18 / 212
2nd ステージ
018 地獄を見したってや!
しおりを挟む
レングが気に入ったようなので、気軽に提案する。
「それ、貸したるわ。計算はどうや? 歴史は?」
「えっ、あ……計算……歴史……」
「ははっ。苦手そうやな。ほれ、これが計算用。歴史がコレや。初級編を渡しとくわ。よう勉強せいよ」
「わ、わかった!」
カードの収納スペースもきっちり用意されている。そこに先ほどの文字用のと合わせて計三つはめ込み、起動を止めて蓋を閉じた。
「これで持ち運びも出来るやろう? まだ試作品やからな。今度会うた時に、成果を確認するよって、それまで気張りや」
「これなら頑張れる!」
やはり、勉強は苦手だったようだ。
「で、そっちは納得できたか?」
「あ、はい……ですが、この治療法は大変高度な技術が必要となります。先ずはこの『施術師』を育てなければ……」
「ほんならコレや」
差し出したのは、当時の施術師の教本だ。現在は治癒魔法師がそれに当たるが、技術の継承は途絶えているようだ。
「教本や。治癒魔法師やなくても、それなりの魔法師ならこれを理解できるはずや。魔力経絡を正常に戻すくらいならこれで十分やろう」
「っ……本当によろしいのですか……」
「構へんよ。礼もいらんわ」
「っ、そんなわけには!」
これだけの知識をただでというのは確かに考えられないのだろう。それも、貴族ならば尚更だ。
「ええねん。あんたなら、これを正しく広められるやろ。それが対価で構へんわ」
「ですが……」
渋るクイントに、新たに特別編纂した物を差し出す。
「『貴身病』に関係あるものだけを抜き出してまとめたもんがコレや。その教本と合わせて持って行きい」
「っ……わざわざそこだけのものを……? 考えておられたのですか……」
「そうやね……あんたみたいな、中央で動けるもんと知り合って、この問題をどうにかしよう思うてる人がいたらと用意しとったわ」
「っ……」
クイントが目を丸くした。それはとても子どもが考えることではないだろう。驚くのも当然だ。
リンディエールはソファーに深く腰掛けて続けた。
「生まれてきた子どもに罪はないやん。けど、この病のせいで、多くの子どもが傷付いとる。本当なら走り回って、親に迷惑かけて、怪我することや、怒られることも知って成長してく子らが、部屋に押し込められて、感情を押し殺すことを知るんよ……そんなもん、ロクな大人にならんわ」
「……そう……ですね……」
「それが理由の一つや」
それからまた続ける。重要なことだ。リンディエールが知っていてもそのままにしていた意味。
「あんたもそうやし、誰もこの時代に、何が原因か知らんかった。知らんかったんはしょうがない。けどな……これを、原因となったことを不用意に広めれば、関わった治癒魔法師や乳母、料理人達まで罰しようとするかもしれん。弱い立場の者たちが多いでな……王家の関係なら、死刑もありえる」
「っ……確かにそうです……その場合、王子に手をかけたようなものですから……っ」
理解したらしい。クイントは口元を押さえて少し震えていた。
「慎重に事を運ばんと、いくつも首が飛ぶで? 次男以降の存在意義も守ったらなあかんでな」
これで長男が問題なくなるのなら、慌てて次男、三男を作ることはないと考える者も出てくる。既にいる次男以降の存在を急に疎ましく考えるかもしれない。当事者となる子どもたちだって振り回されることになるだろう。
「……子どもたちの尊厳も守らねばならないのですね……これは本当に、不用意に広めれば大変なことになります……」
クイントは、それらの問題も正確に理解してくれたようだ。
「せやから、ウチはこうして用意だけして機会を待っとった。あんたに託すわ。えらい大変なことやで? 対価なんて払っとる場合ちゃうやろ? ある意味、常識を変えるんや。世界を変えると同義やぞ。覚悟決めれるか?」
真っ直ぐにクイントを見つめて問いかける。半端な覚悟ではクイントだけでなく、多くの者の命まで危険に晒すことになるのだから。だが、クイントは背筋を伸ばし、胸に手を当てて宣誓するように告げた。
「っ……もちろんです。上手くやってみせますよ」
「ふふ、はははっ。それでこそ、ウチが見込んだ男や! よし、サービスしたるわ」
リンディエールは指輪を一つ取り出した。一センチほどの幅がある銀の指輪だ。
「っ、これはまさか……【主家命誓の指輪】では!?」
「正解や。当主がはめることで、本人と比護する家族や臣下の命を守るお守りや」
「お守りって……」
お守りの一言で片付けられる代物ではない。もはや言い伝えしかないこの指輪は、今の時代ならば、王が身に付けるべきものだ。
「趣味で作ったもんやしな。それで守護できるんは、何とか五十人までや。それに、戦場や自然災害では役に立たんで? あくまで人災、暗殺避けやでな。大したことあらへんわ」
「……」
守るというなら、全部から守れよとリンディエールは言いたい。伝説級のものもヒストリアのせいでヒョイヒョイ作ってしまえるため、リンディエールは世の常識が高い棚の上に置かれてしまっていることに気付かない。
時折、上からヒストリアがチラリとそちらに目を向けるが、気付かないという感じだ。これもまさしくそうだった。
「はよ着けえ。小指がええで。自動調整付きやでな。あと、通信の魔導具と一緒で、認識されづらくしとる。気にせんでええよ」
「……色々と気になりますよ……」
それでもクイントは指輪にはめた。
「本当に……どうお礼をすればいいのか……」
「気にするなあ。あ、ほんなら、もう一つ頼まれてくれへん?」
「なんです?」
リンディエールは書類を二つ手渡した。
「これは?」
「見てみい。おもろいで」
「拝見いたします……」
その間、もう一杯ジュースを飲むかとレングに話しかけて待つ。リンディエールもかなり喋ったので、喉が渇いていた。ついでにクイントにも渡す。
「あ、いただきます……ん? こ、これはっ」
ジュースではなく、書類で気付いたことがあったようだ。
「っ……まさか……」
「そのまさかや」
顔を上げたクイントは不機嫌だった。正確に書類からそれが何かを理解したがための不快感。もちろん、リンディエールに向けられたものではない。
「昔っから、隣の伯爵は煩あてな~。今回の大繁殖期の報告はもう上がっとるやろ」
「はい。当然のように辺境伯の怠慢で領民達が被害に合ったと訴えておりました」
クイントもあの伯爵は気に入らなかったらしい。馬鹿げた主張を当然のように王都にも上げていたのだろう。頭が悪いのはどうにもならない。
「はははっ。まあ、あのクズならゆうやろなっ。そんでや……コレがバレたらどうなる?」
「ふふふ。もちろん、領費の横領は厳罰です。爵位も落とされますよ。その上に他領の領費をくすねていたなんて……ふふふふふっ。お取り潰しの上に終身奴隷に落とせます。もっと叩いたら死刑までいきそうですけどねっ」
伯爵を失脚させるネタを、リンディエールはしっかりと握っていた。最初に気付いたのは『辺境伯より良い暮らしをしている』ということ。位から考えても、辺境伯という領費から考えても、真逆の差が出るというのは明らかにおかしい。
そこで調べた。他の領も確認し、国から出るものがどれだけか。それだけで、辺境伯領に届く費用が驚くほど少ないことに気づく。これはどこかで抜かれている。そう考えて調べれば、お隣さんの仕業だったというわけだ。
うふふ。あははとクイントと笑い合う。レングはカタカタと震えていた。
「それ頼むわ。地獄を見したってや! はよう処理して後任を用意してもらわんと、あそこの領民が全滅するで? 大繁殖は始まったばかりや。幸い、辺境伯領の方は、じいちゃんとばあちゃん達もおるで、問題ない。けど、伯爵領の方に抜けられたら手え出せんでな」
「分かりました。早急に片付けます」
「よろしゅうに」
さて帰るかと頭を切り替えていたら、クイントがお願いがあると言ってきた。
「お願い?」
「はい。コレに登録を」
「ああ。通信魔導具。そうやな……ええで」
「っ、お願いします」
飛び上がるほど嬉しそうに言われては断れない。ファルビーラとも登録は未だしていないので、二人目の登録だ。
「ありがとうございますっ。あ、お夕食をご一緒にどうですか? 是非とも我が家に」
「いや、遠慮しとくわ。一応、夕食までには帰らんとばあちゃんらに怒られるよって……それに、親友にお土産を見繕っていかなあかんねん」
クイントは首を傾げた。美中年は何をやっても絵になる。
「王都のお屋敷に?」
「いんや。本邸やで? ああ、ウチ転移できんねん。こっからでも自室に飛べるで。一瞬や!」
「……転移……転移? 転移魔法が使える? あ、いえ、そうですよね……こんな物まで作ってしまう方ですしね……ふふふっ。素晴らしいっ。本当に素晴らしいですっ」
「お、おう。何や、恥ずかしな……」
リンディエールはあまり褒められることに慣れていない。分かりやすく顔を赤くした。
「「っ……」」
「ん? どないした?」
同じように目の前の親子は赤くなっていた。
「い、いえ。そんな顔もされるんだと驚きまして。とっても可愛らしい」
「なんやっ。おだててもこれ以上、何も出んで? そんじゃ、またな。困ったことがあったら連絡しい。基本、ウチは自由やでな」
「そうなのですか? 作法などの勉強も始まっているのでは?」
「もうほとんど合格もらってんねん。五つの時からやっとるでな。親友が有能過ぎて困るわ」
「……」
クイントは今日、これまでの人生でもなかった目を丸くするという表情を何度もしていた。
「……そ、それは、ご両親はご存知で?」
「知っとるはずないやろ。ウチが誘拐されて殺されかけてもすっかり忘れて、本来の目的だった長男の方を狙ったもんやってことしか気にせんような人らやで? 今回の大繁殖期の騒動の時にじいちゃん達と一瞬顔合わせたくらいや。もう今は顔も思い出せんわ。ウチ、人の顔覚えんの苦手やねん。母親はもう妖精かゆうくらいウチん中で幻の存在やで? ほんまに存在しとんのかいな」
「……」
リンディエールの中ではもう、両親のことは笑い話だ。
「なんや? どうした? そんな顔して、気にせんでええよ? 例え親でもなあ、一人の人や。合わんもんもおる。幸い、ウチには気にしてくれる使用人達がおった。優しい姉ちゃんや兄ちゃんが仰山おんねん。今はじいちゃんやばあちゃんもおるでな。とっておきの親友もおる。十分や。寂しい思ったことも最近は全くないねん」
これは強がりではない。それがクイントにも伝わったようだ。
「……そうですか……貴女が気になさらないのなら……それに、もう私もおりますよ。友人としていつでもお呼びください」
「ははっ。さすがに宰相さんは呼べんで」
「いいえ。呼んでください」
「……分かったわ。何かあったら呼ぶでな」
「はい!」
どこをそんなに気に入ってくれたんだろうなと、不思議に思いながら、またと言って別れたのだった。
************
読んでくださりありがとうございます◎
また明日!
よろしくお願いします◎
「それ、貸したるわ。計算はどうや? 歴史は?」
「えっ、あ……計算……歴史……」
「ははっ。苦手そうやな。ほれ、これが計算用。歴史がコレや。初級編を渡しとくわ。よう勉強せいよ」
「わ、わかった!」
カードの収納スペースもきっちり用意されている。そこに先ほどの文字用のと合わせて計三つはめ込み、起動を止めて蓋を閉じた。
「これで持ち運びも出来るやろう? まだ試作品やからな。今度会うた時に、成果を確認するよって、それまで気張りや」
「これなら頑張れる!」
やはり、勉強は苦手だったようだ。
「で、そっちは納得できたか?」
「あ、はい……ですが、この治療法は大変高度な技術が必要となります。先ずはこの『施術師』を育てなければ……」
「ほんならコレや」
差し出したのは、当時の施術師の教本だ。現在は治癒魔法師がそれに当たるが、技術の継承は途絶えているようだ。
「教本や。治癒魔法師やなくても、それなりの魔法師ならこれを理解できるはずや。魔力経絡を正常に戻すくらいならこれで十分やろう」
「っ……本当によろしいのですか……」
「構へんよ。礼もいらんわ」
「っ、そんなわけには!」
これだけの知識をただでというのは確かに考えられないのだろう。それも、貴族ならば尚更だ。
「ええねん。あんたなら、これを正しく広められるやろ。それが対価で構へんわ」
「ですが……」
渋るクイントに、新たに特別編纂した物を差し出す。
「『貴身病』に関係あるものだけを抜き出してまとめたもんがコレや。その教本と合わせて持って行きい」
「っ……わざわざそこだけのものを……? 考えておられたのですか……」
「そうやね……あんたみたいな、中央で動けるもんと知り合って、この問題をどうにかしよう思うてる人がいたらと用意しとったわ」
「っ……」
クイントが目を丸くした。それはとても子どもが考えることではないだろう。驚くのも当然だ。
リンディエールはソファーに深く腰掛けて続けた。
「生まれてきた子どもに罪はないやん。けど、この病のせいで、多くの子どもが傷付いとる。本当なら走り回って、親に迷惑かけて、怪我することや、怒られることも知って成長してく子らが、部屋に押し込められて、感情を押し殺すことを知るんよ……そんなもん、ロクな大人にならんわ」
「……そう……ですね……」
「それが理由の一つや」
それからまた続ける。重要なことだ。リンディエールが知っていてもそのままにしていた意味。
「あんたもそうやし、誰もこの時代に、何が原因か知らんかった。知らんかったんはしょうがない。けどな……これを、原因となったことを不用意に広めれば、関わった治癒魔法師や乳母、料理人達まで罰しようとするかもしれん。弱い立場の者たちが多いでな……王家の関係なら、死刑もありえる」
「っ……確かにそうです……その場合、王子に手をかけたようなものですから……っ」
理解したらしい。クイントは口元を押さえて少し震えていた。
「慎重に事を運ばんと、いくつも首が飛ぶで? 次男以降の存在意義も守ったらなあかんでな」
これで長男が問題なくなるのなら、慌てて次男、三男を作ることはないと考える者も出てくる。既にいる次男以降の存在を急に疎ましく考えるかもしれない。当事者となる子どもたちだって振り回されることになるだろう。
「……子どもたちの尊厳も守らねばならないのですね……これは本当に、不用意に広めれば大変なことになります……」
クイントは、それらの問題も正確に理解してくれたようだ。
「せやから、ウチはこうして用意だけして機会を待っとった。あんたに託すわ。えらい大変なことやで? 対価なんて払っとる場合ちゃうやろ? ある意味、常識を変えるんや。世界を変えると同義やぞ。覚悟決めれるか?」
真っ直ぐにクイントを見つめて問いかける。半端な覚悟ではクイントだけでなく、多くの者の命まで危険に晒すことになるのだから。だが、クイントは背筋を伸ばし、胸に手を当てて宣誓するように告げた。
「っ……もちろんです。上手くやってみせますよ」
「ふふ、はははっ。それでこそ、ウチが見込んだ男や! よし、サービスしたるわ」
リンディエールは指輪を一つ取り出した。一センチほどの幅がある銀の指輪だ。
「っ、これはまさか……【主家命誓の指輪】では!?」
「正解や。当主がはめることで、本人と比護する家族や臣下の命を守るお守りや」
「お守りって……」
お守りの一言で片付けられる代物ではない。もはや言い伝えしかないこの指輪は、今の時代ならば、王が身に付けるべきものだ。
「趣味で作ったもんやしな。それで守護できるんは、何とか五十人までや。それに、戦場や自然災害では役に立たんで? あくまで人災、暗殺避けやでな。大したことあらへんわ」
「……」
守るというなら、全部から守れよとリンディエールは言いたい。伝説級のものもヒストリアのせいでヒョイヒョイ作ってしまえるため、リンディエールは世の常識が高い棚の上に置かれてしまっていることに気付かない。
時折、上からヒストリアがチラリとそちらに目を向けるが、気付かないという感じだ。これもまさしくそうだった。
「はよ着けえ。小指がええで。自動調整付きやでな。あと、通信の魔導具と一緒で、認識されづらくしとる。気にせんでええよ」
「……色々と気になりますよ……」
それでもクイントは指輪にはめた。
「本当に……どうお礼をすればいいのか……」
「気にするなあ。あ、ほんなら、もう一つ頼まれてくれへん?」
「なんです?」
リンディエールは書類を二つ手渡した。
「これは?」
「見てみい。おもろいで」
「拝見いたします……」
その間、もう一杯ジュースを飲むかとレングに話しかけて待つ。リンディエールもかなり喋ったので、喉が渇いていた。ついでにクイントにも渡す。
「あ、いただきます……ん? こ、これはっ」
ジュースではなく、書類で気付いたことがあったようだ。
「っ……まさか……」
「そのまさかや」
顔を上げたクイントは不機嫌だった。正確に書類からそれが何かを理解したがための不快感。もちろん、リンディエールに向けられたものではない。
「昔っから、隣の伯爵は煩あてな~。今回の大繁殖期の報告はもう上がっとるやろ」
「はい。当然のように辺境伯の怠慢で領民達が被害に合ったと訴えておりました」
クイントもあの伯爵は気に入らなかったらしい。馬鹿げた主張を当然のように王都にも上げていたのだろう。頭が悪いのはどうにもならない。
「はははっ。まあ、あのクズならゆうやろなっ。そんでや……コレがバレたらどうなる?」
「ふふふ。もちろん、領費の横領は厳罰です。爵位も落とされますよ。その上に他領の領費をくすねていたなんて……ふふふふふっ。お取り潰しの上に終身奴隷に落とせます。もっと叩いたら死刑までいきそうですけどねっ」
伯爵を失脚させるネタを、リンディエールはしっかりと握っていた。最初に気付いたのは『辺境伯より良い暮らしをしている』ということ。位から考えても、辺境伯という領費から考えても、真逆の差が出るというのは明らかにおかしい。
そこで調べた。他の領も確認し、国から出るものがどれだけか。それだけで、辺境伯領に届く費用が驚くほど少ないことに気づく。これはどこかで抜かれている。そう考えて調べれば、お隣さんの仕業だったというわけだ。
うふふ。あははとクイントと笑い合う。レングはカタカタと震えていた。
「それ頼むわ。地獄を見したってや! はよう処理して後任を用意してもらわんと、あそこの領民が全滅するで? 大繁殖は始まったばかりや。幸い、辺境伯領の方は、じいちゃんとばあちゃん達もおるで、問題ない。けど、伯爵領の方に抜けられたら手え出せんでな」
「分かりました。早急に片付けます」
「よろしゅうに」
さて帰るかと頭を切り替えていたら、クイントがお願いがあると言ってきた。
「お願い?」
「はい。コレに登録を」
「ああ。通信魔導具。そうやな……ええで」
「っ、お願いします」
飛び上がるほど嬉しそうに言われては断れない。ファルビーラとも登録は未だしていないので、二人目の登録だ。
「ありがとうございますっ。あ、お夕食をご一緒にどうですか? 是非とも我が家に」
「いや、遠慮しとくわ。一応、夕食までには帰らんとばあちゃんらに怒られるよって……それに、親友にお土産を見繕っていかなあかんねん」
クイントは首を傾げた。美中年は何をやっても絵になる。
「王都のお屋敷に?」
「いんや。本邸やで? ああ、ウチ転移できんねん。こっからでも自室に飛べるで。一瞬や!」
「……転移……転移? 転移魔法が使える? あ、いえ、そうですよね……こんな物まで作ってしまう方ですしね……ふふふっ。素晴らしいっ。本当に素晴らしいですっ」
「お、おう。何や、恥ずかしな……」
リンディエールはあまり褒められることに慣れていない。分かりやすく顔を赤くした。
「「っ……」」
「ん? どないした?」
同じように目の前の親子は赤くなっていた。
「い、いえ。そんな顔もされるんだと驚きまして。とっても可愛らしい」
「なんやっ。おだててもこれ以上、何も出んで? そんじゃ、またな。困ったことがあったら連絡しい。基本、ウチは自由やでな」
「そうなのですか? 作法などの勉強も始まっているのでは?」
「もうほとんど合格もらってんねん。五つの時からやっとるでな。親友が有能過ぎて困るわ」
「……」
クイントは今日、これまでの人生でもなかった目を丸くするという表情を何度もしていた。
「……そ、それは、ご両親はご存知で?」
「知っとるはずないやろ。ウチが誘拐されて殺されかけてもすっかり忘れて、本来の目的だった長男の方を狙ったもんやってことしか気にせんような人らやで? 今回の大繁殖期の騒動の時にじいちゃん達と一瞬顔合わせたくらいや。もう今は顔も思い出せんわ。ウチ、人の顔覚えんの苦手やねん。母親はもう妖精かゆうくらいウチん中で幻の存在やで? ほんまに存在しとんのかいな」
「……」
リンディエールの中ではもう、両親のことは笑い話だ。
「なんや? どうした? そんな顔して、気にせんでええよ? 例え親でもなあ、一人の人や。合わんもんもおる。幸い、ウチには気にしてくれる使用人達がおった。優しい姉ちゃんや兄ちゃんが仰山おんねん。今はじいちゃんやばあちゃんもおるでな。とっておきの親友もおる。十分や。寂しい思ったことも最近は全くないねん」
これは強がりではない。それがクイントにも伝わったようだ。
「……そうですか……貴女が気になさらないのなら……それに、もう私もおりますよ。友人としていつでもお呼びください」
「ははっ。さすがに宰相さんは呼べんで」
「いいえ。呼んでください」
「……分かったわ。何かあったら呼ぶでな」
「はい!」
どこをそんなに気に入ってくれたんだろうなと、不思議に思いながら、またと言って別れたのだった。
************
読んでくださりありがとうございます◎
また明日!
よろしくお願いします◎
527
あなたにおすすめの小説
私だけが愛して1度も笑ったことの無い夫が、死んだはずの息子を連れてもどってきた
まつめ
恋愛
夫はただの一度も私に笑いかけたことは無く、穏やかに夫婦の時間をもったこともない。魔法騎士団の、騎士団長を務める彼は、23年間の結婚生活のほとんどを戦地で過ごしている。22歳の息子の戦死の知らせが届く。けれど夫は元気な息子を連れて私の元に戻って来てくれた。
あなたが後悔しても、私の愛はもう戻りません
藤原遊
恋愛
婚約者のアルベルトは、優しい人だった。
ただ――いつも、私より優先する存在がいただけで。
「君は分かってくれると思っていた」
その一言で、リーシェは気づいてしまう。
私は、最初から選ばれていなかったのだと。
これは、奪われた恋を取り戻す物語ではない。
後悔する彼と、もう戻らないと決めた私、
そして“私を選ぶ人”に出会うまでの、静かな恋の終わりと始まりの物語。
もうすぐ帰って来る勇者様と私の結婚式が3日後ですが、プロポーズされていないといくら言っても誰も信じてくれません
まつめ
恋愛
3日後に村をあげての盛大な結婚式がある。それはもうすぐやって来る勇者様と自分の結婚式。けれど勇者様は王都の聖女様と結婚すると決まっている。私は聖女様の代わりに癒し手として勇者様を治療してきた、だから見事魔王を打ち破って帰って来た時、村人達は私が本物の聖女だと勘違い。私がいくら否定しても誰も聞いてはくれない。王様との謁見を終えてもうすぐ勇者様が村に帰って来る。私は一度も好きだと言われてないし、ましてや結婚しようとプロポーズも受けていない。村人達はお祭り騒ぎで結婚式の準備は加速していく。どうしようと困っているのに、心の奥底で「もしかしたら……」と大好きな勇者様が自分を選んでくれる未来を淡く期待して流されてしまう私なのだった。どうしよう……でもひょっとして私と結婚してくれる?
『魔力ゼロの欠陥品』と蔑まれた伯爵令嬢、卒業パーティーで婚約破棄された瞬間に古代魔法が覚醒する ~虐げられ続けた三年間、倍返しでは足りない~
スカッと文庫
恋愛
「貴様のような無能、我が国の王妃には相応しくない。婚約を破棄し、学園から追放する!」
王立魔道学園の卒業パーティー。きらびやかなシャンデリアの下、王太子エドワードの声が冷酷に響いた。彼の隣には、愛くるしい表情で私を嵌めた男爵令嬢、ミナが勝ち誇ったように寄り添っている。
伯爵令嬢のリリアーヌは、入学以来三年間、「魔力ゼロの欠陥品」として学園中の嘲笑を浴び続けてきた。
婚約者であるエドワードからは一度も顧みられず、同級生からはゴミのように扱われ、ミナの自作自演による「いじめ」の濡れ衣まで着せられ……。
それでも、父との「力を隠せ」という約束を守るため、泥を啜るような屈辱に耐え抜いてきた。
――だが、国からも学園からも捨てられた今、もうその約束を守る必要はない。
「さようなら、皆様。……私が消えた後、この国がどうなろうと知ったことではありませんわ」
リリアーヌが身につけていた「魔力封印の首飾り」を自ら引き千切った瞬間、会場は漆黒の魔力に包まれた。
彼女は無能などではない。失われた「古代魔法」をその身に宿す、真の魔道の主だったのだ。
絶望する王太子たちを余目に、隣国の伝説の魔術師アルベルトに拾われたリリアーヌ。
彼女の、残酷で、甘美な復讐劇が今、幕を開ける――。
三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します
冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」
結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。
私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。
そうして毎回同じように言われてきた。
逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。
だから今回は。
追放された地味令嬢、実は王国唯一の“魔力翻訳者”でした 〜役立たずと言われましたが、もう契約は終了です〜
あめとおと
恋愛
王太子から「魔法が何も起こらない役立たず」と断罪され、婚約破棄された伯爵令嬢リリア。
追放された彼女の能力は――
魔法の“意味”を読み解き、術式そのものを理解する力《魔力翻訳》。
辺境の魔導研究所でその才能を見出された彼女は、
三百年解読不能だった古代魔法を次々と再生させていく。
一方、彼女を失った王都では魔法事故が連鎖。
国家結界すら崩壊寸前に――。
「戻ってきてほしい」
そう告げられても、もう遅い。
私を必要としてくれる場所は、
すでに別にあるのだから。
これは、役立たずと呼ばれた令嬢が
本当の居場所と理解者を見つける物語。
【短編】『待つ女』をやめたら、『追われる女』になりました
あまぞらりゅう
恋愛
婚約者の王太子を、いつも待ち続けてきたシャルロッテ侯爵令嬢。
だがある日、彼女は知ってしまう。彼には本命の恋人がいて、自分のことを都合よく放置していただけなのだと。
彼女が待つのをやめた瞬間、追ってきたのは隣国の皇太子だった。
※覚えやすさや分かりやすさを重視しているので、登場人物の名前は「キャラクター名+身分表記」にしています
★小説家になろう2026/1/29日間総合8位異世界恋愛7位
★他サイト様にも投稿しています!
「その気になれない」と婚約破棄したあなたの、話を聞く必要がありますか?
さんけい
恋愛
国境を守るために結ばれた婚約を、侯爵家の令息は「その気になれない」という身勝手な理由で壊した。しかも婿入りする立場でありながら、愛人を認めろとまで言い出して――。
侮られ、傷つきながらも、伯爵家の跡取り娘エーディアは立ち止まらない。父とともに次の手を打ち、地に足のついた堅実な男ユリウスと出会い、領地と未来を少しずつ立て直していく。
一方、婚約を軽んじた元婚約者は、家にも王都にも見限られ、じわじわと立場を失っていく。
これは、誰かに苦しみを背負わせようとした男が自滅し、自分の足で立つ女が静かに幸福をつかむ、国境領ざまあ婚約破棄譚。
全44話。予約投稿済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる