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第十一章
457 殴られてくるか
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ざわつく町のことは冒険者ギルドの各支部に任せ、迷宮化の対応をしている冒険者達は、最後の討伐の前に、野営地を移動することになった。
安全が確認されたエルフの里の近くまで移動し、更に半分ほどはエルフの里の中に整えた野営地へと移っていく。
その里に足を踏み入れた冒険者達は、キョロキョロと周りを忙しなく見回していた。
「ここがエルフの里か……」
「確かに、ちょっと分かりにくいな」
「普段はもっと、術で分かりにくくしてるんだってさ」
「へえ~」
「なんか、人の村とそう変わらなくね?」
「だな」
貧しい村、質素で何とかギリギリ生活していけるくらいの、普通の村に見える。植えてある育ちの悪い野菜。けれど、知らない植物ではないなと、頷く者も多かった。
「もっとこう……すごい大きな木があるとか、木の上に家があるとか期待してたんだが……」
「あ~……俺もそれ想像してた。エルフの里のイメージってそうだよなっ」
「森と生きる! みたいなイメージあるもんな~」
「けど、まだここは、本当の里じゃないんだろ?」
「アレか? 人が迷い込んだ時用の……偽物の村?」
「って聞いたけど? そうなんだよな?」
そう問いかけたのは、緊張気味に村に入ってきた冒険者となっている里抜けしたエルフ達だ。かつて、逃げ出してきた里に再び足を踏み入れる。それは彼らにとって、とても勇気が要ることだった。
二度と帰ることはないと、帰れる場所ではないと思って生きてきたのだ。複雑な気持ちだろう。彼らにとっての里帰りは、喜ばしい感情のないものだった。
長く里を離れ、強さも里の戦士に負けないという自信も身につけたシーレスのような者以外は、固まって村に足を踏み入れた。
そんな中の一人のエルフが、パーティを組んでいる人からの問いかけに答えた。
「ああ……ここは裏切り者……死んでも良い奴らを集めた里だから……万が一、外からの侵略があった場合に犠牲になるんだ。俺もここに居た……」
答えながら、彼やその他のエルフ達が背を丸める。そんな場所から逃げ出したのだという負い目があるのだ。それも、弱い者を見捨てて逃げたのだと。
「うへえ……なんだよそれ……エルフって性格悪くね? あ、お前らは違うってわかってるからな?」
「里抜けした奴らを殺しに来るってのもドン引きだったしな~」
「そのヤバい考えの里の奴らはどこだ?」
「ここじゃねえんだろ? 本当の里って」
「でも、近いとこにあんじゃねえの?」
冒険者達は、歩きながらそんな会話を続ける。
「「「「「……」」」」」
そんな、大したことないような話にされるとは思っていなかったエルフ達は目を丸くする。
里を変えようとしなかったことを責められると思っていたのだ。十分すぎるほど、人族達は里の者たちに迷惑をかけられてもいたから。
戦士達が町で騒動を起こしていたのも、彼らは知っているはずなのに、それを責めることをしない。
そこで気付いたのだ。
「……あいつらとは違うって……分かってくれるのか?」
人より長く生きる彼らは、外に出ても孤独だ。
戦士達に見つからないように生き、信頼出来る冒険者とパーティを組んでも、人族はあっという間に引退してしまう。
だからといって、エルフだけで固まるのも危険だ。だから、心休まる時などないし、時に襲って来る戦士達の振る舞いを見て、人族から距離を置かれることも多い。
エルフだからという色眼鏡で見られるのも当たり前だった。
だからこそ、里の異常さを知られたくはなかった。同じエルフだと思われたくなかったのだ。
だが、彼らが思うほど、彼らは種族で区別したりしなかった。
エルフの冒険者達が何を考えたのか、他の冒険者達は気付いた。
「何言ってんだよ。まあ、他の奴らは知らねえけど、俺らはちゃんと人を見るようにしてんだ」
「そうそう。貴族にも腐ったのもいるし、アルキス様みたいな話の分かるいい人もいる」
「盗賊だって、なりたくて成った奴とそうでないのが居るし、あの神教会の神官も、本当にいい人ってのもいるんだぜ?」
「エルフだからって、全部一緒にしねえよ」
「まあ、エルフの里のイメージ? はあるけどなっ」
笑い合う冒険者達。その冒険者達の多くはトルヴァランの者だった。
「美人さんばっかだしな~」
「特だよな~。顔が良いのって」
「あっ、でも筋肉付きにくいんだろ? それは俺的にはマイナスだなっ」
「お前筋肉好きだもんな」
「女もがっちりしたのがいいんだろ?」
「そうなんだよ~。なあっ、あそこの赤髪の子なんだけど……」
「狙ってんの? よしよし。任しとけっ!」
「お願いします!!」
彼らにとっては、エルフの者たちの負い目は、本当に大したことない話なのだとこれでよくわかる。
「「「「「……」」」」」
エルフ達は顔を見合わせ合って、笑いながら進む冒険者達の背中を見た。もう背中は丸めていない。
そして、冒険者達が振り向く。
「おい。知り合いも居るんじゃねえの? ちゃんと挨拶してこいよ。ここにいる奴らは良い奴らなんだろ?」
「え、あ……うん……」
そう。先ほどから、懐かしい顔が、冒険者達の間から見えていたのだ。
「先ずは頭下げろ! それで威力は抑えられる! 俺が言うんだから本当だぜ!」
「痛い愛ってな」
「責められたら、俺らが庇ってやるよ」
「外じゃ、すげえ冒険者になったんだぞって、教えてやるからよ」
「行ってこいよ!」
「「「「「っ……」」」」」
もう二度と会えないと思っていた母親が居た。弟妹が居た。友人が居た。
真っ直ぐに向けられる視線。その目元には、涙が滲んでいるのが見えてしまった。
グッと同じように滲み出した涙を堪え、今の仲間たちに伝える。
「っ、いいんだっ」
「そう……だなっ。殴られるのも……見ててくれ」
「殴られてくるか……っ」
「ああ……っ、張り倒されるのも仕方ないしなっ」
「行こうっ」
そうして、駆け出した。
そんなエルフ達の背中に、気のいい冒険者達は激励する。
「どうせなら、派手に吹っ飛ばされてこいよ~」
「倒れたら運んでやるよ!」
「ギリまで踏ん張れよ~っ」
「回復は任せろ!」
「落ち着いたら、ちゃんと紹介しろよな!」
この後、本来ならあり得なかった感動の再会が果たされた。
そして、本当にぶっ飛ばされる人が続出し、冒険者達はそれを見て腹を抱え、気持ちよく笑い飛ばしたのだった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
よろしくお願いします◎
安全が確認されたエルフの里の近くまで移動し、更に半分ほどはエルフの里の中に整えた野営地へと移っていく。
その里に足を踏み入れた冒険者達は、キョロキョロと周りを忙しなく見回していた。
「ここがエルフの里か……」
「確かに、ちょっと分かりにくいな」
「普段はもっと、術で分かりにくくしてるんだってさ」
「へえ~」
「なんか、人の村とそう変わらなくね?」
「だな」
貧しい村、質素で何とかギリギリ生活していけるくらいの、普通の村に見える。植えてある育ちの悪い野菜。けれど、知らない植物ではないなと、頷く者も多かった。
「もっとこう……すごい大きな木があるとか、木の上に家があるとか期待してたんだが……」
「あ~……俺もそれ想像してた。エルフの里のイメージってそうだよなっ」
「森と生きる! みたいなイメージあるもんな~」
「けど、まだここは、本当の里じゃないんだろ?」
「アレか? 人が迷い込んだ時用の……偽物の村?」
「って聞いたけど? そうなんだよな?」
そう問いかけたのは、緊張気味に村に入ってきた冒険者となっている里抜けしたエルフ達だ。かつて、逃げ出してきた里に再び足を踏み入れる。それは彼らにとって、とても勇気が要ることだった。
二度と帰ることはないと、帰れる場所ではないと思って生きてきたのだ。複雑な気持ちだろう。彼らにとっての里帰りは、喜ばしい感情のないものだった。
長く里を離れ、強さも里の戦士に負けないという自信も身につけたシーレスのような者以外は、固まって村に足を踏み入れた。
そんな中の一人のエルフが、パーティを組んでいる人からの問いかけに答えた。
「ああ……ここは裏切り者……死んでも良い奴らを集めた里だから……万が一、外からの侵略があった場合に犠牲になるんだ。俺もここに居た……」
答えながら、彼やその他のエルフ達が背を丸める。そんな場所から逃げ出したのだという負い目があるのだ。それも、弱い者を見捨てて逃げたのだと。
「うへえ……なんだよそれ……エルフって性格悪くね? あ、お前らは違うってわかってるからな?」
「里抜けした奴らを殺しに来るってのもドン引きだったしな~」
「そのヤバい考えの里の奴らはどこだ?」
「ここじゃねえんだろ? 本当の里って」
「でも、近いとこにあんじゃねえの?」
冒険者達は、歩きながらそんな会話を続ける。
「「「「「……」」」」」
そんな、大したことないような話にされるとは思っていなかったエルフ達は目を丸くする。
里を変えようとしなかったことを責められると思っていたのだ。十分すぎるほど、人族達は里の者たちに迷惑をかけられてもいたから。
戦士達が町で騒動を起こしていたのも、彼らは知っているはずなのに、それを責めることをしない。
そこで気付いたのだ。
「……あいつらとは違うって……分かってくれるのか?」
人より長く生きる彼らは、外に出ても孤独だ。
戦士達に見つからないように生き、信頼出来る冒険者とパーティを組んでも、人族はあっという間に引退してしまう。
だからといって、エルフだけで固まるのも危険だ。だから、心休まる時などないし、時に襲って来る戦士達の振る舞いを見て、人族から距離を置かれることも多い。
エルフだからという色眼鏡で見られるのも当たり前だった。
だからこそ、里の異常さを知られたくはなかった。同じエルフだと思われたくなかったのだ。
だが、彼らが思うほど、彼らは種族で区別したりしなかった。
エルフの冒険者達が何を考えたのか、他の冒険者達は気付いた。
「何言ってんだよ。まあ、他の奴らは知らねえけど、俺らはちゃんと人を見るようにしてんだ」
「そうそう。貴族にも腐ったのもいるし、アルキス様みたいな話の分かるいい人もいる」
「盗賊だって、なりたくて成った奴とそうでないのが居るし、あの神教会の神官も、本当にいい人ってのもいるんだぜ?」
「エルフだからって、全部一緒にしねえよ」
「まあ、エルフの里のイメージ? はあるけどなっ」
笑い合う冒険者達。その冒険者達の多くはトルヴァランの者だった。
「美人さんばっかだしな~」
「特だよな~。顔が良いのって」
「あっ、でも筋肉付きにくいんだろ? それは俺的にはマイナスだなっ」
「お前筋肉好きだもんな」
「女もがっちりしたのがいいんだろ?」
「そうなんだよ~。なあっ、あそこの赤髪の子なんだけど……」
「狙ってんの? よしよし。任しとけっ!」
「お願いします!!」
彼らにとっては、エルフの者たちの負い目は、本当に大したことない話なのだとこれでよくわかる。
「「「「「……」」」」」
エルフ達は顔を見合わせ合って、笑いながら進む冒険者達の背中を見た。もう背中は丸めていない。
そして、冒険者達が振り向く。
「おい。知り合いも居るんじゃねえの? ちゃんと挨拶してこいよ。ここにいる奴らは良い奴らなんだろ?」
「え、あ……うん……」
そう。先ほどから、懐かしい顔が、冒険者達の間から見えていたのだ。
「先ずは頭下げろ! それで威力は抑えられる! 俺が言うんだから本当だぜ!」
「痛い愛ってな」
「責められたら、俺らが庇ってやるよ」
「外じゃ、すげえ冒険者になったんだぞって、教えてやるからよ」
「行ってこいよ!」
「「「「「っ……」」」」」
もう二度と会えないと思っていた母親が居た。弟妹が居た。友人が居た。
真っ直ぐに向けられる視線。その目元には、涙が滲んでいるのが見えてしまった。
グッと同じように滲み出した涙を堪え、今の仲間たちに伝える。
「っ、いいんだっ」
「そう……だなっ。殴られるのも……見ててくれ」
「殴られてくるか……っ」
「ああ……っ、張り倒されるのも仕方ないしなっ」
「行こうっ」
そうして、駆け出した。
そんなエルフ達の背中に、気のいい冒険者達は激励する。
「どうせなら、派手に吹っ飛ばされてこいよ~」
「倒れたら運んでやるよ!」
「ギリまで踏ん張れよ~っ」
「回復は任せろ!」
「落ち着いたら、ちゃんと紹介しろよな!」
この後、本来ならあり得なかった感動の再会が果たされた。
そして、本当にぶっ飛ばされる人が続出し、冒険者達はそれを見て腹を抱え、気持ちよく笑い飛ばしたのだった。
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