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転送台に乗ったジュリアを、皆が見送った。そこに副艦長と科学士官の姿はなかったけれども、大勢がジュリアを見送った。
「婚礼会に出席出来なくて申し訳ない。我々には一刻も早くノナカ司令官達を送り届ける義務があるんだ」
「分かってます。それに、もう2度と会えない訳でもないでしょうし……私、ヨラヌス艦の看護婦として、働く事になっていますから」
そう言ったジュリアは、どこか寂しげに見えた。いや、ジョシュ自身がそう思っているから、そう見えるのかも知れない。
「元気でね……」
マナ・ホップスは、潤んだ瞳の奥に羨望を隠している。ハンク・デルマはいつもと変わらない、よそよそしい態度で見つめている。その隣にいるマイケ
ル・ミューズは、若いせいもあってか、寂しさの涙を隠そうともせず泣いていた。
「湿っぽいぜ、あんたら!せっかくの門出なんだ、笑って見送ってやんなよ!」
コンソール前に座るカール・ディックは、相変わらずの砕けた口調で言った。
「そうだ、みんな。笑って見送ってやろうじゃないか!」
いつになく、ワイズが張り切っているように見えるのは、悲しすぎるからだろうか?
その時、転送室の扉が開いてファイが入ってきた。一瞬、皆の視線がファイに集まったが、彼は黙ったままジュリアを見つめていた。
「副艦長……」
そうジュリアが呟いた途端、ワイズが人波を掻き分けて、最後尾にいるファイに駆け寄って行った。そして何事か言葉を交わした後、驚きの表情でファイを見遣った。
──何を話したんだろう?
ジョシュの位置からでは聞こえなかったが、ファイがゆっくりとこちらへやって来る。やがてジュリアの前に立った副艦長は、姿勢を正して彼女を見つめた。
「おめでとうございます、バートン看護婦長。心より祝福させて頂きます」
「ありがとうございます、ファイ副艦長……色々、お世話になりました」
頭を下げたジュリアの顔が、ジョシュから見えた。苦しげに顔を歪め、それでも笑おうと努力している。
「どうぞお幸せに」
それだけを言うと、ファイはまた最後尾へと戻って行った。
「みなさん、ありがとうございました!みなさんもお元気で」
そう言ってジュリアは、カールに頷いて見せた。
「じゃあな、お嬢ちゃん」
コンソールの上を、カールの指が幾度か動いた。するとジュリアの体は光に包まれ、やがて消えてしまった。
場はさっきよりも湿っぽい空気になり、ジョシュは気持ちを切り替えさせる為に、手を大きく叩いた。
「さぁみんな!持ち場に戻ってくれ。ノナカ司令官を第7宇宙基地まで送り届けるぞ」
あちこちで、小さく了解の声が上がると、集まった者達は順番に転送室を出て行く。
やがてワイズとジョシュだけになると、カールがモニターにジュリアの姿を映した。
「無事、転送降下しました」
「ありがとう、カール」
ジョシュもブリッジに戻ろうとしたが、まだモニターを見つめるワイズが気になり、足を止めた。
「さっき、ファイに何を言ったんだ?」
「あれは……別にいいだろ。君が知る必要はないと思うがね」
険しい視線がジョシュを睨んできた。そんな顔をされて、はいそうですか、なんて言える筈もない。
「教えてくれよ、ワイズ」
そう言うと、親友は渋面を作りながら教えてくれた。
「婚礼会に出席出来なくて申し訳ない。我々には一刻も早くノナカ司令官達を送り届ける義務があるんだ」
「分かってます。それに、もう2度と会えない訳でもないでしょうし……私、ヨラヌス艦の看護婦として、働く事になっていますから」
そう言ったジュリアは、どこか寂しげに見えた。いや、ジョシュ自身がそう思っているから、そう見えるのかも知れない。
「元気でね……」
マナ・ホップスは、潤んだ瞳の奥に羨望を隠している。ハンク・デルマはいつもと変わらない、よそよそしい態度で見つめている。その隣にいるマイケ
ル・ミューズは、若いせいもあってか、寂しさの涙を隠そうともせず泣いていた。
「湿っぽいぜ、あんたら!せっかくの門出なんだ、笑って見送ってやんなよ!」
コンソール前に座るカール・ディックは、相変わらずの砕けた口調で言った。
「そうだ、みんな。笑って見送ってやろうじゃないか!」
いつになく、ワイズが張り切っているように見えるのは、悲しすぎるからだろうか?
その時、転送室の扉が開いてファイが入ってきた。一瞬、皆の視線がファイに集まったが、彼は黙ったままジュリアを見つめていた。
「副艦長……」
そうジュリアが呟いた途端、ワイズが人波を掻き分けて、最後尾にいるファイに駆け寄って行った。そして何事か言葉を交わした後、驚きの表情でファイを見遣った。
──何を話したんだろう?
ジョシュの位置からでは聞こえなかったが、ファイがゆっくりとこちらへやって来る。やがてジュリアの前に立った副艦長は、姿勢を正して彼女を見つめた。
「おめでとうございます、バートン看護婦長。心より祝福させて頂きます」
「ありがとうございます、ファイ副艦長……色々、お世話になりました」
頭を下げたジュリアの顔が、ジョシュから見えた。苦しげに顔を歪め、それでも笑おうと努力している。
「どうぞお幸せに」
それだけを言うと、ファイはまた最後尾へと戻って行った。
「みなさん、ありがとうございました!みなさんもお元気で」
そう言ってジュリアは、カールに頷いて見せた。
「じゃあな、お嬢ちゃん」
コンソールの上を、カールの指が幾度か動いた。するとジュリアの体は光に包まれ、やがて消えてしまった。
場はさっきよりも湿っぽい空気になり、ジョシュは気持ちを切り替えさせる為に、手を大きく叩いた。
「さぁみんな!持ち場に戻ってくれ。ノナカ司令官を第7宇宙基地まで送り届けるぞ」
あちこちで、小さく了解の声が上がると、集まった者達は順番に転送室を出て行く。
やがてワイズとジョシュだけになると、カールがモニターにジュリアの姿を映した。
「無事、転送降下しました」
「ありがとう、カール」
ジョシュもブリッジに戻ろうとしたが、まだモニターを見つめるワイズが気になり、足を止めた。
「さっき、ファイに何を言ったんだ?」
「あれは……別にいいだろ。君が知る必要はないと思うがね」
険しい視線がジョシュを睨んできた。そんな顔をされて、はいそうですか、なんて言える筈もない。
「教えてくれよ、ワイズ」
そう言うと、親友は渋面を作りながら教えてくれた。
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