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つい数時間前、アルテミス号は違法物資を運搬しようとしていた航宙艦に、警告を発した。だが彼等はそれを無視し、あまつさえ攻撃を仕掛けてきた。
艦が大きく揺さぶられる中、艦長のジョシュ・デビットは、即座にシールドを上げるよう、操舵士のハンク・デルマに指示を出し、次いで戦術士のマイケル・ミューズに攻撃準備をさせた。
「ホップス、通信モニターを開いてくれ」
「はい、開きました」
巨大なモニターに、相手の姿が映った。それはモップでも被ったような髪と、蟹のような口を持った──その上に肌は灰色だ──ヨラヌス人だった。
「私は宇宙連邦艦隊アルテミス号の艦長、ジョシュ・デビットだ。今すぐ攻撃を止めて、降伏するんだ。さもなくば、貴方の艦を攻撃するぞ」
アルテミス号は攻撃に秀でた航宙艦で、ヨラヌス人の小さな艦など、その気になれば破壊する事は容易だ。
『我々は、これをヨラヌス星へ運ばなければならない。例え違法物資でも、必要なのだ』
そう言ってモニターからヨラヌス人の姿が消えた。ジョシュはため息をつくと、ミューズにフェイザー砲を撃てと命じた。
「フェイザー砲発射!」
モニターが切り替えられ、ヨラヌス人の航宙艦が映った。それへ光線が命中すると、爆発の振動で再び艦が揺れた。
「フェイザー砲は敵艦の右側面に損傷を与えました」
「ジョシュ、向こうはまだ攻撃を仕掛けてくる様子だぜ」
科学士官のノッドが報告してきた通り、ヨラヌス人達はいくつも光子魚雷を放ってきた。それをデルマが寸でのところで避けると後方で爆発し、その爆風によってアルデミス号は左右に大きく振られた。
「諦めが悪いなぁ……よし、もう1度食らわせてやるんだ」
敵艦を粉砕してしまえば、平和的交渉を掲げる宇宙連邦に非難の声が集まってしまうだろう。破壊はせず、捕らえなければならない。
2本目のフェイザー砲が、今度は左側面に命中した。煙を上げるヨラヌスの航宙艦は、ついに攻撃を止めたようだった。
「被害状況の報告を」
一段落し、ジョシュは深く指令席に落ち着いた。傍らに立っていた副艦長のファイは、科学席へ歩いて行った。ノッドが振り返る。
「うちのダメージは20%。各部署から、軽度の怪我人が出たって報告だぜ」
頷くと、ジョシュは艦内通信のボタンを押した。
「全乗組員に告ぐ。怪我をした者は、ただちに医務室にて治療をしてもらってくれ。それ以外の者は待機だ、以上」
そう言ってブリッジ内を見回したが、ここでは怪我人は出ていないようだった。
「ホップス、もう1度通信モニターを開いてくれ」
これでもう、ヨラヌス人の航宙艦は動けなくなってしまっただろう。そうなれば、牽引ビームでアルテミス号へ引っ張り、そのまま1番近い宇宙連邦基地へ連行するだけだ。
「ヨラヌス人諸君、そちらはもう動けないだろう。こちらも、貴方達が攻撃を止めれば、攻撃を返さないと約束しよう」
再びモニターに、さっきのヨラヌス人が現れた。怪我をしているらしく、額から青い血を流していた。
『デビット艦長、我々はもう攻撃はしない』
彼が艦長なのだろうか。ジョシュはそう思いながら、相手を見つめた。
「ならば、我々は今から貴方達を牽引し、宇宙連邦基地へ連行する。動かずにいてもらいたい」
『それはしないで頂きたい。なぁデビット艦長、このトラボタヌ石は、今のヨラヌス星にどうしても必要なものなのだ。見逃して頂きたい』
そう言ったヨラヌス人の顔は、さっきと何等変わらない無表情なものだった。だがその口調は真面目で、何か差し迫った危機感を含んでいる。
「何故トラボタヌ石が、貴方達の星に必要なんです?」
その石は特殊で、銀と掛け合わせれば人類にとって有害な物質に変わる性質を持っていた。だから宇宙連邦は、その採掘を厳しく禁止している。
「艦長、トラボタヌ石は人類にとっては有害になりますが、ヨラヌス人にとってはそうではありません」
科学席から振り返ったファイが言った。それに、ヨラヌス人も頷く。
『彼が言う通りだ。あれは我々にとっては、疫病を治療する薬品になるのだ。現在ヨラヌス星では、大変な疫病が蔓延している。それを治療する為にも、これが必要なのだ』
暫く考えた後、ジョシュは唇を引き締めてこう言った。
「分かった。だが、我々に時間をくれないか?私が何とか宇宙連邦を説得してみるよ」
頷いたヨラヌス人は、また消えた。ジョシュは科学席を見遣ると、こちらをじっと見ているノッドを見返した。
「ノッド、俺と来てくれ。ファイ、今から宇宙連邦基地へ行って、さっきの話を確認し、検討する。その間君が指揮をとってくれ」
「分かりました」
隣へとやって来たノッドは、ジョシュの肩をポンと叩き、そして2人の姿は消えた。ファイは素早く指令席へ移動すると、艦内通信のボタンを押した。
「船医長、今すぐメインブリッジへお越し願います」
艦が大きく揺さぶられる中、艦長のジョシュ・デビットは、即座にシールドを上げるよう、操舵士のハンク・デルマに指示を出し、次いで戦術士のマイケル・ミューズに攻撃準備をさせた。
「ホップス、通信モニターを開いてくれ」
「はい、開きました」
巨大なモニターに、相手の姿が映った。それはモップでも被ったような髪と、蟹のような口を持った──その上に肌は灰色だ──ヨラヌス人だった。
「私は宇宙連邦艦隊アルテミス号の艦長、ジョシュ・デビットだ。今すぐ攻撃を止めて、降伏するんだ。さもなくば、貴方の艦を攻撃するぞ」
アルテミス号は攻撃に秀でた航宙艦で、ヨラヌス人の小さな艦など、その気になれば破壊する事は容易だ。
『我々は、これをヨラヌス星へ運ばなければならない。例え違法物資でも、必要なのだ』
そう言ってモニターからヨラヌス人の姿が消えた。ジョシュはため息をつくと、ミューズにフェイザー砲を撃てと命じた。
「フェイザー砲発射!」
モニターが切り替えられ、ヨラヌス人の航宙艦が映った。それへ光線が命中すると、爆発の振動で再び艦が揺れた。
「フェイザー砲は敵艦の右側面に損傷を与えました」
「ジョシュ、向こうはまだ攻撃を仕掛けてくる様子だぜ」
科学士官のノッドが報告してきた通り、ヨラヌス人達はいくつも光子魚雷を放ってきた。それをデルマが寸でのところで避けると後方で爆発し、その爆風によってアルデミス号は左右に大きく振られた。
「諦めが悪いなぁ……よし、もう1度食らわせてやるんだ」
敵艦を粉砕してしまえば、平和的交渉を掲げる宇宙連邦に非難の声が集まってしまうだろう。破壊はせず、捕らえなければならない。
2本目のフェイザー砲が、今度は左側面に命中した。煙を上げるヨラヌスの航宙艦は、ついに攻撃を止めたようだった。
「被害状況の報告を」
一段落し、ジョシュは深く指令席に落ち着いた。傍らに立っていた副艦長のファイは、科学席へ歩いて行った。ノッドが振り返る。
「うちのダメージは20%。各部署から、軽度の怪我人が出たって報告だぜ」
頷くと、ジョシュは艦内通信のボタンを押した。
「全乗組員に告ぐ。怪我をした者は、ただちに医務室にて治療をしてもらってくれ。それ以外の者は待機だ、以上」
そう言ってブリッジ内を見回したが、ここでは怪我人は出ていないようだった。
「ホップス、もう1度通信モニターを開いてくれ」
これでもう、ヨラヌス人の航宙艦は動けなくなってしまっただろう。そうなれば、牽引ビームでアルテミス号へ引っ張り、そのまま1番近い宇宙連邦基地へ連行するだけだ。
「ヨラヌス人諸君、そちらはもう動けないだろう。こちらも、貴方達が攻撃を止めれば、攻撃を返さないと約束しよう」
再びモニターに、さっきのヨラヌス人が現れた。怪我をしているらしく、額から青い血を流していた。
『デビット艦長、我々はもう攻撃はしない』
彼が艦長なのだろうか。ジョシュはそう思いながら、相手を見つめた。
「ならば、我々は今から貴方達を牽引し、宇宙連邦基地へ連行する。動かずにいてもらいたい」
『それはしないで頂きたい。なぁデビット艦長、このトラボタヌ石は、今のヨラヌス星にどうしても必要なものなのだ。見逃して頂きたい』
そう言ったヨラヌス人の顔は、さっきと何等変わらない無表情なものだった。だがその口調は真面目で、何か差し迫った危機感を含んでいる。
「何故トラボタヌ石が、貴方達の星に必要なんです?」
その石は特殊で、銀と掛け合わせれば人類にとって有害な物質に変わる性質を持っていた。だから宇宙連邦は、その採掘を厳しく禁止している。
「艦長、トラボタヌ石は人類にとっては有害になりますが、ヨラヌス人にとってはそうではありません」
科学席から振り返ったファイが言った。それに、ヨラヌス人も頷く。
『彼が言う通りだ。あれは我々にとっては、疫病を治療する薬品になるのだ。現在ヨラヌス星では、大変な疫病が蔓延している。それを治療する為にも、これが必要なのだ』
暫く考えた後、ジョシュは唇を引き締めてこう言った。
「分かった。だが、我々に時間をくれないか?私が何とか宇宙連邦を説得してみるよ」
頷いたヨラヌス人は、また消えた。ジョシュは科学席を見遣ると、こちらをじっと見ているノッドを見返した。
「ノッド、俺と来てくれ。ファイ、今から宇宙連邦基地へ行って、さっきの話を確認し、検討する。その間君が指揮をとってくれ」
「分かりました」
隣へとやって来たノッドは、ジョシュの肩をポンと叩き、そして2人の姿は消えた。ファイは素早く指令席へ移動すると、艦内通信のボタンを押した。
「船医長、今すぐメインブリッジへお越し願います」
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