Prisoner

たける

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第9章

4.

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誰も入る者のいなくなった独房の前に立ち、ゲイナーは淋しい気持ちを忘れようと小さく頭を振った。
1日だけの拘留だったが、まだこの中にクレイズがいるように感じる。


許されるのなら、クレイズをずっと閉じ込めておきたかった。


だがそう言う訳にもいかない。法に触れる。
法律は、守る為にあると信じているゲイナーには、それを破ると言う考えは毛頭ない。第一ドーズが黙ってはいない。現にドーズは早々にクレイズを連れて帰ってしまった。
またクレイズが警察署を出るところに居合わせられなかった。仕方がない、自分が署に来る前の事だ。
独房内でクレイズを抱いた時の事は、夢中であまり覚えていない。だが、甘く激しかった、と言う記憶はある。
またクレイズを抱きしめたい。そう思った時、ゲイナーの携帯電話が鳴った。腕時計を見る。針は3時を指していた。着信はクレイズから。ゲイナーは携帯を耳元に宛てながら通路を足早に歩き、執務室へ向かった。

「私だ」

そう言うと、耳の向こうから息を吐く音が聞こえた。

『やぁ、ゲイナー』

クレイズの声がし、ゲイナーは執務室へ入ると携帯を握り直した。手が僅かに汗ばんでいる。それをズボンで拭った。

「保釈おめでとう。また会えなかった」
『そうだな。まだ朝早くて、お前は署に来ていなかった。ドーズは多分、わざとお前がいない時に来たんだろう』

そう言ってから小さく笑う声がする。

「かも知れないな」

僅かな沈黙。その沈黙でさえ、愛しく、切ない。

『なぁゲイナー。さっきうたた寝をしてたんだ』

クレイズが言った。

「もう2月だ、風邪を引く」

微かな笑い声。

『夢を見たんだ』
「どんな?」

ゲイナーはコーヒーを入れ、デスクに座った。

『ドーズとゲイナーがいて、2人して夜道を歩いてるんだ。そしたら突然ドーズの体が黒くなってお前の姿がなくなってた。それが酷く嫌な感じがして』

そう言ったクレイズの声は暗くて、夢が予知夢であったらどうしようと嘆くようにも聞こえた。

「大丈夫だ。ただの夢さ。君が心配するような事は、何もないよ」

安心させようとして言った訳ではなく、本当にそう思った。するとクレイズは、そうだよな、と呟いた。

『大丈夫だよな、きっと。だが気をつけてくれよ?本部長は常に犯罪者達の復讐の的なんだから』
「まったくだ」

そう言って笑い合い、別れを惜しみつつ携帯を切ると、ゲイナーはコーヒーを啜り、業務に取り掛かった。




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