52 / 212
6th ステージ
052 子どもは素直なもんや
しおりを挟む
リンディエールは、青年が逃げないのを確認しながら改めて口を開いた。
「とりあえず、ジェルラスは引き取らせてもらうよって、納得してくれるやろか」
これに、クゼリア伯爵は頷いた。祖母にも目を向けると、こちらも静かに頷く。
「こんな物言いで申し訳ないけどなあ、ほんに、今まで預かってくれとったことについては感謝すんで。引き取る時はアレやったな。お礼の品を渡すんやったか。何がええかなあ。なんぞ用意しとるか?」
リンディエールは父親であるディースリムへ確認する。
「あ、ああ……お礼金を……」
「っ、い、いや。待って欲しい」
クゼリア伯爵が、お礼のお金を持って来させようとするディースリムを押しとどめる。
「わ、私達は、預かっておきながら、まともな暮らしをさせなかった。それは……間違いないんだ……申し訳ない!」
立ち上がって、クゼリア伯爵は頭を下げた。夫人であるセリンの姉も、座ったままだが、ハンカチを口元に当て、顔を白くして頭を下げていた。
きちんとリンディエールの話を聞いていた証拠だ。祖父母達も俯いている。
「座って、頭を上げてんか。ジェルラスには辛かったかもしれんが、ある意味これが今の貴族の常識の一つや。全部、当たり前のことしとったに過ぎん。せやから、謝るんやったらジェルラスにしたってや。人に謝ることを身をもって教えるんも、大人の義務や。それでウチらは構へん」
ディースリムとセリンに目を向ければ、そうだと頷いた。
「まあ、けどそれは後でええねん。それに、礼は礼や。何より、信頼が本物であったと感謝を示すんがお礼の品や。それは受け取ってもらわなあかん。ただ……金はダメやで。子どもを金で取り引きすなや」
キッとリンディエールはディースリムを睨んでおいた。
「っ、ご、ごめん……」
「はあ……配慮が足りとらんで……こういう場合は失せ物や。食べ物や消耗品な。申し訳ないけども、後日改めて届けさせてもらうわ」
「あ、ああ……お心遣い、感謝する」
多分、この場の大人たちは今、馬鹿みたいに混乱している。当主であるディースリムを差し置いて、たった十歳の少女、リンディエールが口を開いているのを誰も指摘しないのだから。
だが、リンディエールはこれ幸いと続けた。
「さて、ジェルラスのことはとりあえず端に置いとかせてもろおて、もうちょいウチに付き合うてもらうで?」
「なんだろうか?」
もはや普通に聞いてくれるクゼリア伯爵。夫人の方も、幾分か顔色が良くなっていた。
「グラン、アレを」
「はい」
グランギリアに指示を出す。彼が向かったのは、リンディエールの向かいの壁。大きな壺が置かれているそれを、グランギリアは軽く持ち上げて横に退けた。
「っ……」
「あっ……っ」
息を呑んだのは、青年とケルミーナだった。見えた壁には、赤黒いもので魔法陣が描かれていた。それは、盗聴用の魔法陣だ。
「なんでしょう? 娘のいたずら書きでしょうか」
リンディエールが商業ギルドで見つけて発覚した魔法陣。それは調査の結果、多くの貴族の屋敷で確認されたと聞いている。
「これの調査に対応したんは、前クゼリア伯爵で?」
「ああ……もう効果はないと聞いている……」
初めて聞いた声は落ち着いた小さく低い声だった。
クゼリア現当主は、その時にこの屋敷に居なかったのだろう。この屋敷では、恐らく前クゼリア伯爵が一人で対応したはずだ。これは、あまり知られるべきではないのだから。
「せやな。一部欠けた状態では、もう機能せん」
これに、ケルミーナが突然叫ぶように告げた。
「機能しないってどういうことよ! 私とユーア様の繋がりをっ、あなたっ! あなたが使えなくしたの!!」
「ユーア……誰や?」
喚き、睨み付けてくるケルミーナを気にせず、リンディエールはディースリムに確認する。
「……だ、第二王子がユーアリア様という御名前だが……」
「そうよ!! 第二王子のユーア様の寂しさを癒すために、私の言葉を届けているの!! それをよくも!!」
これは面白いことがわかったと、リンディエールはほくそ笑む。
「ははっ。なるほどなあ。子どもなら怪しまれんか」
第二王子が話を望んでいると言われれば、令嬢や子息達も悪気なく、家のことも話すだろう。それが重要なことであっても気付かずに、何気なく話してしまう。
「ほんま、嫌な組織やなあ。どこまでも子どもをコケにしおる……なあ、兄ちゃんもそう思うやろ?」
「っ!!」
リンディエールが目を向けたのは、先ほどから震えていた青年だ。
「テシルゆうたか? 隣のフライン公国の出やそうやな。テシュール・ブフラン……ブフラン侯爵家の次男やったか」
「っ、な、なぜ……っ」
青年は、今や目に見えて震えている。これに周りは驚きながらも黙っていることにしたようだ。
「ウチの優秀な侍従と侍女が、調べてくれてん。追放者達の組織……今は『ブランシェレル』名乗っとるらしいなあ。古代語で『白の誓い』やな。大層な名前付けたもんやわ」
「っ……」
頬杖をついて、ニヤリと意味深な笑みを向ける。どんどん顔色が悪くなっていった。
それを見て、グランギリアが咳払いをする。
「リン様。あまりそのようにいじめるものではありませんよ」
「はは。堪忍え。これはまあ、ジェルラスをええように使おうとしとったことへのお仕置きや」
「っ……ど、どうして……」
「どうして知っとるかって? あの組織のやり方は調査しとったんよ。そっから予想したに過ぎんわ」
リンディエールは立ち上がると、テシルに近付いていく。彼は完全に腰が引けていた。お互いに手が届かない距離で立ち止まり、テシルの顔を見上げた。
「さっきも言うたがなあ……あんたも被害者や。貴族社会が……この世界が憎い思うんも分かる。けどなあ、あんたがジェルラスに言うたこと、かつてのあんたが欲しかった言葉やったか?」
「私が……」
「あんたも組織の者に同じこと言われたんやろ? そんで家を捨てたんやないか? その時の言葉は……ほんまにその時に欲しかった言葉やったか?」
「……欲しかった……言葉……っ」
テシルは助けて欲しいと思っていた。置かれた状況から逃げたいと。自分を見捨てた親が憎いと。だから、連れ出してくれると聞いて嬉しかった。けれどその言葉は、本当に救いの言葉だっただろうかと自問する。
「ジェルラスに同じように声をかけた時。あんたは本当にジェルラスの幸せを考えてくれたか?」
「っ、私は……っ」
「あんたがその時に思うたことを、あんたを連れ出した人も思っとった。分かるやろ?」
「……私は……組織のためにと……ジェルラス様ではなく、組織のために……っ」
テシルは理解した。力なく座り込んだのは、自身がジェルラスの寂しさや辛さを知っていながら放置し、その思いを利用しようと考えていたという浅ましさを自覚したからだ。見方を変えるのは難しいが、彼の場合は容易い。かつて経験したことなのだから。
「あの組織も、元の思想からかなり離れてきとる。だいたい、自分たちを『追放者』やて、どっか悦に浸っとるしなあ。瓦解するんも時間の問題やで。アレらが自覚して、考えを改めるんやったらええ……けど、このまま突き進むんなら、ウチも容赦できん」
テシルは泣きそうな顔でリンディエールを見上げた。
「あんたらのソレは自己満や。不満や、理不尽や言うて癇癪起こしとる子どもと変わらへん。最終的に武力で押し通す気満々やろ?」
「……っ」
「仮に通せたとしても、それやとそん時は一時的にあんたらは満足するやろう。けどなあ……そうゆう無理に通したもんは、簡単にまたひっくり返るで」
相手は納得していないのだ。それでは解決したとはいえず、やはりダメだと元に戻されるだろう。
「根本から変えなあかんねん。不満や主張することが悪いとは言わん。そうゆう意見もあるゆうて声を上げることは悪いことやないで。けどなあ、それで同じ立場の者を利用すんのは、違うやろ? 考えを誘導するんは、おかしいやろ?」
「……はい……っ」
肩を落としたテシルは、座り込んだままジェルラスへ目を向け、頭を床につけるほど深く下げた。
「ジェルラス様……申し訳ありませんでした……」
「っ、え? えっと……?」
「私は、ジェルラス様を利用……しようと……っ」
「りよう?」
ジェルラスは組織のことを知らない。利用と言われても意味が分からないだろう。リンディエールが間に入る。
「ジェルラス。テシルが居って良かったか?」
「あ、うん……じゃない、はい! テシルがそばにいてくれて、うれしかったです!」
「っ、ジェルラス様……っ」
素直に言葉を向けられ、テシルは弾かれたように顔を上げる。そして、涙を流した。こんなにも無邪気な子どもを利用しようとしていたことに、テシルは後悔していた。
「子どもは素直なもんや。それを勝手に自分らの思想に染めたらあかん。最後の最後まで責任取るならまあええわ。親の立場なら、他人がとやかく言うもんやないでな。けど、あんたらは組織や。どうしても個人が埋没する」
その他大勢になる。それでは子どもの可能性が出にくくなってしまう。現れるべき個が確立できなくなってしまう。
「自分の気持ちを代弁され続ければ、一人になった時に考えることができんようになる。個人を殺しとるんや。それは本来、許されへん。ウチが気に入らんのはそこや。まあ、広い目で見れば、国とかもそうなるんやろうけど。程度がなあ」
リンディエールは、未だ睨み付けていたらしいケミアーナと目を合わせた。
「はあ……そっちの姉ちゃんに言っとくで。アレに向けて何を話したか知らんけど……」
「っ、アレですって!? ユーア様になんてこと!」
「……姉ちゃん、いくつや? これだけ話しとっても察せられんのは、ほんまマズイで? はっきり言うとくとなあ、姉ちゃんは犯罪組織へ家の情報を渡しとったんよ」
「は、犯罪組織ですって!? なんて失礼なの! 王子に向かってっ、不敬罪よ!」
ギャンギャンと煩いなとリンディエールは軽く耳を塞いで見せる。目を細めて呆れた表情で続けた。
「せやから、その王子がその組織と繋がっとるんよ。これ、相手が他国やったらどうなるか分からんか? 姉ちゃんがこの言葉知っとるか分からんけどなあ……」
たっぷりとため息を吐いてから、ジロリと睨み付けて告げた。
「『売国奴』言うて処刑されても文句言えへんのやで?」
「っ、は? 何言ってるの? 私はユーア様の寂しさを……」
「せやから、その王子が組織に与しとる可能性大や言うとるんよ。まったく……世間知らずも大概にせえよ。はあ……さっさと宰相さんに連絡するか」
少しは自覚したらしく、青い顔でブツブツと言っているケミアーナは放っておき、リンディエールはクイントへと連絡を取った。
予想通りというか、クイントにとっては当たり前の行動で、しばらくしてそのクイントはここへ駆けつけたのだ。
***********
読んでくださりありがとうございます◎
次回、1日の予定です!
よろしくお願いします◎
「とりあえず、ジェルラスは引き取らせてもらうよって、納得してくれるやろか」
これに、クゼリア伯爵は頷いた。祖母にも目を向けると、こちらも静かに頷く。
「こんな物言いで申し訳ないけどなあ、ほんに、今まで預かってくれとったことについては感謝すんで。引き取る時はアレやったな。お礼の品を渡すんやったか。何がええかなあ。なんぞ用意しとるか?」
リンディエールは父親であるディースリムへ確認する。
「あ、ああ……お礼金を……」
「っ、い、いや。待って欲しい」
クゼリア伯爵が、お礼のお金を持って来させようとするディースリムを押しとどめる。
「わ、私達は、預かっておきながら、まともな暮らしをさせなかった。それは……間違いないんだ……申し訳ない!」
立ち上がって、クゼリア伯爵は頭を下げた。夫人であるセリンの姉も、座ったままだが、ハンカチを口元に当て、顔を白くして頭を下げていた。
きちんとリンディエールの話を聞いていた証拠だ。祖父母達も俯いている。
「座って、頭を上げてんか。ジェルラスには辛かったかもしれんが、ある意味これが今の貴族の常識の一つや。全部、当たり前のことしとったに過ぎん。せやから、謝るんやったらジェルラスにしたってや。人に謝ることを身をもって教えるんも、大人の義務や。それでウチらは構へん」
ディースリムとセリンに目を向ければ、そうだと頷いた。
「まあ、けどそれは後でええねん。それに、礼は礼や。何より、信頼が本物であったと感謝を示すんがお礼の品や。それは受け取ってもらわなあかん。ただ……金はダメやで。子どもを金で取り引きすなや」
キッとリンディエールはディースリムを睨んでおいた。
「っ、ご、ごめん……」
「はあ……配慮が足りとらんで……こういう場合は失せ物や。食べ物や消耗品な。申し訳ないけども、後日改めて届けさせてもらうわ」
「あ、ああ……お心遣い、感謝する」
多分、この場の大人たちは今、馬鹿みたいに混乱している。当主であるディースリムを差し置いて、たった十歳の少女、リンディエールが口を開いているのを誰も指摘しないのだから。
だが、リンディエールはこれ幸いと続けた。
「さて、ジェルラスのことはとりあえず端に置いとかせてもろおて、もうちょいウチに付き合うてもらうで?」
「なんだろうか?」
もはや普通に聞いてくれるクゼリア伯爵。夫人の方も、幾分か顔色が良くなっていた。
「グラン、アレを」
「はい」
グランギリアに指示を出す。彼が向かったのは、リンディエールの向かいの壁。大きな壺が置かれているそれを、グランギリアは軽く持ち上げて横に退けた。
「っ……」
「あっ……っ」
息を呑んだのは、青年とケルミーナだった。見えた壁には、赤黒いもので魔法陣が描かれていた。それは、盗聴用の魔法陣だ。
「なんでしょう? 娘のいたずら書きでしょうか」
リンディエールが商業ギルドで見つけて発覚した魔法陣。それは調査の結果、多くの貴族の屋敷で確認されたと聞いている。
「これの調査に対応したんは、前クゼリア伯爵で?」
「ああ……もう効果はないと聞いている……」
初めて聞いた声は落ち着いた小さく低い声だった。
クゼリア現当主は、その時にこの屋敷に居なかったのだろう。この屋敷では、恐らく前クゼリア伯爵が一人で対応したはずだ。これは、あまり知られるべきではないのだから。
「せやな。一部欠けた状態では、もう機能せん」
これに、ケルミーナが突然叫ぶように告げた。
「機能しないってどういうことよ! 私とユーア様の繋がりをっ、あなたっ! あなたが使えなくしたの!!」
「ユーア……誰や?」
喚き、睨み付けてくるケルミーナを気にせず、リンディエールはディースリムに確認する。
「……だ、第二王子がユーアリア様という御名前だが……」
「そうよ!! 第二王子のユーア様の寂しさを癒すために、私の言葉を届けているの!! それをよくも!!」
これは面白いことがわかったと、リンディエールはほくそ笑む。
「ははっ。なるほどなあ。子どもなら怪しまれんか」
第二王子が話を望んでいると言われれば、令嬢や子息達も悪気なく、家のことも話すだろう。それが重要なことであっても気付かずに、何気なく話してしまう。
「ほんま、嫌な組織やなあ。どこまでも子どもをコケにしおる……なあ、兄ちゃんもそう思うやろ?」
「っ!!」
リンディエールが目を向けたのは、先ほどから震えていた青年だ。
「テシルゆうたか? 隣のフライン公国の出やそうやな。テシュール・ブフラン……ブフラン侯爵家の次男やったか」
「っ、な、なぜ……っ」
青年は、今や目に見えて震えている。これに周りは驚きながらも黙っていることにしたようだ。
「ウチの優秀な侍従と侍女が、調べてくれてん。追放者達の組織……今は『ブランシェレル』名乗っとるらしいなあ。古代語で『白の誓い』やな。大層な名前付けたもんやわ」
「っ……」
頬杖をついて、ニヤリと意味深な笑みを向ける。どんどん顔色が悪くなっていった。
それを見て、グランギリアが咳払いをする。
「リン様。あまりそのようにいじめるものではありませんよ」
「はは。堪忍え。これはまあ、ジェルラスをええように使おうとしとったことへのお仕置きや」
「っ……ど、どうして……」
「どうして知っとるかって? あの組織のやり方は調査しとったんよ。そっから予想したに過ぎんわ」
リンディエールは立ち上がると、テシルに近付いていく。彼は完全に腰が引けていた。お互いに手が届かない距離で立ち止まり、テシルの顔を見上げた。
「さっきも言うたがなあ……あんたも被害者や。貴族社会が……この世界が憎い思うんも分かる。けどなあ、あんたがジェルラスに言うたこと、かつてのあんたが欲しかった言葉やったか?」
「私が……」
「あんたも組織の者に同じこと言われたんやろ? そんで家を捨てたんやないか? その時の言葉は……ほんまにその時に欲しかった言葉やったか?」
「……欲しかった……言葉……っ」
テシルは助けて欲しいと思っていた。置かれた状況から逃げたいと。自分を見捨てた親が憎いと。だから、連れ出してくれると聞いて嬉しかった。けれどその言葉は、本当に救いの言葉だっただろうかと自問する。
「ジェルラスに同じように声をかけた時。あんたは本当にジェルラスの幸せを考えてくれたか?」
「っ、私は……っ」
「あんたがその時に思うたことを、あんたを連れ出した人も思っとった。分かるやろ?」
「……私は……組織のためにと……ジェルラス様ではなく、組織のために……っ」
テシルは理解した。力なく座り込んだのは、自身がジェルラスの寂しさや辛さを知っていながら放置し、その思いを利用しようと考えていたという浅ましさを自覚したからだ。見方を変えるのは難しいが、彼の場合は容易い。かつて経験したことなのだから。
「あの組織も、元の思想からかなり離れてきとる。だいたい、自分たちを『追放者』やて、どっか悦に浸っとるしなあ。瓦解するんも時間の問題やで。アレらが自覚して、考えを改めるんやったらええ……けど、このまま突き進むんなら、ウチも容赦できん」
テシルは泣きそうな顔でリンディエールを見上げた。
「あんたらのソレは自己満や。不満や、理不尽や言うて癇癪起こしとる子どもと変わらへん。最終的に武力で押し通す気満々やろ?」
「……っ」
「仮に通せたとしても、それやとそん時は一時的にあんたらは満足するやろう。けどなあ……そうゆう無理に通したもんは、簡単にまたひっくり返るで」
相手は納得していないのだ。それでは解決したとはいえず、やはりダメだと元に戻されるだろう。
「根本から変えなあかんねん。不満や主張することが悪いとは言わん。そうゆう意見もあるゆうて声を上げることは悪いことやないで。けどなあ、それで同じ立場の者を利用すんのは、違うやろ? 考えを誘導するんは、おかしいやろ?」
「……はい……っ」
肩を落としたテシルは、座り込んだままジェルラスへ目を向け、頭を床につけるほど深く下げた。
「ジェルラス様……申し訳ありませんでした……」
「っ、え? えっと……?」
「私は、ジェルラス様を利用……しようと……っ」
「りよう?」
ジェルラスは組織のことを知らない。利用と言われても意味が分からないだろう。リンディエールが間に入る。
「ジェルラス。テシルが居って良かったか?」
「あ、うん……じゃない、はい! テシルがそばにいてくれて、うれしかったです!」
「っ、ジェルラス様……っ」
素直に言葉を向けられ、テシルは弾かれたように顔を上げる。そして、涙を流した。こんなにも無邪気な子どもを利用しようとしていたことに、テシルは後悔していた。
「子どもは素直なもんや。それを勝手に自分らの思想に染めたらあかん。最後の最後まで責任取るならまあええわ。親の立場なら、他人がとやかく言うもんやないでな。けど、あんたらは組織や。どうしても個人が埋没する」
その他大勢になる。それでは子どもの可能性が出にくくなってしまう。現れるべき個が確立できなくなってしまう。
「自分の気持ちを代弁され続ければ、一人になった時に考えることができんようになる。個人を殺しとるんや。それは本来、許されへん。ウチが気に入らんのはそこや。まあ、広い目で見れば、国とかもそうなるんやろうけど。程度がなあ」
リンディエールは、未だ睨み付けていたらしいケミアーナと目を合わせた。
「はあ……そっちの姉ちゃんに言っとくで。アレに向けて何を話したか知らんけど……」
「っ、アレですって!? ユーア様になんてこと!」
「……姉ちゃん、いくつや? これだけ話しとっても察せられんのは、ほんまマズイで? はっきり言うとくとなあ、姉ちゃんは犯罪組織へ家の情報を渡しとったんよ」
「は、犯罪組織ですって!? なんて失礼なの! 王子に向かってっ、不敬罪よ!」
ギャンギャンと煩いなとリンディエールは軽く耳を塞いで見せる。目を細めて呆れた表情で続けた。
「せやから、その王子がその組織と繋がっとるんよ。これ、相手が他国やったらどうなるか分からんか? 姉ちゃんがこの言葉知っとるか分からんけどなあ……」
たっぷりとため息を吐いてから、ジロリと睨み付けて告げた。
「『売国奴』言うて処刑されても文句言えへんのやで?」
「っ、は? 何言ってるの? 私はユーア様の寂しさを……」
「せやから、その王子が組織に与しとる可能性大や言うとるんよ。まったく……世間知らずも大概にせえよ。はあ……さっさと宰相さんに連絡するか」
少しは自覚したらしく、青い顔でブツブツと言っているケミアーナは放っておき、リンディエールはクイントへと連絡を取った。
予想通りというか、クイントにとっては当たり前の行動で、しばらくしてそのクイントはここへ駆けつけたのだ。
***********
読んでくださりありがとうございます◎
次回、1日の予定です!
よろしくお願いします◎
435
あなたにおすすめの小説
あなたが後悔しても、私の愛はもう戻りません
藤原遊
恋愛
婚約者のアルベルトは、優しい人だった。
ただ――いつも、私より優先する存在がいただけで。
「君は分かってくれると思っていた」
その一言で、リーシェは気づいてしまう。
私は、最初から選ばれていなかったのだと。
これは、奪われた恋を取り戻す物語ではない。
後悔する彼と、もう戻らないと決めた私、
そして“私を選ぶ人”に出会うまでの、静かな恋の終わりと始まりの物語。
私だけが愛して1度も笑ったことの無い夫が、死んだはずの息子を連れてもどってきた
まつめ
恋愛
夫はただの一度も私に笑いかけたことは無く、穏やかに夫婦の時間をもったこともない。魔法騎士団の、騎士団長を務める彼は、23年間の結婚生活のほとんどを戦地で過ごしている。22歳の息子の戦死の知らせが届く。けれど夫は元気な息子を連れて私の元に戻って来てくれた。
『魔力ゼロの欠陥品』と蔑まれた伯爵令嬢、卒業パーティーで婚約破棄された瞬間に古代魔法が覚醒する ~虐げられ続けた三年間、倍返しでは足りない~
スカッと文庫
恋愛
「貴様のような無能、我が国の王妃には相応しくない。婚約を破棄し、学園から追放する!」
王立魔道学園の卒業パーティー。きらびやかなシャンデリアの下、王太子エドワードの声が冷酷に響いた。彼の隣には、愛くるしい表情で私を嵌めた男爵令嬢、ミナが勝ち誇ったように寄り添っている。
伯爵令嬢のリリアーヌは、入学以来三年間、「魔力ゼロの欠陥品」として学園中の嘲笑を浴び続けてきた。
婚約者であるエドワードからは一度も顧みられず、同級生からはゴミのように扱われ、ミナの自作自演による「いじめ」の濡れ衣まで着せられ……。
それでも、父との「力を隠せ」という約束を守るため、泥を啜るような屈辱に耐え抜いてきた。
――だが、国からも学園からも捨てられた今、もうその約束を守る必要はない。
「さようなら、皆様。……私が消えた後、この国がどうなろうと知ったことではありませんわ」
リリアーヌが身につけていた「魔力封印の首飾り」を自ら引き千切った瞬間、会場は漆黒の魔力に包まれた。
彼女は無能などではない。失われた「古代魔法」をその身に宿す、真の魔道の主だったのだ。
絶望する王太子たちを余目に、隣国の伝説の魔術師アルベルトに拾われたリリアーヌ。
彼女の、残酷で、甘美な復讐劇が今、幕を開ける――。
もうすぐ帰って来る勇者様と私の結婚式が3日後ですが、プロポーズされていないといくら言っても誰も信じてくれません
まつめ
恋愛
3日後に村をあげての盛大な結婚式がある。それはもうすぐやって来る勇者様と自分の結婚式。けれど勇者様は王都の聖女様と結婚すると決まっている。私は聖女様の代わりに癒し手として勇者様を治療してきた、だから見事魔王を打ち破って帰って来た時、村人達は私が本物の聖女だと勘違い。私がいくら否定しても誰も聞いてはくれない。王様との謁見を終えてもうすぐ勇者様が村に帰って来る。私は一度も好きだと言われてないし、ましてや結婚しようとプロポーズも受けていない。村人達はお祭り騒ぎで結婚式の準備は加速していく。どうしようと困っているのに、心の奥底で「もしかしたら……」と大好きな勇者様が自分を選んでくれる未来を淡く期待して流されてしまう私なのだった。どうしよう……でもひょっとして私と結婚してくれる?
「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。
しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。
「その気になれない」と婚約破棄したあなたの、話を聞く必要がありますか?
さんけい
恋愛
国境を守るために結ばれた婚約を、侯爵家の令息は「その気になれない」という身勝手な理由で壊した。しかも婿入りする立場でありながら、愛人を認めろとまで言い出して――。
侮られ、傷つきながらも、伯爵家の跡取り娘エーディアは立ち止まらない。父とともに次の手を打ち、地に足のついた堅実な男ユリウスと出会い、領地と未来を少しずつ立て直していく。
一方、婚約を軽んじた元婚約者は、家にも王都にも見限られ、じわじわと立場を失っていく。
これは、誰かに苦しみを背負わせようとした男が自滅し、自分の足で立つ女が静かに幸福をつかむ、国境領ざまあ婚約破棄譚。
全44話。予約投稿済みです。
追放された地味令嬢、実は王国唯一の“魔力翻訳者”でした 〜役立たずと言われましたが、もう契約は終了です〜
あめとおと
恋愛
王太子から「魔法が何も起こらない役立たず」と断罪され、婚約破棄された伯爵令嬢リリア。
追放された彼女の能力は――
魔法の“意味”を読み解き、術式そのものを理解する力《魔力翻訳》。
辺境の魔導研究所でその才能を見出された彼女は、
三百年解読不能だった古代魔法を次々と再生させていく。
一方、彼女を失った王都では魔法事故が連鎖。
国家結界すら崩壊寸前に――。
「戻ってきてほしい」
そう告げられても、もう遅い。
私を必要としてくれる場所は、
すでに別にあるのだから。
これは、役立たずと呼ばれた令嬢が
本当の居場所と理解者を見つける物語。
「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」
まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。
目が覚めたら、婚約破棄されていた。
理由は「地味で面白みがない」から。
泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。
最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。
でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。
厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。
そして就任スピーチで宣言した。
「500人全員の名前を、覚えます」
冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。
悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。
元婚約者は——後悔し始めていた。
婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。
なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる