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第十一章
431 里の制圧
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コウヤが来たことに気付いたシーレスが嬉しそうに振り向いた。
「コウヤ君っ。外は順調ですか?」
「はい。午前の部として、そろそろ早い所では、ボスが出現している頃だと思います。昼過ぎには、最初の各担当フィールドの攻略が終わりますよ。なんだか、やる気がすごくて」
「それは素晴らしいですね。では、こちらも早く場を整えなくてはいけません」
「そうですね」
安全地帯、野営地として使うのはこの手前の里だ。しかし、奥の里の者たちをきちんと押さえておかなくては、安心できない。
そこに、奥の里で『失望宣言』をしてきたリクトルスが戻ってきた。
「あ、リクト兄。どんな様子だった?」
これから制圧しに行くのだ。相手方の様子は確認したい。シーレスもリクトルスの言葉を待っていた。
「最後まで信じないと、泣き喚いたりして騒いでいましたよ。とても見苦しかったですねえ。年長者ほど取り乱していました」
現実を受け入れられない様子で、自分達のステータスを見て、称号をその目で見ても、信じないと叫んでいたらしい。
「それと、三分の一くらいは、寝込んでいます。あれは、血が濃くなった弊害と、迷宮化の影響でしょう。ほとんど瀕死です。ただ……さすがに子どもは哀れだったので、連れてきました。コウヤ君も気にしていたでしょう?」
そう言って指差した先には、乳児が一人、幼児が一人、小学生くらいの子が一人、固まって所在なげに縮こまっていた。ただ、衰弱しているのか、表情もない。泣きもしなかった。
「生まれにくくもなっているようですね。あの里に居た十代の子どもはこの子達だけでした」
「……そっか……ナチさん、先にこの子達の状態を見るから、後はお願いできる?」
「もちろんです」
コウヤは子ども達の状態を確認し、薬を処方する。その間に、シーレスはリクトルスから奥の里の警備配置などを聞き、作戦を練っていく。
「これで大丈夫だと思う。それと、これが作物と土地の毒素をなくす農薬ね。即効性もあるからとりあえず、農地に撒いてもらって。レシピと材料はコレ。土地全体に撒く分の追加は作ってね」
「ありがとうございます! すぐに!」
ナチは、近くの人に指示を出す。どうやら、里の者たちは、ナチを信頼しているようだ。もちろん、ナチ自身がユースールで鍛えられたというのもあるだろう。
冒険者たちと日々付き合い、ゲンに鍛えられて、年上だろうと、ナチは怯まずに言葉を伝えていた。
「あなた方はこの農薬を作ってください。調合の仕方を教えます」
「「「はいっ」」」
ナチは薬師としての腕も既に一流だ。その知識と実力は、古い薬学の歴史を持つエルフ達でさえ凌駕している。当然だ。里に篭りきりで、発展をしていないエルフ達とは違い、人族の国では、多くの新たな治療法を得ているのだから。
その最高峰を学んだナチは、間違いなく一流の薬師だった。
「この薬草の処理は気を付けてください。ここを切り過ぎても効能が落ちてしまいます」
「わ、わかりました……っ」
「知らなかった……」
「外にはこんな薬草が……」
そう、植物もこの数百年で変わっている。土地によっても手に入る薬草も違う。だから、エルフ達の知らない薬草は多かった。
「……こんな状態で、我々は薬師を名乗っていたのか……」
「エルフである我々の知識が最高などと……なんと恥ずかしい……」
これを認められる人たちというのが助かる。この里の者たちは、不名誉な称号を受けなかった。それは、いち早く行動に移していたからだ。変わろうとする意思が確実に感じられたからだった。
自分達の非を認めて、新たなことを受け入れようとする姿勢を評価したのだ。
ナチが居ればここは大丈夫だろう。そう結論付け、コウヤはシーレスに声をかける。
「行きましょう。寝込んでいる者たちは、俺が治療します。里の制圧はお願いしますね」
「もちろんです! ですが……テンキ殿が居てもお一人では危なくないですか? 人族の、それも子どもということで、侮られる可能性があります」
コウヤはどこからどう見ても成人前の子どもだ。そして、人族。プライドの高い奥の里の者たちは、話も聞かないだろう。
「大丈夫ですよ。彼女とジンクおじさんについて来てもらいます」
「彼女……?」
彼女と呼んだ示したのは、ジンクと共にやって来た女性。里の者が『おばば』と呼ぶ人物だった。
「里長の血筋だそうです」
「なるほど……ですが、この里に居たということは……」
「まともだってことですよ」
「……ふふっ、確かにそうですね」
シーレスと笑い合う。里長の血筋の者なのに、ここに居た。ならば、意見したのだろう。まともな意見を言ったから、追い出されたのだ。
「口が達者な年長者は味方につけたら最強だって、ベニばあさま達も言ってました」
「なるほど……確かにそうですね!」
物凄く納得顔をされた。それに笑いながら、コウヤは小さく呟く。
「姿も変える予定ですからね~」
「……」
《……》
これはジンクとテンキにしか聞こえなかった。
コウヤは楽しそうな笑みを浮かべながら、シーレス達と共に、奥の里へと向かったのだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
「コウヤ君っ。外は順調ですか?」
「はい。午前の部として、そろそろ早い所では、ボスが出現している頃だと思います。昼過ぎには、最初の各担当フィールドの攻略が終わりますよ。なんだか、やる気がすごくて」
「それは素晴らしいですね。では、こちらも早く場を整えなくてはいけません」
「そうですね」
安全地帯、野営地として使うのはこの手前の里だ。しかし、奥の里の者たちをきちんと押さえておかなくては、安心できない。
そこに、奥の里で『失望宣言』をしてきたリクトルスが戻ってきた。
「あ、リクト兄。どんな様子だった?」
これから制圧しに行くのだ。相手方の様子は確認したい。シーレスもリクトルスの言葉を待っていた。
「最後まで信じないと、泣き喚いたりして騒いでいましたよ。とても見苦しかったですねえ。年長者ほど取り乱していました」
現実を受け入れられない様子で、自分達のステータスを見て、称号をその目で見ても、信じないと叫んでいたらしい。
「それと、三分の一くらいは、寝込んでいます。あれは、血が濃くなった弊害と、迷宮化の影響でしょう。ほとんど瀕死です。ただ……さすがに子どもは哀れだったので、連れてきました。コウヤ君も気にしていたでしょう?」
そう言って指差した先には、乳児が一人、幼児が一人、小学生くらいの子が一人、固まって所在なげに縮こまっていた。ただ、衰弱しているのか、表情もない。泣きもしなかった。
「生まれにくくもなっているようですね。あの里に居た十代の子どもはこの子達だけでした」
「……そっか……ナチさん、先にこの子達の状態を見るから、後はお願いできる?」
「もちろんです」
コウヤは子ども達の状態を確認し、薬を処方する。その間に、シーレスはリクトルスから奥の里の警備配置などを聞き、作戦を練っていく。
「これで大丈夫だと思う。それと、これが作物と土地の毒素をなくす農薬ね。即効性もあるからとりあえず、農地に撒いてもらって。レシピと材料はコレ。土地全体に撒く分の追加は作ってね」
「ありがとうございます! すぐに!」
ナチは、近くの人に指示を出す。どうやら、里の者たちは、ナチを信頼しているようだ。もちろん、ナチ自身がユースールで鍛えられたというのもあるだろう。
冒険者たちと日々付き合い、ゲンに鍛えられて、年上だろうと、ナチは怯まずに言葉を伝えていた。
「あなた方はこの農薬を作ってください。調合の仕方を教えます」
「「「はいっ」」」
ナチは薬師としての腕も既に一流だ。その知識と実力は、古い薬学の歴史を持つエルフ達でさえ凌駕している。当然だ。里に篭りきりで、発展をしていないエルフ達とは違い、人族の国では、多くの新たな治療法を得ているのだから。
その最高峰を学んだナチは、間違いなく一流の薬師だった。
「この薬草の処理は気を付けてください。ここを切り過ぎても効能が落ちてしまいます」
「わ、わかりました……っ」
「知らなかった……」
「外にはこんな薬草が……」
そう、植物もこの数百年で変わっている。土地によっても手に入る薬草も違う。だから、エルフ達の知らない薬草は多かった。
「……こんな状態で、我々は薬師を名乗っていたのか……」
「エルフである我々の知識が最高などと……なんと恥ずかしい……」
これを認められる人たちというのが助かる。この里の者たちは、不名誉な称号を受けなかった。それは、いち早く行動に移していたからだ。変わろうとする意思が確実に感じられたからだった。
自分達の非を認めて、新たなことを受け入れようとする姿勢を評価したのだ。
ナチが居ればここは大丈夫だろう。そう結論付け、コウヤはシーレスに声をかける。
「行きましょう。寝込んでいる者たちは、俺が治療します。里の制圧はお願いしますね」
「もちろんです! ですが……テンキ殿が居てもお一人では危なくないですか? 人族の、それも子どもということで、侮られる可能性があります」
コウヤはどこからどう見ても成人前の子どもだ。そして、人族。プライドの高い奥の里の者たちは、話も聞かないだろう。
「大丈夫ですよ。彼女とジンクおじさんについて来てもらいます」
「彼女……?」
彼女と呼んだ示したのは、ジンクと共にやって来た女性。里の者が『おばば』と呼ぶ人物だった。
「里長の血筋だそうです」
「なるほど……ですが、この里に居たということは……」
「まともだってことですよ」
「……ふふっ、確かにそうですね」
シーレスと笑い合う。里長の血筋の者なのに、ここに居た。ならば、意見したのだろう。まともな意見を言ったから、追い出されたのだ。
「口が達者な年長者は味方につけたら最強だって、ベニばあさま達も言ってました」
「なるほど……確かにそうですね!」
物凄く納得顔をされた。それに笑いながら、コウヤは小さく呟く。
「姿も変える予定ですからね~」
「……」
《……》
これはジンクとテンキにしか聞こえなかった。
コウヤは楽しそうな笑みを浮かべながら、シーレス達と共に、奥の里へと向かったのだ。
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