Moon Light

たける

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サバル警察署殺人科刑事のフィックス・ケリーを伴い艦に戻ったファイは、まだ目を閉じているフィックスを見つめた。
長い睫毛が下り、照明で頬に影を落としている。そしてその美しい赤毛は眩しく光り、ファイは同性ながらもひそかに息を飲んだ。
だが、ずっと眺めている訳にもいかない。早くケリーを連れてメインルームに戻らなければ、ジョシュが誰かを寄越す時間が迫ってきている。
まだ観察していたい、と言う思考を押し込めると、ファイはケリーの肩を軽く叩いた。

「到着しました。もう、目を開いても大丈夫ですよ」

長い睫毛が重いのか、ケリーはゆっくりと瞼を開いた。その体は酷く緊張している様で、ファイはゆっくりと目を開くケリーが、何らかの覚悟を決めて乗船してきた事を知った。

「ケリーさん、貴方がそのような覚悟を決められる必要はありません」

そう言いながら、先に1歩を踏み出す。そして振り返り、歩くよう促すと、ケリーも足を踏み出した。

「覚悟……ですか……?」

ファイの少し後ろを着いて来るケリー刑事の表情は分からないが、声を聞けばその緊張が到着時よりも増しているのが分かった。

「最初に艦長が言っておりましたが、我々は貴方達と友好的な交渉を望んでいます。それに……ケリーさん、貴方は艦隊規則をご存知ですか?」

そう言い、ファイがリフトの前で足を止めて再び振り返ると、ケリーは首を右に傾けていた。

「さぁ……知りません」

試しているのか?と、問いたげに細められる目から、視線を外せない。

「でしょうね。貴方達にも守らなければならないルールがあるように、艦内にも規則はありまして、我々もそれは同じです」

そこで言葉を切り、ファイはケリーを伺った。青い瞳は、まだファイを捉えている。

「その1つに、ワープ技術を持っていない星への干渉の禁止。そして、異星人と個人的接触を図る際には、艦長の許可を得、ドクターからメディカルチェックを受けなければならない、と言うのがあります。そのどちらも私は今、破っている事になる」

そうファイが言うと、ケリーは首を傾げたまま微笑んだ。

「どちらも……?確かに現在の我々の科学技術では、ファイさん、さっき貴方が私をこちらへ連れて来られたような転送装置、いわゆるワープ技術、はありません。ですが、干渉についてはどうでしょう……?」

そこで今度は、ケリーが言葉を切った。ファイは干渉、と言う言葉の意味を思い出す。

「干渉、と言うのは、他人の物事に強いて立ち入り、自己の意思に従わせようとする事です。貴方達は、我々に強いて立ち入っている訳ではない。そうでしょう?」

リフトが到着したので、ケリーの問い掛けに答えないまま、ファイが乗り込んだ。次いでケリーが乗り込み、ファイは静かに扉を閉めた。
強いて立ち入ってない。そう言ったケリー刑事の言葉を思い返し、ファイは納得する。


──アルテミス号は、強いて彼等に立ち入ってはいない。仕方がなく接触している。


「ケリーさん、1分だけ私に貴方の時間を下さい」

そう言いながら、ファイはケリーの返事を待つ事なくリフトの停止ボタンを押した。ケリーは黙ったまま、リフトに乗り込んだ時と同じ姿勢をしている。

「確かに、貴方が言う様に我々は貴方達に干渉はしません。ですが、こうして接触してしまった以上、我々の事を内密な上で貴方には理解して頂きたい。すぐに理解して貰おうとは思っていません。なにぶん、我々は80年も未来から来たのですから」

異星人と個人的接触を図る際には、艦長の許可を得、ドクターからメディカルチェックを受けなければならないと言う規則に関して、ファイは何も言わなかった。
ケリーとは、個人的接触ではない。ジョシュの指示の元での接触だから、煩わしいメディカルチェックも必要としない。
ファイは、そんなジョシュの指示を利用して、個人的な興味を満たしている。その事については、ジョシュに報告する必要もないだろうし、また、ケリー刑事が知らなくてもいい事だ。

「未来……えぇ、信じますよ、ファイさん。まずお互いに、信じる事から始めない事には、距離は縮まらない。そうでしょう?」

そう言ったケリーからは、緊張が抜け始めているようだった。その声は優しく、説得力もある。

「確かに」

ボタンを押しリフトを動かすと、すぐに到着し、扉が開いた。

「ここがメインルームになり、ジョシュ・デビット艦長他、数人のクルー達がいます」

そう言って先にリフトから出ると、背中からケリーが優しい声をかけてきた。

「ファイさん。私の事はフィックスと呼んで下さって構いません」

その言葉に、ファイは背中を向けながら口角を僅かに引き攣らせた。

「では」

振り返り、青い瞳を見つめる。

「私の事も、ファイと」




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