩かったから」
《そ、そうですか……ですが、助けていただいたのは事実。何かお礼を……》
「いや。ハーピーをかなり殺してしまったから。そういうのはいらない。それより今後、こんな事がないように、結界を強化した方がいい」

深い森の更に奥ではあるが、人が全く立ち入れないという訳ではなさそうだった。

理修にとってはどんな結界でも、大抵はカーテンをめくるくらいのもの。しかし、ここの結界は、穴だらけでカーテンにもなっていなかった。

《はい。結界はわたくしが羽化した事で強化できます。これにより今後、人の侵入は容易にできなくなる筈です》

それを聞き、理修は感覚を広げて結界を確かめる。所々あった穴は綺麗に消えている事は確認できたが、用心の為と、一つ杖を打ち鳴らした。

《っ、これはっ!》

一瞬で、結界が強化された事を感じた女性は、息を呑んだ。

「これくらいか……あなたの力に合わせて調整したから、後は好きにするといい。それと、人の領域は侵さない事だよ。共存共栄は夢でしかない。気をつけるんだね」
《は……はい》

それだけ言うと、理修は女性に背を向ける。そして、結界を何事もないかのように通り抜け、街へと戻って行くのだった。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
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