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三者三様
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ーーーカタカタ…
ーーーゴゥン……ガタッガタ…
「……っと……レン!…ちょっ……ちょっと!?このバカレン!!」
シャーロットは頬を大きく膨らませながら、まったく反応しないレンに怒鳴る。
「はへっ!?あっ、あぁ……なんやろ?長い物語を聞いてたような…まぁ、ええかっ」
レンはそう笑うと、グシャッとシャーロットの頭を乱暴に撫でる。
「なんなのよ!?……もぅ、バカ…」
口では怒りながらも、満更では無い表情で撫で付けを受け入れると、口元が少し緩んでしまうシャーロット。
レンが酒場での密談から城に戻ると、すでに昼前なのにも関わらず、「準備が整ったからアスペルに向かう」とシャーロットが言い出したのだ。
レンとしては、明日の出発でも…と反対してみたのだが、ポコスカ殴られて、すぐに出発となってしまったのは言うまでも無い。
ガタガタと軽く馬車に揺られながら、レンはボーッと外に広がる砂漠を眺める。
王都からアスペルまでは、この魔獣エアホースが引く馬車なら、おおよそ二日で着いてしまう。
馬車にしたって、王宮技師達が特注で作っているので、揺れや耐久性も、まったく問題無く快適に乗れる
が、レンはあまり気が乗らないのか、いつもの覇気が無い。
「なぁ、このまま温泉でも行こかぁ?…あん時は黙っとったけど、ユウトに連絡取るんはアイテムあるから、簡単に出来るしなぁ」
「えっ!?いっ…いいの…ごほん。あなたは公務の大切さを何だと思っているのですか?」
シャーロットは、怠そうな顔で魅力的な発言をするレンに、自分の内から上がってくる欲望をぐっ、とこらえて澄まし顔で答える。
「…そうやんな~、はぁ。」
「なっ!何よ!そんなに私と一緒なのが気に入らないの!?」
あまりにレンの対応が悪いので、シャーロットは少し不安になるが、それを隠すように怒って理由を問い詰める。
「…へっ?っぷははははぁ~」
「何笑ってんのよ!バカッ!」
…ドゴッ
「グヘッ!?」
自分の呟きに、予想外の反応が返ってきた事でレンが笑うと…
さらに怒ったシャーロットのボディーブローが炸裂し、レンは蹲るのであった。
ーーーガタガタ……ゴトゴト…
「おっ、おい…姫さん、何をしよんねん!」
「二人の時はシャルって言いなさいよ!」
噛み合わない二人の会話が、あらぬ方向に向かって行こうとしていると、
「ヒヒーンッ!!」
…ガガガガッ……
「ひぃぃぃっ!?…ぐぅあっ……」
馬車は急にブレーキを掛けて減速すると、外から御者の悲鳴が聞こえる。
「…シャルは中におっとけ。」
「…はい。」
ただ事では無い様子に、シャーロットを車内に残し、レンは馬車の扉を開け勢い良く飛び降りた。
ゆっくりドアを開ければ、車上に賊が居た場合串刺しにされてしまうからだ。
レンが外に転がり出て周りを見ると、五人の賊が馬で馬車を囲み、一人は御者を殺しており、もう一人は車上で待ち構えていたのを視認した。
「おどれら!この馬車がなんなんか知っとんのか?」
「テメェーの汚い喋り方を、ウチで知らねぇ奴はいねぇよ!」
「…お前ら、餓狼蜘の連中か?」
「ここで、くたばるテメェーには、カンケーねぇんだよっ!!
…そう叫ぶと、賊の男はポケットから光る物を取り出した。
ーーーーーシルクット 市長会館
「…はぁ、バカ共のお相手は疲れますわ。」
シルクットの市長が住む、市長会館の2階にある、多目的スペース…主にダンスパーティー用ではあるが、そこで一通りのターゲットと踊り、ボーイから飲み物を受け取ると、メリッサはカウンターテーブルの椅子に腰掛け、愚痴を零す。
「ユウト様の為とは言え、貴族達の把握に根回しと…わたくしの負担が多過ぎる気がしますわ。」
主人であるユウトと、姉妹二人の顔を思い浮かべてメリッサは頭を振った。
でもぉ、お姉様には、社交界なんて向いてませんし、レアさんは食べ物しか見てないでしょうから、わたくしが、やるしかありませんわね。
これも、自らの創造主であり、愛するユウトの為だと、自らを慰めていると…
……コツ、コツコツ
「やぁ…素敵なお嬢さん。中々、私の元に来てくれないので誘いに来てしまったよ。私と一緒に、一曲如何かな?」
40台前半だろうか、質の良い貴族服に髪型をオールバックに決めた、メガネの男性が手を差し出しながら、メリッサに言い寄ってくる。
この人物こそ、メリッサが今回、最大のターゲットに上げている、シルクット市長、アベイル・モンド・シスククその人だ。
この会場に来てから、色々な貴族を踊りに誘い、顔と名前と…身体の印象を覚え込ませてきたが、都市長であるアベイルは最後に残しておいたのだ。
大変な女好きとして有名な、この男であれば、この会場で一番の権力者である自分だけを誘いに来ないメリッサに、痺れを切らして誘いに来るだろう…
そして、そんなメリッサの思惑通りに、彼女が休憩するのを見計らって声を掛けて来た。
…ジロジロと全身を舐め回すような視線と共に。
メリッサの今日の姿は、彼女の髪の色と同じで薄めの青色のドレスを身に付けていて、右肩から大きく流れるように開かれた胸元は、強烈な色気を放っており、左肩には生地が掛かってない為、踊っていると…こぼれ落ちて見えてしまうのでは無いか、と心配してしまう程だ。
……はあぁ、ぶっ殺して差し上げたいですわぁ。
そんな物騒な事を思っているとは一切悟らさせずに、淑女の笑みを持ってアベイルの手を取る。
「お誘い頂き、光栄ですわ。」
「さぁ、あちらへ…」
メリッサの手を取り、ホールの中央へと移動する。
……ざわざわ
街一番の権力者と、絶世の美女がホールの中央に現れた事で、先程まで踊っていた人間が騒めきながらスペースを空けていく。
アベイルは中心まで来ると、音楽を奏でる演奏者達に曲を変えるよう指示を出す。
…パチンッ!
先程までの、ゆっくりした曲調では無く、激しく情熱的なタンゴのような曲をリクエストしたのだ。
……もちろん下心あっての選曲だろうが。
それに従い曲調が変わると、二人は踊り始める。
さすがと言うべきか、アベイルは激しいダンスを完璧に踊りこなす…が、メリッサも当然負けていない。
この程度、LV100の身体能力と彼女の記憶力や、能力を合わせれば造作も無いのだ。
大げさに髪や汗を振りまき、さらに相手を欲情させていく。
最早、アベイルはメリッサの事しか見えていないかの様な表情だ…
曲の最後には、ワザと体制を崩し、胸からアベイルに抱きつくオマケ付きだ。
……これで落ちない奴がいたら、俺はそいつを"不能者"と呼ぼう。
「はぁ…はぁ、ありがとうございましたわ。」
わざと息を荒く吐きながら身体を離し、優雅に一礼するメリッサに、アベイルは思わず生唾を飲み込む。
主に胸元に視線が行くのは男の性だろう。
「…ごくりっ。いやぁ、こんな素敵な女性が、あんなに激しい踊りを完璧にこなしてしまうなんて…あなたは本当に素晴らしい!」
踊りが終わってもメリッサの手を離そうとせず、体を寄せて踊りを称賛するアベイルは、是非もう一曲と懇願してくる。
…はぁ。近い近い。
心で溜息をつきながら確信する。
これで、こいつも落ちましたわね、後はササっと引いて仕上げですわ。
メリッサは少し大袈裟に悲しげな表情を作り、チラと壁の時計を見ると、
握られた手を両手で握り返し「大変光栄なのですが、もう、馬車が出る時間ですわ。」そう言うと、サッと離れ申し訳無さそうにお辞儀をする。
離された手の温もりを惜しみながら…
「あっ…せ、せめてお名前を!貴女の名前を教えて下さい!」
「わたくしは、メリッサ…メリッサ・アルフォートですわ。…アベイル都 市 長…さ・ま。」
メリッサは言葉の最後を、俯きニヤリとしながら名を告げた。
これで、この都市の情報網は完成したと確信して。
ーーーーーシルクット ユウト邸
「ふんぬらばっ!!はぁはぁ……はぁ…」
俺は、新しいアジトである、某発明家が最近まで住んでいたと言う屋敷の寝室で、悪夢によって呼び起こされていた。
「…なんだろう、なんか人のエエはな……いい話を必死にして、俺の株がどんどん下がって行く。そんな恐ろしい夢だったような…」
俺はブルブルと頭を振ると、悪夢を頭から完全に追い出して忘れ去りベッドを降りる。
「ふぅわぁぁ…」
着替えもせずに欠伸をしながら、部屋から出ると階段前で足を止めた。
……ポチッ
ーーーウィ~ン
俺が手摺に付いたボタンを押すと、階段は稼働音と共に、下りエスカレーターへと早変わりする。
……スタスタ
さらに、このエスカレーターは移動中に登録している人間 (一人だけ)の着替えと身支度を、機械のアームが出てきて代わりにやってくれる。
と言う優れものなのだ!
パサッ…ウィーンガシャ!バサバサ…
グシャグシャ…パシッ……ウィーン。
…そのままエスカレーターは下って行き、階下に着く頃にはバッチリと用意が整った状態の俺が完成していた。
……前の住人は、どんだけめんどくさがりだったんだよ!?
と、心の中では突っ込みながらも、大いに利用させてもらっている俺ガイル…
そのままリビングに入ると、ティファが挨拶と共にカフワを出してくれる。
それを優雅に飲みながら待っていると、素敵な朝食が用意され、俺はしっかりと食事を堪能する。
…皿を綺麗に舐め尽くすくらい、しっかりと堪能したぜっ!
俺が「ご馳走様でした。」と言うとティファが、「お粗末様でした。」と、言いながら皿を下げてくれる。
…う~ん。新婚生活みたいだな!
後はナニさえ使えればガチの新婚生活が送れるというのに…くそっ!
…俺はドラゴンジジイに呪詛を吐く。
…
いやいや、俺は解決方法も解っているしんだし、手伝い、慕ってくれる超絶美女が三人もいるじゃないか!
こんな幸せ者はそういない…ハズだ。
だから、この野望はその時までとっておこう…
…そして、そんなしょうもない事を考えてしまう自分にセルフで突っ込みを入れ慰めておく
椅子に座り、ウンウン一人で唸っていると、ティファからお願いがあると言われる。
「…あの、ユウト様、申し訳ないのですが、本日から明日まで、少し私用で西の砂漠に行きたいのですが、お暇を頂いてもよろしいでしょうか?」
「どうしたんだ?全然構わないけど、何かあったのか?」
俺は珍しいティファのお願いに、女々しく理由を聞き出そうとする。
「…いえ、大した事では無いのですが。」
…理由を言いたく無いのか、口ごもるティファ。
「いやいや、言いたくなければ大丈夫だ!ももも、問題無いから、行っておいで!」
…動揺しまくる。
「…おねえさま……あいびき」
いつの間に居たのか、朝から爆食しているレアが物騒な発言をブッ込んで来た。
しかも、大量に皿を積んどる…
今日は止めてくれるメリーが居ないんだから勘弁しろよな!
…不安になるだろ!
「…あいびき?ごめんなさいレア。ハンバーグの用意はしていないの…」
…あっ、なんかデジャヴ…
いやいや、それよりもガチで逢い引きなら土下座してでも止めないと!
俺は若干、必死気味にお伺いをたてる…さり気なく、さり気な~くだ!
「だだだだ、誰かと愛に…会いに行くのかのぉー?ティファさんや」
イメージとはかけ離れた言い方で、さり気なく…聞き直すと、ティファは申し訳なさそうに理由を教えてくれた。
「…先日、街を巡回していたのですが、ある家の少女が母親の病気を治療してもらう為と、ある物を探しに西の砂漠に行くと準備をしていたのですが…」
「ある物って?」
この街でも、治安向上の為に巡回してるのかと感心しながら、目的の物について聞いてみた。
俺が持ってるかもしれないしな。
「デザートイーターの巣に咲くと言う、サンドクリスタルフラワーです。ユウト様はご存知ですか?」
「あぁ、確か、何かのクエストで取りに行った事あるかもな…でも、あの辺はソロならLV80以上無いと、向かうのは厳しいんじゃないか?」
だいぶ昔の話なので、何のクエストか忘れたけど、確かにあった気はする……持っては無いけど。
「はい。なので、その少女に同行してあげたいのですが……ダメ?でしょうか…」
「……めちゃくちゃ良い話じゃないか!よし…俺も行こう!」
俺が男前に即決して話に乗ろうとすると…
「えっ!?守るべき対象が増えるのはちょっと…」
とか、不穏な発言が聞こえた気がするけど、俺だってバッチリ準備するし、困った事があってもアイテム使って、物頼みで解決してやるさっ!
俺は渋るティファにそう説明すると、半ば無理矢理に同行を許可してもらう。
そして自室に戻り、しっかりと用意を始める。
「リロードオン!」
ー砂塵のローブー
・砂や日光から体を守る
ー防御の宝珠ー
ー先見の眼鏡ー
・罠や落とし穴等、天然の物も含んだ危険を見通せる
ー指揮者のタクトー
・対象の意識を操る (簡単な物のみ)
ー砂塵の靴ー
・不安定な砂地でも安定した行動ができる
…今回は砂漠への旅だからこんなもんかな!
さぁて、依頼をサクッと解決して、少女の憧れのヒーローになりに行きますかっ!!
ーーーゴゥン……ガタッガタ…
「……っと……レン!…ちょっ……ちょっと!?このバカレン!!」
シャーロットは頬を大きく膨らませながら、まったく反応しないレンに怒鳴る。
「はへっ!?あっ、あぁ……なんやろ?長い物語を聞いてたような…まぁ、ええかっ」
レンはそう笑うと、グシャッとシャーロットの頭を乱暴に撫でる。
「なんなのよ!?……もぅ、バカ…」
口では怒りながらも、満更では無い表情で撫で付けを受け入れると、口元が少し緩んでしまうシャーロット。
レンが酒場での密談から城に戻ると、すでに昼前なのにも関わらず、「準備が整ったからアスペルに向かう」とシャーロットが言い出したのだ。
レンとしては、明日の出発でも…と反対してみたのだが、ポコスカ殴られて、すぐに出発となってしまったのは言うまでも無い。
ガタガタと軽く馬車に揺られながら、レンはボーッと外に広がる砂漠を眺める。
王都からアスペルまでは、この魔獣エアホースが引く馬車なら、おおよそ二日で着いてしまう。
馬車にしたって、王宮技師達が特注で作っているので、揺れや耐久性も、まったく問題無く快適に乗れる
が、レンはあまり気が乗らないのか、いつもの覇気が無い。
「なぁ、このまま温泉でも行こかぁ?…あん時は黙っとったけど、ユウトに連絡取るんはアイテムあるから、簡単に出来るしなぁ」
「えっ!?いっ…いいの…ごほん。あなたは公務の大切さを何だと思っているのですか?」
シャーロットは、怠そうな顔で魅力的な発言をするレンに、自分の内から上がってくる欲望をぐっ、とこらえて澄まし顔で答える。
「…そうやんな~、はぁ。」
「なっ!何よ!そんなに私と一緒なのが気に入らないの!?」
あまりにレンの対応が悪いので、シャーロットは少し不安になるが、それを隠すように怒って理由を問い詰める。
「…へっ?っぷははははぁ~」
「何笑ってんのよ!バカッ!」
…ドゴッ
「グヘッ!?」
自分の呟きに、予想外の反応が返ってきた事でレンが笑うと…
さらに怒ったシャーロットのボディーブローが炸裂し、レンは蹲るのであった。
ーーーガタガタ……ゴトゴト…
「おっ、おい…姫さん、何をしよんねん!」
「二人の時はシャルって言いなさいよ!」
噛み合わない二人の会話が、あらぬ方向に向かって行こうとしていると、
「ヒヒーンッ!!」
…ガガガガッ……
「ひぃぃぃっ!?…ぐぅあっ……」
馬車は急にブレーキを掛けて減速すると、外から御者の悲鳴が聞こえる。
「…シャルは中におっとけ。」
「…はい。」
ただ事では無い様子に、シャーロットを車内に残し、レンは馬車の扉を開け勢い良く飛び降りた。
ゆっくりドアを開ければ、車上に賊が居た場合串刺しにされてしまうからだ。
レンが外に転がり出て周りを見ると、五人の賊が馬で馬車を囲み、一人は御者を殺しており、もう一人は車上で待ち構えていたのを視認した。
「おどれら!この馬車がなんなんか知っとんのか?」
「テメェーの汚い喋り方を、ウチで知らねぇ奴はいねぇよ!」
「…お前ら、餓狼蜘の連中か?」
「ここで、くたばるテメェーには、カンケーねぇんだよっ!!
…そう叫ぶと、賊の男はポケットから光る物を取り出した。
ーーーーーシルクット 市長会館
「…はぁ、バカ共のお相手は疲れますわ。」
シルクットの市長が住む、市長会館の2階にある、多目的スペース…主にダンスパーティー用ではあるが、そこで一通りのターゲットと踊り、ボーイから飲み物を受け取ると、メリッサはカウンターテーブルの椅子に腰掛け、愚痴を零す。
「ユウト様の為とは言え、貴族達の把握に根回しと…わたくしの負担が多過ぎる気がしますわ。」
主人であるユウトと、姉妹二人の顔を思い浮かべてメリッサは頭を振った。
でもぉ、お姉様には、社交界なんて向いてませんし、レアさんは食べ物しか見てないでしょうから、わたくしが、やるしかありませんわね。
これも、自らの創造主であり、愛するユウトの為だと、自らを慰めていると…
……コツ、コツコツ
「やぁ…素敵なお嬢さん。中々、私の元に来てくれないので誘いに来てしまったよ。私と一緒に、一曲如何かな?」
40台前半だろうか、質の良い貴族服に髪型をオールバックに決めた、メガネの男性が手を差し出しながら、メリッサに言い寄ってくる。
この人物こそ、メリッサが今回、最大のターゲットに上げている、シルクット市長、アベイル・モンド・シスククその人だ。
この会場に来てから、色々な貴族を踊りに誘い、顔と名前と…身体の印象を覚え込ませてきたが、都市長であるアベイルは最後に残しておいたのだ。
大変な女好きとして有名な、この男であれば、この会場で一番の権力者である自分だけを誘いに来ないメリッサに、痺れを切らして誘いに来るだろう…
そして、そんなメリッサの思惑通りに、彼女が休憩するのを見計らって声を掛けて来た。
…ジロジロと全身を舐め回すような視線と共に。
メリッサの今日の姿は、彼女の髪の色と同じで薄めの青色のドレスを身に付けていて、右肩から大きく流れるように開かれた胸元は、強烈な色気を放っており、左肩には生地が掛かってない為、踊っていると…こぼれ落ちて見えてしまうのでは無いか、と心配してしまう程だ。
……はあぁ、ぶっ殺して差し上げたいですわぁ。
そんな物騒な事を思っているとは一切悟らさせずに、淑女の笑みを持ってアベイルの手を取る。
「お誘い頂き、光栄ですわ。」
「さぁ、あちらへ…」
メリッサの手を取り、ホールの中央へと移動する。
……ざわざわ
街一番の権力者と、絶世の美女がホールの中央に現れた事で、先程まで踊っていた人間が騒めきながらスペースを空けていく。
アベイルは中心まで来ると、音楽を奏でる演奏者達に曲を変えるよう指示を出す。
…パチンッ!
先程までの、ゆっくりした曲調では無く、激しく情熱的なタンゴのような曲をリクエストしたのだ。
……もちろん下心あっての選曲だろうが。
それに従い曲調が変わると、二人は踊り始める。
さすがと言うべきか、アベイルは激しいダンスを完璧に踊りこなす…が、メリッサも当然負けていない。
この程度、LV100の身体能力と彼女の記憶力や、能力を合わせれば造作も無いのだ。
大げさに髪や汗を振りまき、さらに相手を欲情させていく。
最早、アベイルはメリッサの事しか見えていないかの様な表情だ…
曲の最後には、ワザと体制を崩し、胸からアベイルに抱きつくオマケ付きだ。
……これで落ちない奴がいたら、俺はそいつを"不能者"と呼ぼう。
「はぁ…はぁ、ありがとうございましたわ。」
わざと息を荒く吐きながら身体を離し、優雅に一礼するメリッサに、アベイルは思わず生唾を飲み込む。
主に胸元に視線が行くのは男の性だろう。
「…ごくりっ。いやぁ、こんな素敵な女性が、あんなに激しい踊りを完璧にこなしてしまうなんて…あなたは本当に素晴らしい!」
踊りが終わってもメリッサの手を離そうとせず、体を寄せて踊りを称賛するアベイルは、是非もう一曲と懇願してくる。
…はぁ。近い近い。
心で溜息をつきながら確信する。
これで、こいつも落ちましたわね、後はササっと引いて仕上げですわ。
メリッサは少し大袈裟に悲しげな表情を作り、チラと壁の時計を見ると、
握られた手を両手で握り返し「大変光栄なのですが、もう、馬車が出る時間ですわ。」そう言うと、サッと離れ申し訳無さそうにお辞儀をする。
離された手の温もりを惜しみながら…
「あっ…せ、せめてお名前を!貴女の名前を教えて下さい!」
「わたくしは、メリッサ…メリッサ・アルフォートですわ。…アベイル都 市 長…さ・ま。」
メリッサは言葉の最後を、俯きニヤリとしながら名を告げた。
これで、この都市の情報網は完成したと確信して。
ーーーーーシルクット ユウト邸
「ふんぬらばっ!!はぁはぁ……はぁ…」
俺は、新しいアジトである、某発明家が最近まで住んでいたと言う屋敷の寝室で、悪夢によって呼び起こされていた。
「…なんだろう、なんか人のエエはな……いい話を必死にして、俺の株がどんどん下がって行く。そんな恐ろしい夢だったような…」
俺はブルブルと頭を振ると、悪夢を頭から完全に追い出して忘れ去りベッドを降りる。
「ふぅわぁぁ…」
着替えもせずに欠伸をしながら、部屋から出ると階段前で足を止めた。
……ポチッ
ーーーウィ~ン
俺が手摺に付いたボタンを押すと、階段は稼働音と共に、下りエスカレーターへと早変わりする。
……スタスタ
さらに、このエスカレーターは移動中に登録している人間 (一人だけ)の着替えと身支度を、機械のアームが出てきて代わりにやってくれる。
と言う優れものなのだ!
パサッ…ウィーンガシャ!バサバサ…
グシャグシャ…パシッ……ウィーン。
…そのままエスカレーターは下って行き、階下に着く頃にはバッチリと用意が整った状態の俺が完成していた。
……前の住人は、どんだけめんどくさがりだったんだよ!?
と、心の中では突っ込みながらも、大いに利用させてもらっている俺ガイル…
そのままリビングに入ると、ティファが挨拶と共にカフワを出してくれる。
それを優雅に飲みながら待っていると、素敵な朝食が用意され、俺はしっかりと食事を堪能する。
…皿を綺麗に舐め尽くすくらい、しっかりと堪能したぜっ!
俺が「ご馳走様でした。」と言うとティファが、「お粗末様でした。」と、言いながら皿を下げてくれる。
…う~ん。新婚生活みたいだな!
後はナニさえ使えればガチの新婚生活が送れるというのに…くそっ!
…俺はドラゴンジジイに呪詛を吐く。
…
いやいや、俺は解決方法も解っているしんだし、手伝い、慕ってくれる超絶美女が三人もいるじゃないか!
こんな幸せ者はそういない…ハズだ。
だから、この野望はその時までとっておこう…
…そして、そんなしょうもない事を考えてしまう自分にセルフで突っ込みを入れ慰めておく
椅子に座り、ウンウン一人で唸っていると、ティファからお願いがあると言われる。
「…あの、ユウト様、申し訳ないのですが、本日から明日まで、少し私用で西の砂漠に行きたいのですが、お暇を頂いてもよろしいでしょうか?」
「どうしたんだ?全然構わないけど、何かあったのか?」
俺は珍しいティファのお願いに、女々しく理由を聞き出そうとする。
「…いえ、大した事では無いのですが。」
…理由を言いたく無いのか、口ごもるティファ。
「いやいや、言いたくなければ大丈夫だ!ももも、問題無いから、行っておいで!」
…動揺しまくる。
「…おねえさま……あいびき」
いつの間に居たのか、朝から爆食しているレアが物騒な発言をブッ込んで来た。
しかも、大量に皿を積んどる…
今日は止めてくれるメリーが居ないんだから勘弁しろよな!
…不安になるだろ!
「…あいびき?ごめんなさいレア。ハンバーグの用意はしていないの…」
…あっ、なんかデジャヴ…
いやいや、それよりもガチで逢い引きなら土下座してでも止めないと!
俺は若干、必死気味にお伺いをたてる…さり気なく、さり気な~くだ!
「だだだだ、誰かと愛に…会いに行くのかのぉー?ティファさんや」
イメージとはかけ離れた言い方で、さり気なく…聞き直すと、ティファは申し訳なさそうに理由を教えてくれた。
「…先日、街を巡回していたのですが、ある家の少女が母親の病気を治療してもらう為と、ある物を探しに西の砂漠に行くと準備をしていたのですが…」
「ある物って?」
この街でも、治安向上の為に巡回してるのかと感心しながら、目的の物について聞いてみた。
俺が持ってるかもしれないしな。
「デザートイーターの巣に咲くと言う、サンドクリスタルフラワーです。ユウト様はご存知ですか?」
「あぁ、確か、何かのクエストで取りに行った事あるかもな…でも、あの辺はソロならLV80以上無いと、向かうのは厳しいんじゃないか?」
だいぶ昔の話なので、何のクエストか忘れたけど、確かにあった気はする……持っては無いけど。
「はい。なので、その少女に同行してあげたいのですが……ダメ?でしょうか…」
「……めちゃくちゃ良い話じゃないか!よし…俺も行こう!」
俺が男前に即決して話に乗ろうとすると…
「えっ!?守るべき対象が増えるのはちょっと…」
とか、不穏な発言が聞こえた気がするけど、俺だってバッチリ準備するし、困った事があってもアイテム使って、物頼みで解決してやるさっ!
俺は渋るティファにそう説明すると、半ば無理矢理に同行を許可してもらう。
そして自室に戻り、しっかりと用意を始める。
「リロードオン!」
ー砂塵のローブー
・砂や日光から体を守る
ー防御の宝珠ー
ー先見の眼鏡ー
・罠や落とし穴等、天然の物も含んだ危険を見通せる
ー指揮者のタクトー
・対象の意識を操る (簡単な物のみ)
ー砂塵の靴ー
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初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
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【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
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「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
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