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475 秘密の会議の前に
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2016. 8. 12
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レイナルートは今一度、現れたサクヤの姿を確認しているようだった。
「先生……ですか?」
「そうよ」
見れば、他の面々も顔を見合わせるなどして首を傾げている。
彼らが不審に思うのも無理はなかった。
「失礼ですが、二十代頃とお見受けいたします。女性の教師として採用されるにはいささか若いと思うのですが」
つまり、レイナルートが言いたいのは、今のサクヤの姿では、教師として採用されることはあり得ないという事だ。
女性が教師として認められるのは、子育てが終わった四十代頃からだ。少し前まで、他の職種と同じく、女性の起用自体がなかった。
しかし、子どもを育てる知識は母親に勝るものはない。そこで、特に優秀な女性。それも、子育てを終えた者のみを採用する事になったのだ。
「そうね。この姿では無理よ。けど、まぁ……仕方ないわね」
そう言って、百聞は一見にしかずと、サクヤはカグヤの姿を取った。
「えっ⁉︎」
「ほぉ」
レイナルートは驚きの声を上げ、王は感心を表す。そして、ドーバン侯爵とリュークは絶句していた。
「こっちだと地味なんだ。ってことで、戻すよ?」
すぐにサクヤの姿に戻り、笑顔を見せると、王が歩み寄ってきた。
「素晴らしい魔術の腕をお持ちだ。さすがはウルの師匠殿だな」
「ふふっ、ありがとう。そう言ってもらえるなんて、あの子が気に入るだけあるわ」
「気に入ってくれているのか?」
「ええ。そうでなければ、報告なんてしないもの」
会話をしながら、王は席を勧めた。こんな対応も、ティアに気に入られる一つだろう。王族だからと偉そうに椅子に座っているだけの者ならば、ティアは話すらしない。
「国の一大事だとしてもかな?」
「関係ないのよ。どっちにしろ、あの子なら解決するのも放っておくのも自由なんだもの」
それは困るなと苦笑いを浮かべながら、王はサクヤの向かいに腰を下ろした。
「なるほどな。では、運良く解決に動いてくれているあの子と、連絡を取りたいのだが、ご協力いただけるだろうか」
「ええ。勿論よ。保護者がついてるとはいえ、私に連絡もなく他国へ行こうなんて、叱ってやらなくちゃ」
「ははっ、だが現状、あの子に動いてもらう他ない。私の顔に免じて、説教は短めに頼もう」
今回は大目に見てやるかとため息混じりで呟いたサクヤは、伝話心具を取り出す。それは、赤い薔薇を象ったブローチだ。
「素晴らしい作品だな」
「あの子の作よ。こういうのに凝りだすと止まらないみたいなのよね。平気で徹夜とかするから、気をつけないと」
そう言って笑うサクヤの後ろから、エルヴァストが秘密を暴露する。
「徹夜でも終わらないから、授業中にもやっていたと聞きましたよ。歴史の授業の時が一番はかどったとか」
「やだ、あの子。優等生が聞いて呆れるわね。本当に要領が良いんだから」
エルヴァストも混ざって笑い出した事で、レイナルートが不機嫌に言う。
「そんな話をしている場合なのですか?」
真面目なレイナルートにすれば、王もサクヤも呑気に過ぎるというものだ。しかし、これにも理由がちゃんとある。
「焦らないの。為政者には、余裕が必要よ。どれだけ切迫した状況でも、頭は冷静に、焦った素振りも見せちゃダメ。何より、あなたのお父様は、この状況で無意味な事をするような方なのかしら?」
「それはっ……では、なにが……」
レイナルートは少々恥ずかしそうに、王の表情を窺い見た。
これに王は頷き、なぜか目を閉じた後、慎重に口を開いた。
「そろそろよろしいですかな? 火の王よ」
その言葉に答え、火王がエルヴァストの隣に姿を現した。
《あぁ。この場に干渉する者はいなかった。守りも問題ない。始めるといい》
「っ、何者っ?」
驚き目を見開くレイナルートと王を庇うように、リュークが素早く動く。しかし、それを息子であるビアンが止めた。
「父上、この方は火の精霊王様です。力を貸していただいているのですよ」
「精っ、霊王⁉︎」
リュークは飛び上がるほど驚き、その場から動けなくなっていた。
レイナルートも同じで、崩れそうになる体を、机にもたれ掛かるようにして耐えていた。
当の火王は、二人の反応を見て無言で扉の所まで下がる。この行動に、ウルスヴァンが声をかけた。
「火の王……どうされました?」
《いや、離れた方が良いかと思ったのだ。威圧しているつもりはないが……気に障るようならば、姿を消す》
扉の横。その壁に背をもたせかけ、腕を組むと静かに下を向いて目を閉じた。
そこでフラムが嬉しそうにエルヴァストの肩から飛び立つ。火王が現れてから、わそわと落ち着きなくしていたのだ。知らない人物がいる事で、動くのを迷っていたらしい。
しかし、火王が部屋の端に移動した事で、そこが安全で落ち着く場所だと判断したようだ。
《キュ~っ》
《フラム。疲れていないか?》
《キュキュっ》
《えらいな。いい子だ》
《キュ~♡》
火王の組んだ腕に止まり、抱えられたフラムは、スリスリと火王の頬に擦り寄り
嬉しそうだ。火王も慈しみに満ちた笑みを浮かべ、その背を撫でた。
そんな様子を見ていたサクヤは呆れたように笑う。
「相変わらず火王さんはフラムに甘いわねぇ」
これに同感だとエルヴァストが深く頷く。
「未だにマティも甘えていますからね。他の風と水の方が厳しいですから、余計に優しさが際立ちます」
「エル君。それ、彼女達が聞いたら怖いわよ?」
「火のパパの庇護に入らせてもらいます……」
直接の被害は受けてはいないが、エルヴァストとしても、風王と水王は苦手なのだ。
その時、少し落ち着きを取り戻してきたレイナルートが呆然と呟いた。
「エルヴァストも知っているのか……」
気落ちしたようなその表情を見て、エルヴァストがはっとする。そして、助けを求めるように王へと目を向けたのだった。
************************************************
舞台裏のお話。
クロノス「ユメル、カヤル」
ユ・カ「「あ、お帰り兄さん」」
クロノス「あぁ、ただいま。ゲイルさんがいないようだが、何かあったのか?」
ユメル「あ~……ゼノ様を追ってディムースに……」
クロノス「ゼノスバート様はお一人で?」
カヤル「うん。多分、グリフォンを借りて行かれたよ」
リジット「クロノスさん、お帰りなさい」
アリ・べ「「お帰りなさいませ」」
クロノス「只今戻りました」
リジット「ゲイルさんとすれ違いませんでしたか?」
クロノス「ええ。ゲイルさんもグリフォンで行かれたのでは?」
リジット「いえ。恐らく、二匹ともとなると、マスターがお許しにならないでしょう。馬で行かれたかもしれません」
クロノス「そうですか……町の外周を見回っていた間でしょうか……」
アリシア「馬ではなく、走って行かれたようです」
クロノス「走っ……」
ベティ「はい。外門で確認いたしました」
リジット「おや、いつの間に」
ベティ「先ほど買い物の途中でギルドから飛び出していかれる所を目撃いたしましたので、見届けてみました」
リジット「そうでしたか。見送りありがございます」
ユメル「え、リジットさん、そこですか⁉︎」
カヤル「走ってなんて……あ~……」
クロノス「ん? どうした?」
カヤル「ウウン……兄さんもだったね……」
ユメル「僕らも走ってとか、その内言われないよね?」
カヤル「マズイよっ。今、呼び出されたら、グリフォン使えないもんっ」
クロノス「どうしたんだ? お前達」
ユ・カ「「なんでもない!」」
クロノス「そうか? まぁ、ゲイルさんが向かわれたなら、ゼノスバート様の方も大丈夫でしょう」
リジット「ええ。ゲイルさんの足なら、二日も掛からないでしょうからね」
ユメル「……馬車で最低三日の距離だよね……?」
カヤル「本当に走って……信じられない……」
アリシア「ラキア様なら、丸一日でしょうね」
ベティ「ええ。それなのに……軟弱だわ」
ユ・カ「「おかしいって気付こうよっ」」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
感覚がおかしいんですよね。
王太子には驚きの連続ですね。
王は免疫がついてきていますから。
『兄ちゃんだけ知らなかったんだよ』は結構傷付くかもしれませんね。
『父さんも知らないんだが?』となるのがビアンさんの所でしょうか。
では次回、一日空けて14日です。
よろしくお願いします◎
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レイナルートは今一度、現れたサクヤの姿を確認しているようだった。
「先生……ですか?」
「そうよ」
見れば、他の面々も顔を見合わせるなどして首を傾げている。
彼らが不審に思うのも無理はなかった。
「失礼ですが、二十代頃とお見受けいたします。女性の教師として採用されるにはいささか若いと思うのですが」
つまり、レイナルートが言いたいのは、今のサクヤの姿では、教師として採用されることはあり得ないという事だ。
女性が教師として認められるのは、子育てが終わった四十代頃からだ。少し前まで、他の職種と同じく、女性の起用自体がなかった。
しかし、子どもを育てる知識は母親に勝るものはない。そこで、特に優秀な女性。それも、子育てを終えた者のみを採用する事になったのだ。
「そうね。この姿では無理よ。けど、まぁ……仕方ないわね」
そう言って、百聞は一見にしかずと、サクヤはカグヤの姿を取った。
「えっ⁉︎」
「ほぉ」
レイナルートは驚きの声を上げ、王は感心を表す。そして、ドーバン侯爵とリュークは絶句していた。
「こっちだと地味なんだ。ってことで、戻すよ?」
すぐにサクヤの姿に戻り、笑顔を見せると、王が歩み寄ってきた。
「素晴らしい魔術の腕をお持ちだ。さすがはウルの師匠殿だな」
「ふふっ、ありがとう。そう言ってもらえるなんて、あの子が気に入るだけあるわ」
「気に入ってくれているのか?」
「ええ。そうでなければ、報告なんてしないもの」
会話をしながら、王は席を勧めた。こんな対応も、ティアに気に入られる一つだろう。王族だからと偉そうに椅子に座っているだけの者ならば、ティアは話すらしない。
「国の一大事だとしてもかな?」
「関係ないのよ。どっちにしろ、あの子なら解決するのも放っておくのも自由なんだもの」
それは困るなと苦笑いを浮かべながら、王はサクヤの向かいに腰を下ろした。
「なるほどな。では、運良く解決に動いてくれているあの子と、連絡を取りたいのだが、ご協力いただけるだろうか」
「ええ。勿論よ。保護者がついてるとはいえ、私に連絡もなく他国へ行こうなんて、叱ってやらなくちゃ」
「ははっ、だが現状、あの子に動いてもらう他ない。私の顔に免じて、説教は短めに頼もう」
今回は大目に見てやるかとため息混じりで呟いたサクヤは、伝話心具を取り出す。それは、赤い薔薇を象ったブローチだ。
「素晴らしい作品だな」
「あの子の作よ。こういうのに凝りだすと止まらないみたいなのよね。平気で徹夜とかするから、気をつけないと」
そう言って笑うサクヤの後ろから、エルヴァストが秘密を暴露する。
「徹夜でも終わらないから、授業中にもやっていたと聞きましたよ。歴史の授業の時が一番はかどったとか」
「やだ、あの子。優等生が聞いて呆れるわね。本当に要領が良いんだから」
エルヴァストも混ざって笑い出した事で、レイナルートが不機嫌に言う。
「そんな話をしている場合なのですか?」
真面目なレイナルートにすれば、王もサクヤも呑気に過ぎるというものだ。しかし、これにも理由がちゃんとある。
「焦らないの。為政者には、余裕が必要よ。どれだけ切迫した状況でも、頭は冷静に、焦った素振りも見せちゃダメ。何より、あなたのお父様は、この状況で無意味な事をするような方なのかしら?」
「それはっ……では、なにが……」
レイナルートは少々恥ずかしそうに、王の表情を窺い見た。
これに王は頷き、なぜか目を閉じた後、慎重に口を開いた。
「そろそろよろしいですかな? 火の王よ」
その言葉に答え、火王がエルヴァストの隣に姿を現した。
《あぁ。この場に干渉する者はいなかった。守りも問題ない。始めるといい》
「っ、何者っ?」
驚き目を見開くレイナルートと王を庇うように、リュークが素早く動く。しかし、それを息子であるビアンが止めた。
「父上、この方は火の精霊王様です。力を貸していただいているのですよ」
「精っ、霊王⁉︎」
リュークは飛び上がるほど驚き、その場から動けなくなっていた。
レイナルートも同じで、崩れそうになる体を、机にもたれ掛かるようにして耐えていた。
当の火王は、二人の反応を見て無言で扉の所まで下がる。この行動に、ウルスヴァンが声をかけた。
「火の王……どうされました?」
《いや、離れた方が良いかと思ったのだ。威圧しているつもりはないが……気に障るようならば、姿を消す》
扉の横。その壁に背をもたせかけ、腕を組むと静かに下を向いて目を閉じた。
そこでフラムが嬉しそうにエルヴァストの肩から飛び立つ。火王が現れてから、わそわと落ち着きなくしていたのだ。知らない人物がいる事で、動くのを迷っていたらしい。
しかし、火王が部屋の端に移動した事で、そこが安全で落ち着く場所だと判断したようだ。
《キュ~っ》
《フラム。疲れていないか?》
《キュキュっ》
《えらいな。いい子だ》
《キュ~♡》
火王の組んだ腕に止まり、抱えられたフラムは、スリスリと火王の頬に擦り寄り
嬉しそうだ。火王も慈しみに満ちた笑みを浮かべ、その背を撫でた。
そんな様子を見ていたサクヤは呆れたように笑う。
「相変わらず火王さんはフラムに甘いわねぇ」
これに同感だとエルヴァストが深く頷く。
「未だにマティも甘えていますからね。他の風と水の方が厳しいですから、余計に優しさが際立ちます」
「エル君。それ、彼女達が聞いたら怖いわよ?」
「火のパパの庇護に入らせてもらいます……」
直接の被害は受けてはいないが、エルヴァストとしても、風王と水王は苦手なのだ。
その時、少し落ち着きを取り戻してきたレイナルートが呆然と呟いた。
「エルヴァストも知っているのか……」
気落ちしたようなその表情を見て、エルヴァストがはっとする。そして、助けを求めるように王へと目を向けたのだった。
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舞台裏のお話。
クロノス「ユメル、カヤル」
ユ・カ「「あ、お帰り兄さん」」
クロノス「あぁ、ただいま。ゲイルさんがいないようだが、何かあったのか?」
ユメル「あ~……ゼノ様を追ってディムースに……」
クロノス「ゼノスバート様はお一人で?」
カヤル「うん。多分、グリフォンを借りて行かれたよ」
リジット「クロノスさん、お帰りなさい」
アリ・べ「「お帰りなさいませ」」
クロノス「只今戻りました」
リジット「ゲイルさんとすれ違いませんでしたか?」
クロノス「ええ。ゲイルさんもグリフォンで行かれたのでは?」
リジット「いえ。恐らく、二匹ともとなると、マスターがお許しにならないでしょう。馬で行かれたかもしれません」
クロノス「そうですか……町の外周を見回っていた間でしょうか……」
アリシア「馬ではなく、走って行かれたようです」
クロノス「走っ……」
ベティ「はい。外門で確認いたしました」
リジット「おや、いつの間に」
ベティ「先ほど買い物の途中でギルドから飛び出していかれる所を目撃いたしましたので、見届けてみました」
リジット「そうでしたか。見送りありがございます」
ユメル「え、リジットさん、そこですか⁉︎」
カヤル「走ってなんて……あ~……」
クロノス「ん? どうした?」
カヤル「ウウン……兄さんもだったね……」
ユメル「僕らも走ってとか、その内言われないよね?」
カヤル「マズイよっ。今、呼び出されたら、グリフォン使えないもんっ」
クロノス「どうしたんだ? お前達」
ユ・カ「「なんでもない!」」
クロノス「そうか? まぁ、ゲイルさんが向かわれたなら、ゼノスバート様の方も大丈夫でしょう」
リジット「ええ。ゲイルさんの足なら、二日も掛からないでしょうからね」
ユメル「……馬車で最低三日の距離だよね……?」
カヤル「本当に走って……信じられない……」
アリシア「ラキア様なら、丸一日でしょうね」
ベティ「ええ。それなのに……軟弱だわ」
ユ・カ「「おかしいって気付こうよっ」」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
感覚がおかしいんですよね。
王太子には驚きの連続ですね。
王は免疫がついてきていますから。
『兄ちゃんだけ知らなかったんだよ』は結構傷付くかもしれませんね。
『父さんも知らないんだが?』となるのがビアンさんの所でしょうか。
では次回、一日空けて14日です。
よろしくお願いします◎
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