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第十三章
513 偏りがありますね
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コウヤがギルドマスターへの挨拶を終えて戻ると、すぐにサブギルドマスターであるラーバが、書類片手に駆け寄ってくる。
「こちら、確認していただきたい書類になります! こちらの机をお使いください!」
「ありがとうございます」
受付の後ろ。少し奥の方の事務机の一つに案内される。
そこに座れば、受付の外の様子も見える。ということは、逆に入ってきた冒険者達もコウヤが見えるということ。
パックン、ダンゴ、テンキが傍に居るので、万が一にも何かが飛んで来ても問題なく対処できる。犯人は外にいる今日の護衛であるグラン達が取り押さえるだろう。
何より、コウヤは隠れる気はなかった。それは、王子だからと距離を取る必要はないと見せるためだ。冒険者ギルドは誰もに平等であると示すためでもある。
この国は王族も冒険者をやる。冒険者ギルドは国とは関係ない独自の組織だ。王族だとして優遇することは基本的にない。
王族として生まれた者たちにとって、本当に自分自身の力を知るのは大事なこと。その貴重な経験ができるのが冒険者ギルドだった。
そこを曲げないためにも、コウヤは普段通り仕事をする。
「こっちはこのまま進めて大丈夫です。Z依頼もかなり消化できるようになってきましたし、この辺りを依頼化出来ないか商業ギルドへ相談してもいいですね。企画書類としてまとめてみましょうか」
「なるほど……これなら子ども達でも出来そうですし……分かりました! すぐに書類にまとめます!」
「まだそんなに慌てるほどではないので、しっかりまとめていきましょう。半端な出来の書類だと、最初の印象が良くないですから」
商業ギルドは、そうした書類などもきっちりとしたものを好む。下手なまとめ方をすると、完全に下に見てくるので、注意が必要だ。
「商業ギルドに企画を提案する時の書類の書き方は、コツがありますから……これを参考にしてください」
コウヤは自身のマジックバッグから資料を取り出してラーバに渡した。
「っ、ありがとうございます! こちらは写させていただいてもよろしいですか?」
「大丈夫ですよ」
「ありがとうございます!」
ラーバはコウヤが何をやっても感動してくれる。傍の机で聞いていた職員が、すぐに受け取って写しに入っていた。連携もスムーズだ。
「ふふっ。では、こちらはギルドマスターに承認してもらってください」
「はいっ」
ラーバがギルドマスターへと持っていく書類の山へとそれを置いた。
まだまだ確認する書類はある。そのため、ラーバはコウヤに張り付いたままだ。
「う~ん……やはり偏りがありますね……」
見ているのは、迷宮の利用状況と、依頼において利用する迷宮をまとめてもらったものだ。
「本当に、こんな風にまとめると偏りが分かりますね……」
こうした資料をまとめたことはなかったらしく、ラーバは改めて見てみてその偏りの酷さが分かったようだ。そして、首を傾げた。
「ですが、必要となるもの、依頼があるものを考えますと、偏るのは仕方がないのでは?」
「ええ。そうなるのは当然です。ですがそれだと、極端に利用されない迷宮は、最悪氾濫ということになります。だから、この辺の迷宮への依頼を、ギルドの方で出す必要があるんです」
「ギルドの方で……?」
そんな対処法は知らないと、ラーバは目を丸くした。
どう説明しようかなとコウヤは考える。
「う~ん。そうですね……例えば、この迷宮で採れるこのキノコ。この辺りではこの迷宮にしかありません。けど、採ってきてもこの辺りでは必要とする人が居ないので、あまり良い値段では売れません」
「はい……」
申し訳ないなという顔をするラーバ。冒険者達は命懸けで迷宮に潜っているのだ。そうして採ってきた物があまり高く引き取れないというのは、ギルド職員としても心苦しいものだった。
それはコウヤも良く分かっている。
「ですが、このキノコは二つ隣の国では、三倍の値段で取引されています」
「っ、えっ!? そっ、それはっ、ど、どうっ」
不当な値段であったのではないかと、ラーバは激しく動揺する。
「落ち着いてください。このキノコ、この辺ではこの値段になってしまうのは間違いないんです。ただ、隣の国の場合は、このキノコが伝統的な郷土料理の材料でもあるので、お祝いの時などに必要で、そのために、高く取引されているんです」
「お祝いの……なるほど……それは、高くなっても買いますね……」
「そうです。要は、需要があれば良いって事です。だから、このキノコを使った料理が美味しいと知られたら、きっとこのキノコの値段は上がりますよね」
「……っ、まさか、こちらで需要を作るってことですか?」
「そういうことです」
「……考えたこともありませんでした……」
あまり利用されない迷宮で採れるものが、それなりの値段で取引されるということになれば、冒険者達は自然と向かうようになる。
「何が採れるのかという資料も古そうですし、本格的に調査をした方が良いかもしれません。ついでに棚卸しが出来れば一石二鳥ですよねっ」
「……時間がかかりそうです……」
「ええ。ですから、調査の方を依頼として出すんです。実際、この辺では使わないだけで、他国では料理や薬に使っているというものもあります。手に入れてみなければ、料理人さん達もどんな料理に使えるのかも分かりません。ですから、その辺も商業ギルドと相談してみるといいと思います」
「確かに、安定して手に入ると知れば、それを使って料理や薬をと……研究する人は居るでしょうね……先ずは見せてみないと分からないですし」
こういう食材が安定して卸すことができるけど、使ってみないかと提案することも、そもそも現物がなければ研究もできない。
「知らなければ、注文、依頼することなんて出来ません。このキノコだって、捨て値ですよね。買い取り金額が安いから、冒険者達も二度と採ってこようと思わない。けれど、それなりの量がなくては、何に使えるかという研究もできません」
「それで、先ずギルドで依頼を出すということですか」
「そうです。経費として上げるのは最初は怖いかもしれませんけど、初期投資は必要ですよ」
「っ……初期投資。なるほどっ」
理解してくれたようだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「こちら、確認していただきたい書類になります! こちらの机をお使いください!」
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受付の後ろ。少し奥の方の事務机の一つに案内される。
そこに座れば、受付の外の様子も見える。ということは、逆に入ってきた冒険者達もコウヤが見えるということ。
パックン、ダンゴ、テンキが傍に居るので、万が一にも何かが飛んで来ても問題なく対処できる。犯人は外にいる今日の護衛であるグラン達が取り押さえるだろう。
何より、コウヤは隠れる気はなかった。それは、王子だからと距離を取る必要はないと見せるためだ。冒険者ギルドは誰もに平等であると示すためでもある。
この国は王族も冒険者をやる。冒険者ギルドは国とは関係ない独自の組織だ。王族だとして優遇することは基本的にない。
王族として生まれた者たちにとって、本当に自分自身の力を知るのは大事なこと。その貴重な経験ができるのが冒険者ギルドだった。
そこを曲げないためにも、コウヤは普段通り仕事をする。
「こっちはこのまま進めて大丈夫です。Z依頼もかなり消化できるようになってきましたし、この辺りを依頼化出来ないか商業ギルドへ相談してもいいですね。企画書類としてまとめてみましょうか」
「なるほど……これなら子ども達でも出来そうですし……分かりました! すぐに書類にまとめます!」
「まだそんなに慌てるほどではないので、しっかりまとめていきましょう。半端な出来の書類だと、最初の印象が良くないですから」
商業ギルドは、そうした書類などもきっちりとしたものを好む。下手なまとめ方をすると、完全に下に見てくるので、注意が必要だ。
「商業ギルドに企画を提案する時の書類の書き方は、コツがありますから……これを参考にしてください」
コウヤは自身のマジックバッグから資料を取り出してラーバに渡した。
「っ、ありがとうございます! こちらは写させていただいてもよろしいですか?」
「大丈夫ですよ」
「ありがとうございます!」
ラーバはコウヤが何をやっても感動してくれる。傍の机で聞いていた職員が、すぐに受け取って写しに入っていた。連携もスムーズだ。
「ふふっ。では、こちらはギルドマスターに承認してもらってください」
「はいっ」
ラーバがギルドマスターへと持っていく書類の山へとそれを置いた。
まだまだ確認する書類はある。そのため、ラーバはコウヤに張り付いたままだ。
「う~ん……やはり偏りがありますね……」
見ているのは、迷宮の利用状況と、依頼において利用する迷宮をまとめてもらったものだ。
「本当に、こんな風にまとめると偏りが分かりますね……」
こうした資料をまとめたことはなかったらしく、ラーバは改めて見てみてその偏りの酷さが分かったようだ。そして、首を傾げた。
「ですが、必要となるもの、依頼があるものを考えますと、偏るのは仕方がないのでは?」
「ええ。そうなるのは当然です。ですがそれだと、極端に利用されない迷宮は、最悪氾濫ということになります。だから、この辺の迷宮への依頼を、ギルドの方で出す必要があるんです」
「ギルドの方で……?」
そんな対処法は知らないと、ラーバは目を丸くした。
どう説明しようかなとコウヤは考える。
「う~ん。そうですね……例えば、この迷宮で採れるこのキノコ。この辺りではこの迷宮にしかありません。けど、採ってきてもこの辺りでは必要とする人が居ないので、あまり良い値段では売れません」
「はい……」
申し訳ないなという顔をするラーバ。冒険者達は命懸けで迷宮に潜っているのだ。そうして採ってきた物があまり高く引き取れないというのは、ギルド職員としても心苦しいものだった。
それはコウヤも良く分かっている。
「ですが、このキノコは二つ隣の国では、三倍の値段で取引されています」
「っ、えっ!? そっ、それはっ、ど、どうっ」
不当な値段であったのではないかと、ラーバは激しく動揺する。
「落ち着いてください。このキノコ、この辺ではこの値段になってしまうのは間違いないんです。ただ、隣の国の場合は、このキノコが伝統的な郷土料理の材料でもあるので、お祝いの時などに必要で、そのために、高く取引されているんです」
「お祝いの……なるほど……それは、高くなっても買いますね……」
「そうです。要は、需要があれば良いって事です。だから、このキノコを使った料理が美味しいと知られたら、きっとこのキノコの値段は上がりますよね」
「……っ、まさか、こちらで需要を作るってことですか?」
「そういうことです」
「……考えたこともありませんでした……」
あまり利用されない迷宮で採れるものが、それなりの値段で取引されるということになれば、冒険者達は自然と向かうようになる。
「何が採れるのかという資料も古そうですし、本格的に調査をした方が良いかもしれません。ついでに棚卸しが出来れば一石二鳥ですよねっ」
「……時間がかかりそうです……」
「ええ。ですから、調査の方を依頼として出すんです。実際、この辺では使わないだけで、他国では料理や薬に使っているというものもあります。手に入れてみなければ、料理人さん達もどんな料理に使えるのかも分かりません。ですから、その辺も商業ギルドと相談してみるといいと思います」
「確かに、安定して手に入ると知れば、それを使って料理や薬をと……研究する人は居るでしょうね……先ずは見せてみないと分からないですし」
こういう食材が安定して卸すことができるけど、使ってみないかと提案することも、そもそも現物がなければ研究もできない。
「知らなければ、注文、依頼することなんて出来ません。このキノコだって、捨て値ですよね。買い取り金額が安いから、冒険者達も二度と採ってこようと思わない。けれど、それなりの量がなくては、何に使えるかという研究もできません」
「それで、先ずギルドで依頼を出すということですか」
「そうです。経費として上げるのは最初は怖いかもしれませんけど、初期投資は必要ですよ」
「っ……初期投資。なるほどっ」
理解してくれたようだ。
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