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ミッション12 舞台と遠征
494 おねぇしゃまっ
天気は程よく雲のある遠出日和。
学園は、定期試験も終わり、気兼ねなく三日前に長期休暇に入ったばかりだ。当然のようにセルジュをはじめ、カリュエル、リサーナ、そして、ユゼリア達もセイスフィア商会の王都支店であるフィルの屋敷に初日から『ただいま!』と元気に帰って来ていた。
そしてこの日。フラメラの実家であるキートル領へと視察に向かうことになっている。
「え~、今回の同行するメンバーの確認をする」
魔導車の前で、一同は整列していた。気分は間違いなく遠足か合宿前というところだ。
「班分けもしたので、その班ごとに発表する」
「先ず第一班、リュブランを班長にして、ユゼリア、フラメラ、アカ、班の護衛として……ばあちゃん頼む」
「はいよ」
ファリマスが任せろと笑った。よろしくと頷いて、見送りと荷物の運び込みの手伝いに来ているワンザとエンリアントの方を向く。ユゼリアが不安そうに二人を見ていたのだ。
「ワンザとエンリアントは残って店の手伝いだ。まだまだ研修期間中だからな」
「っ、ユゼリア様。ここで、しっかり勉強しますので、お気を付けて」
「っ、うん。ワンザとエンリも頑張って」
「「はい!」」
大丈夫そうだ。
「次に第二班、マグナを班長に、カリュエル、ジュエル。後俺と……なんでか行きたいと駄々を捏ねてきた……シビル学園長……」
「きっとお役に立つさ!」
「おう……一応護衛にスピじいを付ける……あちらで情報の集め方も教えてくれるそうだ」
「絶対に役に立つ技術になるぜっ」
ニカっと笑って気の良いおっさんに見せているスピークだが、エグい技術を教え込んできそうだ。主にプロの諜報員や暗部の。
「最後、第三班は兄さんを班長に、リサーナ、キラ。それと……」
そこで区切り、目を向けるのが、二日前に突然やって来た珍客。フィルズには最早珍客で十分だと思っている人物だ。はあとため息を吐いて名を呼ぶ。
「……エルセリア。班の護衛には、公爵家の護衛のクルシュがつく」
「はい! お姉さま!」
「兄な」
「はい! お兄さま!」
「……お前に俺はどう見えているのか、一度しっかり確認しないとな……」
「ステキに見えています!!」
「……どうなってる……」
「すみません、坊っちゃん……」
保護者として付いてきているクルシュが申し訳なさそうに頭を下げるが、隣でふんすと鼻息荒く興奮している異母妹はそのままだ。
見た目はかなりスリムになったと思う。少し背も伸びた。肌の手入れもしているのか、そばかすも薄くなっている。華やかな顔立ちをしていないが、素朴で可愛らしい感じだ。服装も華美なものではない。愛嬌のある健康的な少女に見えた。
フィルズが呆れたように肩を落とすのに対して、気に入らないのが兄のセルジュだ。
「おい! フィルがその辺の女の子よりも綺麗で可愛くて頼りになるのは分かるが、浮ついた状態で近付くんじゃないぞ!」
「ちょっと待て……」
余計な言葉が多々入っていたとフィルズが指摘しようとすれば、エルセリアが割って入る。
「まあっ! 浮ついたなんて失礼ですわ! わたくし、恋に恋するような迷惑女とは違いましてよ!」
「おお……ちゃんと難しい言葉も喋ってる……っ」
つい久し振りに会った親戚の子どもの成長を見るような目で見てしまうフィルズ。何度も頷いてすごいぞと手も小さく叩いた。とはいえ、明らかに幼子に対して行う行動なのだが、過去のエルセリアの様子を思えば、こうなってしまうのも仕方がない。
十一才にして、幼児のように辿々しく喋ることしか出来なかったのだ。甘やかされすぎていた。振る舞いも根性も。
「っ、お、お兄ぃさまっ、わ、わたし、ほ、ほめてもらえますか?」
「ああ。よく頑張ったな」
「っ!! キラキラおねぇしゃまっ、ふっ……」
倒れた。
「おい!?」
しかし、クルシュが咄嗟に受け止めたので、頭を打つことはなかった。倒れたエルセリアは胸の前で手を組み、安らかな表情だ。頬や耳が赤く染まっているのと、愛嬌のある小さな鼻からの荒い息遣いで生きていることは明らかだ。
「……クルシュ?」
「……せ、説明します! いえ、させてください!」
説明してくれと見つめれば、クルシュは少し青い顔をして慌てて口を開いた。
「その……屋敷の使用人達もですが……商会に来る付近の住民達が坊っちゃんを讃えていまして……見事に染まりました」
「……は?」
「こ、これはっ、神殿長様ご公認でしてっ!」
「……余計にわからん……」
公認とはなんだと詰め寄った。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
学園は、定期試験も終わり、気兼ねなく三日前に長期休暇に入ったばかりだ。当然のようにセルジュをはじめ、カリュエル、リサーナ、そして、ユゼリア達もセイスフィア商会の王都支店であるフィルの屋敷に初日から『ただいま!』と元気に帰って来ていた。
そしてこの日。フラメラの実家であるキートル領へと視察に向かうことになっている。
「え~、今回の同行するメンバーの確認をする」
魔導車の前で、一同は整列していた。気分は間違いなく遠足か合宿前というところだ。
「班分けもしたので、その班ごとに発表する」
「先ず第一班、リュブランを班長にして、ユゼリア、フラメラ、アカ、班の護衛として……ばあちゃん頼む」
「はいよ」
ファリマスが任せろと笑った。よろしくと頷いて、見送りと荷物の運び込みの手伝いに来ているワンザとエンリアントの方を向く。ユゼリアが不安そうに二人を見ていたのだ。
「ワンザとエンリアントは残って店の手伝いだ。まだまだ研修期間中だからな」
「っ、ユゼリア様。ここで、しっかり勉強しますので、お気を付けて」
「っ、うん。ワンザとエンリも頑張って」
「「はい!」」
大丈夫そうだ。
「次に第二班、マグナを班長に、カリュエル、ジュエル。後俺と……なんでか行きたいと駄々を捏ねてきた……シビル学園長……」
「きっとお役に立つさ!」
「おう……一応護衛にスピじいを付ける……あちらで情報の集め方も教えてくれるそうだ」
「絶対に役に立つ技術になるぜっ」
ニカっと笑って気の良いおっさんに見せているスピークだが、エグい技術を教え込んできそうだ。主にプロの諜報員や暗部の。
「最後、第三班は兄さんを班長に、リサーナ、キラ。それと……」
そこで区切り、目を向けるのが、二日前に突然やって来た珍客。フィルズには最早珍客で十分だと思っている人物だ。はあとため息を吐いて名を呼ぶ。
「……エルセリア。班の護衛には、公爵家の護衛のクルシュがつく」
「はい! お姉さま!」
「兄な」
「はい! お兄さま!」
「……お前に俺はどう見えているのか、一度しっかり確認しないとな……」
「ステキに見えています!!」
「……どうなってる……」
「すみません、坊っちゃん……」
保護者として付いてきているクルシュが申し訳なさそうに頭を下げるが、隣でふんすと鼻息荒く興奮している異母妹はそのままだ。
見た目はかなりスリムになったと思う。少し背も伸びた。肌の手入れもしているのか、そばかすも薄くなっている。華やかな顔立ちをしていないが、素朴で可愛らしい感じだ。服装も華美なものではない。愛嬌のある健康的な少女に見えた。
フィルズが呆れたように肩を落とすのに対して、気に入らないのが兄のセルジュだ。
「おい! フィルがその辺の女の子よりも綺麗で可愛くて頼りになるのは分かるが、浮ついた状態で近付くんじゃないぞ!」
「ちょっと待て……」
余計な言葉が多々入っていたとフィルズが指摘しようとすれば、エルセリアが割って入る。
「まあっ! 浮ついたなんて失礼ですわ! わたくし、恋に恋するような迷惑女とは違いましてよ!」
「おお……ちゃんと難しい言葉も喋ってる……っ」
つい久し振りに会った親戚の子どもの成長を見るような目で見てしまうフィルズ。何度も頷いてすごいぞと手も小さく叩いた。とはいえ、明らかに幼子に対して行う行動なのだが、過去のエルセリアの様子を思えば、こうなってしまうのも仕方がない。
十一才にして、幼児のように辿々しく喋ることしか出来なかったのだ。甘やかされすぎていた。振る舞いも根性も。
「っ、お、お兄ぃさまっ、わ、わたし、ほ、ほめてもらえますか?」
「ああ。よく頑張ったな」
「っ!! キラキラおねぇしゃまっ、ふっ……」
倒れた。
「おい!?」
しかし、クルシュが咄嗟に受け止めたので、頭を打つことはなかった。倒れたエルセリアは胸の前で手を組み、安らかな表情だ。頬や耳が赤く染まっているのと、愛嬌のある小さな鼻からの荒い息遣いで生きていることは明らかだ。
「……クルシュ?」
「……せ、説明します! いえ、させてください!」
説明してくれと見つめれば、クルシュは少し青い顔をして慌てて口を開いた。
「その……屋敷の使用人達もですが……商会に来る付近の住民達が坊っちゃんを讃えていまして……見事に染まりました」
「……は?」
「こ、これはっ、神殿長様ご公認でしてっ!」
「……余計にわからん……」
公認とはなんだと詰め寄った。
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