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第十三章
530 ……逃げて来たんだ……
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コウヤはここで三人の聖女達について思い出す。五人居た聖女は、一人が聖魔教会で今や生き生きと生活しており、一人は南の島での不始末で行方知れずだ。既にこの世には居ないだろう。
「そういえば、残りの聖女達がこちらに向かっているのでしたね」
城に行き、用意された自室で留守中の報告書や相談事などを確認していたコウヤは、部屋にやって来たアビリス王にそれを聞いた。
わざわざ王の方がコウヤに会いに来るというのは異常だが、ここの方がリラックス出来るというのもあるようだ。
コウヤの部屋は、王族の部屋としては狭い。これはコウヤの希望もあった。更に、家具などは全てドラム組のもの。調度品も落ち着いたものになっている。それはコウヤ作だ。
どの部屋よりも落ち着くというのが、王族達だけでなく部屋を訪れたことのある者達の感想だった。
「国境に着いたと聞いたのは、かなり前だったと思うんですけど」
彼女達は、聖女として聖魔教会に取り入ろうとしているのだ。神教国では、もう彼女達の望む待遇が得られない。聖女としてちやほやされてきたことが忘れられず、その扱いを聖魔教会に求めて来たというわけだ。
聖魔教会がどんな教会なのかを分かっていれば、絶対に近付かないはず。それを理解できないほど、残念な頭をしているというのは、誰もがもう知っていた。
「ああ……中々態度を改めなかったようでな……それに、一緒に来た聖騎士達が精神的に参っていたらしい。そこで、国境の門で留め置かれていたのだ」
コウヤの淹れたお茶とお茶菓子を堪能しながら、アビリス王はただの世間話のように続ける。
この部屋には、ニールと人化したテンキ、それと、アビリス王付きの騎士と侍従の二人しか居ない。
珍しくお付きの者が少ないなと少し不思議にも思ったが、コウヤの傍で何かあることはないという信頼がある。ここでは警備は必要ないからと、ニールとテンキと共に部屋の端で、彼らも休憩中だ。
彼らはお互い報告会をして楽しんでいるようだ。
「凄かったらしいぞ。『聖女である私たちを敬うべきだろう』と、事あるごとに言うものだから、二日目には耳栓をして対応していたと聞いた」
「ふふっ。それはまた、そんな聖女さん達なら、それも気に入らなかったでしょうね」
「癇癪を起こして手を出して来たところで、牢に入れたようだ。大人しくなるまで犯罪者として扱ったと」
「うわ~」
「ずっとそれの繰り返しだったと報告が来た」
『このまま国に入れば問題を起こす要注意人物』として、一般的な宿屋のような環境に留め置かれ、手を上げたら牢屋に入れる。
反省したと認めて牢屋から出しても、様子見のために留め置かれ、また気に入らないからと手を出したら牢に入れる。
そんなことを何度も繰り返していたらしいのだ。
「報告書の文字からして、うんざりしたような感情が感じられたなあ。あれは面白かった」
「あはは……」
一度ではなく、繰り返したというのが笑えない。
「ご令嬢のように育ったと聞きますけど、牢に入るのに一度で懲りないのはすごいですね……」
「私もそう思った。えらく根性があるものだとな」
「根性? 確かに、根性……かな? うん。性根がもうね……すごいな~……」
コウヤでさえ何とも言えない根性があるようだ。
「それでな。先ほど、王都に入ったと連絡が来た。そのまま聖魔教会へと向かう……はずだったのだが、なぜかこちらに向かっているらしい」
「……こちら?」
「ああ。ここに」
「なぜ?」
「コウヤに会いたいらしい。『同じ聖女の子どもならば、私たちの子も同然だ』ということ……らしい」
「……へ?」
「お陰で、騎士達だけでなく、魔法師達や料理人、メイドまでもが、迎え討つと怒り立っておってなあ。はははっ」
「……え?」
愉快だと笑うアビリス王から、コウヤは端に居るニールや近衛騎士に目を向ける。
すると、そこでは良い笑顔で剣を研ぐニールとテンキ、近衛騎士の姿があり、侍従もどこから出したのか、銀のトレーを磨いていた。
「え……」
「いやあ。ジルファスとアルキス、ミラルファも分かるが、イスリナとカトレア達まで目が怖くてなあ……逃げて来たんだ……」
「ああ……わざわざお祖父様がここに来られたのは……」
「だって怖いんだよっ!? ニタ~って笑うんだっ。あんな笑い方、初めて見たぞっ。ああした笑い顔は隠すものだろう!?」
「あ~……」
王宮で、王族の前で、そんな明らかに何かを企んでいますという顔をする者など居ないだろう。
嫌味な作り笑いが可愛らしく思えたというのが、アビリス王の感想だ。
「コウヤの傍が安全ですよってっ! 近衛も侍従も部屋から消えたんだよ! それもゆら~って! なんなんだ、あの動きっ! 怖かった!」
「お、お祖父様……落ち着きましょう?」
「っ、絶対に数日、夢に見るっっっ」
「……」
聖女よりも先に、錯乱気味のアビリス王を何とか落ち着けなくてはならないらしい。それまで聖女達は無事だろうかと、少し心配になった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
次回27日です!
「そういえば、残りの聖女達がこちらに向かっているのでしたね」
城に行き、用意された自室で留守中の報告書や相談事などを確認していたコウヤは、部屋にやって来たアビリス王にそれを聞いた。
わざわざ王の方がコウヤに会いに来るというのは異常だが、ここの方がリラックス出来るというのもあるようだ。
コウヤの部屋は、王族の部屋としては狭い。これはコウヤの希望もあった。更に、家具などは全てドラム組のもの。調度品も落ち着いたものになっている。それはコウヤ作だ。
どの部屋よりも落ち着くというのが、王族達だけでなく部屋を訪れたことのある者達の感想だった。
「国境に着いたと聞いたのは、かなり前だったと思うんですけど」
彼女達は、聖女として聖魔教会に取り入ろうとしているのだ。神教国では、もう彼女達の望む待遇が得られない。聖女としてちやほやされてきたことが忘れられず、その扱いを聖魔教会に求めて来たというわけだ。
聖魔教会がどんな教会なのかを分かっていれば、絶対に近付かないはず。それを理解できないほど、残念な頭をしているというのは、誰もがもう知っていた。
「ああ……中々態度を改めなかったようでな……それに、一緒に来た聖騎士達が精神的に参っていたらしい。そこで、国境の門で留め置かれていたのだ」
コウヤの淹れたお茶とお茶菓子を堪能しながら、アビリス王はただの世間話のように続ける。
この部屋には、ニールと人化したテンキ、それと、アビリス王付きの騎士と侍従の二人しか居ない。
珍しくお付きの者が少ないなと少し不思議にも思ったが、コウヤの傍で何かあることはないという信頼がある。ここでは警備は必要ないからと、ニールとテンキと共に部屋の端で、彼らも休憩中だ。
彼らはお互い報告会をして楽しんでいるようだ。
「凄かったらしいぞ。『聖女である私たちを敬うべきだろう』と、事あるごとに言うものだから、二日目には耳栓をして対応していたと聞いた」
「ふふっ。それはまた、そんな聖女さん達なら、それも気に入らなかったでしょうね」
「癇癪を起こして手を出して来たところで、牢に入れたようだ。大人しくなるまで犯罪者として扱ったと」
「うわ~」
「ずっとそれの繰り返しだったと報告が来た」
『このまま国に入れば問題を起こす要注意人物』として、一般的な宿屋のような環境に留め置かれ、手を上げたら牢屋に入れる。
反省したと認めて牢屋から出しても、様子見のために留め置かれ、また気に入らないからと手を出したら牢に入れる。
そんなことを何度も繰り返していたらしいのだ。
「報告書の文字からして、うんざりしたような感情が感じられたなあ。あれは面白かった」
「あはは……」
一度ではなく、繰り返したというのが笑えない。
「ご令嬢のように育ったと聞きますけど、牢に入るのに一度で懲りないのはすごいですね……」
「私もそう思った。えらく根性があるものだとな」
「根性? 確かに、根性……かな? うん。性根がもうね……すごいな~……」
コウヤでさえ何とも言えない根性があるようだ。
「それでな。先ほど、王都に入ったと連絡が来た。そのまま聖魔教会へと向かう……はずだったのだが、なぜかこちらに向かっているらしい」
「……こちら?」
「ああ。ここに」
「なぜ?」
「コウヤに会いたいらしい。『同じ聖女の子どもならば、私たちの子も同然だ』ということ……らしい」
「……へ?」
「お陰で、騎士達だけでなく、魔法師達や料理人、メイドまでもが、迎え討つと怒り立っておってなあ。はははっ」
「……え?」
愉快だと笑うアビリス王から、コウヤは端に居るニールや近衛騎士に目を向ける。
すると、そこでは良い笑顔で剣を研ぐニールとテンキ、近衛騎士の姿があり、侍従もどこから出したのか、銀のトレーを磨いていた。
「え……」
「いやあ。ジルファスとアルキス、ミラルファも分かるが、イスリナとカトレア達まで目が怖くてなあ……逃げて来たんだ……」
「ああ……わざわざお祖父様がここに来られたのは……」
「だって怖いんだよっ!? ニタ~って笑うんだっ。あんな笑い方、初めて見たぞっ。ああした笑い顔は隠すものだろう!?」
「あ~……」
王宮で、王族の前で、そんな明らかに何かを企んでいますという顔をする者など居ないだろう。
嫌味な作り笑いが可愛らしく思えたというのが、アビリス王の感想だ。
「コウヤの傍が安全ですよってっ! 近衛も侍従も部屋から消えたんだよ! それもゆら~って! なんなんだ、あの動きっ! 怖かった!」
「お、お祖父様……落ち着きましょう?」
「っ、絶対に数日、夢に見るっっっ」
「……」
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