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連載
506 王宮の秘密
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2016. 10. 14
**********
それは夕刻頃。カルツォーネを見送った後だった。
部屋には今夜泊まっていくアデルとキルシュ、サクヤが残っていた。
「ティア様。歓談中失礼いたします」
「シル? 何かあった?」
王宮での裏通路整備の進捗状況を確認に行ってもらっていたシルが、突然部屋に現れたのだ。
「何かお宝が出たのかしら?」
サクヤもこの整備の事は知っているので、城ならもしかしてと期待の眼差しを向ける。
「いえ……その、エイミール様がティア様に急ぎ相談したい事があると……」
「へぇ、珍しいね。わかった。マティは……お兄様達の方だったね。フラムも、もうおネムになっちゃうし……」
その時、窓から見える高い木の上から鳴き声が聞こえた。
「あ、ゼブロがいた」
《グルっ》
「ゼブロちゃん、木に登るなんて凄いっ」
「……フットウルフ……じゃないのか?」
マティでも木に登るなんて事はできない。しかし、ゼブロは器用に爪を立て、枝を見極めて飛び上がってきたらしい。
「あれかな……子ども達の木登りをここ何日も見てたから……」
ティアがこのディムースに滞在している間、ゼブロの昼寝場所が、この木の下だった。
その木を、クィーグの子ども達が遊び場にしていたのだ。誰が一番に天辺まで行けるかと競っていた。
「まぁ、普通じゃないのは確かよね」
「うん……」
確かに普通ではない。ゼブロは神使獣。天からやって来た特別な獣だ。
「なら、ゼブロに乗せてもらおうかな」
《グルルル~ゥ》
任せてくれという意思が伝わってきた。
「ティア、ついでにルクス君とビアンちゃんの様子を見てきて」
「そうだね。二人とも胃に穴を開けてそうだから」
先日から王都でベリアローズとエルヴァストがAランク認定試験を受けているのだ。
ルクスは大事な伯爵家の次期当主であるベリアローズが心配で、審査に影響がないくらいの距離を取って、クエストを見守っている。その移動の為にマティが付き添っていた。
同じく甥っ子であるエルヴァストが心配なビアンも、一緒に不安気について行っているのだ。
「ルクスってば、私で過保護力を発揮しなくなったと思ったら、お兄様になんて……過労で早く老けそう」
「過保護力ってなんだよ……というか、それ、ルクスさんに言うなよ? 特に最後のやつ」
キルシュが眉根をキツく寄せて忠告した。
「キルシュ君、そこは大丈夫よぉ。だってティアは年上好きだもの」
「へぇ、やっぱりそうなんだぁ。ティアって年上キラーだもんね」
「ちょっとサクヤ姐さん。変な事言わないで。それとアデル。やっぱりってなによ……」
サクヤにからかわれるのは珍しくないのであまり気にしないが、アデルは素直に信じるので、その純粋さが刺さる時がある。
「あの……ティア様……」
「そうだった。じゃぁ、行ってくるから」
「「「行ってらっしゃい」」」
シルに促され、出発したティアは、真夜中に王宮へと辿り着いた。
「こちらです」
王宮の裏通路を使ってシルに案内されるまま進み、とある隠し部屋でエイミールと出会った。
「遅くなってごめんなさい」
「いいえ。このような時間にお呼びして申し訳ございません」
深々と頭を下げたエイミールは、メイド服を着ていた。
「その服は一体?」
普段はシンプルなワンピースを着ているのだが、昔メイドであったというだけあり、とても着慣れているようだ。
「これから会っていただく方々には、いつもこの姿で会っていますので」
「これから会う?」
どうやら、エイミールは会ってほしい相手がいるらしい。こんな夜更けに一体誰に会えというのか。
「こちらです」
一先ず、エイミールについて狭い通路を進む。ここも裏通路だが、脱出用の用途ではないのだろう。明かりも灯り、他のティアの知る通路よりも綺麗で、使い慣らされているのが分かる。
「この先に、一部の者しか知らない特別な部屋があるのです」
「そんな所が?」
ティアも散々探検したのだが、この通路は知らなかった。城のどの位置なのかが、何となく分かる程度だ。
そうして歩いていると、傾斜になっているのを感じた。どうやら、緩やかに地下へ入っているようだ。
「この辺り……離宮?」
離宮の下に繋がっているのではないかと見当を付ける。そこでふと、いつの間にか高くなった天井に違和感を覚えた。
灯りが届かないその天井に、模様が見えたのだ。
「あの天井の模様……災厄除けの……っ、まさか」
ティアは、その天井の模様とこんな地下の空間を知っている。
それは、かつて多くの王宮にあった隔離部屋の入り口の印。
「あれでお気付きになられるとは……ここは、王宮に生まれた双子を禍とならぬように封じる為の離宮です」
「双子がいるのっ?」
目の前に迫った扉は、冷たい印象のある黒く大きな扉だ。それに手をかけ、エイミールは苦し気に顔を歪めて言った。
「はい……表向きには、病弱故に顔を出す事はないとされ、双子ではなく、一年違いで生まれた王子と公表しております」
ゆっくりと押し開かれたその扉の中。地下とは思えないほど明るい部屋がある。
「こちらが、第三王子のイルーシュ様と第四王子のカイラント様です」
二人の幼い王子が身を寄せ合い、ソファーに埋もれながらこちらを不安げに見ていたのだった。
**********
舞台裏のお話。
ベル「エル。なんだか、今日のクエスト中、視線を感じなかったか?」
エル「ベルも感じたのか?」
ベル「あぁ、ティアだろうか……」
エル「いや、ティアがそこまでするとは思えんな」
ベル「となると……でも、マティはいそうだ」
エル「それは私も思った。あとは……ビアンか」
ベル「ならば、ルクスかな」
エ・ベ「「過保護だからな……」」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
過保護だからです。
秘密の部屋は子ども部屋?
明るく居心地は良さそうです。
では次回、一日空けて16日です。
よろしくお願いします◎
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それは夕刻頃。カルツォーネを見送った後だった。
部屋には今夜泊まっていくアデルとキルシュ、サクヤが残っていた。
「ティア様。歓談中失礼いたします」
「シル? 何かあった?」
王宮での裏通路整備の進捗状況を確認に行ってもらっていたシルが、突然部屋に現れたのだ。
「何かお宝が出たのかしら?」
サクヤもこの整備の事は知っているので、城ならもしかしてと期待の眼差しを向ける。
「いえ……その、エイミール様がティア様に急ぎ相談したい事があると……」
「へぇ、珍しいね。わかった。マティは……お兄様達の方だったね。フラムも、もうおネムになっちゃうし……」
その時、窓から見える高い木の上から鳴き声が聞こえた。
「あ、ゼブロがいた」
《グルっ》
「ゼブロちゃん、木に登るなんて凄いっ」
「……フットウルフ……じゃないのか?」
マティでも木に登るなんて事はできない。しかし、ゼブロは器用に爪を立て、枝を見極めて飛び上がってきたらしい。
「あれかな……子ども達の木登りをここ何日も見てたから……」
ティアがこのディムースに滞在している間、ゼブロの昼寝場所が、この木の下だった。
その木を、クィーグの子ども達が遊び場にしていたのだ。誰が一番に天辺まで行けるかと競っていた。
「まぁ、普通じゃないのは確かよね」
「うん……」
確かに普通ではない。ゼブロは神使獣。天からやって来た特別な獣だ。
「なら、ゼブロに乗せてもらおうかな」
《グルルル~ゥ》
任せてくれという意思が伝わってきた。
「ティア、ついでにルクス君とビアンちゃんの様子を見てきて」
「そうだね。二人とも胃に穴を開けてそうだから」
先日から王都でベリアローズとエルヴァストがAランク認定試験を受けているのだ。
ルクスは大事な伯爵家の次期当主であるベリアローズが心配で、審査に影響がないくらいの距離を取って、クエストを見守っている。その移動の為にマティが付き添っていた。
同じく甥っ子であるエルヴァストが心配なビアンも、一緒に不安気について行っているのだ。
「ルクスってば、私で過保護力を発揮しなくなったと思ったら、お兄様になんて……過労で早く老けそう」
「過保護力ってなんだよ……というか、それ、ルクスさんに言うなよ? 特に最後のやつ」
キルシュが眉根をキツく寄せて忠告した。
「キルシュ君、そこは大丈夫よぉ。だってティアは年上好きだもの」
「へぇ、やっぱりそうなんだぁ。ティアって年上キラーだもんね」
「ちょっとサクヤ姐さん。変な事言わないで。それとアデル。やっぱりってなによ……」
サクヤにからかわれるのは珍しくないのであまり気にしないが、アデルは素直に信じるので、その純粋さが刺さる時がある。
「あの……ティア様……」
「そうだった。じゃぁ、行ってくるから」
「「「行ってらっしゃい」」」
シルに促され、出発したティアは、真夜中に王宮へと辿り着いた。
「こちらです」
王宮の裏通路を使ってシルに案内されるまま進み、とある隠し部屋でエイミールと出会った。
「遅くなってごめんなさい」
「いいえ。このような時間にお呼びして申し訳ございません」
深々と頭を下げたエイミールは、メイド服を着ていた。
「その服は一体?」
普段はシンプルなワンピースを着ているのだが、昔メイドであったというだけあり、とても着慣れているようだ。
「これから会っていただく方々には、いつもこの姿で会っていますので」
「これから会う?」
どうやら、エイミールは会ってほしい相手がいるらしい。こんな夜更けに一体誰に会えというのか。
「こちらです」
一先ず、エイミールについて狭い通路を進む。ここも裏通路だが、脱出用の用途ではないのだろう。明かりも灯り、他のティアの知る通路よりも綺麗で、使い慣らされているのが分かる。
「この先に、一部の者しか知らない特別な部屋があるのです」
「そんな所が?」
ティアも散々探検したのだが、この通路は知らなかった。城のどの位置なのかが、何となく分かる程度だ。
そうして歩いていると、傾斜になっているのを感じた。どうやら、緩やかに地下へ入っているようだ。
「この辺り……離宮?」
離宮の下に繋がっているのではないかと見当を付ける。そこでふと、いつの間にか高くなった天井に違和感を覚えた。
灯りが届かないその天井に、模様が見えたのだ。
「あの天井の模様……災厄除けの……っ、まさか」
ティアは、その天井の模様とこんな地下の空間を知っている。
それは、かつて多くの王宮にあった隔離部屋の入り口の印。
「あれでお気付きになられるとは……ここは、王宮に生まれた双子を禍とならぬように封じる為の離宮です」
「双子がいるのっ?」
目の前に迫った扉は、冷たい印象のある黒く大きな扉だ。それに手をかけ、エイミールは苦し気に顔を歪めて言った。
「はい……表向きには、病弱故に顔を出す事はないとされ、双子ではなく、一年違いで生まれた王子と公表しております」
ゆっくりと押し開かれたその扉の中。地下とは思えないほど明るい部屋がある。
「こちらが、第三王子のイルーシュ様と第四王子のカイラント様です」
二人の幼い王子が身を寄せ合い、ソファーに埋もれながらこちらを不安げに見ていたのだった。
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舞台裏のお話。
ベル「エル。なんだか、今日のクエスト中、視線を感じなかったか?」
エル「ベルも感じたのか?」
ベル「あぁ、ティアだろうか……」
エル「いや、ティアがそこまでするとは思えんな」
ベル「となると……でも、マティはいそうだ」
エル「それは私も思った。あとは……ビアンか」
ベル「ならば、ルクスかな」
エ・ベ「「過保護だからな……」」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
過保護だからです。
秘密の部屋は子ども部屋?
明るく居心地は良さそうです。
では次回、一日空けて16日です。
よろしくお願いします◎
応援ありがとうございます!
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