元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

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第十三章

507 反省会みたいになるの?

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神教国の中心にある大教会は、現在封印されて中に入ることはできない。

そんな中、聖女の三人が国を抜け出し、トルヴァランに向けて動き出したというのは、迷宮化の討伐が終わりを迎える頃の事だった。

「無事に辿り着けそうなんだ?」
「はい。神官様方も密かについているようですので、問題なく」
「そっか」

そんな報告をニールから受けたのは、お披露目が終わって一週間が過ぎた頃。

ようやく王都は落ち着きを取り戻し、王城での業務も日常に戻った頃だ。それまで、コウヤは王城で過ごしていた。

「じゃあ、教会内の人たちの解放は上手くいってるのかな?」
「そうですね……」

この問いかけを聞き、部屋に神官が現れる。

「失礼致します。ご報告いたします」
「うん。お願い」
「はっ。聖女達が出た事をきっかけにし、司祭なども出て来ております。そろそろ司教達に取り掛かれそうとのことです」
「あ、なら大分進んでるんだね」
「はい。ですが、数人は無理かもしれないとベニ様が予測されています」
「まあ、手放せない人はいるよね……うん。心配しないで。可能な限りでいいよ」
「承知いたしました」

実は、封印した教会から聖女達を先駆けに、中に閉じ込めた者たちを外に出そうとしているのだ。

あの教会の中には、どんな状態のものかは分からないが、悪神と呼ばれるものがある。だが、それが今まで表に出てきていないということは、人の力を借りないと何も出来ない状態だということだ。

それならば、手を貸す人が居なくなれば良い。

呪いのように、王家の関係者を病にかけるものも、聖女達によって行う儀式によってしか出来ないものだというのは、すでに分かっている。

だから、それも出来ないよう、聖女をまずあの場から出すことにした。

五人揃っていなければならないと聞いてはいる。南の島での事で一人、このトルヴァランの聖魔教会に逃げて来た聖女が一人。これで二人欠けてはいる。

だが、聖女とは結局は人によって選ばれている。補充されては困るというのもあり、見張っていた。

封印に巻き込まれたのは三人の聖女。閉じられた空間では、食料などにも問題が出る。どこぞの姫のように着飾り、世話されるのが普通だと聞く聖女達が、そんな閉じられた生活を続けられるはずもなく、声をかければすぐにでも飛び出してくるような、そんな状態だったらしい。

「聖騎士と辛うじて呼べる精神の持ち主が数人付いておりますので、聖女達は数日中にでもトルヴァランに入る予定です」
「そう……今、この国では特にあの教会の関係者にキツイから、大人しく静かに来てくれるといいんだけど……」
「……」

性格的に『私は聖女よ!』と言って道のど真ん中を堂々と歩いて来そうなのだ。それをやったら、この国では間違いなく石を投げつけられる。

口を閉じた神官を見て、コウヤはまさかと思った。

「もしかして……そういう感じ?」
「はい。諦めが悪いのか、頭が悪いのか。場所を変えるごとに……」
「うわ~……」

この部屋に居て、それを耳にした者全員が、呆れたような顔をした。

現在、この部屋には、教師役達もいる。残念だと顔に出にくい彼らでさえ、盛大に顔を顰めていた。

神官も、はっきりと『頭が悪い』と言ってしまっているほど、馬鹿げた行動だ。

「他の国でも、かなり批判が大きくなっていたんじゃ?」

コウヤのお披露目の後、他国に戻っていく冒険者や商人達が、神教国のことは噂として広めていた。

噂好きな女性達には、国から逃げる聖女ファムリアと、自国の後継者争いによって苦労したジルファスとの間に生まれた王子の話は大好物で、瞬く間に世界中に知れ渡った。

王子でありながら、辺境でギルド職員として働いていたということも冒険者達から聞き、コウヤの人気は一気に爆発していた。

そんな中で『神教国の聖女』である。

どんな反応になるのか、考えなくてもわかる。

「それとなく、まだ耳を貸すことができそうな聖騎士の方には伝えたのですが……」
「身内の言葉になっても、聞かない人は聞かないものねえ」
「ふふふ。いやあ、失礼。耳が痛いですなあ」
「ほんとうに……」

教師役達が、苦笑していた。彼らも身に覚えがあるらしい。だからこそ、聞かないというのにも納得していた。

「これは仕方ないですね。実体験して、塞いでいた耳が元に戻るといいんですけど」

そうコウヤが苦笑気味に言えば、教師達は首を横に振った。

「いえいえ。そうした者は、逆恨みするだけで、余計に意固地になりますよ」
「年を取ると分かります……下の者の言葉など聞いてなるものかって思うんですよ……」
「年齢でも、立場でも、それは同じですからね……」

とっても反省しているらしい。なぜか彼らの方が落ち込んでいく。

「……今日はどうしたんです?」
「我々も思う所がありまして……いやあ、コウヤ様の所に居ると、自分を省みることが出来て有り難い限りです」
「もう一度、やり直したいと思っていましたから、良い機会ですよ。この機会を作ってくださったことに感謝を」
「えっと……」

そこに、ニールがお茶を淹れてくれる。

「他の文官の方達も、ここ数日こちらに訪れる理由がこれですよ」
「なんでか反省会みたいになるの?」
「はい。コウヤ様に意見をいただき、自分達の不甲斐なさを確認しておられるのです」
「普通にお話ししてるだけなんだけど……」
「コウヤ様はそれで良いのですよ」
「そう……?」

勝手に落ち込んで、反省して、よし頑張るぞと気合いを入れて去っていく。

それもコウヤがこうして王城に居る間しか出来ないので、順番待ちが発生しているというのは、コウヤも知らない。

「それで良いなら良いけど……あっ、それで、聖女さん達は……」
「昨日は、石を投げられ、宿に泊まるのも拒否され、農家の馬小屋を案内されて、暴れていたとのことです」
「それは……怒るのも分かるけど……国境、越えられる?」
「……時間がかかるかと」
「だよね……」

そんな事で暴れるような人、それも、聖女だと言って歩くような人を国境の兵達が通すとは思えなかった。

危険人物扱いで捕らえ、その連絡がここ王都へと入り、審査して通行許可を与えるまで数日かかりそうだ。

そこに、再び教師達が口を挟む。

「コウヤ様。それこそ、頭を冷やす時間が必要ですから。牢に入れば馬小屋よりはマシだと気付き……気付くまでは放置でいいのでは?」
「そうですよ。そこに気付いたなら、ようやく耳も使い物になるというものです」
「現状をじっくり言い聞かせて、それから解放した方がよろしいかと」
「なるほど……確かに、聖女だと言うのが危ないと理解してもらわないと、他の国よりも酷いことになりそうですしね……怪我をさせたりしたら、そちらを罰せなくてはならなくなりますし……」

この状況で、怪我をさせた方に罪が行くのは誰も納得しないだろう。

「なら、その方向で」
「承知しました」

聖女達がこの王都に到着するには、残念ながらまだまだ時間がかかりそうだ。







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読んでくださりありがとうございます◎
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