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第十章
391 どんどん情報集めてね
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翌日から従魔術師達が、迷宮化した土地の探索を始めた。
「うわ~、そっかあ。迷宮化ってこういうことかあ」
「ちょっ、こっち、なんか通り抜けたっぽい感覚があったみたいなんだけど」
「あ、こっちも。ってか、なんでこんな、おもろいことになってんのに、ここ通ったエルフの奴らとか、なんとも思わんかったんか?」
「アレだろ。道決まってるとかナチちゃん言ってたし、本気で知らねえんだよ」
「ウケるっ。それって、迷宮に騙されてんじゃん」
「あるな、それ」
「意地悪される時あるもんな~」
「あるある」
従魔術の熟練度が大になると、従魔の目や耳と感覚を繋げることができる。それを使い、従魔術師達は問題となる森から離れた場所に待機所を作り、そこで中継をしていた。
従魔はあくまでも魔獣や魔物だ。迷宮化という状態は、土地を呑み込んでいく。だが、そこに元々棲まう魔獣や魔物、ただの獣達は、そのままらしい。
少々、周りの環境が変わり、迷宮の生み出した魔獣が増えるが、それだけなのだ。環境が合わなければ野生の魔獣や獣達は住処を出ていくし、適応できるものは残る。だから、従魔達が入り込んだ所で、警戒されることはない。
これは、土地の迷宮化の時の特徴らしい。迷宮の場合は、外から入ってくることはできない。だから、従魔も人と同じ異物、挑戦者として数えられる。よって、生きている魔獣は敵と判断されるのだ。
しかし、今回の場合はその判断ができない。よって、こうして従魔を使った調査が可能となった。
「ここ、境界線あり」
「こっちもな。そんで、なんか一気に周りの緑が消えた。枯れ草とかばっか。フィールドが変わってるのが目で確認できた」
「こっち沼地だわ。げっ、毒持ちのカエルいる……」
「ちょっとガスも出てるって。沼には近付かないで」
「おう。ありがとよ。感じとしては『大蛇の迷宮』の中層って所だな」
そこにいる魔獣や魔物を確認し、迷宮としての難度を予想していく。
「こっち、この辺。氷の世界なんだけど……ってか、これが上から見て分かんねえとか、マジ迷宮コワっ……」
「だから発見できんかったんだろ? 迷宮化ってのが理解できたわ」
「なあ、なんか、俺、ベルセンの時のコウヤが最後の時に作ったフィールド思い出したわ」
ベルセンの集団暴走の際、最後の戦いの場を、コウヤはフィールドを作り、その場の対応に慣れた者たちを集めて対処した。正にそれだった。
「それな。アレはまだ分かりやすく区切られてたからよかったけどさあ。これ、一歩間違えると隣のフィールドに行っちまうし、ヤバいぜ……」
階層ごとで変わるはずのフィールドが、不可視の結界のようなもので区切られており、その境界線を越えると違うフィールドになる。一歩踏み出せば違う階層に突然飛ばされたような状況となるのだ。それも、難度順に並んでいるわけでもないので、これがかなり危険だった。
「それ! 難度がガラッと変わりそうなんだけど。アレだよ。転移地獄の……」
「ああ『飛ばし迷宮』な……罠石踏んだり、罠の隠し部屋入ると、パーティごと別の階層に飛ばされるやつ……」
「あ~、分かるわ。三階層からいきなり五十階層に飛ばされた時は、パーティ全員で泣きながら階段まで走り抜けたわ……」
突然、中層や深層に飛ばされるのだ。たまったものではない。
「あそこは、マジで心折れるよな……罠石の見分け付くようになるけど」
「それなんだよな……あそこは、一回は行かないとダメなんだよ……泣きたくなるけど……」
「あそこ行った後から、他の迷宮での罠とか、なんとなくあの辺怪しいとか、分かるようになるんだよな……」
「後で行って良かったとか……思いたくないけど思う自分が……許せなくなる……」
「「「それな……」」」
罠が見抜けるようになったことに、感謝したくなるけど、したくない。『飛ばし迷宮』とは、そういう迷宮だった。ある意味でとても為になる冒険者達の修行の場だ。精霊達にとっても罠の設置を学ぶ場だということは、当然だが知られていない。
「おーい。お前ら何落ち込んでんの? 従魔の方も気持ちが辛気臭くなるからやめなよ? ほらほら、どんどん情報集めてね」
「「「「「はい!」」」」」
この場の監督であるユストに敬礼し、冒険者達は続けて情報収集に勤しんだ。
「やっぱ、上からは見えないみたいだね……上空はどこまでの範囲か、確認しよう。フィト、ヨクト、行ける?」
「は~い」
「大丈夫だぜ!」
「じゃあ、十分に気をつけて、お願い」
「「はい」」
上空がどこまで迷宮の管理下にあるのか。その確認と、広さの確認にフィトとヨクトがジェットイーグルの目を借りて調査を始める。
「シュン、そっちはどう?」
「……大体、見て回りました。奥の里の方がなんか……活気がないです」
「そう……確か、手前の方が話が出来るってナチが言ってたね。もう少し里を見て回って……見張りに見られずに入れそうな場所を見つけてくれ」
「はい……結界の穴……上空の方が多そう……マナ、そっちの検索を頼む」
「分かった。任せて~」
「サフィは見張りの位置確認」
「うん。見回りのホウソク……みきわめます!」
ここでも、子ども達は大活躍中だ。
「なあ……あの子ら、マジで、何目指してんの?」
「また、オヤジ達、泣くな……」
「でも、家は継ぐって言ってたぜ?」
「あれで? もったいねえっ。絶対に冒険者向いてるだろ」
「それかあれだ……諜報員」
「「「あ~……」」」
「ヤベエな……」
「「「だな……」」」
思わず大人たちが頷いてしまうほど、子ども達は活躍していた。
「さ~てと……コウヤ様の方はどうなったかな……」
ユストが心配するのは、コウヤのこと。コウヤ達が想定していたよりも、迷宮化はかなりの広範囲に広がっていた。これに対処するには、多くの冒険者の協力がいる。国一つで解決するものでもなく、何より、ここはトルヴァランの国内ではない。多くの国から支援をもらい、対処しなくてはならない問題だった。
この時コウヤは、広がっていく土地の迷宮化の問題を他国に知らせるべく、王都で王達と国際会議についての話し合いをしていたのだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
よろしくお願いします◎
●第三巻発売決定しました!
詳しくは次回以降!
「うわ~、そっかあ。迷宮化ってこういうことかあ」
「ちょっ、こっち、なんか通り抜けたっぽい感覚があったみたいなんだけど」
「あ、こっちも。ってか、なんでこんな、おもろいことになってんのに、ここ通ったエルフの奴らとか、なんとも思わんかったんか?」
「アレだろ。道決まってるとかナチちゃん言ってたし、本気で知らねえんだよ」
「ウケるっ。それって、迷宮に騙されてんじゃん」
「あるな、それ」
「意地悪される時あるもんな~」
「あるある」
従魔術の熟練度が大になると、従魔の目や耳と感覚を繋げることができる。それを使い、従魔術師達は問題となる森から離れた場所に待機所を作り、そこで中継をしていた。
従魔はあくまでも魔獣や魔物だ。迷宮化という状態は、土地を呑み込んでいく。だが、そこに元々棲まう魔獣や魔物、ただの獣達は、そのままらしい。
少々、周りの環境が変わり、迷宮の生み出した魔獣が増えるが、それだけなのだ。環境が合わなければ野生の魔獣や獣達は住処を出ていくし、適応できるものは残る。だから、従魔達が入り込んだ所で、警戒されることはない。
これは、土地の迷宮化の時の特徴らしい。迷宮の場合は、外から入ってくることはできない。だから、従魔も人と同じ異物、挑戦者として数えられる。よって、生きている魔獣は敵と判断されるのだ。
しかし、今回の場合はその判断ができない。よって、こうして従魔を使った調査が可能となった。
「ここ、境界線あり」
「こっちもな。そんで、なんか一気に周りの緑が消えた。枯れ草とかばっか。フィールドが変わってるのが目で確認できた」
「こっち沼地だわ。げっ、毒持ちのカエルいる……」
「ちょっとガスも出てるって。沼には近付かないで」
「おう。ありがとよ。感じとしては『大蛇の迷宮』の中層って所だな」
そこにいる魔獣や魔物を確認し、迷宮としての難度を予想していく。
「こっち、この辺。氷の世界なんだけど……ってか、これが上から見て分かんねえとか、マジ迷宮コワっ……」
「だから発見できんかったんだろ? 迷宮化ってのが理解できたわ」
「なあ、なんか、俺、ベルセンの時のコウヤが最後の時に作ったフィールド思い出したわ」
ベルセンの集団暴走の際、最後の戦いの場を、コウヤはフィールドを作り、その場の対応に慣れた者たちを集めて対処した。正にそれだった。
「それな。アレはまだ分かりやすく区切られてたからよかったけどさあ。これ、一歩間違えると隣のフィールドに行っちまうし、ヤバいぜ……」
階層ごとで変わるはずのフィールドが、不可視の結界のようなもので区切られており、その境界線を越えると違うフィールドになる。一歩踏み出せば違う階層に突然飛ばされたような状況となるのだ。それも、難度順に並んでいるわけでもないので、これがかなり危険だった。
「それ! 難度がガラッと変わりそうなんだけど。アレだよ。転移地獄の……」
「ああ『飛ばし迷宮』な……罠石踏んだり、罠の隠し部屋入ると、パーティごと別の階層に飛ばされるやつ……」
「あ~、分かるわ。三階層からいきなり五十階層に飛ばされた時は、パーティ全員で泣きながら階段まで走り抜けたわ……」
突然、中層や深層に飛ばされるのだ。たまったものではない。
「あそこは、マジで心折れるよな……罠石の見分け付くようになるけど」
「それなんだよな……あそこは、一回は行かないとダメなんだよ……泣きたくなるけど……」
「あそこ行った後から、他の迷宮での罠とか、なんとなくあの辺怪しいとか、分かるようになるんだよな……」
「後で行って良かったとか……思いたくないけど思う自分が……許せなくなる……」
「「「それな……」」」
罠が見抜けるようになったことに、感謝したくなるけど、したくない。『飛ばし迷宮』とは、そういう迷宮だった。ある意味でとても為になる冒険者達の修行の場だ。精霊達にとっても罠の設置を学ぶ場だということは、当然だが知られていない。
「おーい。お前ら何落ち込んでんの? 従魔の方も気持ちが辛気臭くなるからやめなよ? ほらほら、どんどん情報集めてね」
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この場の監督であるユストに敬礼し、冒険者達は続けて情報収集に勤しんだ。
「やっぱ、上からは見えないみたいだね……上空はどこまでの範囲か、確認しよう。フィト、ヨクト、行ける?」
「は~い」
「大丈夫だぜ!」
「じゃあ、十分に気をつけて、お願い」
「「はい」」
上空がどこまで迷宮の管理下にあるのか。その確認と、広さの確認にフィトとヨクトがジェットイーグルの目を借りて調査を始める。
「シュン、そっちはどう?」
「……大体、見て回りました。奥の里の方がなんか……活気がないです」
「そう……確か、手前の方が話が出来るってナチが言ってたね。もう少し里を見て回って……見張りに見られずに入れそうな場所を見つけてくれ」
「はい……結界の穴……上空の方が多そう……マナ、そっちの検索を頼む」
「分かった。任せて~」
「サフィは見張りの位置確認」
「うん。見回りのホウソク……みきわめます!」
ここでも、子ども達は大活躍中だ。
「なあ……あの子ら、マジで、何目指してんの?」
「また、オヤジ達、泣くな……」
「でも、家は継ぐって言ってたぜ?」
「あれで? もったいねえっ。絶対に冒険者向いてるだろ」
「それかあれだ……諜報員」
「「「あ~……」」」
「ヤベエな……」
「「「だな……」」」
思わず大人たちが頷いてしまうほど、子ども達は活躍していた。
「さ~てと……コウヤ様の方はどうなったかな……」
ユストが心配するのは、コウヤのこと。コウヤ達が想定していたよりも、迷宮化はかなりの広範囲に広がっていた。これに対処するには、多くの冒険者の協力がいる。国一つで解決するものでもなく、何より、ここはトルヴァランの国内ではない。多くの国から支援をもらい、対処しなくてはならない問題だった。
この時コウヤは、広がっていく土地の迷宮化の問題を他国に知らせるべく、王都で王達と国際会議についての話し合いをしていたのだ。
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