31 / 32
6.
6
しおりを挟む
転送台に立つジュリアは、心から幸せを感じているようには見えない。だがもう、決定してしまった。ワイズも、それを後押ししてしまったのだ。後戻りなど出来ない。
別れの悲しみがあちこちに渦巻く転送室を、何とか盛り上げるのが、最後の親友としての勤めではないだろうか?そう考えたワイズは、無理にテンションを上げて言った。
「そうだ、みんな。笑って見送ってやろうじゃないか!」
そう大声を出したワイズに、ファイの姿が映った。
──あいつ、何しに来やがった!
突発的に跳ね上がった怒りの感情を、あの無頓着にぶつけてやろう。そういきり立ちながらワイズは、リタルド人へと歩み寄った。
「おい、何しに来た?」
平静かつ冷淡な目が、怒りに燃えるワイズを見返してくる。
「部下の門出です。私も祝辞を述べる権利はある筈です」
「あいつにお前、あの日言った事を覚えてないのか?」
──ジュリアを無惨な言葉で傷付けておいて!
怒りに握った拳が震えている。それをチラと見遣ったファイは、ワイズから目を逸らした。
「記憶しています。ですが、あれとこれとは、全く違うではありませんか」
驚きに目を見開くと、ファイはワイズの脇を抜けてジュリアへと歩み寄って行った。
──何て奴だ!最後の最後までジュリアを傷付けないと、気が済まないのか?ド畜生!
だがそれは言葉になる事はなかった。遠目に見えるファイが、ジュリアに祝福の言葉を述べている。
ただそれを、見守るしか出来なかった。
「そんな自分が不甲斐なかったよ、本当に……」
そう締め括ると、ワイズはこっちを見てきた。悲しい顔をしていたが、ジョシュは口をポカンと間抜けに開けて、驚きを隠せないでいた。
「嘘だ……ジュリアが……あのファイを好きだったなんて……そんな事、俺には一言も……」
動揺している。確かにアカデミーの時、ジュリアはファイを素敵だとかどうとか言っていた。
「君は図書館の君に夢中になってたからな、気付かなかったんだろう」
「でも、そんな……告白する時は言ってくれなきゃ!」
──1人だけ、蚊帳の外だったなんて……
「俺は、何もジュリアから直接聞いた訳じゃない。たまたま……見てしまったんだ」
ジョシュはうちひしがれるように、フラつき壁に手をついた。カールは黙ったまま、まだコンソールの前に座っている。
「そう……だったのか……」
「あぁ。だから、ファイにはここに来て欲しくなかったんだ、俺はな」
シンと静まり返ったが、すぐにインターコムが静寂を破った。
「はい、こちら転送室のディックだ」
『ファイです。艦長はいらっしゃいますか?』
噂の種になっている人物の声がしたが、ジョシュは何とか平静を取り戻してカールの横に立った。目眩がしている気がする。
「デビットだ。どうした?」
『全ての部署より、出発準備が整ったと報告がありました。艦長、いつ出発なされますか?』
さっきまで別れを悲しんでいたようには思えない程、ファイの声はいつもと変わらなかった。いや、彼は多分、悲しんでなどいなかったのだ。祝辞を述べたぐらいだから、むしろ喜んでいるのだろう。
──どっちでもいい……今は気持ちを切り替えなければ。
「今すぐにだ、ファイ。デルマに、ワープ2で向かえと言ってくれ、以上」
通信を切ると、ジョシュは目頭を押さえた。何だか酷く疲れている。
「ワイズ、悪いが俺は部屋で少し仮眠を取るよ。ファイにそう伝えておいてくれ」
「分かった……ゆっくり休め。君は寝不足な上に過労気味なんだから」
突如、自分の体ではなくなったかのように、うまく動かせなくなった。それでも休息を求め、ジョシュは自室へと向かった。
別れの悲しみがあちこちに渦巻く転送室を、何とか盛り上げるのが、最後の親友としての勤めではないだろうか?そう考えたワイズは、無理にテンションを上げて言った。
「そうだ、みんな。笑って見送ってやろうじゃないか!」
そう大声を出したワイズに、ファイの姿が映った。
──あいつ、何しに来やがった!
突発的に跳ね上がった怒りの感情を、あの無頓着にぶつけてやろう。そういきり立ちながらワイズは、リタルド人へと歩み寄った。
「おい、何しに来た?」
平静かつ冷淡な目が、怒りに燃えるワイズを見返してくる。
「部下の門出です。私も祝辞を述べる権利はある筈です」
「あいつにお前、あの日言った事を覚えてないのか?」
──ジュリアを無惨な言葉で傷付けておいて!
怒りに握った拳が震えている。それをチラと見遣ったファイは、ワイズから目を逸らした。
「記憶しています。ですが、あれとこれとは、全く違うではありませんか」
驚きに目を見開くと、ファイはワイズの脇を抜けてジュリアへと歩み寄って行った。
──何て奴だ!最後の最後までジュリアを傷付けないと、気が済まないのか?ド畜生!
だがそれは言葉になる事はなかった。遠目に見えるファイが、ジュリアに祝福の言葉を述べている。
ただそれを、見守るしか出来なかった。
「そんな自分が不甲斐なかったよ、本当に……」
そう締め括ると、ワイズはこっちを見てきた。悲しい顔をしていたが、ジョシュは口をポカンと間抜けに開けて、驚きを隠せないでいた。
「嘘だ……ジュリアが……あのファイを好きだったなんて……そんな事、俺には一言も……」
動揺している。確かにアカデミーの時、ジュリアはファイを素敵だとかどうとか言っていた。
「君は図書館の君に夢中になってたからな、気付かなかったんだろう」
「でも、そんな……告白する時は言ってくれなきゃ!」
──1人だけ、蚊帳の外だったなんて……
「俺は、何もジュリアから直接聞いた訳じゃない。たまたま……見てしまったんだ」
ジョシュはうちひしがれるように、フラつき壁に手をついた。カールは黙ったまま、まだコンソールの前に座っている。
「そう……だったのか……」
「あぁ。だから、ファイにはここに来て欲しくなかったんだ、俺はな」
シンと静まり返ったが、すぐにインターコムが静寂を破った。
「はい、こちら転送室のディックだ」
『ファイです。艦長はいらっしゃいますか?』
噂の種になっている人物の声がしたが、ジョシュは何とか平静を取り戻してカールの横に立った。目眩がしている気がする。
「デビットだ。どうした?」
『全ての部署より、出発準備が整ったと報告がありました。艦長、いつ出発なされますか?』
さっきまで別れを悲しんでいたようには思えない程、ファイの声はいつもと変わらなかった。いや、彼は多分、悲しんでなどいなかったのだ。祝辞を述べたぐらいだから、むしろ喜んでいるのだろう。
──どっちでもいい……今は気持ちを切り替えなければ。
「今すぐにだ、ファイ。デルマに、ワープ2で向かえと言ってくれ、以上」
通信を切ると、ジョシュは目頭を押さえた。何だか酷く疲れている。
「ワイズ、悪いが俺は部屋で少し仮眠を取るよ。ファイにそう伝えておいてくれ」
「分かった……ゆっくり休め。君は寝不足な上に過労気味なんだから」
突如、自分の体ではなくなったかのように、うまく動かせなくなった。それでも休息を求め、ジョシュは自室へと向かった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
別れし夫婦の御定書(おさだめがき)
佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。
離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。
月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。
おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。
されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて——
※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる