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ミッション13
542 なんなの? 祭りなの?
王宮の方も落ち着いた二日後。
セイスフィア商会王都支店は戦場になっていた。
「予想はしていたことだが……ヤバそうだな……」
そう。予想はしていた。王都にやってきた貴族達が、一斉に大挙して押し寄せることは予想通りだ。
出入り禁止の金の腕輪をした者達はいなくなっていた。一部、引っかかっていた者達もいたが、賠償や爵位を落とすなどで処罰を済ませている。そのため、腕輪は外されていた。これにより、特典はないが、セイスフィア商会に来ることはできるようになっている。
今やセイスフィア商会に来れなければ、流行に取り残されるのは必然。貴族達は我先にとやって来ることになった。それも、今回は一家揃って王都に来ている者が多く、当然、その分人は多くなる。
《ふふふっ。今日ヤバいわね~。過去一の売り上げが出るんじゃない?》
アカネが楽しそうに笑う。
《トラブルはなさそうだ。これだけの人が詰めかけて問題がないとは……まあ、抑止になる者が多すぎるか》
キラは冷静に分析している。
《ねえねえっ! 明日のチケット完売したって!》
ジュエルが落ち着きなく飛び込んでくる。これには、フィルズも困惑していた。
「おいおい……時期を見誤ったか? いやいや、集客を考えるなら正しい選択だ……いや……だが……」
フィルズは明日のクラルスも含むリーリルやファリマス達流民による初舞台のため、会場の最終確認を進めていた。
そこに、ジュエル達ドラゴンが、度々報告に来てくれている。
二日前、貴族が集まるということを、フィルズは貴族達よりも先に知っていた。だから、流民達で作る舞台の最初の公演は明日と決めていたのだ。昨日、今日と貴族達が買い物に夢中になることを予想し、舞台の集客に最も効果的な明日を公開日とした。その選択はチケットがものの数分で完売したことを思えば当たりではある。
ただし、せっかくだからと家族だけでなく、先代達や使用人達まで引き連れて来るとは思っていなかった。
セイスフィア商会は唯一、大商会でありながら、自宅に呼び寄せることができない。だからだろう。物珍しさもあり、昨日と今日で使用人達も交代で遊びに来させているようなのだ。
お陰で現在、通常の三倍近い集客を記録していた。
《ご報告いたします。学園の卒業生達がバイトを希望してきました。いかがされますか?》
隠密ウサギ達も、今日は文字通り飛び回っている。エン達フェンリルの三つ子達の希望を叶えるために、ビズの固有魔法である翼を顕現させての飛翔を可能とする魔導具を作った。ウサギやクマ達にも使えると量産したことで、今回のような混雑時にも制空権が確保され、いち早く行動することができていた。
「そいつら、職業体験の時の評価は?」
これは嬉しい誤算だ。二日前の王宮での集まりは、学園の卒業生の出席が必須だった。領地に帰っていた彼らも今は王都にいる。
忙しくしているのをみて、居ても立っても居られなくなったのだろう。
《全員、最終評価はBです》
「なら採用! 振り分けは支店長に任せる」
《承知いたしました》
一応、この王都支店の支店長はセラだ。職業体験の時にも面倒を見ていたので、差配は任せられる。
セラは兄との再会を無事に済ませ、その兄は現在当たり前のように職員の一人として働いている。今大人気のマッサージ師の修行中だった。
副店長のユリも、長く行方不明だった母親との再会を果たし、母親の方は今や生き生きと清掃部署クリーンリングの一員となっていた。ユリが母親のクリーンリング独特のメイク姿を見て唖然としていたのは今でも友人達と思い出して笑っているらしい。
「おい。フィル。門の外まですげえ行列なんだが? なんなの? 祭りなの? 昨日も凄かったが、今日のがエグい。この椅子どこ置くんだ?」
スピークが戦々恐々としながらやって来た。
「それは舞台の端に。赤い印あるだろ」
「おう。これか。ってか、クーちゃん達、この調子で明日、大丈夫か? 疲れてるだろ……」
「閉店したら風呂とマッサージ。それとドリンク用意してる。寝落ちするのは確定だな」
「それでいいのか?」
「ベッドで寝れるだけで充分らしい。そもそも、流民って体力あるんだよ。じいちゃんなんて、一日中、一人で演奏の練習してる時あるし。ばあちゃんも数時間ぶっ続けで踊れるから」
「すげえな……」
リーリルもファリマスも、幾つになってもそれは可能だった。集中すると止まらないということもある。
「それが普通なんだってさ。過酷な戦場とか行く人たちだから、二、三日寝ないでも動くし、ちゃんと頭も働く。そう言う生活が普通だから、ここで風呂にも入れて、メシも出て来る上、マッサージ付きの安眠ベッドありとなれば、それだけで全回復するらしい」
「タフだなあ……」
続々と世界中から集まってきた流民達は、ここでの生活に満足している。高待遇だからこそ、更に人一倍働こうとしてくれる。
「あの人ら、順応も早いんだよな。売り子とか、もうベテラン勢と変わらんし、しれっとクリーンリングに混じってるのもいてさ」
「なんか、個別にファン? がいるみたいだぜ?」
「なんか惹き寄せるんだよな~。これとコミュ力がすげえ」
「それは分かる! 王都でひと花咲かせようと思って来たらしい、やんちゃなのが、お姉さんらの前で礼儀正しくなってたんだけど!」
「外からの奴らで治安が心配だったが、助かったぜ」
王都を活気付かせたのは良いが、そうなると、外から粋がった者などがやって来る。これにより、治安がまた悪くなることを懸念していた。また何か対策をと考えていた所に、流民達がやって来て、町を見て回りながら、そうした者達を諭してしまったのだ。
一部舎弟化したのや、ファンクラブ化したのがいるのには目を瞑っている。
「何なのあの人ら。貴族相手のトラブルも一瞬で片付くんだけど? 流民って、貴族達にバカにされてなかったか?」
「バカにするのは、質の悪い成り上がりか、貴族の義務も果たさないクズだよ。王族並みの礼儀作法とか知ってるのを、普通はバカにしねえから」
「……じゃあ、俺らが付き合ってたのは普通じゃない奴らだったんだな。まあ、そうか……」
「裏の人間使う奴らが普通なわけないし」
「うん。そうだった……」
スピークは最近、度々昔の事を忘れる。裏でこそこそ生きていくしかなかった頃が忘れられるほど過去になったようだ。
「ほら、スピじい。そんな所で煤けてないで、それ並べ終わったら、メシ行ってきてくれよ? 昼休憩回らなくなる……」
「うげっ。もう十一時!? メシの時間だ!!」
「ジュエル! キラとアカネも、行ってこいよ~。スピじいと食堂じゃなく、今日も二階の談話室でな」
《は~い》
《うむ。昼か》
《食堂も混むものね~》
幹部メンバーだけでも、食堂から外している。そうでもしないと、休憩時間に食堂で食べられないのだ。
「地下にもう一つ部屋作るしかないよな……」
職員はまだ増える見込みだ。よって、これが最近のフィルズの悩みだった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
セイスフィア商会王都支店は戦場になっていた。
「予想はしていたことだが……ヤバそうだな……」
そう。予想はしていた。王都にやってきた貴族達が、一斉に大挙して押し寄せることは予想通りだ。
出入り禁止の金の腕輪をした者達はいなくなっていた。一部、引っかかっていた者達もいたが、賠償や爵位を落とすなどで処罰を済ませている。そのため、腕輪は外されていた。これにより、特典はないが、セイスフィア商会に来ることはできるようになっている。
今やセイスフィア商会に来れなければ、流行に取り残されるのは必然。貴族達は我先にとやって来ることになった。それも、今回は一家揃って王都に来ている者が多く、当然、その分人は多くなる。
《ふふふっ。今日ヤバいわね~。過去一の売り上げが出るんじゃない?》
アカネが楽しそうに笑う。
《トラブルはなさそうだ。これだけの人が詰めかけて問題がないとは……まあ、抑止になる者が多すぎるか》
キラは冷静に分析している。
《ねえねえっ! 明日のチケット完売したって!》
ジュエルが落ち着きなく飛び込んでくる。これには、フィルズも困惑していた。
「おいおい……時期を見誤ったか? いやいや、集客を考えるなら正しい選択だ……いや……だが……」
フィルズは明日のクラルスも含むリーリルやファリマス達流民による初舞台のため、会場の最終確認を進めていた。
そこに、ジュエル達ドラゴンが、度々報告に来てくれている。
二日前、貴族が集まるということを、フィルズは貴族達よりも先に知っていた。だから、流民達で作る舞台の最初の公演は明日と決めていたのだ。昨日、今日と貴族達が買い物に夢中になることを予想し、舞台の集客に最も効果的な明日を公開日とした。その選択はチケットがものの数分で完売したことを思えば当たりではある。
ただし、せっかくだからと家族だけでなく、先代達や使用人達まで引き連れて来るとは思っていなかった。
セイスフィア商会は唯一、大商会でありながら、自宅に呼び寄せることができない。だからだろう。物珍しさもあり、昨日と今日で使用人達も交代で遊びに来させているようなのだ。
お陰で現在、通常の三倍近い集客を記録していた。
《ご報告いたします。学園の卒業生達がバイトを希望してきました。いかがされますか?》
隠密ウサギ達も、今日は文字通り飛び回っている。エン達フェンリルの三つ子達の希望を叶えるために、ビズの固有魔法である翼を顕現させての飛翔を可能とする魔導具を作った。ウサギやクマ達にも使えると量産したことで、今回のような混雑時にも制空権が確保され、いち早く行動することができていた。
「そいつら、職業体験の時の評価は?」
これは嬉しい誤算だ。二日前の王宮での集まりは、学園の卒業生の出席が必須だった。領地に帰っていた彼らも今は王都にいる。
忙しくしているのをみて、居ても立っても居られなくなったのだろう。
《全員、最終評価はBです》
「なら採用! 振り分けは支店長に任せる」
《承知いたしました》
一応、この王都支店の支店長はセラだ。職業体験の時にも面倒を見ていたので、差配は任せられる。
セラは兄との再会を無事に済ませ、その兄は現在当たり前のように職員の一人として働いている。今大人気のマッサージ師の修行中だった。
副店長のユリも、長く行方不明だった母親との再会を果たし、母親の方は今や生き生きと清掃部署クリーンリングの一員となっていた。ユリが母親のクリーンリング独特のメイク姿を見て唖然としていたのは今でも友人達と思い出して笑っているらしい。
「おい。フィル。門の外まですげえ行列なんだが? なんなの? 祭りなの? 昨日も凄かったが、今日のがエグい。この椅子どこ置くんだ?」
スピークが戦々恐々としながらやって来た。
「それは舞台の端に。赤い印あるだろ」
「おう。これか。ってか、クーちゃん達、この調子で明日、大丈夫か? 疲れてるだろ……」
「閉店したら風呂とマッサージ。それとドリンク用意してる。寝落ちするのは確定だな」
「それでいいのか?」
「ベッドで寝れるだけで充分らしい。そもそも、流民って体力あるんだよ。じいちゃんなんて、一日中、一人で演奏の練習してる時あるし。ばあちゃんも数時間ぶっ続けで踊れるから」
「すげえな……」
リーリルもファリマスも、幾つになってもそれは可能だった。集中すると止まらないということもある。
「それが普通なんだってさ。過酷な戦場とか行く人たちだから、二、三日寝ないでも動くし、ちゃんと頭も働く。そう言う生活が普通だから、ここで風呂にも入れて、メシも出て来る上、マッサージ付きの安眠ベッドありとなれば、それだけで全回復するらしい」
「タフだなあ……」
続々と世界中から集まってきた流民達は、ここでの生活に満足している。高待遇だからこそ、更に人一倍働こうとしてくれる。
「あの人ら、順応も早いんだよな。売り子とか、もうベテラン勢と変わらんし、しれっとクリーンリングに混じってるのもいてさ」
「なんか、個別にファン? がいるみたいだぜ?」
「なんか惹き寄せるんだよな~。これとコミュ力がすげえ」
「それは分かる! 王都でひと花咲かせようと思って来たらしい、やんちゃなのが、お姉さんらの前で礼儀正しくなってたんだけど!」
「外からの奴らで治安が心配だったが、助かったぜ」
王都を活気付かせたのは良いが、そうなると、外から粋がった者などがやって来る。これにより、治安がまた悪くなることを懸念していた。また何か対策をと考えていた所に、流民達がやって来て、町を見て回りながら、そうした者達を諭してしまったのだ。
一部舎弟化したのや、ファンクラブ化したのがいるのには目を瞑っている。
「何なのあの人ら。貴族相手のトラブルも一瞬で片付くんだけど? 流民って、貴族達にバカにされてなかったか?」
「バカにするのは、質の悪い成り上がりか、貴族の義務も果たさないクズだよ。王族並みの礼儀作法とか知ってるのを、普通はバカにしねえから」
「……じゃあ、俺らが付き合ってたのは普通じゃない奴らだったんだな。まあ、そうか……」
「裏の人間使う奴らが普通なわけないし」
「うん。そうだった……」
スピークは最近、度々昔の事を忘れる。裏でこそこそ生きていくしかなかった頃が忘れられるほど過去になったようだ。
「ほら、スピじい。そんな所で煤けてないで、それ並べ終わったら、メシ行ってきてくれよ? 昼休憩回らなくなる……」
「うげっ。もう十一時!? メシの時間だ!!」
「ジュエル! キラとアカネも、行ってこいよ~。スピじいと食堂じゃなく、今日も二階の談話室でな」
《は~い》
《うむ。昼か》
《食堂も混むものね~》
幹部メンバーだけでも、食堂から外している。そうでもしないと、休憩時間に食堂で食べられないのだ。
「地下にもう一つ部屋作るしかないよな……」
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