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4th ステージ
035 どないしよっ
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侍従とは、貴族の子息や令嬢が十歳から十五歳になるまでに決める付き人のことだ。専用の護衛や執事、メイドのようなもの。
一般的には男女二人。侍従長と、侍女長だ。そうして人を使うことを覚え、未来の補佐を育てていくのだという。年齢は通常、同年代の者が多い。生涯忠誠を誓い、傍に居るのだから年齢が上の者はあまり好まれなかった。
長男の場合はその家の次期家令で、家令の身内から侍従長を決め、メイド長に推薦された使用人の娘が侍女長になることが約束されている。
令嬢の場合は、年齢が高い者もなくはない。将来の嫁ぎ先が決まっていると、同年代の男というのは嫌がられる傾向があるらしい。これは最近の風潮だ。
貴身病により子どもが成長し辛いからこそ出てきたもの。子どもが原因で辛く当たる夫は多く、侍従と恋仲になり、夜逃げする者がいるらしいのだ。
お陰で年上の侍従長でも問題はない。ただし、年齢が離れているということは、早く別離の日が来るということ。よって、進んで年上の侍従長を付けようとする者は少ない。とはいえ、グランギリアは魔族。寿命の問題はなかった。
「ウチの侍従長にグランはんが? ウチ、要らん子やで? あの家から出なあかんかもしれん」
「それでも構いませんよ。リン様ならば冒険者でしょうか。どこへでもお供いたします。これでも、強いのですよ?」
「ははっ。知っとるわ。けど、ここから出るゆうんは、ええのんか?」
「それも、既に里の者には告げております。ファシード殿も、そろそろ外へと言っておられました。良い機会です」
もうその方向で動いていたようだ。これはヒストリアの入れ知恵もありそうだなと思う。ヒストリアは少し前から、リンディエールの傍に誰かが居ないことが不安だと言っていた。理解者が必要だと。
リンディエールに守られる者ではなく、守ることも出来る力を持つ者。自分自身を守れることは当然、信頼を得てリンディエールが大切にする者も任せられる実力ある者。そして、誰よりもリンディエールを大切に思える者。
その条件に当てはまるのは自分だとヒストリアは思っている。だが、ヒストリアは動けない。ならば他にと考え、選ばれたのがグランギリアだった。
「リン様に子どもの侍従は合いませんよ」
「……ウチが言うんもなんやけど……確かに想像できんわ……けど、ホンマにええんか……?」
少しだけ震えた手。それはリンディエールの動揺。もう、一人で居ることに慣れてしまっていた。だから不安だ。傍に居てくれる人に迷惑をかけるかもしれない。そんな不安を読み取り、グランギリアは強く手を握ってクスリと笑った。
「っ……」
「もちろんでございます。グランとお呼びください。貴女にお会いした日から、この選択しかありませんでした。我が唯一の主様。生涯の忠誠をお許しください」
額をリンディエールの手の甲に持っていくグランギリア。これは、ヒストリアに教えてもらった遥か昔から主人に忠誠を誓う時の作法。
リンディエールは努めて心を落ち着ける。この作法を知っており、これを口にしたということは、本来の決して破れない忠誠の儀式を知っている。
自身の鼓動を感じながら、一度目を閉じて覚悟を決めた。口にしたのは了承の言葉。
「許す。最期まで傍にいなさい。グランの誓いを受け入れます」
顔を上げたグランギリアの瞳には歓喜の色があった。そして、そっとリンディエールに触れていた手を離し、真っ直ぐにリンディエールの目を見つめてそれを発動させる。
「っ、はっ! 『我が名はグランギリア・フォルド・ゼルデラース。生涯の忠誠と名を我が主様へ捧げます』」
ゆっくりと胸に手を当てる。グランギリアの下には蒼く光輝く魔法陣が展開され、その光がゆっくりと吸い込まれるように胸に当てた手の甲に注がれいく。それを見つめながらリンディエールもゆっくりと息を吐いた。
呼吸を落ち着けながら、一歩近付いてグランギリアの下にある魔法陣に足を踏み入れる。すると、魔法陣は白い光に染まった。それを確認しながら、グランギリアの額辺りに右手の指先を添えて魔力を注ぐ。
「『我、リンディエール・デリエスタはグランギリア・フォルド・ゼルデラースの忠誠の誓いを受け入れる』」
ふわりとリンディエールやグランギリアの髪が風を受ける。それは放出される魔力の圧力。それが集中していくのがグランギリアが胸に当てた手の中。
「っ……」
グランギリアは苦しげに息を詰めていた。リンディエールの魔力がそこに、心臓の上に焼き付いていく。
全ての光が吸い込まれ、魔法陣が消えた。すると、グランギリアの体が少し傾ぐ。
「グランはっ」
「っ、失礼しました。ふふ。主様の魔力が予想より多くて驚きました」
「うわあ。すまんなあ。この儀式は見極めが難しいから気いつけえ言われとったのに。大丈夫か?」
「はい。お陰でこんなこともできます」
「へ?」
ぶわっとグランギリアから放たれた魔力の風。それに思わず目を閉じる。そして、次に目を開けた時。そこには、二十頃の青年の姿になったグランギリアが居た。瞳の紅は変わらないが、灰色の髪は少しだけ色を濃くしており、文句なしの美青年だ。
驚いて座り込んだリンディエールに優しく微笑み、グランギリアが手を差し伸べる。
「突然申し訳ありませんでした。どうですか? 主様の好みに合っていれば良いのですが」
若返った声を聞いて、顔を赤くした。これはヤバいと心臓が騒ぐ。そうして、立ち上がる勢いのまま抱え上げられた。
「っ、わわっ」
「ふふふ。これでいつでもお側に居られます。愛していますよ、わたくしの主様」
物凄い笑顔だった。それはもう嬉しくて仕方がないというように。しかし、リンディエールはそれどころではない。
「グ、グランはん……っ」
「グランですよ。主様」
「っ、ほんなら、ウチもっ……今まで通りの呼び方にしてやっ……」
ちょっと顔が火照りすぎてるのが分かって目をそらす。なんとか誤魔化したい。
「では、対外的に問題がない時だけ、リン様とお呼びします。リン様? 先ほどからどうされました?」
「ふわあっ」
少し顔を近付けて囁かれた。きっと耳まで赤くなっただろう。
「リン様?」
「っ、それっ、それや! ヤバいで……っ、グランはんの声がヤバいわ! う、ウチ、昔っから声フェチやねん!」
「声フェチ……」
不思議そうにされた。リンディエールはもう両手で顔を覆っている。そして空を仰ぐ。
「うぉぉぉっ。なんちゅうドストライクな声やねん! 通信で声聞いただけで悶える自信あるで!!」
リンディエールは、自分でもビックリするほど興奮していた。
「どないしよっ、どないしよっ……っ」
落ち着け、落ち着けと耳を塞いで自問する。こんなご褒美あって良いのかと。
「これ、これから毎日聞けるやつか!? 神さまはウチをどうしたいねん! 笑いたいんか!? 笑いもんにしたいんか!? これ聴けるならいくらでも笑かしたんで!!」
「リン様?」
どう見てもご乱心状態。けれど、グランギリアは嬉しそうに腕に乗せたリンディエールを微笑んで見上げている。
「よっしゃ、神さまの笑い者になる覚悟は決まったで! グラン。これからよろしゅうな!」
「はい! リン様」
そんな光景を、祖父母とクイントは呆気に取られたまま見つめていた。
************
読んでくださりありがとうございます◎
また二日空きます。
よろしくお願いします!
一般的には男女二人。侍従長と、侍女長だ。そうして人を使うことを覚え、未来の補佐を育てていくのだという。年齢は通常、同年代の者が多い。生涯忠誠を誓い、傍に居るのだから年齢が上の者はあまり好まれなかった。
長男の場合はその家の次期家令で、家令の身内から侍従長を決め、メイド長に推薦された使用人の娘が侍女長になることが約束されている。
令嬢の場合は、年齢が高い者もなくはない。将来の嫁ぎ先が決まっていると、同年代の男というのは嫌がられる傾向があるらしい。これは最近の風潮だ。
貴身病により子どもが成長し辛いからこそ出てきたもの。子どもが原因で辛く当たる夫は多く、侍従と恋仲になり、夜逃げする者がいるらしいのだ。
お陰で年上の侍従長でも問題はない。ただし、年齢が離れているということは、早く別離の日が来るということ。よって、進んで年上の侍従長を付けようとする者は少ない。とはいえ、グランギリアは魔族。寿命の問題はなかった。
「ウチの侍従長にグランはんが? ウチ、要らん子やで? あの家から出なあかんかもしれん」
「それでも構いませんよ。リン様ならば冒険者でしょうか。どこへでもお供いたします。これでも、強いのですよ?」
「ははっ。知っとるわ。けど、ここから出るゆうんは、ええのんか?」
「それも、既に里の者には告げております。ファシード殿も、そろそろ外へと言っておられました。良い機会です」
もうその方向で動いていたようだ。これはヒストリアの入れ知恵もありそうだなと思う。ヒストリアは少し前から、リンディエールの傍に誰かが居ないことが不安だと言っていた。理解者が必要だと。
リンディエールに守られる者ではなく、守ることも出来る力を持つ者。自分自身を守れることは当然、信頼を得てリンディエールが大切にする者も任せられる実力ある者。そして、誰よりもリンディエールを大切に思える者。
その条件に当てはまるのは自分だとヒストリアは思っている。だが、ヒストリアは動けない。ならば他にと考え、選ばれたのがグランギリアだった。
「リン様に子どもの侍従は合いませんよ」
「……ウチが言うんもなんやけど……確かに想像できんわ……けど、ホンマにええんか……?」
少しだけ震えた手。それはリンディエールの動揺。もう、一人で居ることに慣れてしまっていた。だから不安だ。傍に居てくれる人に迷惑をかけるかもしれない。そんな不安を読み取り、グランギリアは強く手を握ってクスリと笑った。
「っ……」
「もちろんでございます。グランとお呼びください。貴女にお会いした日から、この選択しかありませんでした。我が唯一の主様。生涯の忠誠をお許しください」
額をリンディエールの手の甲に持っていくグランギリア。これは、ヒストリアに教えてもらった遥か昔から主人に忠誠を誓う時の作法。
リンディエールは努めて心を落ち着ける。この作法を知っており、これを口にしたということは、本来の決して破れない忠誠の儀式を知っている。
自身の鼓動を感じながら、一度目を閉じて覚悟を決めた。口にしたのは了承の言葉。
「許す。最期まで傍にいなさい。グランの誓いを受け入れます」
顔を上げたグランギリアの瞳には歓喜の色があった。そして、そっとリンディエールに触れていた手を離し、真っ直ぐにリンディエールの目を見つめてそれを発動させる。
「っ、はっ! 『我が名はグランギリア・フォルド・ゼルデラース。生涯の忠誠と名を我が主様へ捧げます』」
ゆっくりと胸に手を当てる。グランギリアの下には蒼く光輝く魔法陣が展開され、その光がゆっくりと吸い込まれるように胸に当てた手の甲に注がれいく。それを見つめながらリンディエールもゆっくりと息を吐いた。
呼吸を落ち着けながら、一歩近付いてグランギリアの下にある魔法陣に足を踏み入れる。すると、魔法陣は白い光に染まった。それを確認しながら、グランギリアの額辺りに右手の指先を添えて魔力を注ぐ。
「『我、リンディエール・デリエスタはグランギリア・フォルド・ゼルデラースの忠誠の誓いを受け入れる』」
ふわりとリンディエールやグランギリアの髪が風を受ける。それは放出される魔力の圧力。それが集中していくのがグランギリアが胸に当てた手の中。
「っ……」
グランギリアは苦しげに息を詰めていた。リンディエールの魔力がそこに、心臓の上に焼き付いていく。
全ての光が吸い込まれ、魔法陣が消えた。すると、グランギリアの体が少し傾ぐ。
「グランはっ」
「っ、失礼しました。ふふ。主様の魔力が予想より多くて驚きました」
「うわあ。すまんなあ。この儀式は見極めが難しいから気いつけえ言われとったのに。大丈夫か?」
「はい。お陰でこんなこともできます」
「へ?」
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驚いて座り込んだリンディエールに優しく微笑み、グランギリアが手を差し伸べる。
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「グランですよ。主様」
「っ、ほんなら、ウチもっ……今まで通りの呼び方にしてやっ……」
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「では、対外的に問題がない時だけ、リン様とお呼びします。リン様? 先ほどからどうされました?」
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「リン様?」
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「うぉぉぉっ。なんちゅうドストライクな声やねん! 通信で声聞いただけで悶える自信あるで!!」
リンディエールは、自分でもビックリするほど興奮していた。
「どないしよっ、どないしよっ……っ」
落ち着け、落ち着けと耳を塞いで自問する。こんなご褒美あって良いのかと。
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「リン様?」
どう見てもご乱心状態。けれど、グランギリアは嬉しそうに腕に乗せたリンディエールを微笑んで見上げている。
「よっしゃ、神さまの笑い者になる覚悟は決まったで! グラン。これからよろしゅうな!」
「はい! リン様」
そんな光景を、祖父母とクイントは呆気に取られたまま見つめていた。
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