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1章
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リクがここに住み始めてから早二週間がたった。リクがここに住むことに最初予想通りお父様とティアお姉様が難色を示したものの、グレース様からの妖精であって魔物でなはいことのお墨付きをもらったことがよかった。
また、リクの風貌を見てお母様がリクに興味を示したのも大きい。お母様が「こんなに愛らしいのに追い出すなんて」と言うとお父様はコロッと意見を変えた。
ティアお姉様はあの後三日ほど屋敷に泊まり、その間ずっとリクに警戒して詰め寄った。私がリクを庇うので最後は渋々納得してもらえた。
そして最後まで心配しながらも、私が追加で大量に焼き上げたお菓子を喜んで持って学園に帰っていった。
リクはというと、最初はビクビクとしていたものの慣れてきたのか私がお菓子を作っているときや、勉強をしているときは屋敷のあちこちを散策しているらしい。
「リクー! お茶にしましょう」
私の部屋にいるかはわからないが一応声をかけてみる。
「はい、アリアお嬢様」
すると、いつの間にか足元に立っていて私は思わず悲鳴を上げそうになるのをグッと堪えた。
し、心臓に悪い…。
二週間が経ってリクはハンナに毎日強制的に入らされているせいか毛並みが艶やかになってきている。
当初精霊を風呂に入れていいのだろうかと悩んだものの、ハンナが「ここで過ごすなら最低限の清潔を保つのは当然です」と言って桶を持ってリクを追いかけまわした。リクは最初抵抗したものの、騒ぎを聞きつけたエヴァンお兄様がリクに何やら呟いた後リクは大人しくなり、ハンナにすごすごと連れて行かれていた。
お兄様に何を言ったのか尋ねると黒い笑みを浮かべて「内緒」と言って何も教えてはくれなかった。
前は薄汚れたネズミのような出立ちだったのが今ではちょっと綺麗な大きいネズミにも見えなくはない。
リクは風魔法なのか特性なのか些細な音を拾うことができるようで、呼ぶとすぐに出てくる。今日も厨房でお菓子を作った後を見計らっていたのだろう
リクを抱き上げると、リクは髭をピクピクとさせて少し動揺している様子だった。
「お嬢様、私は自分で歩けます」
「あら、だめかしら」
少しとぼけた様子で言うとリクは少しため息をついて諦めた様子で腕の中で大人しくしている。もふもふの毛並みからはお日様の香りがする。
日中どこかで日向ぼっこでもしていたのだろうか。頭の後ろに顔を埋めたいのを我慢しながら、少しいつもより遅い速さで廊下を歩きながら他愛もない話をする。
「今日は何の菓子を作られたので?」
「今日はね、少し暑いからアイスクリームを作ったの」
「アイスクリームなんて作れる貴族子女はお嬢様だけでしょうね」
この世界は前世と遠くかけ離れた食糧事情ってことはない。アイスクリームは普通にあるしケーキだってある。
一応贅沢品なのでその辺に売っているわけではないけど酪農が盛んなこの領では割と安価な方だ。収穫祭などで出店でたまに見かける。
「そうかしら? 探せば以外にいるかも」
「貴族はまず厨房に出入りしないのでは?」
リクに言われて確かに貴族子女が厨房に出入りしてましてやお菓子を作っているなんてなかなかいないのかもしれない。
そう考えたところでふと思いついたことを聞いてみた。
「屋敷には慣れた?」
「そうですね、だいぶ慣れましたが……風呂は慣れません」
深刻そうに言うリクに少し笑ってしまいそうになるが、本人はいたって真剣なので「まあ……そうね」と曖昧に返しておく。
あのときエヴァンお兄様に何を言われて入る気になったのか気にはなったものの、何だか聞くのも憚られる気がした。
話題を変えるように今度はリクが「お嬢様は……」とこちらを見上げた。
「なぜ、菓子を作れるんですか? 見たところ誰にも教わったようには思えないのですが」
「うーん……以前王立の図書館で見たことがあるのよ」
前世での知識とは言えず、咄嗟に誤魔化した。王立図書館は各国の蔵書が豊富にあるので、お菓子のレシピ本だってあってもおかしくはないだろう。
咄嗟に出た誤魔化しとはいえ、我ながら上手くいったと思った。リクは「ふうん……」とそれきり何も言わなかった。
私が前世の記憶があるのは誰にも話していない。家族になぜこんなにお菓子が作れるのか聞かれても「なんとなく、こうした方がいいと思って」と最初に答えてしまったときは家族から口々に天才扱いされて困ってしまった。そんなことがあってからは家族もそういうものと思うようになってきている。
呑気な家族でよかった……。
そうこうしているうちにティールームに着いた。中に入ると少しひんやりとした空気が頬を撫でる。今日は暑いため冷気を出す魔道具を使用しているのだろう。一番に着いたようで、まだ誰もきていない。ソファに腰掛けて隣にリクを座らせる。ちょこんと腰掛けるリクに少し頬が緩みそうになる。
「おや、アリアとリクが一番だったね」
エヴァンお兄様がシリルを伴って入ってきた。軽く挨拶を交わすとシリルはリクに
「リク! ポル爺が手が空いた時でいいからまた手伝って欲しいってよ」
「わかった。後で行く」
そのやりとりに目を丸くしながら私とエヴァンお兄様は顔を見合わせた。
「リクはポル爺の手伝いをしているのかい?」
「私の魔法で芝を手入れする手伝いをしているだけです」
「すげーんすよ! 風魔法でこう、シュパパッて」
シリルがその時のことを思い出したのかいささか興奮したように話す。
何それ、私も見たい。
今度見せてもらおうと思っていると、ハンナがワゴンを押して部屋に入ってきた。
ティーセットとお盆の上にはガラスの器に盛り付けられたアイスがのっていた。器も少し凍らせているのか冷気を纏っている。
「おっ! いいなあ! アリアお嬢様アイスは残っていますか?」
シリルが目を輝かせてアイスの乗った器を覗き込む。その無邪気な姿に苦笑いしながら
「あるわよ、料理長と一緒に作ったからまだたくさんあるはず。一緒にここでみんなで食べましょう」
そう提案して視線でお兄様に了承を得るとお兄様はシリルに呆れながらも
「そうだね、ハンナも持ってくるといい」
そう言って給仕をしていたハンナに声を掛ける。ハンナは恐縮しながらも「ありがとうございます」と言ってシリルを引っ張って行った。
お兄様は思い出したように「あ」と声を上げた後、ハンナ達にもう一つ追加で持って来るように言った。不思議に思っているとお兄様は私に少し微笑んだ。
「呼ばないと後でうるさいからね」
その言葉を聞いてリクはなぜかげんなりした表情を見せる。リクにどうしたのか尋ねようとするとその時ふわっと光が舞う。
そしてエヴァンお兄様の隣にグレース様が姿を現した。
「呼んだか? おお! アリアではないか」
相変わらず見目麗しい。
「こんにちは、グレース様」立って挨拶をすると「うむ、してその横の者は元気かえ」悪戯そうな笑みを浮かべ私の隣にいるリクに視線を向けた。
「元気です……」
どう見ても元気ではない様子に少し戸惑いながら「リク、体が冷えたの?」と声を掛ける。
「大丈夫です」
グレース様に萎縮しているのかしらと心配しているとエヴァンお兄様がグレース様ティータイムのお誘いをしていた。
アイスと聞くとキラキラと目を輝かせた。先程のシリルのようだと少しクスリとするとグレース様は私に気づいて恥ずかしそうにこほんと咳払いをした。
「そうだ。アリア、お前に話がある」
エヴァンお兄様に視線を向けると少し訝しげな顔をする。リクは髭をピクピクっと動かしていた。
また、リクの風貌を見てお母様がリクに興味を示したのも大きい。お母様が「こんなに愛らしいのに追い出すなんて」と言うとお父様はコロッと意見を変えた。
ティアお姉様はあの後三日ほど屋敷に泊まり、その間ずっとリクに警戒して詰め寄った。私がリクを庇うので最後は渋々納得してもらえた。
そして最後まで心配しながらも、私が追加で大量に焼き上げたお菓子を喜んで持って学園に帰っていった。
リクはというと、最初はビクビクとしていたものの慣れてきたのか私がお菓子を作っているときや、勉強をしているときは屋敷のあちこちを散策しているらしい。
「リクー! お茶にしましょう」
私の部屋にいるかはわからないが一応声をかけてみる。
「はい、アリアお嬢様」
すると、いつの間にか足元に立っていて私は思わず悲鳴を上げそうになるのをグッと堪えた。
し、心臓に悪い…。
二週間が経ってリクはハンナに毎日強制的に入らされているせいか毛並みが艶やかになってきている。
当初精霊を風呂に入れていいのだろうかと悩んだものの、ハンナが「ここで過ごすなら最低限の清潔を保つのは当然です」と言って桶を持ってリクを追いかけまわした。リクは最初抵抗したものの、騒ぎを聞きつけたエヴァンお兄様がリクに何やら呟いた後リクは大人しくなり、ハンナにすごすごと連れて行かれていた。
お兄様に何を言ったのか尋ねると黒い笑みを浮かべて「内緒」と言って何も教えてはくれなかった。
前は薄汚れたネズミのような出立ちだったのが今ではちょっと綺麗な大きいネズミにも見えなくはない。
リクは風魔法なのか特性なのか些細な音を拾うことができるようで、呼ぶとすぐに出てくる。今日も厨房でお菓子を作った後を見計らっていたのだろう
リクを抱き上げると、リクは髭をピクピクとさせて少し動揺している様子だった。
「お嬢様、私は自分で歩けます」
「あら、だめかしら」
少しとぼけた様子で言うとリクは少しため息をついて諦めた様子で腕の中で大人しくしている。もふもふの毛並みからはお日様の香りがする。
日中どこかで日向ぼっこでもしていたのだろうか。頭の後ろに顔を埋めたいのを我慢しながら、少しいつもより遅い速さで廊下を歩きながら他愛もない話をする。
「今日は何の菓子を作られたので?」
「今日はね、少し暑いからアイスクリームを作ったの」
「アイスクリームなんて作れる貴族子女はお嬢様だけでしょうね」
この世界は前世と遠くかけ離れた食糧事情ってことはない。アイスクリームは普通にあるしケーキだってある。
一応贅沢品なのでその辺に売っているわけではないけど酪農が盛んなこの領では割と安価な方だ。収穫祭などで出店でたまに見かける。
「そうかしら? 探せば以外にいるかも」
「貴族はまず厨房に出入りしないのでは?」
リクに言われて確かに貴族子女が厨房に出入りしてましてやお菓子を作っているなんてなかなかいないのかもしれない。
そう考えたところでふと思いついたことを聞いてみた。
「屋敷には慣れた?」
「そうですね、だいぶ慣れましたが……風呂は慣れません」
深刻そうに言うリクに少し笑ってしまいそうになるが、本人はいたって真剣なので「まあ……そうね」と曖昧に返しておく。
あのときエヴァンお兄様に何を言われて入る気になったのか気にはなったものの、何だか聞くのも憚られる気がした。
話題を変えるように今度はリクが「お嬢様は……」とこちらを見上げた。
「なぜ、菓子を作れるんですか? 見たところ誰にも教わったようには思えないのですが」
「うーん……以前王立の図書館で見たことがあるのよ」
前世での知識とは言えず、咄嗟に誤魔化した。王立図書館は各国の蔵書が豊富にあるので、お菓子のレシピ本だってあってもおかしくはないだろう。
咄嗟に出た誤魔化しとはいえ、我ながら上手くいったと思った。リクは「ふうん……」とそれきり何も言わなかった。
私が前世の記憶があるのは誰にも話していない。家族になぜこんなにお菓子が作れるのか聞かれても「なんとなく、こうした方がいいと思って」と最初に答えてしまったときは家族から口々に天才扱いされて困ってしまった。そんなことがあってからは家族もそういうものと思うようになってきている。
呑気な家族でよかった……。
そうこうしているうちにティールームに着いた。中に入ると少しひんやりとした空気が頬を撫でる。今日は暑いため冷気を出す魔道具を使用しているのだろう。一番に着いたようで、まだ誰もきていない。ソファに腰掛けて隣にリクを座らせる。ちょこんと腰掛けるリクに少し頬が緩みそうになる。
「おや、アリアとリクが一番だったね」
エヴァンお兄様がシリルを伴って入ってきた。軽く挨拶を交わすとシリルはリクに
「リク! ポル爺が手が空いた時でいいからまた手伝って欲しいってよ」
「わかった。後で行く」
そのやりとりに目を丸くしながら私とエヴァンお兄様は顔を見合わせた。
「リクはポル爺の手伝いをしているのかい?」
「私の魔法で芝を手入れする手伝いをしているだけです」
「すげーんすよ! 風魔法でこう、シュパパッて」
シリルがその時のことを思い出したのかいささか興奮したように話す。
何それ、私も見たい。
今度見せてもらおうと思っていると、ハンナがワゴンを押して部屋に入ってきた。
ティーセットとお盆の上にはガラスの器に盛り付けられたアイスがのっていた。器も少し凍らせているのか冷気を纏っている。
「おっ! いいなあ! アリアお嬢様アイスは残っていますか?」
シリルが目を輝かせてアイスの乗った器を覗き込む。その無邪気な姿に苦笑いしながら
「あるわよ、料理長と一緒に作ったからまだたくさんあるはず。一緒にここでみんなで食べましょう」
そう提案して視線でお兄様に了承を得るとお兄様はシリルに呆れながらも
「そうだね、ハンナも持ってくるといい」
そう言って給仕をしていたハンナに声を掛ける。ハンナは恐縮しながらも「ありがとうございます」と言ってシリルを引っ張って行った。
お兄様は思い出したように「あ」と声を上げた後、ハンナ達にもう一つ追加で持って来るように言った。不思議に思っているとお兄様は私に少し微笑んだ。
「呼ばないと後でうるさいからね」
その言葉を聞いてリクはなぜかげんなりした表情を見せる。リクにどうしたのか尋ねようとするとその時ふわっと光が舞う。
そしてエヴァンお兄様の隣にグレース様が姿を現した。
「呼んだか? おお! アリアではないか」
相変わらず見目麗しい。
「こんにちは、グレース様」立って挨拶をすると「うむ、してその横の者は元気かえ」悪戯そうな笑みを浮かべ私の隣にいるリクに視線を向けた。
「元気です……」
どう見ても元気ではない様子に少し戸惑いながら「リク、体が冷えたの?」と声を掛ける。
「大丈夫です」
グレース様に萎縮しているのかしらと心配しているとエヴァンお兄様がグレース様ティータイムのお誘いをしていた。
アイスと聞くとキラキラと目を輝かせた。先程のシリルのようだと少しクスリとするとグレース様は私に気づいて恥ずかしそうにこほんと咳払いをした。
「そうだ。アリア、お前に話がある」
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