arkⅣ

たける

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6.

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待機中の医務室にジョシュが入ってきた。

「まだ連絡はないのか?」

そうワイズが言うと、ジョシュは目を丸くした。

「君んとこにもないの?おかしいな…….ちょっと遅すぎやしないか?」
「なぁジョシュ、本当にジュリアは断るだろうか?」

断るにしては、あまりに遅すぎる。ワイズは不安だった。

「だから、きっと断るって」

何を能天気な、と言ってやりたかったが、彼は昔からいつもそうだった。そこが長所でもあるのだが。

「それでワイズ、買ったあのペンダントは、ジュリアにプレゼントするんだろ?いつ渡すんだい?」
「あぁ……あれは……」

そう言いかけた時、インターコムが鳴った。

「こちら医務室」
『バートンです。ただ今戻りました』

不安と苛立ちが、その言楽だけで吹き飛んでしまった。

「おぉ!やっと戻ったのか!艦長と首を長くして待ってたんだぞ」

ジョシュを振り返ると、彼もうんうんと頷いて見せた。

『艦長もそこにいらっしゃるんですか?』
「いるよー。君が戻ったんだ、早速出発するとしよう」

ジョシュはくるりと踵を返したが──どこかで見てでもいるかのように──ジュリアが引き止めた。

『あの、待って下さい。艦長と船医長にお話があるんです』
「話し?」

怪訝な顔でワイズを見てくる。一体何の話があると言うのだろう?2人は一瞬だけ視線を絡ませたが、すぐにジョシュが答えた。

「分かった。じゃあ艦長室に来てくれ。我々も向かうよ」
『はい、分かりました』

インターコムを切ると、ワイズは腕組みをしているジョシュを見遣った。

「話ってなんだ?」
「さぁ、分からない……けど、それはすぐに聞けるじゃないか。さぁ、俺達も行こう」

ジョシュに促され、ワイズは医務室を出て艦長室に向かった。


──何だ、この不安な感じ……


リフトに乗っている間も、通路を歩いている時も、ワイズの胸は何故か重苦しかった。

「なぁ……まさか、まさかなんて事はないよな?」
「まだ心配してるのか?まったくワイズは、心配性だなぁ」

角を曲がると、既に艦長室の前にジュリアがいた。何か思い詰めたように暗い表情で、じっと足元を見つめている。

「やぁジュリア。どうかしたのかい?」

扉脇に設置されている機器へ、ジョシュが自身の認識番号を入力する。

「艦長、個人的な話なんです」

畏まったロ調に、更にワイズの胸が締め付けられた。だがジョシュはそうではないらしく、先に艦長室へと入った。中は一応片付いているが、デスク奥にある寝室の方は、多分散らかったままだ。アカデミーの時から、ジョシュは整理整頓が苦手なようで、散らかしてばかりいたのを思い出す。

「それで、個人的な話って言うのは何かな?」

ゆったりとデスクに座ったジョシュは、まだ扉の前に立つジュリアを手招きした。すると彼女はおずおずと入室し、ワイズの前で足を止めた。

「さっき、モハンドさんから結婚を申し込まれました……」
「うん、それで君は、断ったんだろ?」

にこやかな笑みを浮かべるジョシュと、困った顔をしているジュリアを交互に見ながら、ワイズはまさか、と感じていた。

「私、申し入れを受けました。ですから、アルテミス号を降りる事にしました」

言葉もなく、ジョシュが目を見開いた。それはワイズも同じだったが、何とか口を開く事が出来た。

「奴と結婚するって事か?」

ジュリアがワイズを見た。その顔はやっぱり困っているようだったが、微笑んでいた。

「一体どうしてだ?君は当艦の看護婦長だぞ!それに我々の親友でもある。なのに、何の相談もなく、勝手に決めたと言うのか!」

珍しくジョシュが声を荒げた。それに臆する事なく、ジュリアは毅然として答えた。

「はい、申し訳ありません。でも、決めたんです」

その横顔を見つめながら、ワイズの頭は真っ白になった。また何かジョシュが言い、ジュリアが答えている。だがそれは、ワイズの耳には聞こえてこなかった。体全体で拒否している。


──断ると言っていたじゃないか!なのに……だが……


寂しさに胸が冷たくなった。
もし心理カウンセラーが今の自分を診断するとしたら、何て言うだろう?だがそんな事、くそくらえだ!

「ワイズ!」

急に名前を呼ばれた気がして、ビクリと体を震わせた。するとジョシュが、厳しい目をワイズに向けていた。

「な、なんだ?」
「何度呼んだと思ってるんだ。しっかりしてくれよ」

ジュリアもこっちを見ている。だがワイズは、すぐに彼女から視線を逸らし、怒る艦長へと目を向けた。

「大丈夫だ。で、何だって?」

そう尋ねると、ため息をつきながらジョシュが言った。

「君も勿論、反対だろ?彼女を説得してくれないか?」

ワイズは唾を飲み、異様な緊張感に包まれた室内を見回した。特に答えを遅らせる理由はなかった。だがもう1度、自身に問い直す時間を持った。


──彼女はあの醜い異星人と結婚してしまう。いや、醜いなんてとても差別的だ。彼女は、アルテミス号を降りてしまう。もう、いつものように会えない……いつものように手助けをしてもらえない……その笑顔さえ、もう……


「船医長、申し訳ありません。私は決めたんです、自分自身の未来を……」

視線が重なり、ワイズはジュリアの真剣な眼差しに胸を打たれた。
そこに立っているのは、もう、アカデミーの時の幼いジュリア・バートンではない。1人で、歩き出そうとしている女性だ。

「いや、何も謝る事はない。君が決めた道なんだ、いくら親友や上司と言えど、それを止めろなんて、命令出来ないからな」

そう言うと、ジョシュが勢いよく立ち上がった。憤然としてはいるが、もう怒鳴ったりはしなかった。

「ワイズ……」
「なぁジョシュ、祝福してやろうじゃないか」

笑ったつもりだったが、うまく笑えてなかったかも知れない。

「……君がそう言うなら……俺はもう引き止めたりしないよ。ジュリア、許可するってのも可笑しな話だけど、幸せになれよ」




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