Dark Moon

たける

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瞬きすら出来なかった。その間に、体はメインルームとは違う場所にいた。

「聞きたい事があるようだな、ファイ。俺もお前に聞きたい事がある」

男は室内を歩くと、窓際に立った。ファイは、どこかの部屋にいるらしい。が、そこに生活している様子はなく、ホテルの一室だと推測される。
ファイはゆっくり腰の後ろで手を組むと、男を見遣った。

「私の質問に答えて頂けるのですね?」
「あぁ、答えられる範囲なら」

ぶっきらぼうに答えると、男は窓を背にファイをじっと見返してきた。黒い髪が陽に輝き、彫りの深い目元に影を落としている。

「何故貴方は、私を知っているんですか?」

1つ目の質問をすると、男は腕と足を組んだ。

「ある男に聞いたんだ。今日のあの場所に、お前がいるって」

それはファイの聞きたい答えではなかった。そしてまた、疑問が連鎖的に浮かんでくる。

「その男は、私の知る人物ですか?」
「さぁな。この時間軸で、この後どうなって行くかは俺にも分からないが、別の時間軸では、知り合いらしい」

素早く考えを巡らせる。ファイは与えられる情報を次々に消化し、いくつかの可能性を削除していく。

「その口ぶりからして、貴方の言う彼は、私と同じ時間からやって来た未来人なのですね?」
「あぁ、そうだ」

飲み込みが早い、と感心していると、ファイは新たな質問をしてきた。

「何故、彼は私の居場所を貴方に教えたのです?」

質問は核心へと近付いた。

「未来はいくつもの道に枝分かれしている。その道は様々で、奴にとっちゃお前と出会う道と出会わない道があったらしい。が、今回のお前のタイムトラベルによって、出会う道を選ばされたって訳だ。それを遅すぎたと考えた奴は、こうして俺に、早く出会うよう仕向けてきたって訳だ」

男の説明にファイは熟考した。
過去読んだ文献に書かれていた内容だ。それによく見れば、男の顔もどこかで見た覚えがある。
暫く黙っていたファイだが、やがて自信ありげに口を開いた。

「奴、と言うのは、貴方自身の事ですね」

その言葉に、笑みを堪える事が出来ない。

「正解だ、ファイ。奴は未来の俺だった。名前はノッド」

腕を解いたノッドは、ファイに向かって手を突き出してきた。また、引き寄せられる、と分かったファイは、今回はそれなりの心構えをしていたお陰で驚いたりはしなかった。

「何で奴は俺にお前を会わせたがったのか、それは分からないが、こうして早くに知り合う今があっても、いいんじゃないか?」

腕の中に収まったファイは、ノッドを見上げた。

「ノッド……貴方は、あのサイボーグのノッド?」

鋭い目と視線が絡む。

「あぁ、そうだ。特別な、な」

ファイの頬を撫でる。滑らかな肌触りに、ノッドは口元を緩めた。そしてそのままファイに唇を重ねる。すると彼は動揺したのか、驚き目を見開いた。

「お前に興味が沸いた」

思考が目まぐるしく働いているのだろう。ファイは黙ったままだった。

「俺に全部見せろ」

ノッドはファイを睨みつけた。




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