2 / 32
1.
1
しおりを挟む
つい数時間前、アルテミス号は違法物資を運搬しようとしていた航宙艦に、警告を発した。だが彼等はそれを無視し、あまつさえ攻撃を仕掛けてきた。
艦が大きく揺さぶられる中、艦長のジョシュ・デビットは、即座にシールドを上げるよう、操舵士のハンク・デルマに指示を出し、次いで戦術士のマイケル・ミューズに攻撃準備をさせた。
「ホップス、通信モニターを開いてくれ」
「はい、開きました」
巨大なモニターに、相手の姿が映った。それはモップでも被ったような髪と、蟹のような口を持った──その上に肌は灰色だ──ヨラヌス人だった。
「私は宇宙連邦艦隊アルテミス号の艦長、ジョシュ・デビットだ。今すぐ攻撃を止めて、降伏するんだ。さもなくば、貴方の艦を攻撃するぞ」
アルテミス号は攻撃に秀でた航宙艦で、ヨラヌス人の小さな艦など、その気になれば破壊する事は容易だ。
『我々は、これをヨラヌス星へ運ばなければならない。例え違法物資でも、必要なのだ』
そう言ってモニターからヨラヌス人の姿が消えた。ジョシュはため息をつくと、ミューズにフェイザー砲を撃てと命じた。
「フェイザー砲発射!」
モニターが切り替えられ、ヨラヌス人の航宙艦が映った。それへ光線が命中すると、爆発の振動で再び艦が揺れた。
「フェイザー砲は敵艦の右側面に損傷を与えました」
「ジョシュ、向こうはまだ攻撃を仕掛けてくる様子だぜ」
科学士官のノッドが報告してきた通り、ヨラヌス人達はいくつも光子魚雷を放ってきた。それをデルマが寸でのところで避けると後方で爆発し、その爆風によってアルデミス号は左右に大きく振られた。
「諦めが悪いなぁ……よし、もう1度食らわせてやるんだ」
敵艦を粉砕してしまえば、平和的交渉を掲げる宇宙連邦に非難の声が集まってしまうだろう。破壊はせず、捕らえなければならない。
2本目のフェイザー砲が、今度は左側面に命中した。煙を上げるヨラヌスの航宙艦は、ついに攻撃を止めたようだった。
「被害状況の報告を」
一段落し、ジョシュは深く指令席に落ち着いた。傍らに立っていた副艦長のファイは、科学席へ歩いて行った。ノッドが振り返る。
「うちのダメージは20%。各部署から、軽度の怪我人が出たって報告だぜ」
頷くと、ジョシュは艦内通信のボタンを押した。
「全乗組員に告ぐ。怪我をした者は、ただちに医務室にて治療をしてもらってくれ。それ以外の者は待機だ、以上」
そう言ってブリッジ内を見回したが、ここでは怪我人は出ていないようだった。
「ホップス、もう1度通信モニターを開いてくれ」
これでもう、ヨラヌス人の航宙艦は動けなくなってしまっただろう。そうなれば、牽引ビームでアルテミス号へ引っ張り、そのまま1番近い宇宙連邦基地へ連行するだけだ。
「ヨラヌス人諸君、そちらはもう動けないだろう。こちらも、貴方達が攻撃を止めれば、攻撃を返さないと約束しよう」
再びモニターに、さっきのヨラヌス人が現れた。怪我をしているらしく、額から青い血を流していた。
『デビット艦長、我々はもう攻撃はしない』
彼が艦長なのだろうか。ジョシュはそう思いながら、相手を見つめた。
「ならば、我々は今から貴方達を牽引し、宇宙連邦基地へ連行する。動かずにいてもらいたい」
『それはしないで頂きたい。なぁデビット艦長、このトラボタヌ石は、今のヨラヌス星にどうしても必要なものなのだ。見逃して頂きたい』
そう言ったヨラヌス人の顔は、さっきと何等変わらない無表情なものだった。だがその口調は真面目で、何か差し迫った危機感を含んでいる。
「何故トラボタヌ石が、貴方達の星に必要なんです?」
その石は特殊で、銀と掛け合わせれば人類にとって有害な物質に変わる性質を持っていた。だから宇宙連邦は、その採掘を厳しく禁止している。
「艦長、トラボタヌ石は人類にとっては有害になりますが、ヨラヌス人にとってはそうではありません」
科学席から振り返ったファイが言った。それに、ヨラヌス人も頷く。
『彼が言う通りだ。あれは我々にとっては、疫病を治療する薬品になるのだ。現在ヨラヌス星では、大変な疫病が蔓延している。それを治療する為にも、これが必要なのだ』
暫く考えた後、ジョシュは唇を引き締めてこう言った。
「分かった。だが、我々に時間をくれないか?私が何とか宇宙連邦を説得してみるよ」
頷いたヨラヌス人は、また消えた。ジョシュは科学席を見遣ると、こちらをじっと見ているノッドを見返した。
「ノッド、俺と来てくれ。ファイ、今から宇宙連邦基地へ行って、さっきの話を確認し、検討する。その間君が指揮をとってくれ」
「分かりました」
隣へとやって来たノッドは、ジョシュの肩をポンと叩き、そして2人の姿は消えた。ファイは素早く指令席へ移動すると、艦内通信のボタンを押した。
「船医長、今すぐメインブリッジへお越し願います」
艦が大きく揺さぶられる中、艦長のジョシュ・デビットは、即座にシールドを上げるよう、操舵士のハンク・デルマに指示を出し、次いで戦術士のマイケル・ミューズに攻撃準備をさせた。
「ホップス、通信モニターを開いてくれ」
「はい、開きました」
巨大なモニターに、相手の姿が映った。それはモップでも被ったような髪と、蟹のような口を持った──その上に肌は灰色だ──ヨラヌス人だった。
「私は宇宙連邦艦隊アルテミス号の艦長、ジョシュ・デビットだ。今すぐ攻撃を止めて、降伏するんだ。さもなくば、貴方の艦を攻撃するぞ」
アルテミス号は攻撃に秀でた航宙艦で、ヨラヌス人の小さな艦など、その気になれば破壊する事は容易だ。
『我々は、これをヨラヌス星へ運ばなければならない。例え違法物資でも、必要なのだ』
そう言ってモニターからヨラヌス人の姿が消えた。ジョシュはため息をつくと、ミューズにフェイザー砲を撃てと命じた。
「フェイザー砲発射!」
モニターが切り替えられ、ヨラヌス人の航宙艦が映った。それへ光線が命中すると、爆発の振動で再び艦が揺れた。
「フェイザー砲は敵艦の右側面に損傷を与えました」
「ジョシュ、向こうはまだ攻撃を仕掛けてくる様子だぜ」
科学士官のノッドが報告してきた通り、ヨラヌス人達はいくつも光子魚雷を放ってきた。それをデルマが寸でのところで避けると後方で爆発し、その爆風によってアルデミス号は左右に大きく振られた。
「諦めが悪いなぁ……よし、もう1度食らわせてやるんだ」
敵艦を粉砕してしまえば、平和的交渉を掲げる宇宙連邦に非難の声が集まってしまうだろう。破壊はせず、捕らえなければならない。
2本目のフェイザー砲が、今度は左側面に命中した。煙を上げるヨラヌスの航宙艦は、ついに攻撃を止めたようだった。
「被害状況の報告を」
一段落し、ジョシュは深く指令席に落ち着いた。傍らに立っていた副艦長のファイは、科学席へ歩いて行った。ノッドが振り返る。
「うちのダメージは20%。各部署から、軽度の怪我人が出たって報告だぜ」
頷くと、ジョシュは艦内通信のボタンを押した。
「全乗組員に告ぐ。怪我をした者は、ただちに医務室にて治療をしてもらってくれ。それ以外の者は待機だ、以上」
そう言ってブリッジ内を見回したが、ここでは怪我人は出ていないようだった。
「ホップス、もう1度通信モニターを開いてくれ」
これでもう、ヨラヌス人の航宙艦は動けなくなってしまっただろう。そうなれば、牽引ビームでアルテミス号へ引っ張り、そのまま1番近い宇宙連邦基地へ連行するだけだ。
「ヨラヌス人諸君、そちらはもう動けないだろう。こちらも、貴方達が攻撃を止めれば、攻撃を返さないと約束しよう」
再びモニターに、さっきのヨラヌス人が現れた。怪我をしているらしく、額から青い血を流していた。
『デビット艦長、我々はもう攻撃はしない』
彼が艦長なのだろうか。ジョシュはそう思いながら、相手を見つめた。
「ならば、我々は今から貴方達を牽引し、宇宙連邦基地へ連行する。動かずにいてもらいたい」
『それはしないで頂きたい。なぁデビット艦長、このトラボタヌ石は、今のヨラヌス星にどうしても必要なものなのだ。見逃して頂きたい』
そう言ったヨラヌス人の顔は、さっきと何等変わらない無表情なものだった。だがその口調は真面目で、何か差し迫った危機感を含んでいる。
「何故トラボタヌ石が、貴方達の星に必要なんです?」
その石は特殊で、銀と掛け合わせれば人類にとって有害な物質に変わる性質を持っていた。だから宇宙連邦は、その採掘を厳しく禁止している。
「艦長、トラボタヌ石は人類にとっては有害になりますが、ヨラヌス人にとってはそうではありません」
科学席から振り返ったファイが言った。それに、ヨラヌス人も頷く。
『彼が言う通りだ。あれは我々にとっては、疫病を治療する薬品になるのだ。現在ヨラヌス星では、大変な疫病が蔓延している。それを治療する為にも、これが必要なのだ』
暫く考えた後、ジョシュは唇を引き締めてこう言った。
「分かった。だが、我々に時間をくれないか?私が何とか宇宙連邦を説得してみるよ」
頷いたヨラヌス人は、また消えた。ジョシュは科学席を見遣ると、こちらをじっと見ているノッドを見返した。
「ノッド、俺と来てくれ。ファイ、今から宇宙連邦基地へ行って、さっきの話を確認し、検討する。その間君が指揮をとってくれ」
「分かりました」
隣へとやって来たノッドは、ジョシュの肩をポンと叩き、そして2人の姿は消えた。ファイは素早く指令席へ移動すると、艦内通信のボタンを押した。
「船医長、今すぐメインブリッジへお越し願います」
0
あなたにおすすめの小説
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる