元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

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第十二章

485 魔王っ

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この世界でも、勇者の出てくる物語がある。勇者とは誰よりも強く、人々のために戦い、多くの者を助けるものだという認識がある。

ジルファスが念の為に認識が違わないかと確認を始める。

「勇者って、邪悪なドラゴンを倒したり、旅に出て世界を救ったりする?」

この世界では、勇者の世直しの旅が定番で人気だ。

「それです」

次にミラルファも確認する。

「人類の敵を倒したり、誰も助けられなかったお姫様を助けたりするあの勇者?」
「そういうのもあるんですね。そうです」
「「そう……」」

ジルファスとミラルファだけでなくルディエまで、この場の誰もがそれを聞いて頭で一度反芻し、訓練場へと目を落とす。

そして、誰もが思った。

『そんな勇者を育成……できるのか?』

しかし、リクトルスへと挑んでいったり、ニール達に斬られても、気合いを入れ直して立ち向かっていく者達を見て、次第に納得していく。

そして、見ながらもあえて誰も口にしなかった事を、コウヤが口にした。

「なんだか、リクト兄が魔王に見えてきますね」
「「「「「……っ」」」」」

誰もがうんと頷いていた。本心は隠せないものだ。一拍後、頷いてしまったことに気付き、しまったと肩を一度ビクリと上げる一同。

神を魔王なんて呼んではいけない。

しかし、これに神の方が同意していた。

「うふふっ。魔王っ。魔王って……っ、もうそれにしか見えないわっ」
「あれ? エリィ姉?」

不意にこの場にエリスリリアが現れたのだ。

「やっほー。コウヤちゃん。選抜戦、面白いことになってるわね」
「エリィ姉は知ってた? この訓練方法」
「うん。『勇者育成プログラム』でしょう? だって、コウヤちゃんを守るなら、コウヤちゃん並みに強くないとダメじゃない?」
「まあ……そうなのかな?」

護衛対象よりも弱い護衛なんて、ほとんど意味がない。特にコウヤの護衛ともなればそうだろう。コウヤが前に出てしまうはずだ。それでは意味がない。

「だって、コウヤちゃん護られることに慣れてないじゃない? パックンちゃんや、テンキと一緒でも、前衛で戦ってたわよね?」
「ん? そうだね。テンキ達には別動隊として動いてもらったり、後衛を任せてたかも」
「それだと、仲間や補佐としては良いんだけど、護衛となるとね……」
「あ、立ち位置?」
「うん。基本、護衛が前でしょ?」
「そっか……」

もちろん、パックン達も護衛としての役割りを担っていた。前に出てコウルリーヤを護る時もあったが、基本は横か後ろに控えていた。

「特にコウヤちゃんは、自分よりも弱い者は守ろうとしちゃうじゃない?」
「まあ、俺がやっちゃった方が確実だったり、安全性を考えてだけど」
「それよ。育成とかの目的がないと、コウヤちゃん下がらないもの。だから、あの子達を強くするしかないのよ。コウヤちゃんが任せても大丈夫って思えるくらいに」

人をコウヤより強くするのは難しい。だが、コウヤが安心して見ていられるくらいに強くすることはできる。

そして、早急なレベル上げを可能とするのが『勇者育成プログラム』だったのだ。

「とりあえず、アレで250くらいまでは上げられるって、コウヤちゃんの研究予想では出てたでしょう?」
「うん。それ以上は、やっぱり数をこなす実戦が必要になるから」

訓練では、250くらいまでが上限だ。それ以上は、真に命をかけたりしないと上がらない。

「この世界だと、250までいけば、ほぼ敵なしだから、これで十分かなって結論になったの。因みに、ニールちゃん達のレベル、確認してみてよ」
「ん? うん……っ、へ? 270? いつの間に……」
「ニールちゃん達は、リクトに扱かれて、更にお父様について王座の迷宮とかに通ってたの。迷宮化の時、えらく簡単にワイバーンだけじゃなくドラゴンも落としてたでしょう?」
「そういえば……」

ニール達ならば、コツを教えればすぐに倒せるようになるとは思っていたが、本当にあっさり倒していた。それは、このレベルの恩恵もあったようだ。

「ゼストパパ、もしかして王座の七十階とかまで行った?」
「ええ。あそこの素材が欲しいって。で、ついでに鍛えてやるって」
「それは……鍛えられるね」

創造神であるゼストラークは、実は武神のリクトルスよりも強いのだ。

「そういえば、コウヤちゃんコレも気付いてないでしょ」
「なに?」
「ふふっ。ほら、勇者の伝説よ。世直しの旅したり、攫われたお姫様を助けたり、暴れるドラゴンを倒したりする、お・は・な・しっ」
「それがどうかしたの?」

首を傾げるコウヤに、エリスリリアは、困った子ねと笑いながらその頭を撫でて続ける。

「いやあねえ。多分、パックンちゃん達なら、ここで気付いたわよ?」
「ん?」
「ふふっ。全部コウヤちゃんのことじゃない」
「……え? ん? え?」

コウヤは高速で頭を回転させ、思い出す。コウルリーヤだった頃。確かに、問題のあることに出くわせば、その解決を手伝った。それは旅をしながらのことだ。

そして、そんなある時、王女が暴れて手が付けられなくなったドラゴンへと生贄に捧げられている所に出くわし、これを討ち取った。

その後、きちんとドラゴンを討伐したことを周辺の国に知らせ、もう生贄はやめるようにと注意した。そして、王女を国まで送り届けたのだ。

「……やったかも……」
「でしょ? どう? 自分が勇者だったって気付いた感想は? 勇・者・さ・ま~♪」
「っ……なんでそうなっちゃったの!?」

コウヤは顔を羞恥で真っ赤にしていた。








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