元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

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第九章

367 里に異変があったのかも

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ナチはコウヤへ目を向けてから、自然に手を組んで祈るように目を伏せる。

「神を深く信仰していた我々エルフや獣人族、ドワーフ族は、血が濃い者ほど、無意識にこの地に近付くことを畏れます」

ぐっと、一度祈る手を握り、顔を上げて再びコウヤへ目を向けた。

「コウルリーヤ様を……神々の信頼を裏切ったという先人達の後悔の念を、我々は幼い頃から聞いて育ちます。だからこそ、この地へ赴くことは許されないのだと思い込み、その想いが……敏感に境界線を意識させるのだと思います」

これを聞いて、コウヤは首を傾げる。そして、思い出した。

「そういえば、ルー君達もこのユースールには、なんでか近付こうと思えなかったって言ってたかな。ばばさま達は逆に、住むならここしかないって思ったらしいけど」

ルディエや今の白夜部隊の無魂薬を飲んだ者たちは、神官殺しとして生きていた頃、ユースールという町の存在は知っていても、何故か足が向かなかったという。

ベニ達により、追い出された神官達に出会ったことで、何かが繋がった。そこで初めて、ユースールにと考えられたらしい。

「意識して感じられるものではないのだと思います。本能といいますか……そういう何かが、求めたり、避けたりしてしまうのでしょう」

そうした本能が強く働くのが長命種だ。彼らにしか分からない感覚がこの地では強く発揮されるのかもしれない。

「なら、マスターも何か感じてるかもしれんな」
「俺ら人族には感じられない何かを感じるか……なんかカッコよくね?」
「あ、それ俺も思ったっ」

冒険者達は呑気なものだ。それがなんだか有難い。ナチも自然に笑っていた。

「ふふ。ここは加護の強い場所です。知らずに皆さんも恩恵を受けているはずですよ」

それを聞いた冒険者達の目はキラキラと輝いていた。魔法があるこの世界でも、目に見えない力というのには憧れがあるらしい。

「なんだろっ。あ、目が良くなるとか!」
「俺、鼻が利くようになったと思う!」
「勘だろ、勘! なんか昔より冴えてる気がする!」

それくらいの恩恵で十分だと思っている所が、なんだか可愛らしい。いくつになっても、彼らは時に少年のように見える。

だから、コウヤはクスクスと笑って答えをあげた。別に意図したわけではないが、このユースールをこれまで見てきて、それがそうだと思えるものはある。

「ふふふっ。皆さん間違ってはいないと思いますけど、恐らく、素質あるスキルが目覚めやすいんだと思います」
「………」
「………」
「………」
「「「あっ!!」」」

思い当たったらしい。

俺はこれだとか、お前はこれじゃないかとか、大騒ぎになったので、そんな冒険者達の間を縫って、薬屋に入る。

「ナチさん。純血主義……というか、里のことを少し聞いてもいいですか?」
「はい。奥へどうぞ」

休憩室へ案内される。向かい合ってテーブルについたところで、ゲンがタイミング良く製薬室から出てきた。

「コウヤか。まさか、表の奴らと同じか?」

彼らと同じように、ナチを守るために来たのかとナチとコウヤを交互に見ながら問いかけてきた。

「半分はそうです。少し心配で。けど、一番は、里の様子を教えていただきたくて。純血主義の方達が、今この時に出てきた理由が分からないかなと」
「……確かに、今まで引きこもっていた奴らが、突然出てきたのは気になるな。神教国にベニ大司教達が乗り込んで、弱らせた所で横取り……ってのも、出来過ぎだ……」

最初は、ベニ達がきっかけを作った所に、横入りしたと思っていた。だが、それぞれの里から、そんな都合良くそのタイミングを狙ってくるだろうかと疑問に思った。

ただでさえ、ベニ達は短期決戦型。一気に攻め込むタイプだ。見張りを付けていて、そこのタイミングでというのも難しいはずだ。それも、かなりまとまった人数だった。囲み方からして、計画性もある。

「俺は、今回たまたま、ばばさま達とタイミングが合ってしまっただけだと思うんです。それで、今各地で商業ギルドなどに訴えを起こしているのは、別件で計画していたものなんじゃないかと」

戦をするには、物資が必要。だが、そういう目的ではない気がする。

「……そうかもしれません……恐らく、神教国へ集まっている者たちと、町に来ている者たちの目的は別です」

ナチは考え込みながらもそう口にした。

「他の種族のことは分かりませんが、エルフの里では、二つの派閥がありました。一つは、恐らく神教国へ向かった強硬派です。神を私物化する人族を許さないという者たちで、彼らはコウルリーヤ様を討つきっかけを作った神教国を恨んでいます。神の加護が消えた原因を作った者達を許すなと」

神官殺しとは別に、彼らは外に出ては、教会関係者に手をかけてきたらしい。これにより、神教国は、彼らを『異種族』とし、その権威を持って大陸から彼らの居場所を奪っていった。

国によっては、神教国の影響を強く受け、入国も許さない所もある。

「彼ら強硬派は、神の加護の力に頼りすぎていた者たちによって作られたと聞いています。だからこそ、それを失くす原因を作った者たちを許せなかったのだと思います」

自分たちとて、コウルリーヤを庇うこともせず、そのまま傍観を決め込んだり、前線に立たずとも、コウルリーヤを一緒に責めていたというのに、いざ、自分達から加護が無くなって焦ったというわけだ。

「勝手な者たちです……お恥ずかしい……」

ナチは、テーブルの上で固く握り込んだ手を見つめる。彼女は『邪神の巫女』を名乗っていた家系の出だ。これは許せなかったのだろう。

落ち着いてもらうためにも、コウヤは口を挟む。

「では、もう一つは?」
「っ、もう一つは、血を重んじる純血主義の者たちです。古き良き血を受け継いでいくのだという考えの下、婚姻などにも口を出してきます」
「ん? なら、強硬派の人たちは、純血主義じゃないって事ですか?」

てっきり、里に残る者たちは全員、純血主義なのだと思っていた。

「あ、いえ、強硬派は、強硬派で、神教国に与する人族と交わることを厭っています。ただ、彼らはエルフ族とドワーフ族、エルフ族と獣人族で血を交ぜるのは気にしていません。あくまでも、人族とがダメらしくて」
「それ、違いって分かるんですか? 魔力で分かるとか、聞きますけど……」

この場合、子どもはどちらかの特徴が必ず出る。だが、人族との子どもも特徴が出ることはあるのだ。見た目では分からない。

「そうですね。エルフ族は魔力によって判別します。人族の魔力波動の方が独特なので、それを感じるかどうかの判断になります」

獣人族は匂い。一方、ドワーフ族だけは、特に血を重んじたりはしない。彼らはどれだけ有用なスキルを会得出来るかを重視しているため、人族にも思う所はないようだ。ただ、人族側が異種族の括りに入れて区別しているだけに過ぎない。

「ただ、それほど精度は高くありません。二世代目でも、もう判断できなくなります。危ないのはあくまで、里抜けした者と、身体的特徴が出なければ、それを親に持つ者だけです」

それならば、もっと守りやすくやりそうだ。

「なら、ここでその純血主義の人たちが動いたのは何故か心当たりはありませんか?」
「そうですね……彼らは、里こそが理想郷と考える者たちです。だから、出てくるのもおかしいと思っていたのですが……もしかしたら、里に異変があったのかもしれません」

これだという理由を、ナチは思いついたようだ。

「以前から、上手く魔力を扱えない者が増えていて……本来ならば数百と生きるエルフ族は、それに応じて肉体の成長が遅くなります。ですが、問題となる者たちは、まるで人族と同じ成長をするのです」

それは、長命種としてはかなり危機的な状況だろう。

「それと……徐々にですが、里が小さくなっているのを、気にしていました」
「小さく? 外壁とかはありますよね?」
「はい……ですが、エルフ族としては、結界に重きを置いていますので、外壁はあまり意味がないんです」

このユースールや人族の町のように、高く強度のある外壁にはしないらしい。

「今思えば……魔獣が多くなっていたのだと思います。魔獣避けの香などの効果の高いものがありますから、特に気にせずに私も森から出てきたのですが……森の実りも少なくなっているのが気になりました……」
「魔獣と実り……それって……」

コウヤが答えを口にするより早く、そこにエリスリリアが現れて答えた。

「それはアレね♪  土地の迷宮化♪」
「「迷宮化……?」」

初めて聞く言葉に、ナチとゲンは目を丸くしていた。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
次回はSSの二本目の予定です。

2巻目が発売されて一週間ほどが経ちました。
感謝の意味も込めましてSSで読みたい
登場人物についてご希望があればそれを参考にSSをと思います。

00:05頃に著者近況→近況ボード
【第2巻発売記念SSキャラ投票】
にて投票を開始します。

条件は書籍第2巻で登場する人物
その舞台裏を書くということで。
どの時点のという場面は指定はできませんが
希望はお聞きします◎
(情報解禁は済んでおりますので新キャラについてもOKです)

登録可能な人数は100件までです。
お一人様一度でお願いします。

期間は来週の日曜日12日の
23:00頃まで。

これからも応援よろしくお願いします!

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