arkⅣ

たける

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6.

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転送台に立つジュリアは、心から幸せを感じているようには見えない。だがもう、決定してしまった。ワイズも、それを後押ししてしまったのだ。後戻りなど出来ない。
別れの悲しみがあちこちに渦巻く転送室を、何とか盛り上げるのが、最後の親友としての勤めではないだろうか?そう考えたワイズは、無理にテンションを上げて言った。

「そうだ、みんな。笑って見送ってやろうじゃないか!」

そう大声を出したワイズに、ファイの姿が映った。


──あいつ、何しに来やがった!


突発的に跳ね上がった怒りの感情を、あの無頓着にぶつけてやろう。そういきり立ちながらワイズは、リタルド人へと歩み寄った。

「おい、何しに来た?」

平静かつ冷淡な目が、怒りに燃えるワイズを見返してくる。

「部下の門出です。私も祝辞を述べる権利はある筈です」
「あいつにお前、あの日言った事を覚えてないのか?」


──ジュリアを無惨な言葉で傷付けておいて!


怒りに握った拳が震えている。それをチラと見遣ったファイは、ワイズから目を逸らした。

「記憶しています。ですが、あれとこれとは、全く違うではありませんか」

驚きに目を見開くと、ファイはワイズの脇を抜けてジュリアへと歩み寄って行った。


──何て奴だ!最後の最後までジュリアを傷付けないと、気が済まないのか?ド畜生!


だがそれは言葉になる事はなかった。遠目に見えるファイが、ジュリアに祝福の言葉を述べている。
ただそれを、見守るしか出来なかった。

「そんな自分が不甲斐なかったよ、本当に……」

そう締め括ると、ワイズはこっちを見てきた。悲しい顔をしていたが、ジョシュは口をポカンと間抜けに開けて、驚きを隠せないでいた。

「嘘だ……ジュリアが……あのファイを好きだったなんて……そんな事、俺には一言も……」

動揺している。確かにアカデミーの時、ジュリアはファイを素敵だとかどうとか言っていた。

「君は図書館の君に夢中になってたからな、気付かなかったんだろう」
「でも、そんな……告白する時は言ってくれなきゃ!」


──1人だけ、蚊帳の外だったなんて……


「俺は、何もジュリアから直接聞いた訳じゃない。たまたま……見てしまったんだ」

ジョシュはうちひしがれるように、フラつき壁に手をついた。カールは黙ったまま、まだコンソールの前に座っている。

「そう……だったのか……」
「あぁ。だから、ファイにはここに来て欲しくなかったんだ、俺はな」

シンと静まり返ったが、すぐにインターコムが静寂を破った。

「はい、こちら転送室のディックだ」
『ファイです。艦長はいらっしゃいますか?』

噂の種になっている人物の声がしたが、ジョシュは何とか平静を取り戻してカールの横に立った。目眩がしている気がする。

「デビットだ。どうした?」
『全ての部署より、出発準備が整ったと報告がありました。艦長、いつ出発なされますか?』

さっきまで別れを悲しんでいたようには思えない程、ファイの声はいつもと変わらなかった。いや、彼は多分、悲しんでなどいなかったのだ。祝辞を述べたぐらいだから、むしろ喜んでいるのだろう。


──どっちでもいい……今は気持ちを切り替えなければ。


「今すぐにだ、ファイ。デルマに、ワープ2で向かえと言ってくれ、以上」

通信を切ると、ジョシュは目頭を押さえた。何だか酷く疲れている。

「ワイズ、悪いが俺は部屋で少し仮眠を取るよ。ファイにそう伝えておいてくれ」
「分かった……ゆっくり休め。君は寝不足な上に過労気味なんだから」

突如、自分の体ではなくなったかのように、うまく動かせなくなった。それでも休息を求め、ジョシュは自室へと向かった。




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