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ミッション13
527 フィルさんがいるぞ
リュブランが支店長兼、次期領主として発表があってから一週間が経ったこの日。
王宮には貴族達が集まっていた。
今日は、次期領主や騎士団に入る者達など、主に学園を卒業した子ども達の顔見せのための懇親会のようなものが行われる。
学園在学中の子ども達も必要とあれば参加するが、学園入学前の子どもは参加できない。
婚約者のいる子ども達は、初めて公式の場でパートナーとして参加することになり、家同士の繋がりも見せる、紹介の場でもある。
卒業資格があることを示すため、卒業生達は、資格証である小さなブローチを胸元に付けることになっている。これにより、仮に卒業資格が取れなかった者や、まだ学園に在学中の子ども達との区別ができた。
「ねえっ。さっき、セイスフィア商会で見る方をお見かけしたのですけれど、今年の卒業資格証を付けていらしたの……どう言うことかしら……」
「わたくしも見ましたわ。騎士のような方ですわよね? お母様が言うには、学園長とご一緒に居る所を見たことがある方だって」
「まあっ。まさか、隠し子かしら……」
「学園長はお子様がいらしてもおかしくはないお年と聞きますけれど……あの方が女性とおられる所なんて想像できませんわ」
「そうですわね……ですが、養子というのはあるのではありません?」
「ありそうですわ……」
そんな話をする少女達のグループ。仲のいい卒業生達のようだ。
そして、別のところでは、少年達が固まって、また別の人物について話していた。
「あそこ……カリュエル様とユゼリア様がいる所……あそこに居るの……第三王子ではないか?」
「っ、そうなのか!?」
「亡くなったと……」
「いや、騎士団をつくり、出て行ったのは確かだが、亡くなってはおられないと聞いた。どうやら、教会の保護認定を受けたらしい」
「え! なら、危ない立場だったということか……メルナ妃が実質、幽閉されたことで、安全だと確認された?」
「それで戻ってこられたのか……ん? お、おいっ。アレ、卒業証を付けてないか?」
「本当だっ。いや、だが、確か第三王子は私たちより二つ下だったはず……」
「そうだ! 妹と同じ年だと……だが、私たちと同じ物だよな?」
その年によって、ブローチの卒業証のデザインは違う。直近の五年のものとは、絶対に被らないものになるらしい。
「どうやって手に入れたんだ……」
「今の学園長は、不正なんてさせないだろ……」
「そうだな。お陰で俺たちも卒業が危うかったし」
「……自由登園日が消えたもんな……」
「「「……」」」
今思えば、シビルが学園長になってから、少しずつ学園の教師達の顔つきが変わっていった。親の名を出して成績など、便宜を計ってもらっていた者達は、揃ってそれが出来なくなった。
「第一王子殿下が生徒総会で告発してから変わったよな……」
「ああ……」
一切の甘えが許されなくなったのは、その時からだと思い出す。
「けど……良かったのかもな。俺たちよりもっと酷かった奴らは、父親が捕まったり、一家で平民になったのもいたし」
「私たちは、それよりもマシだったということだな」
「……本当に、平民にされるとか……あるんだなって思って怖くなったもんな……」
それから、必死で勉強をするということを知った。
「勉強も、やってみると意外と面白いものだって気付いた俺……頑張った」
「「「頑張った」」」
うんうんと頷く。するとそこで、入り口付近にできた人だかりに目が向いた。
「なんだ? 誰だろ」
「っ、おいっ! フィルさんがいるぞ!」
「なに!?」
「フィルさんって、あの、三級冒険者の!?」
「なんで居るんだ!?」
興奮気味に思い出すのは、フィルズのこと。課外授業の時には、年下の、それも冒険者ということもあり、受け入れ難かった。しかし、巧みな話術とその知識の深さ、自分たちにはない見識の広さに嫌でも気付かされ、授業が終わる頃には、その強さも垣間見たことで、すっかり態度を改めた。
見下す対象から、嫉妬の対象に、そして憧れへと変わったことで、しっかりとファンになっていたのだ。
セイスフィア商会の関係者ということで、売店で顔を合わせれば、まだ反発していた者達が学園の課題を見せ、自分たちには敵わないだろうと思い知らせようとしていた。それをあっさり返り討ちにし、更に学園の教師よりも分かりやすく指導までしてみせたことで、自分たちがいかに小さく狭い世界で生きて来たのかも理解した。
それに気づけた自分が誇らしいと、卒業生達の顔つきは変わっていった。この時には、フィルズは完全に憧れの存在になっていた。
わざわざフィルズの顔を見ようと、卒業後にセイスフィア商会の常連になった者も半数を越えていた。
「なあっ、もしかして、どこかの貴族の子……とか?」
「あっ、ユゼリア様達がっ」
フィルズは小柄であるため、人が集まると見えなくなる。本人に聞かれるようなヘマはしないよう、注意している。
ユゼリアとカリュエル、リュブランだけでなく、少し遅れてリサーナやユゼリアの婚約者であるブラーナも駆け寄っていった。
そこだけ、子ども達が集まっていくため、大人達も否が応でも注目することになっていた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
王宮には貴族達が集まっていた。
今日は、次期領主や騎士団に入る者達など、主に学園を卒業した子ども達の顔見せのための懇親会のようなものが行われる。
学園在学中の子ども達も必要とあれば参加するが、学園入学前の子どもは参加できない。
婚約者のいる子ども達は、初めて公式の場でパートナーとして参加することになり、家同士の繋がりも見せる、紹介の場でもある。
卒業資格があることを示すため、卒業生達は、資格証である小さなブローチを胸元に付けることになっている。これにより、仮に卒業資格が取れなかった者や、まだ学園に在学中の子ども達との区別ができた。
「ねえっ。さっき、セイスフィア商会で見る方をお見かけしたのですけれど、今年の卒業資格証を付けていらしたの……どう言うことかしら……」
「わたくしも見ましたわ。騎士のような方ですわよね? お母様が言うには、学園長とご一緒に居る所を見たことがある方だって」
「まあっ。まさか、隠し子かしら……」
「学園長はお子様がいらしてもおかしくはないお年と聞きますけれど……あの方が女性とおられる所なんて想像できませんわ」
「そうですわね……ですが、養子というのはあるのではありません?」
「ありそうですわ……」
そんな話をする少女達のグループ。仲のいい卒業生達のようだ。
そして、別のところでは、少年達が固まって、また別の人物について話していた。
「あそこ……カリュエル様とユゼリア様がいる所……あそこに居るの……第三王子ではないか?」
「っ、そうなのか!?」
「亡くなったと……」
「いや、騎士団をつくり、出て行ったのは確かだが、亡くなってはおられないと聞いた。どうやら、教会の保護認定を受けたらしい」
「え! なら、危ない立場だったということか……メルナ妃が実質、幽閉されたことで、安全だと確認された?」
「それで戻ってこられたのか……ん? お、おいっ。アレ、卒業証を付けてないか?」
「本当だっ。いや、だが、確か第三王子は私たちより二つ下だったはず……」
「そうだ! 妹と同じ年だと……だが、私たちと同じ物だよな?」
その年によって、ブローチの卒業証のデザインは違う。直近の五年のものとは、絶対に被らないものになるらしい。
「どうやって手に入れたんだ……」
「今の学園長は、不正なんてさせないだろ……」
「そうだな。お陰で俺たちも卒業が危うかったし」
「……自由登園日が消えたもんな……」
「「「……」」」
今思えば、シビルが学園長になってから、少しずつ学園の教師達の顔つきが変わっていった。親の名を出して成績など、便宜を計ってもらっていた者達は、揃ってそれが出来なくなった。
「第一王子殿下が生徒総会で告発してから変わったよな……」
「ああ……」
一切の甘えが許されなくなったのは、その時からだと思い出す。
「けど……良かったのかもな。俺たちよりもっと酷かった奴らは、父親が捕まったり、一家で平民になったのもいたし」
「私たちは、それよりもマシだったということだな」
「……本当に、平民にされるとか……あるんだなって思って怖くなったもんな……」
それから、必死で勉強をするということを知った。
「勉強も、やってみると意外と面白いものだって気付いた俺……頑張った」
「「「頑張った」」」
うんうんと頷く。するとそこで、入り口付近にできた人だかりに目が向いた。
「なんだ? 誰だろ」
「っ、おいっ! フィルさんがいるぞ!」
「なに!?」
「フィルさんって、あの、三級冒険者の!?」
「なんで居るんだ!?」
興奮気味に思い出すのは、フィルズのこと。課外授業の時には、年下の、それも冒険者ということもあり、受け入れ難かった。しかし、巧みな話術とその知識の深さ、自分たちにはない見識の広さに嫌でも気付かされ、授業が終わる頃には、その強さも垣間見たことで、すっかり態度を改めた。
見下す対象から、嫉妬の対象に、そして憧れへと変わったことで、しっかりとファンになっていたのだ。
セイスフィア商会の関係者ということで、売店で顔を合わせれば、まだ反発していた者達が学園の課題を見せ、自分たちには敵わないだろうと思い知らせようとしていた。それをあっさり返り討ちにし、更に学園の教師よりも分かりやすく指導までしてみせたことで、自分たちがいかに小さく狭い世界で生きて来たのかも理解した。
それに気づけた自分が誇らしいと、卒業生達の顔つきは変わっていった。この時には、フィルズは完全に憧れの存在になっていた。
わざわざフィルズの顔を見ようと、卒業後にセイスフィア商会の常連になった者も半数を越えていた。
「なあっ、もしかして、どこかの貴族の子……とか?」
「あっ、ユゼリア様達がっ」
フィルズは小柄であるため、人が集まると見えなくなる。本人に聞かれるようなヘマはしないよう、注意している。
ユゼリアとカリュエル、リュブランだけでなく、少し遅れてリサーナやユゼリアの婚約者であるブラーナも駆け寄っていった。
そこだけ、子ども達が集まっていくため、大人達も否が応でも注目することになっていた。
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