Prisoner

たける

文字の大きさ
66 / 75
第13章

1.

しおりを挟む
「ゲイナー、いいかな?」

そう言ってハリスが病室へやって来た。昼食を取っていたゲイナーはその手を止め、顔を上げた。

「ハリスじゃないか。どうしたんだ?思い詰めたような顔をして」

ハリスは椅子を引き寄せてゲイナーの側に座ると、辛そうな顔を向けてきた。

「ゲイナー、落ち着いて聞いてくれ」

そう前置きするハリスに、ゲイナーは嫌な気分になった。鼓動が早くなり、頭の奥ではずっとまさか、まさか、と言葉が警報器のように鳴り響いている。

「なんだ……?」

唾を沢山飲むが、緊張の為、喉が酷く渇いた。

「クレイズが、刺されて、ここに運ばれてるんだ」
「なん……だと?」

渇いた喉がつまり、うまく言葉が出てこない。

「俺も、さっき病室を見て来たよ。今はドーズが付き添ってる。まだ意識はないみたい」

ゲイナーはハリスを睨んだ。ハリスを責めても仕方がない事は分かっている。だが、睨まずにはいられなかった。

「どうしてそんな事になったんだ!一体誰が?」
「分からない。けど、ドーズはカルロスと何か話してたよ」

やはり、と言うべきか。危険なのは分かっていた。それなのに自分はクレイズを頼った。不甲斐ない。情けない。

「何か、とは、何だ?」

語尾を荒げてそう言うと、ハリスは首を振った。

「聞こえなかったよ」

ハリスの言葉にゲイナーは体を捻り、足をベッド脇からの下へ垂らすと、そのままスリッパを履いて立ち上がった。

「どこ行くのさ?そんな体で」

ハリスがゲイナーの腕を引っ張った。だが、ゲイナーはそれを振り払い、壁に立てかけてある松葉杖を手に取った。するとすぐに、痛みに顔を歪めた。

「ドーズに話しを聞かなくては……それに、彼女が心配だ」

扉に手をかけると、ハリスがその手を押さえた。

「クレイズの意識が戻ったら、ドーズに来てもらおうよ?」

ハリスは必死だった。

「今ゲイナーまで傷を開かせて入院が長引いたら、クレイズはもっと悲しむよ!」

ゲイナーは抵抗を止めた。どうであれ、もうこれ以上クレイズを悲しませたくなかった。

「じゃあどうすればいいんだ!なぁ?教えてくれ!頼む……」

振り返りハリスの腕を掴んだ。どうすればいいか分からない。道に迷ってしまったように、右往左往し、困惑し、悲しくて辛い。


──助けて欲しい、彼女を。


崩れそうになったゲイナーを、ハリスは支えながらベッドへと導いてくれた。端に腰を下ろしたゲイナーは、眼鏡を外した。

「すまない……取り乱してしまって」

恥ずかしいかぎりだ。そんな事をしても、いい方法なんて浮かびやしない。

「仕方ないよ。ゲイナーはクレイズが大好きなんだから」

子供みたいな事を言うと、ハリスは再度椅子に腰掛けた。

「俺もゲイナーも、そしてドーズも、クレイズを守りたい、カルロスを逮捕したいって言う気持ちは一緒だよ」

そう言うと、ハリスは真剣な表情になった。法廷で見せるような、相手を射るような目だ。普段ハリスは温厚なだけに、この目は鋭さを通り越して、狂気を含んでいるように見える時がある。

「あぁ」

そう短く答えると、ハリスは体を前傾させ、ゲイナーに近付いた。

「そこで考えたんだ」

そう言うと、ハリスは人差し指を立て、話し出した。

「第三者を介入しようよ。どうしても俺達は、互いを知っていて、感情的に考え、行動しやすい。それって、1番危険だと思うんだ」

そう提案するハリスを、ゲイナーはじっと見つめた。頭が硬いかも知れないが、その意見に賛成しかねる。

「誰を?」

取り敢えず、聞いてみる事にした。誰か、信頼の置ける人物がいるような口ぶりだ。

「リック・ローレン。ゲイナーも名前ぐらいは聞いた事あるんじゃない?」
「あぁ、勿論だ」

リック・ローレンは、ここブレイブシティより少し離れた、都心に近いナシャンテシティの警察署に勤務する刑事だ。
敏腕で、いくつもの事件を解決している。

「彼、俺の友達なんだよ。だから、少し頼ってみようと思ってるんだ」

ハリスは膝の上で手を組んだ。それはハリスの固い意志を表しているように、強く結ばれている。

「そうだな……彼なら、この状況をなんとかしてくれるかも知れない」

なんとかして欲しい。ゲイナーはそう強く望んだ。クレイズの為にも、この街のこれからの為にも。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...