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11th ステージ

109 親子なんやな……

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貴族と冒険者との懇親会から半月近くが経った。それまで、貴族達の再教育計画の細かい打ち合わせが連日城で行われていたのだ。

一方、リンディエールが売り払ったボス素材は、国が改めて買い上げ、四年後の大氾濫の時に使える武器の製作が各所で行われることになった。

『頼むから、先ず俺に売れ!』

というのが、国王ブラムレースの切実な言葉だった。

冒険者ギルドや商業ギルドは、かなりリンディエールにお金を搾り取られており、国が買い上げると聞いて物凄く感謝していた。

『っ、破産するかと思ったぁぁぁっ』

これが王都の冒険者ギルド長の言葉。

『エルスも苦しそうだったからな? 嬢ちゃんはもう少し、俺らの年齢を考えてくれな? ビックリし過ぎて体に悪いわ……』

商業ギルド長だけでなく、大陸でも屈指の商人であるエルス・レンザー商会長までもが、かつてない大きな取引にガタガタしていた。

それだけ、迷宮ボスの素材は貴重なのだ。破産寸前になっても、他に持って行かれるわけにはいかなかった。

『す…んまへん……』

謝りながらもリンディエールは、まだあと同量は出せるのになと思いつつ、賢く口を噤んだ。これ以上、市場を混乱させるわけにはいかない。ヒストリアにも次の放出時期を相談しようと自重したのだ。

しかし、次までにはまた新たな在庫を抱えることになるのだが、そのことはあえて思考から外した。

この日、リンディエールは王都にある十五歳になる年から三年通う学園へとやって来ていた。

門の前で出迎えてくれたのは、現在のこの学園の生徒会役員達だった。その中には、二年生で生徒会長の第一王子、マルクレース。それと副会長であるクイントの長男スレインがいる。

他に書記二人、会計二人の初めて見る男女が四人いた。

グランギリアの手を取り、優雅に馬車から降りたリンディエールに、真っ先に近付いて来たのはマルクレースだ。今日のリンディエールは、大人しめの花柄のワンピースを着ている。

「ようこそ、リン嬢。イクルス学園へ。今日も、とても可愛らしいですね」
「ありがとうございます。殿下」

ウィストラ国の貴族の子息子女を中心に、商人の子や騎士や魔法師、文官を目指す子ども達が通うのがこのイクルス学園だ。

創立者は、初代国王の親友で王佐であった賢者イクルス。魔法師としての腕も一流で、あらゆる武技を使いこなしたと言われている。

「殿下などと……寂しいので、いつものようにマルクと呼んでください」
「……お気遣い感謝いたします、マルク様」
「っ……今日は特別講師として来る前の、学園の視察だと聞いています」

まだ少し不満そうだ。だが、今しばらくはこのままにするつもりだった。第一印象は大事である。

リンディエールは、二日後から子どもたちの戦い方の指導をすることになる。体育の非常勤講師みたいなものだ。

これに、リンディエールは変わらず令嬢らしく答えた。

「どのような環境で、どのような指導を受けているのかを知りたかったもので……」
「ふふっ。では、ご案内します」

マルクレースはリンディエールの素の姿を知っている。だから、かなりおかしかったのだろう。それでも指摘せずに続けるのは、一緒にリンディエールを知らない他の生徒会役員達を騙すというのを楽しむためだ。リンディエールの記憶にないので、貴族の子ではないのかもしれない。

マルクレースは貴身病でこの学園に入る直前ごろまで、体が弱かった。体力はリンディエール達との交流によってかなり付いたが、まだ体の線は細い。とはいえ、ブラムレース王の子らしい性格はしていた。こうしてリンディエールと一緒に騙すのも大好きだ。

こちらの意図を理解し、好奇心を出しているマルクレースに苦笑しながら、リンディエールは続けた。

「……マルク様が案内とは……光栄ですが、授業はよろしいのですか?」
「もちろんです。リン嬢を優先するようにと、国王と学園長からの通達がありました。お陰で授業が免除されて嬉しい限りです♪」
「……ほんま……親子なんやな……」
「ん?」

紛れもない、小さなブラムレース王がいた。

「……いえ……では、案内をお願いいたします……」
「喜んでっ」

差し出された手を取り、学園へと足を踏み入れた。

明らかに後ろをついてくる四人の初対面の者たちが不満そうな顔をしているのには、気付かない振りで通す。だが、そんなことはスレインにもお見通しだった。

すぐ後ろで微笑むスレインをチラリと見て、思わず呟く。

「……ほんま、父親にそっくりや……」

彼らへ説明する気もなさそうだ。何かやらかすのを待っているのだろう。

これが聞こえたマルクレースが耳打ちする。

「それ、スレインには褒め言葉ですよ。あと私もね♪ けど、私の一番の憧れの人は昔から宰相様ですけどっ」
「……ええ性格しとるなあ……」
「ありがとう♪」
「……」

将来、腹黒で好奇心もある厄介な王が生まれそうだとは、思っても口にできなかった。

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