元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

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第十三章

515 ドラム組の新型車

コウヤが久し振りのギルドでの仕事に精を出す頃。商業都市から馬車が五台連なり、トルヴァランに向けて出発していた。

中央にまとまる三台の馬車の側面には、商業ギルドの紋章が描かれている。その馬車の造りは、貴族のものよりもシンプルではあるが、美しい形をしていた。

その中の一台に乗るのは、全ての商業ギルドをまとめ、商業都市の長でもある商業ギルド統括長と補佐達だった。

「本当に凄い馬車ねえ……ドラム組の新型車……素敵だわあ」

商業ギルドの統括長は、座席のソファーを撫で、うっとりと目を細めて頬を染める。男性ではあるが、線の細い中世的な見た目。エルフの血を少しばかり引いている。茶色の髪は長く、三つ編みにしており、薄く化粧を施しているため、余計に女性のように見える。

その見た目に合う服装を選ぶため、色違いの女性の商業ギルドの制服を着ていた。ただし、スカートは本来ならば膝下から少し長いくらいだが、足首までのロング。

年齢は四十代頃。人をまとめる者としては若いが、実力を認められて長となった者に違いはなかった。

言葉遣いもどちらかといえば、女性っぽいもの。自分を印象付けるためにもと、このスタイルが定着してから、変えることはなかった。

商人の世界も、実力主義だ。実力を示せば、奇天烈な事をやっても認められるため、問題はない。寧ろ、問題がないと思わせられる所まで来たと確認するためにも、昔からこうしていた。

そんな総括長の前に座るのは、同年代の二人の補佐だ。もちろん、総括長の見た目などを気にする様子は全くない。そうしたものに惑わされない実力のある者達という証明であった。

「はい。タイヤによって悪路による振動も抑えられ、音もあまりしません。その上、馬車には空間拡張の技術が使われており、外からの見た目の倍の広さはあります。とても素晴らしい技術です……」
「これが家具職人……いえ、大工の技術とは驚きです……」

つい先日、ようやく手に入れたこの馬車は、商業都市に運び込まれてから、連日のように商人達によって試乗会が催されていた。

空間拡張もされた最新型は五台が納車され、タイヤや振動を抑えた機構を取り入れた一つ前の型の馬車は十台が納車となった。

「五台しか手に入らなかったのは痛いわね……商業ギルドが、後手に回ったのは問題だわ……」
「開発されたトルヴァランでは、もう一年以上前から使われている所があるそうです……」
「タイヤも、登録されてからかなり経っておりました……」
「本当に困ったものだわっ。それで? どこで情報が止まっていたか分かったのかしら?」

本来ならば登録されたものは、最速で一両日中には情報が本部である商業都市の中央に送られる。

だが、この馬車もタイヤも、幹部達が知ったのは登録されてから半年以上経ってからだった。

故意に、どこかで情報が止められていたと見て間違いない。

長く、どこよりも公正な組織として信用していたツケだ。

「はい。大半は、トルヴァランの王都支部です」
「大半? ということは、他にもあったのね?」

持ち込まれていた報告書をめくりながら、総括長は長い足を高く組んで確認する。

「その……本部内に……あまりにも奇抜なものが多く、それも不正摘発もあった辺境からの発信ということで、価値を低く見積もっていたらしく……」

売り上げの成績だけでなく、新しい技術や商品の登録数によっても支部の予算は組まれる。評価されるものならば、更に予算は増えるため、どの支部も必死だ。

本来ならば良い商品は認め合い、広く広げ、売り上げを伸ばすというのが正しい商売人の考え。だが、中には他人の足を引っ張ることで上に立とうと考える者がいる。あるいは、他人の評価を掠め取ろうとする場合もあった。

そうした安易な考えをする者が、トルヴァランの王都支部に居たのだ。

そして、商業都市の中央には、辺境からそんな画期的なものが出てくるはずがないと、下の方で無視されていたらしい。

立場に胡座をかく馬鹿者がいたのかと知り、幹部達が激怒したのはひと月前のこと。

「っ……それらは捕らえたのね?」
「「はいっ」」

怒気が馬車内を満たす。それを感じて、補佐達は自分達の想定より大きな声で返事を返した。

「そう。なら良いわ」
「る、留守中に他も掃除することになっております……」
「ああ、神教会関連のね?」
「はい……中央でも、予想より多くの者が関係を持っておりまして……」
「構わないわ。予定通り、神教会との繋がりをきっちり周りにも知らしめた上で、賠償金を払わせて謝罪させましょう。商人は信頼が命……繋がっていると噂がある以上、全てを曝け出した上で、誠意を見せる必要があるわ」

今や、世界の敵という認識もある神教会。そこと繋がっているんじゃないかという噂でもあれば、必ず打撃を受ける。

だから、隠すのではなく、逆に曝け出すことにした。そうして、一からやり直させるのだ。

一つ二つの問題ではないため、打撃が分散される。叩く方も一つという少数ではないことで、やり辛い。よって、挽回は可能だ。

ただ、一つでも残っていれば、後々に面倒なことになる。ここで徹底的に、一つ残らず膿を出してしまうつもりだ。幹部達はやる気満々だった。

「聖女達がトルヴァランに向かっていると聞くし、しっかりそちらからも取り立てましょう。はっきりと自分たちは聖女だと言って歩いているようだしね」
「はい。請求書や契約書も、まとめて持って来ておりますので、言い逃れは出来ないかと」
「先ずは、神教会に敵対している聖魔教会へ向かうのが良いでしょう。叩きたいと思っているはずですので、使える札は欲しいでしょう」

トルヴァラン王都支部だけの問題ではないが、商業ギルドの関係者には、神教会の者と繋がりのある者が多かった。

それを最初に告発したのがトルヴァランの辺境、ユースール支部の者だ。それも聖魔教会や国の者達によって掃除がなされた。

商業ギルドとしては、大きな借りがあるというわけだ。

「ええ。そこから、トルヴァランの王家へ繋ぎをつけましょう。謝罪はしっかりしなくては……」
「はい」
「それと、王子ですね……」
「そうね……本当に後手に回り過ぎて嫌になるわ……っ」

もっと早く、ユースール支部の功績を受け入れ、繋がりを持てていたならと思うと悔しくて仕方がない。

「っ……どんな方なのか、資料は集まってるのかしら」
「はい。こちらです」
「ただ、かなり厳重に情報が管理されていたと聞きます。これが全てではないかもしれません……」
「分かったわ……っ……こんなに緊張するのは、いつ振りかしらね……」

相手の情報がない状態と同じかもしれないのだ。これほど不安な商談に向かうことは、総括長となって先ずなかった。

補佐達も緊張した様子で背筋を伸ばす。馬車の中で仕事をしながらも、一行はトルヴァランへと向かった。

彼らは良い意味で、コウヤとの顔を合わせで衝撃を受けることになるのだが、それはまだ知る由もない。

寧ろ、丁度良いところに来たと歓迎され、そのまま、世界を巻き込む仕事の話に発展していくことになるとは、分かるはずもなかった。








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読んでくださりありがとうございます◎
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