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第五章 封印の黒い魔人
047 封印が解ける時
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理修は、飛び出すようにトゥルーベルの屋敷の地下から続くドアを開けた。
「リズ様。お帰りなさいませ」
家令のリディアルは、焦る理修にも驚かず、いつも通り出迎える。
「ごめん、リディ。急いでるの」
「はい。では先ず、ウィル様にご連絡なされるべきです」
「え、ウィ、あ……いや、だけど……」
「なさるべきです」
「……はい……」
こんな時のリディアルの言葉には意味がある。予言とも取れる程、リディアルのアドバイスは正確で必然性を持っているのだ。
理修はすぐに通信具であるオーヴをポケットから取り出す。そして、魔力を流し反応を待った。すると、ほとんど間を置かず、反応が返って来た。
『リズ?』
「あ、ウィル……ずっと連絡出来なくてごめん」
『いや……』
「あのね……」
地球とは違い、電話がない環境で生活してきたウィルバートはもちろんだが、理修も『恋人相手に電話する』という事に慣れていない。お互い、照れ臭くて何を話せば良いのか分からなくなってしまう。
「えっと……」
「リズ様。急いでいらした理由をお話しされませ」
「え、あ……そうね。ウィル。あのね、司がダグストに召喚されたらしいの。それで、それと一緒に……」
家族がと言おうとして、言葉に詰まる。ウィルバートは理修が母親と上手くいっていないのも知っている。それを今まで理修は、散々どうでもいいと言ってきた。家族とは分かり合えないのだと覚悟し、婚約を機に決別する事までほのめかせていたのだ。
『今更』そう思うと、言葉にならなかった。だが、ウィルバートがそんな理修の様子に気付かないはずもない。
『大丈夫だ。分かっている。今、共にいるんだ』
「え……」
声だけで全てを察してくれるウィルバートに感動する暇もなく、自分の耳を疑った。
「え、ま、待って。今、何て言ったの?」
動揺せずにはいられない。ウィルバートが傍にいるなら安心だと思うのと同時に、紹介する前に出会ってしまったという事に焦る。
「いや、え?父さん達と会ったのっ?」
『ドアを隔てた向こうにいる』
「うそ……」
そして、理修は次の瞬間、屋敷を飛び出すのだった。
◆ ◆ ◆
ウィルバートは、通信の切れたオーヴをしばらく見つめた後、胸の内ポケットに大切にしまい込んだ。それから、ゆっくりとドアを開ける。
「あ、ウィルさん。電話終わったの?」
「でん……あ、あぁ……」
そろそろ出発しようかと考えていた所に、通信具の反応があったのだ。もう、いつでも出発できると用意を整えた司達が、席を立とうとするのを、ウィルバートは苦笑しながら止める。
「悪いんだが、もう少し待ってくれ」
「なんで?」
明良が理由を訊ねるが、ウィルバートは、素直に言うべきか迷った。
「ウィル様。もしかして、理修ですか?」
「理修?」
「ああ。今、向かっている。エヴィも喚ばれたようだからな……あと数分だ」
「いや、屋敷からここまで、かなり距離ありすよね?」
「……あるな……」
司には予想できた。だが、その速度は相当、気持ちが昂ぶっている時に出すものだ。
「……そう言う事……なんですね……」
「そう言う事だ……ただ、怒りからではないから心配いらない……はずだ」
ウィルバートにも、こればかりは分からない。
「大丈夫ですよねっ?いきなりダグストが更地になるとか。ないですよねっ?」
「……あぁ……っ大丈夫だ。その為にも早い方が良い。時間をかければ、考える時間ができてしまうからな……」
予想していなかった家族への挨拶。その機会が出来てしまった事による動揺。その為の昂ぶりだ。だが、考えようによっては、召喚したダグストがそもそもの原因なのだ。そこを突き詰めてしまったら危ない。
「このまま何事もなく、最速で辿り着いてくれれば問題はない……っなんだ?」
「ッこれはっ……」
その時、ウィルバートと司は、突如として現れた巨大な魔力を感じ取った。そして、聖女ミリアが震えながら外へ飛び出す。
「そんな……まさか……っ」
「っミリア」
「なに?なんなの?」
地球組は全く状況が分からなかった。だが、ミリアに釣られて、外を覗いた時、あり得ないものを見て固まった。
「な、なんだよ……アレ……」
「黒い……巨人……」
それは、真っ直ぐにこの森を見つめているようだった。
◆ ◆ ◆
理修がトゥルーベルへと辿り着いた丁度その時、ダグストの神殿では、恐ろしい魔術が発動しようとしていた。
「歴代の聖女の血。これにより、我らの守護神がお目覚めになる」
何人もの神官が手に捧げ持つのは、歴代の聖女として生きた者達の血を冷凍したものだ。勇者召喚の術は、とても危険な強力な術。その為、失敗し、命を落とした聖女は数知れない。そんな聖女達の血を、彼らは保管していたのだ。
「お目覚めください。我らの守護神。黒き魔人よ!」
そして、これが長く封印されていた異界の魔人を目覚めさせる鍵となる。
「魔族を!忌まわしき魔獣を追い払い、我らが受けるべき恵みを今!!」
強い意志と深い業が、今、その封印を解いたのだった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「リズ様。お帰りなさいませ」
家令のリディアルは、焦る理修にも驚かず、いつも通り出迎える。
「ごめん、リディ。急いでるの」
「はい。では先ず、ウィル様にご連絡なされるべきです」
「え、ウィ、あ……いや、だけど……」
「なさるべきです」
「……はい……」
こんな時のリディアルの言葉には意味がある。予言とも取れる程、リディアルのアドバイスは正確で必然性を持っているのだ。
理修はすぐに通信具であるオーヴをポケットから取り出す。そして、魔力を流し反応を待った。すると、ほとんど間を置かず、反応が返って来た。
『リズ?』
「あ、ウィル……ずっと連絡出来なくてごめん」
『いや……』
「あのね……」
地球とは違い、電話がない環境で生活してきたウィルバートはもちろんだが、理修も『恋人相手に電話する』という事に慣れていない。お互い、照れ臭くて何を話せば良いのか分からなくなってしまう。
「えっと……」
「リズ様。急いでいらした理由をお話しされませ」
「え、あ……そうね。ウィル。あのね、司がダグストに召喚されたらしいの。それで、それと一緒に……」
家族がと言おうとして、言葉に詰まる。ウィルバートは理修が母親と上手くいっていないのも知っている。それを今まで理修は、散々どうでもいいと言ってきた。家族とは分かり合えないのだと覚悟し、婚約を機に決別する事までほのめかせていたのだ。
『今更』そう思うと、言葉にならなかった。だが、ウィルバートがそんな理修の様子に気付かないはずもない。
『大丈夫だ。分かっている。今、共にいるんだ』
「え……」
声だけで全てを察してくれるウィルバートに感動する暇もなく、自分の耳を疑った。
「え、ま、待って。今、何て言ったの?」
動揺せずにはいられない。ウィルバートが傍にいるなら安心だと思うのと同時に、紹介する前に出会ってしまったという事に焦る。
「いや、え?父さん達と会ったのっ?」
『ドアを隔てた向こうにいる』
「うそ……」
そして、理修は次の瞬間、屋敷を飛び出すのだった。
◆ ◆ ◆
ウィルバートは、通信の切れたオーヴをしばらく見つめた後、胸の内ポケットに大切にしまい込んだ。それから、ゆっくりとドアを開ける。
「あ、ウィルさん。電話終わったの?」
「でん……あ、あぁ……」
そろそろ出発しようかと考えていた所に、通信具の反応があったのだ。もう、いつでも出発できると用意を整えた司達が、席を立とうとするのを、ウィルバートは苦笑しながら止める。
「悪いんだが、もう少し待ってくれ」
「なんで?」
明良が理由を訊ねるが、ウィルバートは、素直に言うべきか迷った。
「ウィル様。もしかして、理修ですか?」
「理修?」
「ああ。今、向かっている。エヴィも喚ばれたようだからな……あと数分だ」
「いや、屋敷からここまで、かなり距離ありすよね?」
「……あるな……」
司には予想できた。だが、その速度は相当、気持ちが昂ぶっている時に出すものだ。
「……そう言う事……なんですね……」
「そう言う事だ……ただ、怒りからではないから心配いらない……はずだ」
ウィルバートにも、こればかりは分からない。
「大丈夫ですよねっ?いきなりダグストが更地になるとか。ないですよねっ?」
「……あぁ……っ大丈夫だ。その為にも早い方が良い。時間をかければ、考える時間ができてしまうからな……」
予想していなかった家族への挨拶。その機会が出来てしまった事による動揺。その為の昂ぶりだ。だが、考えようによっては、召喚したダグストがそもそもの原因なのだ。そこを突き詰めてしまったら危ない。
「このまま何事もなく、最速で辿り着いてくれれば問題はない……っなんだ?」
「ッこれはっ……」
その時、ウィルバートと司は、突如として現れた巨大な魔力を感じ取った。そして、聖女ミリアが震えながら外へ飛び出す。
「そんな……まさか……っ」
「っミリア」
「なに?なんなの?」
地球組は全く状況が分からなかった。だが、ミリアに釣られて、外を覗いた時、あり得ないものを見て固まった。
「な、なんだよ……アレ……」
「黒い……巨人……」
それは、真っ直ぐにこの森を見つめているようだった。
◆ ◆ ◆
理修がトゥルーベルへと辿り着いた丁度その時、ダグストの神殿では、恐ろしい魔術が発動しようとしていた。
「歴代の聖女の血。これにより、我らの守護神がお目覚めになる」
何人もの神官が手に捧げ持つのは、歴代の聖女として生きた者達の血を冷凍したものだ。勇者召喚の術は、とても危険な強力な術。その為、失敗し、命を落とした聖女は数知れない。そんな聖女達の血を、彼らは保管していたのだ。
「お目覚めください。我らの守護神。黒き魔人よ!」
そして、これが長く封印されていた異界の魔人を目覚めさせる鍵となる。
「魔族を!忌まわしき魔獣を追い払い、我らが受けるべき恵みを今!!」
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